「―――」
ゴッ!
ドッッ!!
ゴグシャァッッッ!!!
『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!??』
耳を塞ぎたくなる様な破砕音が轟く度に
力任せに殴り飛ばされた食人花が同胞も巻き込んで何
「これが第一級、いや【
「予想はしていたけれど、相変わらずのチートっぷりじゃないか……」
「何を言っている、私をここまで連れてきたのはお前達だろう?フィルヴィス、ディオニュソス」
その長い耳で声を聞き取り、後ろで唖然と固まって顔を引き攣らせる主従に肩をすくめた。
時刻は正午。
アイズやフィン達がダンジョンに出発した頃、グリファスは彼等とオラリオの地下に潜っていた。
迷路を彷彿とさせる入り組んだ地下水路には申し訳程度の魔石灯位しか光源が残っておらず、暗闇が周囲を取り巻いている。地下から飛び出した食人花の居場所を突き止めたディオニュソス達に案内された彼は旧式の地下水路、空堀となった大貯水槽にて件の食人花と
当然ながら
『ッ!?』
「……やはり硬いな。正直驚いた」
白銀の拳を振るったグリファスは、その硬質な手応えに眉を顰める。
眼前の『新種』、食人花の数は今の所四体。
それ等はLv.8の拳蹴によって例外なく打ちのめされたにも関わらず、未だに存命していた。
その体の各所を拳の形にめり込ませ、蛇の様に長大な体躯を
「……」
目を細めたグリファスは、やがてうんざりした様に息を吐く。
「やれやれ、腐食液を放つ芋虫の次には第一級冒険者の打撃も耐える食人花か。尖兵でこの能力ならいよいよ先が思いやられるが……」
『―――アァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
破鐘の咆哮。
真正面からでは敵わぬと悟ったのか、食人花の群れは
点ではなく面の様に大規模な波状攻撃。直撃すれば第二級冒険者であろうと一撃で昏倒し得る触手が無数に襲い掛かり、理不尽なまでの暴虐を働かんとしたが―――その全てが、消し飛ばされる。
『ガッ……!?』
「な―――」
絶句する食人花。それは後ろで見ていたフィルヴィス、ディオニュソスも同じだった。
目の前で佇む老人の手の中には、黄緑色のナニカがあった。
それはボトボトと体液を落とし、あまりの力に球体状となったそれには周囲に散らばる触手の残骸、その先端が繋がっている
―――握り、潰された。
自分達の叩き込んだ無数の触手、その全てが一瞬で掴まれ、引き抜かれ、握り潰されて老人の手の中に収まる程に圧縮された。
圧倒的な差にモンスターが硬直する中、グリファスは告げた。
「ひとまず、『雑草』の駆除をしなくてはな」
小手調べ、様子見が終わる。
一方的な虐殺が始まり、破鐘の悲鳴が上がり、そして数秒で途切れた。
「ふむ……」
モンスターの存在した大貯水槽。
その一角、大量の灰の中心に佇むグリファスは、手の中の魔石の観察をする。
やはり中心が極彩色に染まった魔石は、50階層及び
「……しかし、何度見ても違和感が拭えないな。この魔力、どこかで見た様な気がするんだが……ディオニュソス、貴方はどう思う。……ディオニュソス?」
極彩色の魔石を手の中で弄びつつ振り返り、顔を強張らせている男神に怪訝な表情を作る。
「どうしたんだ一体。フィルヴィスまで青くなって」
「い、いえ……」
「あぁ、気にしないでくれ……」
「………」
恐らくは都市最強たる冒険者の戦いにあてられてしまったのだろう、蒼白になっている彼等の反応に呆れた様に視線を投げていた、その時。
『なぁなぁ、今どんな気持ち!?アイズたんじゃなくてうちをおんぶして、今ドンナ気持ち!?』
『振り落とすぞ……?』
「「!」」
「この声は……」
突如地下水路内で響き渡った騒々しい声。
まさかこの場に他の人間が来るとは思っていなかったのだろう、男神と
だがまだ二人の声は遠い。ディオニュソス達を連れて逃走する選択肢もあったが、グリファスの耳が間違っていなければ片方は嗅覚に優れた
『下りろ、ロキ。……この匂いは?』
既に、彼等は捕捉されている。
「あれ、グリファスに……ディオニュソス?」
「何でお前がここにいんだよ、ジジイ」
「……それはこちらの
食人花が力任せに作ったのであろう穴から現れた、己の【ファミリア】の主神に
彼等も独自に食人花を追って来たのだろうが……全く、説明も面倒臭い。
困惑する彼等を他所に、
その頃。
「……街の雰囲気が、少々おかしいな」
「そういえば、いつもより人気が少ないような……?」
リヴェリアの言葉に、レフィーヤも周囲を見回す。
リヴェリアの発言を皮切りに、パーティの面々も異常に気付く。
道中すれ違ったのも数人しかいない。ダンジョンに長期滞在する上級冒険者の需要が大きいリヴィラが今は閑散と静まり返っている様子に、彼女達は違和感を覚えた。
「えーと……どうする?」
「ひとまず、どこかお店に入ろうか。情報収集も兼ねて町の住民と合流しよう」
ティオナの言葉にフィンが答え、長槍を携える
店主すらいない店も多く見受けられる中、唯一人のいた店に足を踏み入れた。
「今は大丈夫かい?」
「ん?おぉ、【ロキ・ファミリア】じゃないか。客かい?」
店にいたアマゾネスの店主にレフィーヤやティオネが道中モンスターと交戦して手に入れた魔石やドロップアイテムを手渡すのを尻目に、世間話でもするかの様にしてフィンは尋ねる。
「街にずいぶんと人気が無かったけど、何かあったのかい?」
「……あぁ、今来たのかい、アンタ等」
破格の安値でそれ等を買い取りつつ、辟易した様に彼女は告げた。
「―――殺しだとさ」