怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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 お、お気に入りが200突破……ッ!?気付けばランキング31位、だと……!?
 一日見ていない内に何が……!?と戦々恐々。と、ともあれ、ありがとうございます!
 今後ともよろしくお願いします!




砲竜

「第一、第二部隊は『(ふた)』の用意を急げ。第四部隊、居住地の整備を続けろ!」

 

 『穴』から少し離れた場所に築き上げられた『連合(ユニオン)』の陣営。

 

 ジャック達のいない間指揮を()るクレスは次々と指示を出していた。

 

「……なあ、クレス」

 

「あぁ?どうしたんだよ、アル」

 

 彼に手渡された居住区の図面を見て顔を引きつらせる火精霊(サラマンダー)の少年に声をかけられ、胡乱気に応じる。

 

「……その、なんだ。この図面、本気か?」

 

「?当たり前だろう」

 

「そ、そうか」

 

「あ?」

 

「(なんか路地が迷路みたいな事になってるけど……まあ良いよな、大丈夫だよな)」

 

 何かを悩みながら立ち去っていく彼に胡乱気な視線を投げていたクレスだったが―――不意に、視線を『穴』に向ける。

 

 その直後、『穴』から数十(ミドル)離れた地面を中心に、辺りが大きく揺れる。

 

 天幕が揺れるのを尻目に、無骨な土精霊(ノーム)はポツリと呟いた。

 

「……アイツ等、大丈夫だろうな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん、だ……?」

 

 腹に響く様な竜の咆哮。

 

 各々の武装を構えて警戒するジャック達だが、近くにはいないのか叫びの主が現れる事は無い。

 

 千里眼で周りを見ていたディルムッドが首を振る中、彼等の視線が階段―――地下迷宮(ダンジョン)2階層に向けられる。

 

 そして、足元を『視た』小人族(パルゥム)の騎士は―――一瞬で顔色を激変させた。

 

「不味い……ッ!?皆、早く通路に―――!?」

 

 言葉は、最後まで続かなかった。

 

 

 真下から炸裂した大炎弾が、先程まで彼等のいたルームを丸ごと呑み込んだからだ。

 

 

『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!??』

 

 押し寄せる熱風、天井に直撃し、大爆発する炎弾。

 

 余波の衝撃に押される形で辛うじて通路へ逃げ込む事のできた彼等は爆風に呑まれ、吹き飛ばされて転がった。

 

「がッ、ぁ……!?」

 

「畜生、まさか……!!」

 

 ミランダが息も絶え絶えになる中、(まなじり)を吊り上げるシルバは表情を歪める。

 

 倒れるレイラを助け起こし、銀杖を地面に突き立てるグリファスは目を細めた。

 

「走れ!次のが来るぞ!」

 

 叫ぶディルムッドの言葉は聞かなくても分かった。

 

 遥か遠くからこちらを捕捉し、分厚い岩盤ごと獲物を消し飛ばす馬鹿の様な火力。

 

「くそったれ……!アイツか……ッ!!」

 

 過去の戦闘、その中で『連合(ユニオン)』に最大の被害を出した正真正銘の怪物(かいぶつ)

 

 毒づくジャックは、その名を呟いた。

 

 

「『砲竜』……!!」

 

 

 全力で走る彼等のすぐ後ろが、大火球に撃ち抜かれる。

 

「アリシア、魔法急げ!」

 

「【聖なる光よ、我が神よ、我に永遠(とわ)の輝きを、不滅の輝きを―――】」

 

 高い防御効果を誇る防護魔法を紡ぐ光精霊(ルクス)に指示を飛ばすグリファスは後方を振り向き―――目を見開いた。

 

「飛行モンスターが、穴から……!?」

 

 大蜻蛉(ガン・リベルラ)大鷲(ヴァン・ロック)飛竜(イル・ワイヴァ―ン)―――片手間では処理しきれないモンスターまでもが爆炎であけられた穴を通って下層から飛んで来る光景に呻き―――前方からジャックの声が飛んだ。

 

「おい、グリファス!『穴』に向かうのは駄目だ!上の連中まで巻き込んじまう!」

 

「ッ!」

 

 的確な指摘に王族(ハイエルフ)が時を止める中―――眼を光らせる大鷲(おおわし)のモンスター、ヴァン・ロックが部隊から外れかけていたレイラを襲った。

 

『アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

「!?」

 

 単純な大きさなら4(ミドル)―――飛竜(ワイヴァ―ン)すらも超える巨体が壁を削りながら迫る光景に少女が硬直する。大木をも掴み取るその爪を必死に杖で防いだが、途方も無い衝撃が華奢(きゃしゃ)身体(からだ)を吹き飛ばした。

 

「がッ……!?」

 

 壁に少女が叩きつけられる。

 

「レイラ!?」

 

 真っ先に気付いたグリファスが駆けつけ、銀杖でもってモンスターを粉砕する、その直後。

 

 

 大爆炎。

 

 

「ッ―――」

 

 直撃は避けたグリファスだが、レイラに向かって振り向き―――その光景に固まりかけた。

 

「ぁ―――」

 

 片腕を焼き焦がしたレイラが、力無く穴に落ちて行ったからだ。

 

「―――――――――」

 

「グリファス!?」

 

 表情を消して振り向き、飛竜を撃墜してみせたジャックに向かって告げる。

 

「―――ジャック、砲撃が止まるまで持ち堪えろ」

 

「なに、言って……おま、まさか―――!?」

 

 察したのか、顔色を変えるジャックに背を向け、穴を見下ろす。

 

「―――()()()()()

 

「ッ……!!絶対にくたばんなよ!!二人で生きて戻って来い!!」

 

 顔を歪めるジャックに振り向かないまま手を振り―――紅い魔力を(まと)う。

 

 地を蹴り、高速で落下した。

 

 まだ意識はあるのか、下方で飛行モンスターに攻めたてられながらも生存する少女、そして遥か下の階層から自分達を狙う『ヴァルガング・ドラゴン』を視界に入れ―――詠唱を始める。

 

「―――【我が身に翼を。矮小(わいしょう)なる妖精の身を遥か空の上に住む神々(かれら)の元に届ける奇跡の翼を―――我が名はアールヴ】!!」

 

「―――【フィングニル】!!」

 

 短文詠唱を瞬く間に終え、魔法名を唱える。

 

 その背に生まれたのは、輝きを放つ虹色の翼。

 

 飛行モンスターのお株を奪う、グリファスだけの()()()()

 

 進路上のモンスターを瞬殺し、一気に加速する。

 

 その時。

 

「―――――」

 

 目の前でハービィに肩を切り裂かれた少女の唇が、動いた。

 

 声はせず、しかし届いたその言葉。

 

 

『ぐり、ファス―――』

 

 

「!!」

 

 加速。

 

 音の如し速度で飛び、少女を(おびや)かすモンスターを殲滅する。

 

「――――レイラ!!」

 

 血まみれで落ちる少女、その下方には―――放たれた大火球。

 

「ッ―――」

 

 届け。

 

 届けよ。

 

「届けぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

 ボロボロになって力無く落ちる少女を、全力で抱き締め―――モンスターを無視して横に飛ぶ。。

 

 その直後。

 

 大火球が、二人のいた場所に炸裂した。

 

 




最初は一話にまとめる予定でしたが予想以上に長くなったので区切りをつけて更新いたしました。
お気に入りがあっという間に増えてもう喜びより驚きの方が大きかったです。いや、本当にありがとうございます。

二ヴルヘイムが予想以上に人気ですな。レイラの三つの魔法は特に力を入れたのでとても嬉しいです。他の魔法も気に入ってくださるでしょうか。

追記―――グリファスの魔法名を変更しました。資料を調べている内に素晴らしい物が見つかったので。

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