怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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最近Fateの二次創作を執筆中。
質と量を両立させるのって、ほんとに難しい(汗)。



水晶広場

 

 

「え?おい、どうして入口を塞ぐんだよ!?」

 

 リヴィラに存在する二つの入口の一つ南門。

 

 道を塞ぐ者に食って掛かるルルネに、眼前のエルフも困った様に肩をすくめた。

 

「ボールスが言うには、ヴィリーの宿で冒険者を殺した殺人鬼がまだ街にいる可能性があるらしい。それを捕まえる為にもこの街から鼠一匹出すなとの事だ。悪く思うなよ、【泥犬(マドル)】」

 

「え~?」

 

 帰還しようと思っていた時に面倒な事態に巻き込まれ、心底参った様にして頭に手をやるルルネ。犬人(シリアンスロープ)の少女は、これ以上はどうしようもないと判断して背を翻す。

 

 その時、彼女の耳がピクリと震えた。

 

 拡声器の魔石製品によって町中に響き渡った、荒くれ者の野太い声を聞きつけてだ。

 

『―――おら、街に居る冒険者は全員水晶広場に集まりやがれ!宿で殺された冒険者は第二級、【ガネーシャ・ファミリア】のハシャーナだ!これから犯人の捜索にかかる、今の指示に従わねぇ奴は犯人と見なすからな!街の要注意人物一覧(ブラックリスト)に載せられたくなけりゃぁ一〇分以内に集まりやがれ!!』

 

「………」

 

 リヴィラの大頭(トップ)である第二級冒険者、ボールス・エルダーの言葉を聞いた冒険者達が動き出す中、少ない情報を精査したルルネは不安気に尻尾を揺らした。

 

(ハシャーナ……【剛拳闘士(ハシャーナ)】ってったらLv.4だろ?ぞっとしないな、下手したら第一級と同等の殺人鬼が居るって事になるじゃないか……ウチの【ファミリア】以外にそこまで【ランクアップ】を偽ってる派閥なんかあったっけ?)

 

 そして鼻をくんくんと鳴らした彼女は、次には顔を顰める。

 

(……あー、やっぱりだ。いやぁな臭いがする)

 

 嗅覚、視覚、聴覚が優れている獣人の中でも、犬人(シリアンスロープ)狼人(ウェアウルフ)は特に嗅覚に特化している。それはヒューマンと比べても一〇〇万倍以上だ。

 

 そんな彼女が感知したのは、どこか鉄臭いにおい。ハシャーナを殺した本人は洗い流したつもりだったかも知れないが、残るものは残る。ルルネが嗅ぎ付けた臭いはヒトのそれと相違無かった。

 

(絶対、コイツだろうなぁ。人が多い所為で誰かは分かんないけど……)

 

 見れば周囲の獣人達もどこか落ち着かない様だ。自分のすぐ近くを歩いているのがLv.4を殺す殺人鬼かもしれないのだから当然だろう。

 

 冷や汗が流れるのを感じ取りつつ、他の者達と同じ様に水晶広場に入り―――ルルネの顔が、強張った。

 

 街の中心地に存在する水晶広場。広場中央では大きな白水晶と青水晶が双子の様に寄り添ってそびえ立ち、その側に置かれていたのは―――血塗れになった、見覚えのある全身型鎧(フルプレート)

 

「なッ……!?」

 

 ゾワッ、と。

 

 背筋が寒くなるのを感じ取りつつ、ルルネは凍り付いた思考の中で点と点を繋げる。

 

 全身型鎧(フルプレート)、ハシャーナ、殺人、冒険者依頼(クエスト)―――『宝玉』。

 

 青褪めたルルネは、汗を流しつつ結論付けた。

 

(ヤ、バイ……!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 惨殺死体を発見し、ハシャーナを殺した犯人を探す為にリヴィラ中の冒険者を集めたものの、他派閥の人間にそれ等を統率する事などできるはずもなく。

 

 フィンが女性冒険者達にお持ち帰りされ、ティオネが暴れ、ティオナが抑え、ティオネが解き放たれ―――アイズの目の前に広がる光景は、惨憺たる有様となっていた。

 

「うん、と……」

 

「あぁ、もう何が何だか……」

 

 犯人探しどころではなくなった目の前の光景に、アイズとレフィーヤは頭を痛める。フィンやグリファス達派閥首脳陣や管理機関(ギルド)の苦労が理解できた様な気がした。

 

「……?」

 

 ふと。

 

 困った様に視線をさまよわせていたアイズの瞳が、人ごみの中からとある人物を捉える。

 

 中型の小鞄(ポーチ)を抱えた、犬人(シリアンスロープ)の少女だ。

 

 小麦色の肌の顔を、今は病気かと見紛うほど青白く染めている。

 

「アイズさん?」

 

 動きを止めじっと彼女を見るアイズの視線に、レフィーヤも気付いた。

 

 騒がしい人立ちの中で一人浮いている犬人(シリアンスロープ)の少女は、双子水晶のある広場の中心地を愕然と見詰めたまま、顔を強張らせ、警戒している。

 

 彼女は後退りした後、周囲の混乱を利用する様に、足早に広場を抜け出した。

 

「―――行こう」

 

「は、はい!」

 

 その不審の身を放置する選択肢は無かった。

 

 声をかけるアイズにレフィーヤは頷き、急いで少女の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

「……」

 

 追われ、追う彼女達を見つめる人物が一人。

 

 コツ、と音を鳴らし、沈黙を纏いながら彼女達を追う。

 

 

 

 階層の上空、天井に咲き誇る水晶の大輪。

 

 水晶の光はゆっくりと薄れていき、街には『夜』が訪れようとしていた。

 

 あの時、冒険者が惨殺された時と同じ様に。

 

 


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