その男が進む道は・・。   作:卯月七日

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お待たせしました。一週間遅れての投稿です。




一騎

 

 

 

 

 

準決勝

 

チーム・知性チームVSチーム・グレーオータム

 

 

「あ~。来るとは思ったけど遂にか~。」

 

「灰原達のチームか…これは一筋縄では行かないな。」

 

別の控室では準決勝まで勝ち進んだ知性チーム、燕と大和は次の対戦相手に難色を表していた。

 

大和は計り知れない悠達の実力についての懸念だが、燕にとってはこれから戦う相手の正体が仮面ライダーであると知っている身なので、二人の感じてる懸念の差は明らかに差があるモノだった。

 

「燕さん…。」

 

「うん。流石の私でもあの二人相手はキツイよん。かといって一対一は大和クンからしたら相当厳しい筈だよね。」

 

「…恥ずかしながら、逃げ回るのが精一杯です。」

 

「アハハ、そんな落ちこまないの。まぁここは私に任せて♪」

 

「任せてって、何か策があるんですか?」

 

「う~ん、策と言うかぶっちゃけ賭けに近いかな?後…。」

 

燕の視線は足元に置いてある自身のバックに向けられた。

 

(いざという時は出し惜しみせず使うしかないか。相手が相手だしね。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【さぁ会場に起こしの皆様お待たせしました!注目の両選手がリング内に出場です!!】

 

その声と共に姿を見せた二チームを見て歓声の勢いが更に増した。

 

片やそのルックスと万人受けする人当たりから男子はおろか一部の女子にも人気ある燕と幅広い交流を持っている大和の二人が組んだ知性チームと、圧倒的な実力で観客を騒がせた期待のチームである悠と秋のグレーオータムと来れば盛り上がるのも必須である。

 

実況席で試合の流れを百代が予想してる解説がされてるなか、悠達と対面してる燕が話し掛けてきた。

 

「やっほ~♪こうして話すのは久々だね。」

 

「そうでしたっけ?ちょーっと色々有り過ぎて印象薄かったっすわ。」

 

「あはは、相変わらずで何よりだよん…それはそうとさ、ちょっと取引しない?」

 

「取引?今この場で?」

 

「うん。」

 

燕がいきなり持ち出した取引に悠と秋は怪訝な顔をするなか、大和は話しに付いて行けず取り残された気分であった。

 

「燕さん…。」

 

「大丈夫、任せて…。」

 

「…大体予想の付きそうな展開だが…内容は?」

 

「簡単なモノだよ、今から私とキミ達のどちらかで試合をする。どう?」

 

「そっちが有利な条件だね…で、此方の利点は?」

 

「それは言わずともキミなら、分かるんじゃないかなぁ?」

 

「……それ、取引と言うか、脅迫の間違いじゃね?」

 

「そうかなぁ?私的にはちゃんとした取引だと思うよ?…それで、答えは?」

 

「………秋下がってろ。…俺が行く。」

 

燕の取引に応じ前に出る悠。

燕はコレに満足したように笑みを浮かべると大和を後ろに下がらせ、同様に前に出始めた。

 

【おーっとこれは!?灰原選手と松永選手が互いに向かい合う形になったぞ!?もしや一対一で勝負を決める気か!?】

 

【だとすればこの展開は知性チームに大いに有利な状況だな。燕は兎も角、大和に狙いを着けられたら不利なのは知性チームだろう。今までは燕がそれを上手くカバー出来たが、相手が相手だ。】

 

実況席が盛り上がるなかフィールドが光に包まれリング内が古代ローマに出て来たコロッセオららしき場所に変わる。二人は触れられる距離まで近づき聞こえるか聞こえないかの声で話す。

 

「…アンタも性格悪いねぇ。こうなるなら、ちゃんと後始末すれば良かった。」

 

「ゴメンねぇ。私この大会でどうしても結果残さなきゃいけないからさ、使える手はなんであろうと使わせて貰うよん。」

 

「あっそう。だから負けろと?」

 

「いや流石にそこまではしないよ。これは賭け。それに……武人として一度キミと戦ってみたかったからねぇ。どこまで通用するのかって。」

 

「そう、なら……遠慮なく行くよ?」

 

「いいよん。私も…出し惜しみせず行くから…。」

 

「ッ…。」

 

二人の纏う雰囲気が変わった事に後ろで見ていた秋はおろか大和ですら感じる程の威圧だった。

チームを組んで今まで感じる事の無かった燕の気迫に面を喰らう大和。燕のそうだが、それ程までにしなければ相手に出来ないと燕が見ている事と、姉と慕う百代が実質恐れてる悠の底知れぬ存在感。それが大和にとっては一番に理解が追い付かない事実だと今改めて突きつけられた。

 

そうしてる間にも二人は半歩引いた状態で構えだし、何時でもやれる状態になった。後は、試合開始の合図を待つだけ…。

 

【3…2…1…試合、開始ィーーーッ!】

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ──ラァッ!!」

 

「ハァッ!!」

 

 

 

ーガッ!!!ー

 

 

開始早々二人が繰り出したのは、頭目掛けて放ったハイキックが交差してぶつかり合った。

 

鈍い音の後両者は様子見で後ろに下がる。

 

(目の前の相手はモモちゃんとは違う強敵!下手な手は一切通じない、むしろ付け込まれて返り討ちになる!それなら…!)

 

【松永選手攻めに行ったぁーー!!】

 

(最初から全力で──ッ!!)

 

燕が渾身の気迫と今まで培った技と共に繰り出した跳び蹴りは真っ直ぐ悠の元に放たれ…。

 

 

 

 

 

 

ーガッ…。ー

 

 

「ッ!?」

 

放たれた蹴りは無情にもあっさり悠が片手で掴み、それを腕力だけでそのまま振り上げて…。

 

「──念の為もう一度言わせて貰うが。」

 

ーズガァァアンッ!!!ー

 

 

「ッ!?──ガフッ!」

 

「遠慮無しで行くよ?」

 

 

軽々しく片腕一本で燕の体を地面に叩き付けた。その威力はリングの床が減り込むほどの力で。

 

「ぐッ…ッ!」

 

背中に打ち付けられた痛みが走る燕。咄嗟に受け身を取ったがそれでも感じる痛みは相当のモノだった。そんな燕の現状に知った事無しと言わんばかりに悠の追撃が迫る。

 

燕の視界に膝蹴りを入れようとする悠の姿を目に咄嗟に体が反応する。

体を捻って躱す事が出来たが、悠は突き刺さった膝を即座に抜いて地面に片手を置く。そして着いた手を支点にブレイクダンスの応用で体を浮かせた状態で倒れてる燕を蹴った。

 

「ッ…へぇ。」

 

燕を蹴った悠は手応えの無さを感じた。地面を滑る様に飛ばされた燕が咄嗟に腕を出してガードしたからだ。

 

燕の技量に感心したがそれもほんの一瞬。悠は燕目掛けて跳び、立ち上がろうとする燕に踵落としを決めに掛かった。

 

「セイ、リャッ!」

 

「ッ!なんのッ!!!」

 

腕を交差して受け止めるが予想以上に力に膝が着きそうになる。堪える燕を前に更に感心する悠は尽かさず残った足でサマーソルトを繰り出し、つま先が顎目掛け下から来るなか燕は下がった事で僅かな差で避けた。

 

悠はサマーソルトの勢いに乗ってバク転しながら下がって距離を取る。眼前の燕はまだ立ってるが、息が上がって当初の顔付きとは違い、余裕の無さそうな表情だった。

 

 

 

 

 

【な…何と言う事でしょうか!!開始して僅かですが灰原選手が松永選手を追いつめています!!その証拠に松永選手から苦痛の表情を窺えます!!】

 

【灰原の動き…今までの動きと断然違う…!今までの動きには洗練された技術が感じられたが、今の荒々しい動きはまるで…獲物を仕留める獣のようだ…!】

 

百代の指摘通り今回の悠のスタイルは今までの試合で見せていたものとは違っていた。

 

一撃一撃が確実に仕留めるだけの力を籠めた技。命を奪う程のでは無いが意識を飛ばすには十分な位のモノだ。現に先程踵落としを受け止めた燕の両腕はフルスイングのバット以上の衝撃を受けて未だ痺れている状態だ。

 

「…アハハ、ちょーっと容赦無くない?女の子の顔狙って蹴るなんて…。」

 

「三度も言わさないでよ。それに分かってるでしょ?

おたくと、俺がどれだけ差があるかって。」

 

「…確かにそうだね。…いや~、分かってたつもりだったけど、こればかりは燕さん見誤っちゃったよん。」

 

「じゃあこれを期に改めな。…で、このまま呆気無く終わる?それとも、そっちも本気出して無駄に足掻く?」

 

(…仕方ないか。)

 

正直の所、燕は相手が仮面ライダーであろうと変身して無い状態の悠にならもしやという僅かな希望に賭けこうして一対一の一騎打ちに持ち込んで来たが甘い考えだった。

仮面ライダーとしての力は途轍もないがそれを扱う悠の実力もそれと同等だと。

 

燕は決心した。目の前の強敵を全身全霊かけて打ち倒そうと

 

燕は懐から切り札を取り出す。それに会場はざわめき悠は違う意味で注目してた。

 

「それは…?」

 

「最初さ、キミのアレ見てびっくりしたんだよね。…偶然にも同じだったからさ…。」

 

燕は取り出した切り札を腰に着ける。

ベルトになったソレを着けた状態でポーズを取り、悠を見て不敵な笑みを浮かべながらある光景が蘇ってきた。

 

一人、荒れ狂う戦地で三人の仮面の戦士に立ち向かっていった男の背中。その男はある言葉を放った瞬間、戦士としての姿に変わって立ち向かっていったのを。

 

そして燕も、立ち向かうために…。

 

 

 

 

 

 

「──変身。」

 

「ッ!──。」

 

燕の体が光に包まれた。

眩い光に一瞬たじろくが直ぐに警戒する。やがて光が段々晴れていくと燕の姿は黒いボディスーツにガントレットを着けた姿がそこに立っていた。

 

会場内はコレに少しの間静まった後直ぐ熱を帯びた歓声が湧き上がった。

 

「…隠し玉、ってワケかい。…ていうか、さっきの掛け声。」

 

「う~ん、しっくり来るねコレ!うん。今度から使わせて貰おう!変身!」

 

「…まぁいいやそんな事は、肝心なのは…ッ。」

 

悠は一気に距離を詰め、気付けば目の前に居た。端から見れば一瞬で姿が消えたような速さで。

 

「それが見てくれだけかどうか、だッ!」

 

無防備に立つ燕の腹部目掛けて前蹴りを放つ。

 

 

ーガッ!ー

 

 

「ッ!」

 

「そりゃもちろん──。」

 

悠が放った蹴りを今度は燕がいとも容易く受け止めた。

 

「性能もピカイチだ、よんッ!」

 

「ゴッ!?…。」

 

掴んだ足を振り払って悠の腹部に拳が突き刺さる。

後ろに跳ばされる悠を見て燕は追撃を仕掛けに前に出る。片膝を着いた悠もこれに迎え撃つべく前に出て行く。

 

先手を出したのは悠。右足を高く上げ側頭部目掛けての横蹴りは片腕でガードされ、二撃目の脇腹を狙った蹴りは直撃するも大したダメージは与えられてない。

 

燕は脇腹に触れてる足を払うと懐に入ってガントレットを着けた腕でボディブローをかます。悠はコレを受け止めたが余りの威力に軸がブレてしまい、隙を作ってしまった。

 

「せあッ!」

 

「グゥッ!?」

 

悠が燕に繰り出した蹴り技、サマーソルトキックを燕が決めた。

 

下から蹴り上げる技に故、悠の体は高く宙に上がる。コレを好機と見た燕は助走をつけて跳び、空中で受け身が取れない悠に最後の一撃を喰らわせるべく、一回転しながら右足を突出し…。

 

「ハァアァッ!!」

 

燕の飛び蹴りは悠の胸部に直撃。地面に転がり落ちる悠と着地を決めた燕に会場内に沈黙が走った。

 

燕も倒れた悠に対し未だ警戒を解かない。試合終了の合図が鳴らない限り、勝利を確信してはいけない程の相手だから。

 

「……ぐ…ゥ…。」

 

「ッ!」

 

警戒を解かず構えていると倒れてる悠がその上体をゆっくり起こそうと動いて来た。だが地に着いてる腕かどこかぎこちない様子が見られる。

周りが固唾を飲みながら悠に注目する。まだ立ち上がるのか、それとも力尽きて倒れるか…。

 

「ッ……あぁ…。」

 

 

ードサッー

 

 

【…ノ、ノックダァーーーウン!!勝者、知性チームの松永選手に軍配が上がったァーーーッ!!!】

 

 

実行席から出た試合終了の合図の後に歓声が湧き上がった。

 

後に残ったのは、仰向けで大の字で倒れた悠と腰が抜けて大きく安堵の息を吐く燕だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごかったですね燕さん!!まさかあんな切り札持っていたなんて!…チーム組んでるオレも知らなかったのは少しショックでしたけど…。」

 

「アハハ、ゴメンね大和クン。」

 

試合が終わった後のスタジアム通路。大和は燕に肩を貸しながら先程までの試合について語りながら控室まで進んでいた。

 

「にしてもスゴイですねソレ。変わったらパワーも防御力も格段に上がるベルトなんて、まるで仮面ライダーみたいでしたよ!」

 

「流石にあそこまでは凄い力を持って無いけどね。コレは…平蜘蛛はオトンが作ってくれた夢を掴むための切り札なんだ。」

 

「夢を掴む為か…叶うといいですね!それ。」

 

「…うん。(やっぱ少し心苦しいなぁ、夢を掴むとは言え、この子を利用するのは…。)」

 

「ともあれ明日勝てば優勝ですね!平蜘蛛を使った燕さんなら…。」

 

「いや、コレは明日使わないつもりだよん。メンテナンスに時間掛かるから間に合うか分からないし、それに平蜘蛛は本当に最後の最後と言う場面で…──。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー…本気出して無駄に足掻く?ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…アレ?)

 

「?燕さん。」

 

足が止まった燕の顔を覗き込む大和。此方の様子を窺う大和の顔が目に入らない程今の燕の脳内はある違和感に包まれていた。

 

(…あの時、彼が言ってたアレって…。)

 

 

 

ー”本気”出して無駄に足掻く?…。ー

 

 

 

 

(平蜘蛛の事を……知ってた?)

 

最早大和の言葉など耳に入って来ない程の衝撃に気付いた燕は脳内で思考をフルに活用してた。

 

 

(彼の狙いは私に平蜘蛛を使わせるのが目的?…平蜘蛛を私に使わせて、わざと負けるのが?……それで一体何のメリットが……。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして当の悠も、秋に肩を借りて通路内を歩いてる最中だった。

 

ぐったりを頭が下を向いてる状態の悠を肩を担ぎながら歩く秋は周囲を見渡して声を掛けた。

 

「…この辺はもう誰も居ないみたいだよ。」

 

「らしいな。」

 

顔を上げた悠は秋から離れて首を鳴らした。

その様子は先程試合で受けたダメージなど最初から無かった様に振る舞っており、試合で苦痛の表情を見せたのがウソだと思える様に元気であった。

 

「にしても頑丈な体だねぇ。アレ、本当にモロ入ったんでしょ?」

 

「あの位なら平気で耐えられるさ。伊達に無茶な事して体傷付けて無いっての。」

 

「あ、普段無茶してるってのは自覚あったんだ。それはそうと、一応これでノルマは達成?」

 

「お前も似た様なもんだろ…。

あぁ。予選では神器持ち二人に対して一人で圧勝。偉人のクローンを倒し、S級の武偵を倒し、結果は負けたが自分達が雇った逸材相手に途中まで圧倒し切り札を使わせた……実力主義の九鬼財閥からしたら、イヤでも目を付ける逸材だろ。」

 

「後は向こうの動き次第ってか…もう一つの計画も。」

 

「そこは良くも悪くも運次第だがな…っと。そうだ、この後用事あったな。

お前先戻ってろ。帰りは、まぁ夕飯までには帰るって伝えといて。」

 

「了解…ねぇ悠兄さん。本当に大丈夫?」

 

「お前よりかは上手くやれるさ。なんせ…俺は生粋の嘘吐きだぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(────いやでも流石にコレはちょっと予想外だったなぁ…。)

 

「動かないでください灰原先輩。両手はそのまま上げた状態で…どうですか遠山先輩?」

 

「えっと…とりあえず身に着けてるのはコレだけだったな。」

 

場所は古城の住んでるマンションの部屋の隣、古城の監視役である雪菜の部屋。悠は指定された場所につくなり後ろから雪菜に槍を突きつけられ、何故かここに居るキンジにボディチェックをされてる状態だった。

 

キンジが悠から没収した携帯、財布、黒鞘の片手剣をテーブルに置き、それらを古城と共に見ていった。

 

「持ち物はコレで全部……ベルトらしきものは無し、か…。」

 

「昨日の事を考えて持って無いのかどうかは知らないが、流石に此処に持って来る訳はないか…。」

 

「ちょっとちょっと。なーに二人で話してんの?ベルト?今着けてんじゃん、無かったらズボンずり下がってパンツ丸見えよ。

で、俺何時までソッチの事情知らず後頭部に槍突きつけられなきゃイケないワケ?」

 

「…オレ達が話す前に話さなきゃいけないのはお前じゃないのか?灰原…。」

 

「なんだよ暁。んな親の仇見るような目をして、らしくないぞ?」

 

「しらばっくれるのいい加減にしろ!!…お前、オレ達に隠してる事あるだろッ!!」

 

「隠し事……ッ。…そうか。バレちまったか。……そうだよなぁ。シスコンのお前が気にしないワケねえよなぁ…。」

 

「ッ…テメエ!!」

 

悠の胸倉を掴み、壁に叩き付ける古城。その顔には明らかな怒りが浮かべられてた。

 

「ッ!…ったぁ。オイオイ、ちょっと大袈裟じゃない?」

 

「大袈裟だと!?大袈裟で良くあそこまで言えたもんだな!!」

 

「先輩落ち着いてください!!それじゃあ聞き出す証言が言えません!!」

 

「落ち着けって暁!気持ちは分かるがここは抑えろ!!!」

 

「ねぇちょっと皆マジで大袈裟じゃない?確かに身内からしたら野郎とのデートは一番ピリピリするもんだけどさ…。」

 

「当たり前だろ!!凪沙とデートなん、て…?…デート?」

 

「うん。……アレ?何この空気?」

 

「「「……。」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────成程。俺が仮面ライダーだと思ってたから、槍突きつけたり、身ぐるみ剥がされるなり、壁に叩き付けられたと……キミ達それマジで言ってる?」

 

事の事情を聞かされた悠は冷静になった工場達を前に呆れた様な表情で胸中の思いを吐き出す。これに大きく反論したのは雪菜だった。

 

「ですけど、昨日会ったチェイサーっていう人は暁先輩の正体を知ってました。先輩の正体を知ってる人はごく僅かな筈なのに限らずですよ!?」

 

「だから俺って言われてもねぇ…て言うかそれ此処で言っちゃっていいの?だって…。」

 

悠はチラッとキンジに視線を流すのに古城はその意図に気付き、打ち明けた。

 

「遠山なら言っても大丈夫だよ。昨日打ち明けたんだ。オレが吸血鬼だってコト。昨日のは流石に誤魔化そうにもしきれなかったから仕方なしにだがな。」

 

「そうなんだ……で、その辺は遠山も納得済みでここに居るってワケね。」

 

「あぁ。聞いた時はすぐ受け入れられなかったがな。でも、暁の人となりは知ってるつもりだし、一武偵が知った所で対処なんざたかが知れてるしな。」

 

「…暁は信じて、俺には疑惑の念か…。こういう事になるなら借用書の内容もっとヘビーなのにしとけばよかったぜ。」

 

「…それならいい加減話してくれよ。お前が抱えてる事情とやらをよ。

もうお前が普通では無いってのは皆知ってるんだぞ。」

 

「だからこうして呼び出してる訳だしな…。なぁ灰原。お前がもし仮面ライダーだとしてもそうでなくても、信じて欲しいなら言ってくれよ。

お前がリュウガなら…俺は…。」

 

「…私も、仮面ライダーであるかはともかく、灰原先輩個人に対しては信じたいと思ってますよ。ですから…。」

 

「………フゥ……仕方ない、かな…オーケー、言うよ。俺が何なのか、そして裏で何してるかをさ…。」

 

周りの空気に圧され話す事を決めた悠は、壁に背をついて腰を下ろし胡坐を搔いた。

 

 

 

 

「さてまず言うべき事は…俺の師匠の話はしたよな?」

 

「えぇ。先輩を拾って修行を着けてもらい、あの剣を残して去ってったんですよね?」

 

「そ。でもソレ、ちょっと手を加えたウソなんだよねぇ~。」

 

「はぁ!?てことはお前、あん時那月ちゃんの前で堂々ウソ吐いたって事かよ!?どんな神経してんだ…。」

 

「ハイハイ感想意見は後でね…で、続きだけど。

…師匠は何も言わず去ったんじゃない。……死んだんだよね。ファントムと相打ちになって、俺の目の前でさ。」

 

「「「ッ!」」」

 

「師匠の正体はファントムを根絶するために戦ってた魔法使いでさ、残り一匹ってトコでやられちゃってね。今までの負荷に耐え切れなくてさ…。」

 

「ちょ、待ってくださいよ!

魔法使いとかファントムの根絶とか、いきなり過ぎて話が追い付けませんって!」

 

「んー。気持ちは分かるけど取り敢えず最後まで…。死に際の時に頼まれたんだ。

またファントムが出現するか、あるいはそれを生み出す者が出た時は、お前が喰い止めろ。大きな災いが起こる前にって…。それが師匠の最後の言葉だった。」

 

「…ちょっと待てよ。ファントムって自然に出て来る奴等なのか?それに生み出すって言葉を聞く限り、まるで…。」

 

「あぁ。知ってるよ。ファントムってなんなのか、またどうやって生み出せるか。」

 

「お前…知ってって黙ってたのかよ!?」

 

キンジの指摘されたファントムの出現について素直に答える悠。今まで黙ってた事に古城が荒立てるなか悠は目を細くして今まで黙ってた理由を告げた。

 

「まぁね。あの時は…特に、お前には聞かせるべき真実じゃ無いって思ったんだよ。暁。」

 

「オレ!?何でオレになんだよ!?」

 

「……まさか。」

 

雪菜は古城とファントムが関連してるというワードからファントムが何なのかを察したようであった。そしてそれは同時に目を逸らしたい真実であると言う事も。

 

 

 

 

 

 

 

 

「気付いた人が居るようだからもう言っちゃうけど…。ありゃ元人間だよ。ファントムってのは、人間の命と引き換えに生み出された…バケモノさ。」

 

衝撃の真実に誰もが言葉を失った。先程まで過敏に反応してた古城やキンジも黙ってしまい。只々悠から語られる真実に耳を傾けるしか無かった。

 

「人は稀に途轍もない特殊な魔力の塊を持つ奴が居るんだよ。ゲートって呼ばれてる。もしソイツが挫折や絶望とかのマイナスな感情がピークに達すると、魔力は暴走し、持ち主の人格や姿形を変える。それがファントム。

中にはサバトとか言う儀式もあってな。ゲートを絶望しなくとも強制的に魔力を暴走させて無理矢理ファントムに変えるって外法もあるんだよ。

…ファントムなった奴は姿だけでなく完全に心が失われ…結果的に死ぬ。ただ破壊するだけの、怪物になっちまうのさ。」

 

次々に語れてく真実。思いもよらない真実に一番動揺してたのは先程悠に語るのを躊躇うと言われた古城だった。

 

人間から人ならざるモノへ。その変貌は根本的に違うが肝心な所は一緒だ。なんとも言えない複雑な気持ちにイヤな汗が流れるなか悠は立ち上がって窓際に立ち背中を向けながら続きを話した。

 

「そしてあの晩。ファントムが現れた。

あれから俺は密かに調べ、あの日以来ファントムが人外共を襲って魔力を奪い、しまいには俺の知らないファントムまで出て来た。

…俺が師匠から教わったファントムとは大分違ってた事に気付いてもしやと思ったよ、あのファントム達は誰かが造ったんだって。そしてそれがBABELだって事が分かった。」

 

「…まさか…お前が時々怪我とかで学校休んだ理由って…。」

 

「…深入りしすぎてな。俺は魔法使いじゃないからバカみたいに体鍛えて来たけど、流石に怪物相手には限界があるってね…。」

 

「それならそうとどうして今まで黙ってたんですか!?私達は兎も角、南宮先生達に言ってればもしかしたら事態は早急に片付いたかもしれなかったのに!」

 

「手遅れだと思ったんだよ。あの時、ミノタウロスを見た瞬間から、全部分かったんだ。

師匠の言ってた言葉の意味は、この惨状の事だったんだって。…大きな災いってのが何なのかはまだ分からねえけど、もしそれを突き止めたらこの訳分かんねえ騒ぎ収まるんじゃねえかと思ってな。」

 

「どうして…。」

 

未だ動揺してる心情で古城は口を開いた。少しでも平常心を取り戻そうとするためと、目の前で淡々と語り此方に対して冷たい目で見る男の行動について。

 

「どうして…お前がそこまでやってるんだよ。お前普段そういうの面倒臭がりそうなヤツじゃねえか。どうしてそんな無茶な事…。」

 

「…一度始めちゃったら気が済むまでやり遂げるのが性でね…それにファントムに関して今一番詳しいの俺だし?ま、それはそうとおいといて…キミ達の会った、その…チェイサー?だっけ、俺はソイツの意見に賛成かな。…キミ達は、ファントム…BABELに関わるべきじゃない。」

 

「それは…灰原先輩自身の意見ですか?それとも、仮面ライダーだから言ってるんですか?」

 

「後者はともかく、俺の率直な意見である事に違いは無いよ。現に足突っ込んでる俺が言うんだから。

それに……死んだとは言え、元人間だったヤツと戦って、それこそ仮面ライダーみたく殺せるの?」

 

「ッ…。」

 

「オレは…ッ。」

 

「…。」

 

「意地悪な言い方だけど。関わるにしたらイヤでも直面する選択だよ。

…特に暁、言わせて貰うがお前に出来るか?どういった経緯かは知らないが、皮肉にも同じ人間から第四真祖っていう…言い方変えればバケモノになったお前がよ。」

 

「ッ…。」

 

「オイ灰原ッ!言い過ぎ…ッ」

 

 

 

 

 

 

 

パァンッ!

 

 

 

 

「ッ!…」

 

「ひ、姫柊?…。」

 

 

 

突如乾いた音によって俯いてた古城が顔を上げる。

目に付いたのは、手を振り抜いた雪菜と頬が赤くなっている悠。それだけで雪菜が悠に平手打ちをしたというのが分かった。

 

「…見損ないましたよ灰原先輩。」

 

「…俺はキミの期待通りの人間だと何時思っていたのかな?」

 

「ッ…アナタって人はッ…最低ですッ!!」

 

「あぁ。自覚してる。」

 

「灰原…。」

 

「……ともあれ俺が話せるのはここまで。関係無いヤツは引っ込んでなさいよ。

自分の首どころか、下手に周りを傷つけたくなければさ…。」

 

そう言いながら悠は部屋を後にしようと歩き始める。雪菜からは明確な嫌悪が混じった視線、キンジからは突然の事に困惑してる表情、古城から未だ納得できない表情を目にしながら…。

 

「…あ、そうだ。」

 

突如立ち止まって背中を見せたまま語り出した。

 

「凪沙ちゃんのデート終わったら、俺もう彼女とは一切関わらないよ。夏音とも……そんだけ。」

 

それを最後に悠は部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………フゥ。」

 

マンションから出て来た悠は道中何を思ってか先程雪菜に叩かれた頬に手をやった。

 

「……。」

 

「…そんなに痛かったですか?」

 

「ぬぉうわッ!?」

 

突如かけられた声に意表を突かれる悠。

人一倍気配に敏感な悠に対しコレが出来るのはほぼ一人。普段見ない悠の一面を見てクスクスと笑う早霜に。

 

「はぁ~ッ、もう…相変わらず心臓に悪いな。」

 

「それはどうも…それよりもいいんですか?あんな事言っちゃって…。」

 

「…如何にも傍に居て話聞いてましたってカンジだけどもうツッコまねえぞ。

ま、そんなお前がポニテと姫柊の話し聞いてたから、今回の計画をやる切っ掛けが出来たし。」

 

「恐縮です。」

 

そう、悠が紗矢華達を警戒しだした切っ掛けは妖艶に笑ってる早霜が発端である。

あの時古城達が灰原宅に訪れた際、雪菜と紗矢華の密談を早霜が聞いていたのだ。獅子王機関に属してる二人を前に一言一句全てを。

それを古城達が帰宅した際真っ先に悠に伝わったために、悠は獅子王機関を警戒しだしたのだ。

 

「んで?何でまたお前がココに居んだよ?脅かしに来るほどヒマな訳?」

 

「いいえ。コレを届けに。無いと不便でしょう?」

 

そう言って懐から取り出して差し出して来たのはリュウガのカードデッキ。悠はそれを尽かさず受け取る。

 

「サンキュ。ま、別に無くとも最低限コレがあればな。」

 

次いで悠も懐から取り出して来たのはカードデッキに入ってる筈の8枚の契約カードだった。悠は契約カードをデッキにしまい懐に入れる。

 

「…何処に隠し持ってたんです?」

 

「財布に隠し入れてた。前にやったヤツが特典のブツ隠すのに使ってた手口でな、参考に俺もこうして仕込めるようにした。」

 

「器用ですねぇ…。」

 

内容が内容だが、他愛も無く話しながら帰宅するなか早霜が悠に話しを聞いて来る。

 

「…良かったんですか?」

 

「何が?」

 

「あんな嘘吐いて…嫌われちゃいましたよ?」

 

「別に、嫌われるなんざ何時もの事だし、アレで関わらなくなるんなら結果的に万々歳だよ。」

 

「…そうですね。まだ嫌われた方が良いですよね。アナタの場合は…。」

 

「…どういう、意味?」

 

「ウフフ。当ててあげましょうか?」

 

意味深な発言に悠が問い詰めると、早霜は変わらず妖艶に笑いながら先を歩いて語り出す。

 

「あの銀髪の殿方、正体が正体なだけに敵に目を付けられれば今までの人外に比べて只事じゃ済まないかもしれない。最悪彼の周りの人間さえも…。

あの武偵の方も、必要以上に此方側について深入りすればそれこそ巻き込まれる可能性が高くなる。」

 

「……。」

 

「傷ついてしまうなら、嫌われて距離を置かれる方が、全然イイですよね、アナタにとって…。」

 

「…今日は珍しくお喋りだな。」

 

「あら、知らなかったですか?私、結構お喋りなんです。」

 

振り返って立ち止まり、それに悠も立ち止まる。早霜の笑みが妖艶なものから優しげな笑みになる。

 

「…怖いんでしょう?あの人達を巻き込むのが、私達ですら出すのを大いに躊躇程ですもの。

……ねぇ悠さん…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──いい加減。本当の自分を見せたらどうです?私達にも、彼等にも。」

 

 

「……。」

 

 

時間が止まった錯覚を覚えた。

 

それ程までに衝撃的だったのだ。今、目の前に居る年端も無い少女に言われたのが…。

 

 

気の抜けた性格の灰原 悠では無く、仮面を着けて戦う灰原 悠でも無い。

 

 

それらがすべて見抜かれたのだ。──それすらも仮面を被ってた偽りだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…居ねぇよ。」

 

 

耳を立てなければ聞こえない程、周りの騒音で消えそうなくらいの声で悠は口を開いた。

その声に若干の震えが見えて。

 

「本当の自分なんて、とっくに死んだよ……今お前が見てる俺が、俺だよ。」

 

そう言って早霜を通り過ぎて進んだ。

 

 

 

早霜は通り過ぎる悠の背中を眼で追う。

 

 

 

優しげな笑みから一転して、悲しげな眼で見る悠の背中を…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

【さぁ長きに渡って繰り広げた数々の激闘、それも遂にクライマックスの時だぁーーー!!

頂点を決める決勝戦、上り詰めたチームが…コイツ等だぁーーーーッ!!!】

 

 

 

 

 

 

若獅子トーナメント・決勝戦。

 

チーム・アンノウンVSチーム・知性チーム

 

 

 

 

 

 

 

 

(…遂にここまで来たか。)

 

会場の観客席に続く通路内で悠は壁に寄りかかって携帯を手に試合を見ていた。

 

(どう来て、どう事が転ぼうが俺等の戦争を左右する一大計画……後には引けない。──来るなや来やがれ。)

 

 

 

 

 

 

この日、今日を境に大いに変わる運命の日。

 

 

 

 

転生者と少年少女等の今後の未来が左右される運命は、この日を境に動き出すのはまだ誰も知らない。






















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