その男が進む道は・・。   作:卯月七日

107 / 187

お待たせしました。最新話です。

今回ストーリーメインの回なので戦闘シーンが雑すぎる所があります。それでも良いと言うかたはどうぞ。


追憶

 

 

場所は街の大通り外れにある喫茶店・ジュエリーの店内。

 

店内には店主である男性と、花柄のシャツにショール首元に巻いた大柄の男性がカウンター席に座っていた。

 

カウンターに立っている店主は一人しかいない客の前に紅茶の入ったティーカップを置くと険しい顔を隠す様に後ろを向いて棚のカップ類を布で磨き上げる。

 

「…三日経ちました。三日経った今でもドクターからの連絡は無し。

………考えたくないですが、ドクターはやられたと見て良いかもしれません。」

 

「フゥ……お通夜みたいな空気出してるから態々ココに呼んだワケが簡単に察せたわ。…倒したのはやっぱり?」

 

「えぇ。彼でしょうね。今のドクターなら流石の彼でも遅れは取らないと思って自由にさせたのが私の失態です。

……キングにならずドクターまでも。

私は、上に立つものとしての器が些か無かったみたいですね。」

 

「……フゥ。全く、これだから軟な男は嫌いなのよ。直ぐに女々しくなっちゃって。

…ワタシから見ればこればかりは学者さんの自業自得よ。

確かに彼は武道や荒事とは無縁ってカンジの男だったわ。理屈だ屁理屈だ散々吐いてて、ハッキリ言っていけ好かなかったわ。………でもね、これは戦いなのよ。

…勝者は生き残り。敗者は死、在るのみ。」

 

カップに口を付け紅茶を一口飲んだ後、ガラリと人が変わったように態度が一変する。

 

女性の様な振る舞いから一変して、その佇まいは歴戦の猛者と思わせる風格が見て取れた。

 

「頭がイイなら尚更、絶対死なない何て事は有り得ない。……学者さんの敗因は、自分の才能に溺れた事よ。

負けて死ぬと言う考えを否定した故に、ね…。」

 

「………。」

 

「…それで?これからどうするつもりなのよ?

計画の一角を任せてた学者さん抜きで、どうやってくつもり?」

 

「それについては心配無用です。不幸中の幸いと言いますか、この間素晴らしい発見をしました。

……これを使えば、我々の計画に大いに役立ちます。今回呼んだ理由の大本は、アナタに私の手伝いをしていただきたのですよ。」

 

「ワタシに?…あの鳥さんじゃダメなの?」

 

「えぇ。今回は狙う相手が相手でしてね。今居る三人でなきゃスムーズにいかない相手なんですよ……。ただ。」

 

「ただ…何よ?」

 

「当のジャッジが何処に居るのか、中々居場所が掴めなくて困ってるんですよ…。

ですので、ジャッジが捕まり次第待機です。後の事は、此方から連絡しますので。」

 

「ハイハイ。………フゥ。アタシもいい加減例のあの子と戦ってみたいわね。アタシだけよ?彼と交えてないのは…。」

 

「来たるべき時が来たら嫌でも交じり合えますよ。それこそ、死ぬまでね…。」

 

「………大歓迎ね。むしろそういうのをやりたくてここに居るのよ。アタシは。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー──さいって!──ちょ──ー

 

 

(……アレ?この声、何処かで…。)

 

 

ーほら!いい加減──ッ!ー

 

 

(……あぁ。夢だな。だって…アイツはもう…。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減起きなさいって言ってるでしょうォオオオッ!!!」

 

「ッ!……んぁ?」

 

 

 

気が付くと。自分は良く見知った場所に居た。

 

辺りが木々に囲まれた土地の中で一本の木に寄りかかってる自分。直ぐ近くには古ぼけた木造の施設と遊具で遊んでる自分より歳が下の子供達の姿。

 

そして、腕を組み額に青筋を浮かべて見下ろしてる見慣れた赤に近い茶髪の少女が立っていた。

 

「ん…ン~~…あー、良く寝てたわぁ。」

 

「えぇホント良く寝てたわね?耳元で叫んでも中々起きないもの。」

 

「ハハッ、悪い悪い。バイト疲れでその上ガキ共に付き合ってたら確実に寝ちゃうっての。こんなにイイ天気なんだからさぁ…。」

 

ズボンの砂を払い落として背筋を伸ばしながら立ち上がる自分。木陰から出て浴びる日の光に一瞬目を細くするが、雲一つない青空に清々しい顔になって空を見上げた。

 

「はぁ~~……にしてもなーんか変な夢見ちゃったなぁ。」

 

「変な夢?どんな?」

 

「ん~~………忘れた♪」

 

かなりの間を空けたと思ったら屈託のない笑顔で振り返って言う男に、彼女は肩をすくめる。

 

「って、何よソレ。散々間を空けてソレ?」

 

「忘れるくらいどうでもいいって事じゃない?……でもなんて言えばいいのかなぁ………すっごく、辛いというか苦しいと言うか…。」

 

「?…。」

 

「………あッ!やっべえ買い出し!!!誕生会の!!!」

 

「…あぁーっ!そうよ!アンタ起こして行こうとしてたのに…!

もうホラ急いで!!他の子は飾り付けとかしてるんだから!!」

 

「すぐ準備しまーす!!」

 

慌ただしく施設に向かって走っていく少年。

その最中遊具で遊んでいた子供達が彼の姿を見て真っ先に彼の元へと集って来た。

 

「あ!兄ちゃん起きたー!」

 

「一緒にサッカーしようよ!!」

 

「遊んでーー!」

 

「オイオイ、ちょっと待てって。あぁこら、耳引っ張んなって!取れちゃうから!」

 

あっという間にに囲まれて引っ張りだこの状態。背中にしがみ付かれ耳を引っ張る子供に注意する彼の元に一人、老眼鏡をかけたシスター服に身を包んだ妙齢の女性が近づいてくる。

 

「コラコラ。そう一度に押し掛けて困らせるんじゃありませんよ。」

 

「おぉシスター。ナイスタイミング。

ホラお前等、オレこの後買い物行かなきゃだから続きはまた今度!な!…その変わり今日のメシはご馳走だぞ?」

 

「「「「ワァーーー♪」」」」

 

元気よく返事をした子供達は群がっていく光景を目に彼はやれやれと言った風に頭を搔きながら見ていたがその顔には不満などどこにも無く、むしろ満足気な顔で眺めていたのをシスターと呼ばれた女性は微笑ましく見ていた。

 

「…フフフ。もうすっかり人気者ですね。あんなに懐かれて、少し嫉妬しちゃいますね。」

 

「いやいや、あんなん疲れるだけだって。むしろシスターがこの立場だったらすぐポックリ逝っちゃうレベルだってアレ。」

 

「コラ。高齢者に対してそんな口を叩かない!少しはマシになったかと思えば、まだまだ人としてのルールが足りて無いようですね!」

 

「ハハハ…おっと、悪いシスター。オレ急いでるから!」

 

「あ、コラ!……全く。」

 

施設内に入って行く彼の姿を見てシスターは思い返す。昔この施設に来たばかりの彼の姿を。

 

今では明るく誰にでも分け隔ての無い笑顔を向けている少年。昔は全くと言って良い程無表情で誰も寄せ付けないような冷たい目をした姿が遥か遠い過去の様に思うシスターの横に、先程の少女が歩み寄って来る。

 

「シスター。」

 

「ああ、これから買い出しに行くんですね?今日の誕生会の…。」

 

「うん。街の方まで行くけどなるべく早く帰って来るから、それまで皆の事お願いね。」

 

「フフフ。分かりました……にしても時間が経つのは速いですね。

あの──があんなに良い子になって……アナタとも恋人同士になるなんて夢にも思わなかったもの。」

 

「ブッ!…ちょ!からかわないでよ!…そりゃ、まぁ、…過ごしてく内に良い所も悪い所も知ったし……。」

 

「ウフフ。彼もアナタに随分信愛を向けているようですし……これなら孫の顔も早く拝めるかもしれませんね。」

 

「……………え?」

 

モジモジと赤面して髪の毛先を弄っていたが、シスターの一言に凍ったように固まってしまう。

 

「え……あ、えと……シスター?」

 

「まぁ親代わりの私としては人の恋路にとやかく言う気はありませんし、自重はしているようですけど…くれぐれも子供達に悪い影響を与えないようにしてくださいね?」

 

「ッ~~~~~~!!!」

 

「おっ待たせー!バイト代持って来た!

…あれ?おいどうしたよ?お前の髪みたいに顔真っ赤っかじゃん。うわ耳まで。」

 

「ッ~~!い、いいから早く行きましょ!!じゃあ行ってきます!!」

 

「うおッ!?どうしたよ!?ねぇちょっと!!」

 

「ウフフ。行ってらっしゃい。」

 

腕を掴まれて引っ張られる形で共に走っていく二人をシスターは微笑ましく笑顔で見送っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間は、誰もが幸福を感じる時がある。

 

少なくともこの少年も…こうして笑いあえる日々が何よりの幸せな一刻なのだと、そう感じていた。

 

 

 

………だが、何事にも唐突に終わりは来る。

 

 

 

 

 

どのような形で、どのような瞬間で、その時が訪れるのかは知り得る事は出来ない。

 

 

 

……そう。

 

 

 

今、少年の隣に居る最愛の人との別れも…。

 

 

 

 

 

 

もうすぐ迫ってる事など、誰も気付かないのだから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

─────

 

───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───………んぁ?」

 

灰色の曇り空を目に、悠は目覚めた。

 

今居るのは街の雑居ビルの屋上。単独行動をしている悠は家に戻らずこのように適当な場所で仮眠を取ると言う生活がこれでもう三日目になろうとしていた。

 

固いコンクリートの床の上で大の字で寝てた悠は固まった体をほぐす様に関節を鳴らす。その後、手元に置いてあったバックから体温計やらノートを取り出すや否や自分の左手首から自身の脈拍を計り始めた。

 

(8、9、10…リズムは一定で正常。体温は……平熱、か…。)

 

三日前、黒い仮面ライダーの襲撃に謎の粒子を浴びた悠は高熱と激しい頭痛等の症状により一時気を失ったが、目が覚めるとまだ症状は残っているものの自力で動ける位に収まっていた。

 

その後マッドドクターによる入念な検査を行ったが、体内には毒素の成分は見られず症状も次第に収まるというより、馴染む、という言葉が合う位何とも言えない感覚が悠の体にあった。

 

今日の分の体調記録をノートに記し再び大の字で床に寝そべる悠。

 

灰色の空を見上げながら先程見た夢の光景を思い出す。

 

(…何でこのタイミングで思い出すのかねぇ。……いや、こんな時だからこそ、なのかも…。)

 

古城達、チームである秋達に何も告げつ決別を決意した悠。

 

ゴルドドライブを倒した事に、敵の戦力バランスが崩れた頃合いを見計らい一気に攻め入るつもりでBABELが潜伏しそうな場所へ虱潰しに捜しながらロイミュード、ファントムの掃討を行っているが、大した成果は未だ無く今日で三日が経とうとしていた。

 

単独での戦闘と行動。この世界に来る前はそれが基本であり悠自身何も違和感なく熟してきたが、ここに来てからは増援である秋やハルナのバックアップを受けて来て最初は違和感を感じたものの、自然と次第に馴れる様になっていた。

 

(…弱く、なったな。何時の間にか…。)

 

体を起こし屋上の塀に寄りかかって街を眺めながらこの世界に来てまでの生活を思い返す。

 

朝起きて騒がしい同居人達と卓を囲んで食事をし、学校では学友たちと過ごす普通の生活。

 

 

戦いの無い日々。───それが、今の自分を造り出した。──幸福。

 

 

「ッ!──。」

 

 

ーガンッ!ー

 

 

唐突に額を手すりに思い切りぶつけ出した悠。

 

先程見た夢が原因なのか手すりに額を乗せたまま必要以上に握りしめる力が籠められてる。

 

 

その時である。今の悠を切り替えさせる音が聞こえだす。

 

 

 

 

 

 

ーキィィィィィンキィィィィィンー

 

 

 

 

「……嬉しいねぇ。態々そっちから来てくれるなんざ。なぁ?」

 

 

後ろを振り返るとそこには誰も居なく屋上に居るのは悠ただ一人。

 

だが悠だけはちゃんと見えている。屋上の出入り口のドアのガラスに写っている腕を組んで此方を見据えている敵が。

 

ジャッジ。仮面ライダーオーディンの突然の来訪であった。

 

 

「中々見つからなくて痺れ切らしそうだったよ…。で?来た理由は、お仲間の敵討ち?」

 

「否。我自ら貴様の前に出たのは審判を下す為。──死を以って、購え。」

 

「…ハ、悪いがまだ死ねないね。少なくとも…。」

 

悠は殺意を剥き出しにしているオーディンを前に軽口を叩きながらディケイドライバーを装着する。

 

「お前等全員きっちり殺さねえと、俺も終わるに終われないんだよ───変身。」

 

 

<< KAMEN RIDE DECADE! >>

 

 

本気の本気。全力の証であるディケイド激情態へと変身し、手首や首を回しながらドアへとゆっくり歩き出し、オーディンの写るドアガラスの前に立つ。

 

 

「さて、っと…。」

 

「来い──裁きの時だ。」

 

「──ハッ!」

 

ドアのガラスに吸い込まれるように中へ入って行ったディケイド。

 

神の名を持つ不死鳥と破壊者の長い戦いが別世界で今繰り広げられようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

─────

 

───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと……必要なモンはコレで全部、と。」

 

「そうね。これだけあれば十分。おまけも色々貰っちゃったし、当分のご飯は心配なさそうね。」

 

「要らねぇって言ってんだけどなぁ。ただバイト分の仕事しただけだってのに。」

 

「バイト分以上の働き、と言うか、アンタの人助けでしょ、この場合は。何時まで立ってもその謙虚な性格は治ってないのね。」

 

「そういう自覚が感じられないんだよ。オレは。」

 

施設から離れた商店街。並んで歩く二人は両腕に紙袋を抱えながら帰路に付いていた途中であった。

 

「そうだったわね。でも逆に威張った態度取られるよりマシかもね。

これもそれも、みーんなアタシの矯正のお蔭ね!」

 

「あー、確かに威張るってヤツがそういった態度ならこのまんまで良いかも。」

 

「アンタにしか出来ないけどねッ!」

 

「う~ん…それはそれでイイかも。お前のソレを独占出来るってワケだ。」

 

「ッ~!………アンタ、マジでそういうの、控えなさいよ…。心臓に悪いったら、ありゃしないわ…。」

 

「へぇ~?どうしよっかなぁ~?」

 

意地の悪そうな笑顔を浮かべながらワザとらしく煽っていく少年に赤面しながら睨み付ける。

 

「…………ねぇ。」

 

「ん?」

 

「……あの、さ……その…。」

 

「何だよモジモジとしちゃって、トイレ?」

 

「違うわ!!……今日だけど……その…誕生会以外に…「あぁーーーッ!!」…ッ!?ちょ、何!?」

 

「ヤッバイ。忘れモンした。…悪いけど先行っててくれ!オレ、取ってくっから!」

 

「ちょっと忘れ物って、買うモノ全部買ったじゃない!!」

 

「オレの買いモン!そう時間掛かんねえから!!」

 

彼女が何かを聞き出そうとしたが突如忘れ物と言い踵を返して商店街へ戻って行く少年。

 

その最中目を彼女の方へ向けながら走ってた所為か前に歩いてる男と肩がぶつかってしまった。

 

「おっと!…あぁすみません。よそ見してました…。」

 

「……。」

 

少年は此方を見る男の姿を見てこの辺では見掛けない顔であり、大した荷物も何も持って無い為多少の違和感が感じ取れたが先を急ぎたいが為にこの場を後にしようとする。

 

「あー…オレ先急出るんで、んじゃ失礼…「オイ」…?」

 

「随分と軽い謝罪だなぁ。このオレに対してそんな謝罪で済むと思ってるのかよ?」

 

「は、はぁ…?」

 

「本当に悪いと思ってるなら、それ相応の誠意を形にしなきゃなぁ?ホラ。」

 

「……あー、コレって、アレ?もしかして、コッチ?」

 

男は歪んだ笑顔を浮かべ手を差し伸ばすのを少年は人差し指と親指で丸を作った手の甲を下にしたマークを見せて更に笑みを浮かべる男に対し、困った風に苦笑いを浮かべる。

 

「いやー、ねぇ?出来るだけ穏便に済ませたいんだけど、生憎とコッチはコッチで貧乏な身だし、慰謝料とかそういうヤツはちょっと…。」

 

「ほお?…このオレに対して誠意所かヘラヘラとした態度を取るとはなぁ…。

相当身の程を弁えて無いらしいな。」

 

「ハハハ。いや、だからそのさぁ?そういう揉め事とか騒ぎにならないような平和的解決をねぇ?」

 

「ちょっと何よ!?ちゃんと謝ったんだし、それでイイでしょ!?

アンタもした手に行ってないで、ガツンと言ってやりなさいよ!コイツの言ってる事非常識だって!」

 

「オイオイ落ち着けって、コッチが騒いじゃ余計ややこしくなっちゃうよ。」

 

「でも!アンタがそうやって下手に出てるから…!」

 

「………ほぉ。」

 

離れて見てた少女は少年と男の間に割り入って来て少年に庇護するが、当の男は割は入って来た少女の全貌を品定めするような卑俗な視線を向けており、少女は思わず身じろぎしてしまった。

 

「な、何よ…。」

 

「ふーん……イイナ。その顔も、強気な性格に合った髪の色も、体つきもそう悪くない…。決めた。

オイ女。オレのモノになれ。」

 

「はぁ!?アンタ、何言ってるのよ!?」

 

「ちょっと、流石にコレは聞き流せないんだけど…ッ!?」

 

「邪魔だ、失せろ。」

 

「──!アンタ…ッ!」

 

突然の男の要求に今まで抑えてた少年はここで初めて拒絶の意志を見せるが、男は少年を殴り飛ばし、駆け寄ろうとする少女の手を掴む。

 

「ちょっと放してよ!」

 

「あんなヘラヘラしている男よりオレの方が優れてる。お前がオレのモノになるのは当然の事なんだよ。素直にソレを受け入れろ。」

 

「イヤよ!アンタみたいなナルシストなんてお断りよ!!」

 

「キヒヒ。良いねえその強がってる態度。ソレがオレ好みに染められるとなると…「オイ。」…何だ?」

 

抵抗する少女の反応も楽しむかのように自分の元まで引き寄せる男の腕に掴んで来たのは先程殴り飛ばされた少年だった。

 

顔は俯いて表情は確認できないが、声色が先程と打って変わりドスの利いたような声で男を止めたが、当の男は大して気にせず不快感を示すだけだった。

 

「何だよ、てっきりのびてるかと思ったら、なんだこの腕は?」

 

「………。」

 

「チッ!オイ!オレの問いを無視するなんざ、お前何様…!」

 

 

ーバキィイッ!!!ー

 

 

「ブギャッ!?」

 

 

少年は男の鼻っ柱に一撃。それもかなり全力の一撃だったのか、殴りに行ったのか明らかに鳴ってはいけないような音が男の顔から出ていた。

 

「…一回は一回。受けた分はきっちり返す性分でな。取りあえず返しとくぜ…。それと。」

 

顔上げた少年の目には明らかな怒りが籠められていた。

少年の向けた先には、吹き飛ばされ鼻が曲がって白目を向いた男が倒れていた。

 

「──を、人の女をモノ扱いすんじゃねえ!その分は上乗せして貰ったぜ。」

 

意識の無い男に言っても聞き入れてくれないだろうが心の内の言葉を曝け出した少年は踵を返して少女の元まで駆け寄った。

 

「大丈夫か?…赤くなってる。」

 

「ううん。大丈夫よこの位。…にしてもスカッとしたわ!聞いた!?キレイに一発決めた時、ブギャ!だって!!」

 

「…こっちは余り良い気分しないけど…。」

 

そう言いながら先程殴った手を擦る少年。先程は感情に任せ手を出した事に少なからず後悔を抱いてる様だった。

 

それを見て少女は、その手を自身の両手で包み込んだ。

 

「──?」

 

「本当に変わったね。昔は形振り構わずケンカばっかしてたのがさ……。

確かに暴力はいけないけど、誰かの為に立ち向かえる姿勢は間違って無いよ。」

 

「…でも。」

 

「その証拠に、アナタは人を傷つける痛みを知った。殴られるのもそうだけど、殴る人も同じ痛みを感じてるって…。

それにアタシは──に助けて貰ってスッゴク嬉しい♪」

 

「……。」

 

「…それに。最後のセリフなんかそれっぽかったよ~?自称みんなのヒーローさん?」

 

「…ハハッ。…って、それあんま口にしないでよ。しかも自称って…元はお前が言い出した事だろ。ガキ共と一緒に見てる特撮モンの影響で。」

 

「イイじゃない好きなんだから、ていうかアンタも釣られて見てる癖に…。

でもそれからじゃない?困ってる人に手を差し伸べるようになったの…。少なくともアタシは好きだよ。そういう力を振るわないヒーローが居たって。」

 

「えー?それヒーローって言える?」

 

「人によってはでしょ?…少なくともアナタは十分言える。アタシにとってアンタは──。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────

 

───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<< ATTACK RIDE BLAST! >>

 

 

「ハッ!」

 

「…フン。」

 

 

ミラーワールド。先程居たビルの屋上でディケイド激情態とオーディンの戦闘はディケイドの先制攻撃で開戦となる。

 

放たれる光弾を能力である瞬間移動で回避するオーディン。ディケイドは前回の戦闘からオーディンの死角への瞬間移動を予め予測していた為にすぐ追撃を放てているが、オーディンは姿を見せた直後にまた瞬間移動で姿を消す為依然として当たらない。

 

ディケイドの周りをあちこちと瞬間移動で消えたり現れたりを繰り返していく内、カードの効果が切れた頃合いを見てオーディンは錫杖・ゴルドバイザーを出現した。

 

 

<< SWORD VENT >>

 

召喚した二刀、ゴルドセイバーを手にオーディンは瞬間移動でディケイドの眼前にまで近づく。

 

 

「ッ!──グッ!!」

 

 

交差してハサミ状に突き出されたゴルドセイバーを寸での所でソードモードのライドブッカーで受け止める。数歩後ずさる拮抗状態になる。

 

「フム……痛みも無くその首を断とうとする我の心遣いを無下にするか。」

 

「ブタの餌にもなりゃしねえ心遣いなんざ要らねえよ!!」

 

「グッ──!」

 

オーディンの腹部に前蹴りを叩き込むと、ライドブッカーから一枚カードを抜きドライバーへ装填する。

 

 

 

<< FINAL ATTACK RIDE Wi・Wi・Wi・Wi・WIZARD! >>

 

<< SLASH STRIKE! >>

 

 

 

「ハァアッ!!」

 

「グァァアアッッッ!!!」

 

 

ディケイドの前に出た魔方陣に向かってライドブッカーから振るうと三日月状の炎を飛ばしオーディンに直撃、爆炎が忽ち屋上を包み込む。

 

オーディンは業火とも言える炎に呑まれ爆散。塵となって消える姿を前にディケイドは隙を見せる事無く、ソードモードのライドブッカーを構え周囲を見渡す。

 

 

 

 

 

 

 

「──無駄だと前に言ったのが、まだ分かっていないようだな。」

 

 

ディケイドの死角から声のする方へ目をやると先程倒した筈のオーディンが何とも無いような立ち振る舞いでディケイドの前に姿を現わした。

 

「(5秒、と言った所か。)全くホント、どういうトリックだよ。さっき消えたろ?オタク?」

 

「我は完全なる存在。故に死なぬ。貴様がどれだけ手を尽くそうと、待ってるのは我の審判。」

 

「って、言う名のトリックだろ?種も仕掛けもある詰まらねえ手品ってオチだ。」

 

「…どこまでも我を愚弄すか…よかろう。ならばその哀れな目に特と焼き付けてやる。真の絶望を。」

 

「あぁ見せてみろよ。その前に…。」

 

<< ATTACK RIDE ARMS WEPON! >>

 

 

<< 大橙丸! >> << バナスピアー! >>

 

 

「その手品、暴いてやる…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、場所は変わり灰原家地下ガレージラボ内。

 

そこにはチームライダーズを含めラ・フォリア、天龍姉妹が揃っていたが全員が沈んだような顔持ちでおり、お通夜と言われても可笑しくない空気を発していた。

 

その理由は言わずもがな、悠の単独による行動。

ゴルドドライブの戦闘から数日。悠は此処に戻らず連絡も絶って一人で戦闘しているようであり此方が駆けつけた時には既に事の終わりでいち早く去って顔を合わせないのが幾度か続いてるのだ。

 

中心人物が居なくなった所為か秋やラ・フォリアと言ったムードメーカーも気落ちしている状態。

そしてこの空気に耐え切れず、勢いよく意を申すのが立ち上がった。

 

「……だぁーーーッ!!!もう限界だ!

なぁいい加減そろそろ誰か何か喋らねえ!?ずっとこんな空気じゃ息詰まるっての!!」

 

「天龍ちゃん。どうどう。だからって大声出して騒いでも大して変り無いわよ~?」

 

「だからってただジッとしてるのもどうなんだよ!!もういい!こうなったらオレが探しだして此処に連れ戻して来て…!」

 

<それは不可能に近いよ。

此処の警報システムのコントロールは今悠が遠隔で独占している為機能しないし、シフトカー達も彼の指示を優先に動いてる為に広範囲の捜索も出来ない。…彼はこうなるのを見越して、予め警報システムに細工を入れていたんだな。>

 

「今じゃあ怪人を見つける手段もSNS頼り…。でもガセもあるから全然信頼できないし…。」

 

「クッソ!…悠兄さんのヤツ、マジで一人で全部やる気かよ!?へったくそな嘘吐いてまでさ!!」

 

<フム………元から悠はキミ達をこの戦いに入れるのを反対してた。だが敵のあまりの戦力に仕方なくキミ達の手を借りる決心をしたのは彼にとってかなりの決断だった。

…こればかりは私にも責任がある。彼の事を知っていながらこうなる事を予測できなかった…いや。そうはならないと過信していた。>

 

「?…ベルトさん。アナタのその口ぶりからして、悠の事情について大分知っているように聞こえましたが?」

 

<ウム……まぁこの際いいだろう。

確かに私は悠について粗方知っている。創造主が私に彼を万全のサポートが出来る様にと彼のデータや経歴についてのメモリーを組み込んだのだ。だから悠がどのような場面でどう行動するか予め予測を立ててそれをバックアップする。それが私の本来の役目だ。>

 

「それじゃあ。…悠が、どうして仮面ライダーになったのか…どうしてそこまで一人で戦うのか、全て知っているんですよね?」

 

<……あぁ。知っている。彼が何故、仮面ライダーになったのか、何故このような戦いにたった一人で挑むようになったのか…。>

 

「マジかよ!?なら本人が居ない今教えてくれよ!!アイツそう言う話はいっつもはぐらかしてたしよ!!」

 

<…こればかりは流石に私の判断では教える事は出来ないよ。

………ただ、これだけは言っておく。悠は、大切なモノを失った。それが全ての原動だ。>

 

「大切な、モノ?」

 

「………。」

 

<そうだ。それが今でも彼の胸に刻まれてるのさ。心の傷と同時に、今の彼が生まれた印として、長く、ね…。>

 

 

 

「「「「「……。」」」」」

 

 

ーピンポーンー

 

 

沈黙の空気が流れるなか、来客者を知らせるインターホンが鳴った。

 

 

「ん?なんだよ宅配便?」

 

「あ。私が行きますよ。」

 

 

来客の対応に自ら出て行ったラ・フォリア。

そこで迎え出た人物達は彼女のよく知る人物達だった。

 

「ハイ、どちら様で…!、貴方達…。」

 

 

「よ、よぉ…。」

 

「どうも。」

 

「……。」

 

 

最近此方の正体を知ったばかりの古城達三人が灰原家を訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わりミラーワールド。

場所は屋上からかなり離れた港街。静寂な空気のなかディケイドとオーディンは未だ対峙してた。

 

 

「───ハァ、ハァ、ハァ…………フゥー。」

 

 

ミラーワールド内での戦闘は既に数時間が経過していた。

 

そう、二人の戦闘を客観的に見ていたら、たった数時間だった。

 

 

「フム………今ので10を超えたぞ。我が時間を戻した回数は。

そろそろ気が狂っても可笑しくはあるまい。…自らの死が訪れるまで、貴様は永遠に我の審判を受ける。」

 

「ハ…こっちは総計29回殺したが?そっちこそ死に過ぎて鳥頭イカレそうじゃねえの?」

 

「我は死を超越する者。故に死は恐れるに足らず。」

 

「ハ、あっそ。(て、言う名の節約だろ。器の。)」

 

 

会話から察するに二人は気が遠くなるほどの戦いをしている。

 

 

 

オーディンだけが持つカード──タイムベント。能力は時間の巻き戻し。

 

 

ディケイドとオーディン。どちらもカードの効果によって武器や能力を発動するライダー同士の戦いの場合、有利に立てる条件は持ちカードの数で決まる。

戦いが進むにつれ互いにカードの消費が激しくなりやがてオーディンのデッキのカードが底を尽きそうな時にオーディンはディケイドから離れてタイムベントを使ったのだ。

 

前の時は発動させる前に運任せの戦法で阻止できたが、オーディンも前の戦闘で学んだらしくカードを発動させるタイミングを見計らって時間を巻き戻したのだ。

 

それもあって二人の戦闘時間は本来数時間であるが、巻き戻した時間、10回分全て合わせれば数時間どころでは無く数日分、休みなしでずっと戦っているのである。

 

 

オーディンのカードが戻ると言う事は当然ディケイドの使ったカードも使用前に戻る。

その他に受けたダメージや傷等も受ける前に戻る為、一見悪い所無しに見えるが、問題は肉体面では無く、精神面。そう、何故かディケイドには”戻る前の記憶”があるのだ。

 

精神は時に体に作用する事がある。大きなストレスで胃痛や頭痛等がいい例だ。

数日間に及ぶ終わりの見えない死闘。それが本来の人間の精神なら間違いなく異常来しても可笑しくないレベルの状況を今ディケイドは目の当たりにしているのだ。

 

 

(これも特異体質の恩恵ってヤツか?…いや、でも確か城戸 真司はうっすらと断片的に残ってたよな?それともその辺の操作とかも使用者によって自在なのか?…まぁ今はどうでもいい。

お蔭で幾つかコイツについて知ることが出来たし…。)

 

本来なら精神が疲弊しうるこの状況下、コレを逆にディケイドはオーディンの観察に有効利用してた。

 

 

(まずコイツは番堂みたいに自分の意識を別の器に入れている。それで倒されたら自動的に別の体へ、倒されてから現れるインターバルに若干の誤差があるのは機械みたいに正確じゃねえから意識的にやってるのも証拠だ。そして…。)

 

 

「ムンッ!」

 

 

瞬間移動でディケイドの後ろに現れたオーディンはゴルドセイバーを振り降ろすもライドブッカーに阻まれて不発に終わる。

 

 

(コイツ自体の強さはそこまで強くねえ。性能でゴリ押しにいってるだけだ。下手すりゃ番堂の次に弱ぇ。)

 

 

受けたゴルドセイバーを弾きライドブッカーを振るうも瞬間移動でコレを躱される。

死角に逃げたオーディンを横目にディケイドはカードをドライバーへ。

 

<< ATTACK RIDE CLOCK UP! >>

 

 

「二度も同じ手は使わせん!」

 

 

<< CONFINE VENT >>

 

 

「チィ!……なんてね。」

 

 

<< ATTACK RIDE TIME! >>

 

 

「ッ!…何処に消えた!?──ガッ!!」

 

 

突如姿を消したディケイドの姿を探すオーディンだが、自身の腹部からライドブッカーの刃が突き刺されてるのを目に自身の背後にディケイドの存在を確認した。

 

「き、貴様…!」

 

「こっちだって時間操れるんだよ。これで30回目ェ!」

 

引き抜いたライドブッカーでそのままオーディンを切り捨てる。斬られたオーディンは塵となって姿を消すのを確認したディケイドはすぐさま移動を開始した。

 

その場から跳躍して港から離れた場所へ、やがて輸送用のコンテナが積まれた場所へ辿り着き周囲を見渡す中、背後からの奇襲を察した。

 

「ッ!──ウラァ!!」

 

「ムッ──。」

 

奇襲を仕掛けたのは先程倒したオーディン。

ディケイドはこの一連の動作で、立てた仮設が確信に変わりつつあった。

 

(やっぱり……意識が別の器に移って姿を出す際、いつもいつも俺の死角に出てくる。

こうやって意識が移って現れるインターバル中に場所を変えてるのに関わらず……。)

 

ディケイドは毎度復活して現れるオーディンの一連の動作に目が行った。ブラフの可能性も考えたが、今回の場所変えでの出現にその可能性が極めて薄い事が分かったのだ。

 

意識が別の体に移る際、ディケイドの動向を見るのは不可能だ。

何処にあるか知れないオーディンの器に入るまでの間、ディケイドの居場所、その死角を正確に把握して奇襲を仕掛けられる。コレが意味する答えは一つ…。

 

 

(この世界の何処かで本体が常に俺の行動を見ている!本体を中継に俺の動きを見てその後に器に入っている…。おまけに丁度反射するモノが無いこのコンテナ置き場。入られるヤツが限定されているこのミラーワールド内に居るって言うのも可能性も大きく出た!)

 

本体の存在に気付いたディケイド。打開策が徐々に見えてきた今、取るべき行動は一つ。

 

 

(本体を見つけてソイツを叩けば、オーディンはもう現れない…。その為にも今は、このエンドレスな状況を早々切り抜ける…。)

 

 

そう思った矢先、ディケイドは構えてたライドブッカーを、下げた。

 

「ほぉ?──遂に諦める気になったか?」

 

「あぁ……色々疲れちまってな。」

 

「……フン。見所のある人間かと思えば、所詮その程度であったか…。よかろう。」

 

<< FINAL VENT >>

 

無機質な機械音が鳴ったと同時に現れたオーディンの契約モンスター・ゴルドフェニックスはオーディンの翼となる様に背部に融合するように取りつくと、オーディンの体を宙に浮かす。

 

「今この場を以って裁きを下す。長く続いた余興の幕引き、我の真なる全貌を解くと目に焼き付けよ。」

 

「ッ!───成程。そういう事か…。」

 

「ハアァッ!!!」

 

 

オーディンの必殺技・エターナルカオスが無防備に立つディケイドに向かって放たれた。

 

エターナルカオスを前にディケイドは依然として立ち尽くすだけ。ただ、内心。いや、仮面の下で口角が不意に上がってしまった。

迫る金色の、太陽とも言える光を眼前に…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───フン。」

 

コンテナが大規模に消失し、巨大なクレーターの中心地でオーディンは跡形も無く消えた跡地を眺めていた。

 

「………審判は下された。」

 

ディケイドの消失を確認したオーディンは金の羽を撒き散らしながらその場を後に消えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───ハイオーケー。バッチリ撮れてたぜ?誤審判決。」

 

コンテナから遠く離れたビルの屋上の影。そこにはオーディンによって焼失させられたはずのディケイドが居た。

 

ディケイドの左腕には巨大なカメラ。右足にはステルス機のような形のユニット。フォーゼモジュールを搭載しながら敵の発見を防ぐため逐一ステルスモジュールで姿を消しながらコンテナでの映像をカメラモジュールで一部始終を撮影していたのだ。

 

なら先程消されたディケイドは何だったのか、答えは簡単。分身である。

 

30回目の時使用したカード、タイムスカラベの能力発動中に使ったカードはイリュージョン。発動と同時に隠れてオーディンの正体を探りにいったのだ。

 

「戦いに必要なのは、どれだけ情報収集と引き際の良さ。ってね。」

 

屋上の窓ガラスから通って現実世界に戻ったディケイドは、カメラモジュールを操作して懐から携帯を取り出すと映像データの受信を完了させた後、変身を解く。

 

「データ転送完了。後はコレで本体、を……。」

 

糸が切れた様に後ろ倒れになる悠。後からドッと汗が噴き出て顔に疲労の色が濃く出始める。実際に数時間での戦闘だが、体感時間は数日間分の疲労が体に出始めた時だった。

 

今にも雨が降りそうな曇り空を眺めてる時、手にした携帯から警告音の様なアラームが鳴り位置マップが画面に出る。

 

「…ロイミュードか……調べ事は、後で、か…。」

 

おぼつかない足どりで屋上を後にする悠。

 

 

 

 

今はまだ止まれない。その気持ち一心が彼の足を動かせている原動力であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーピンポーンー

 

「………ふむ。」

 

灰原家の前でゼノヴィアは来客をを知らせるインターホンを押した。

 

暫くしてドアが開き出て来たのは今回の目的の人物では無く、良好な関係を築きつつ恋敵と言う関係のラ・フォリアであった。

 

「あら、ゼノヴィア。どうなさったんですか?」

 

「やぁラ・フォリア。今悠はいるかい?」

 

「………中へどうぞ。取りあえずお茶でも出しますよ。」

 

ゼノヴィアを招き入れたラ・フォリアはそのままリビングへ。

リビングではテーブルを間にソファーに座って対面してる古城達三人と桜井姉弟。古城達はリビングに現れたゼノヴィアの来訪に、ゼノヴィアは三人揃って陰気な顔している古城達に驚きを隠せずにいた。

 

「古城?何故キミ達がここに居るんだ?」

 

「いやそれはコッチのセリフだぞ!?なんでたってゼノヴィアが灰原の家に…?」

 

「…ッ!まさかゼノヴィア先輩も!?」

 

「あぁいや違う違う!ゼノヴィアちゃんは確かに悠兄さんについて知ってる人だけど、オレ等のやってる事には一切関係ねえよ。」

 

「…なぁラ・フォリア。話から察するにまさか古城達は…。」

 

「えぇ。お察しの通りです。詳しい話なら私からします。それが今回悠が学校に来なくなった原因でもありますから。」

 

「分かった。」

 

そう言ってゼノヴィアを連れて行くラ・フォリアを見て、古城達は呆然としてたがすぐ切り替えて秋達に話し掛ける。

 

「まさかゼノヴィアが灰原の正体を前から知ってたなんて…。」

 

「聞いてた限りじゃ、ホント偶然らしかったけどね。ま、悠兄さんが大丈夫だって決めつけたから、信用は出来るって事でしょ。」

 

「そうか……それよりさっきの話しの続きだけど、灰原のヤツは本当に…。」

 

「えぇ。これからの戦い、ライダーも怪人達も全部一人で相手して、尚且つ世間のヘイトも自分一人で抱える為に私達から離れたのよ。アナタ達に大嘘吐いてまでね。」

 

「アイツ…ッ!」

 

「ゆーくん…。」

 

「…やっぱり分からないですよ。灰原先輩の考えてる事。

私達は兎も角、今まで一緒に過ごして来た人達の気持ちも考えないで、一人で決めつけるなんて…。」

 

「それ同感。……こんな形で終わりですって言われたって、何も嬉しくねえっての!」

 

「秋…やっぱ、お前がマッハだったんだな。」

 

「ハハ。まさか超鈍感の古城センパイに気付かれるなんて思いも寄らなかったよ。悠兄さんも相当驚いてたし。」

 

「…それで、お二方はこれからどうするつもりなんですか?」

 

「…決まってるって。悠兄さん見つけ出して、文句言ってぶん殴って、納豆無理矢理口に入れた後に…また元通りにさせてみせるさ。めんどくせぇ兄貴分を。」

 

「私もよ。悩みに悩んで乗り込んだ船を、足蹴に落とされた気分なのよ。やるからにはきっちり最後までやるわ。

チームの名前立てた責任としてもね。」

 

「…なぁ!もしよかったら、オレも…「な、凪沙も!」…!、凪沙!?」

 

此処で今まで発言せずに聞きに入っていた凪沙が立ち上がって、堂々と秋達に物申しに行った。

 

「凪沙にも、ゆーくんを捜させてください!!…ゆーくんにどうしても、伝えたい事があるんです。だから…!」

 

「凪沙…。」

 

「凪沙ちゃん…。」

 

「う~ん……どうするよ姉ちゃん?一応年齢的に悠兄さんいない時の方針決めるのは姉ちゃんだって決まりだよな?」

 

「分かってるわよ。私としては関係無い人を巻き込みたくないけど…「すまないが私も志願していいだろうか?」

…え、ゼノヴィア?」

 

「話は全部聞いたよ。私もこのまま悠と会えなくなるのは非常に好まないんだ。

約束の返事もまだ聞いてはいないしな。」

 

「あ、ちなみに私は当然参加しますよ?仮にも此方の関係者でもありますので。」

 

「………姉ちゃん?」

 

「ッ~~~~~!!!………あぁもう分かったわよ!!やりたい人はどうぞ!!

元はといえば全部灰原君の勝手な行動の所為だし、文句言われても私は一切知りません!!」

 

「いよっし!なら、ここに居る面子でいっちょやるとしますか!」

 

「って、待ってください!もしかしてそれ私達も入ってるんですか!?」

 

「アレ?姫柊ちゃん、乗り気じゃなかった?」

 

「私は元々仮面ライダーやBABELについての話を聞きたくて……先輩!」

 

「…オレもやるぞ。アレが嘘だって判った以上、居ても経ってもいられなくなっちまった。」

 

「先輩!?………あぁもう。これ完璧に監視役の領域を超えてますよ…。」

 

「よっしゃ!そうと決まればさっそく行動開始といくか!」

 

「…って言ってるけど。アンタアテはあるの?結局は地道に探すしか方法無いじゃない。」

 

「…あ…あはははは。まぁ、オレもグリちゃんやシグナルバイク達を総動員で…。」

 

<どうやら私の出番が来たみたいだね。>

 

捜しだす方法が思いつかない秋達の元へ、クリムが天龍達と共に現れた。

 

喋るベルトという驚愕の物体に開いた口が塞がらない古城達を差し置き、クリムが自信満々と言った風に告げる。

 

<キミ達の意志が固まったようだからな。ここは私が一肌脱ぐとしよう。>

 

「一肌って…どうすんの?」

 

<私に考えがある。これならきっと悠が直ぐ見つかるはずだよ…。>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わり日も暮れた夜。悠は依然夏音と共に猫の世話をしていた廃教会へ訪れていた。

 

此処に居た猫達は全て張り紙や掲示板で募集した飼い主達に引き取られ今ではただ取り壊されるのを待つ廃墟に。流石この場なら夏音も来る事は無いだろうと思い、訪れたのだ。

 

出現したロイミュードを撃破したが、オーディン戦の疲労が残ったままだったお蔭で、受ける筈の無い攻撃に当たり負傷し休息としてこの廃教会に訪れた次第であった。

 

まだ原形の保ってる長椅子に横たわり溜まってる疲労を吐き出すかのように息を荒げる悠。

不意に目に入った割れたステンドガラスに手を差し伸ばす。

 

「まだ……戦える…俺は……まだ……。」

 

伸ばした手が力尽きて落ち、今宵は死んだ様に眠る悠であった。

 

 

 

 

 






近々息抜きに番外編でも書こうかなと思ってる自分がいるけど、そんな余裕が果たしてあるかと思う自分もいるのがすごく悩み所です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。