怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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モンスターフィリア
ステイタス


 

「……よっ、と」

 

 ダンジョン12階層、そのルームの一つ。

 

 深い霧が立ち込める中、背のバックパックを担ぎ直すグリファスは目を細める。

 

『ギィ!』

 

『ヒヒッ!』

 

 周囲を取り囲むのは10体近くのインプの群れ。

 

 威嚇してくるモンスターに微塵も余裕を崩さず、堂々と一歩を踏み出すと―――前方にいた3体のインプが、同時に襲い掛かった。

 

「―――」

 

『ヒャァ!』

 

 無所属の一般人と何ら変わり無い動き(・・・・・・・・・・・・・・・・・)を見せる老人に、正面のインプが左手の爪を振り下ろす。

 

「さて」

 

『ィ!?』

 

 それをあっさりと躱したグリファスは、その小さな翼を鷲掴みにした。

 

 強引に、引っ張る。

 

『『ギィッ!?』』

 

『~~~~~~~~~~~~~~!?』

 

 一斉に叩き込まれた同胞の攻撃。盾にされたインプが深々と切り裂かれた。

 

「!」

 

『ヒギャ!?』

 

『ゲェ!?』

 

 唖然としていたインプに回し蹴りを打ち込み、首をへし折る。付近の一体にぶつけて奇襲を防いだ。

 

「―――」

 

 インプは総じて耐久力が低い。最高位の異常効果(アンチ・ステイタス)を持つ銀鎖(魔導具)恩恵を無効化していても(・・・・・・・・・・・)十分肉弾戦で叩ける。

 

 時間をかけずにインプの群れを殲滅したグリファスは、低い唸り声を耳にした。

 

『ヴゥ……』

 

 筋肉質で白い体毛を持つ野猿のモンスター、シルバーバックが二体。

 

 力、敏捷、耐久など高く纏まった身体能力(ポテンシャル)を持つモンスターの体皮は、初期装備の『短刀』程度なら軽く跳ね返す強度を誇る。

 

『ギァアアアアアアアッ!』

 

 人間離れした速度で飛び掛って来るが、それは十二分に『見える』動きだ。

 

【ステイタス】を授かっていても並みの耐久であればLv.1の多くが骨の一本二本砕かれる様な拳打。

 

 それを簡単にいなしたグリファスは、突き出された片腕を手に取り―――、

 

 ゴキッ!!と、異音と共にへし折った。

 

『ギィイイイ!?』

 

 極東の武術には、柔術と呼ばれる物が存在する。

 

 素手で相手を撃破する為の技術だが、グリファスのそれは元の物を応用し昇華させた物だ。

 

 一の力で一〇を生み出す。

 

 相手の強大な力を逆手に取っていなし流し掌握し、五体を打ち砕く。

 

『アァアアアアアアアアア!!』

 

 力、いや技術の差に分からずもう一体のシルバーバックが接敵するが、決着は一瞬で着いた。

 

「―――」

 

 シルバーバックが気付いた時には、いつの間にか懐に潜り込んでいたグリファスが己の胸板に白銀の拳を押し付けていて。

 

 それがめり込み、90度程回って―――、

 

 ゴグシャアッッ!!と。

 

 五臓六腑を破壊され吐血するシルバーバックが、何(ミドル)も転がった。

 

「……ふぅ」

 

 疲れた様に息を吐く彼は、己の撃破したモンスターから魔石を収集する。

 

 浸透打撃。

 

 硬い(うろこ)や強靭な体皮を持つモンスター、防具を纏い恩恵(ファルナ)を与えられた冒険者などの耐久を無視して衝撃を叩き込み、体の内側から破壊する。

 

 それは先の柔術と同じく、強過ぎる黒竜と戦う為に手に入れた『格上殺し』の技術だ。

 

 懐中時計を見ると、もう早朝だった。

 

『豊穣の女主人』での思わぬ出会いから二日が過ぎた。

 

 中々寝付けず、かと言ってやる事も無く暇潰しの為に訪れたダンジョンからの帰還を決意し地上へ向かう。

 

 最近は怪物祭(モンスターフィリア)の準備をする【ガネーシャ・ファミリア】の面々がダンジョンに潜っていたはずだが、早朝だからか帰り道で見かける事は無かった。

 

 途中出現するモンスターを何度かあしらって地上へ帰還する。

 

 時間は早く経過するもので、日は完全にその姿を現していた。ギルドに行って手早く換金を済ませ、朝食が始まる前にいそいそとホームに向かう。

 

「お帰りなさい」

 

「お疲れ様です」

 

「あぁ、ただいま」

 

 出発前に顔を合わせた門番の団員と言葉を交わし、我が家に足を踏み入れる。

 

 ひとまず荷物を置こうと自室に向かっていると、アマゾネスの少女と鉢合わせになった。

 

「あ、グリファスおはよー!」

 

「おはよう、ティオナ」

 

「何、その鎖?」

 

「……最近作った魔導具(マジックアイテム)だ。危険だから触るなよ」

 

「ん、分かった。ところでその格好……ダンジョン行ってたの?」

 

「あぁ」

 

 ティオナの指摘に、己の様子を確認する。

 

 空になったバックパックに、右手を守る籠手(ガントレット)。他が普段着である事を除けば、微かに残る血の臭いと相まってダンジョンに潜っていた事が一目で分かる姿だ。

 

「夜に寝付けなくてな。暇潰しに12階層まで潜っていた」

 

「えー、いつも疲れた顔してるのにー?ちゃんと寝ないとダメじゃん」

 

「全くもって同意するがな、こう老いると眠りも浅くなる。一応睡眠薬もたまに取っているが、中々安眠できん」

 

「私にはよく分かんないなー。疲れたら爆睡しちゃうし」

 

「だろうな、その寝癖を見ればよく分かる」

 

「え、本当ー?直すのめんどくさいなぁ……」

 

 ドワーフに勝るとも劣らない大雑把な性格を見せるティオナに苦笑しつつ、地下への階段を下りる。

 

 バックパックと籠手を自室で脱装し、大広間へ向かった。

 

「おはようございます」

 

「あぁ、おはよう」

 

「どうぞ!」

 

「ありがとう」

 

 今朝の配膳当番である団員達から朝食を受け取り、広間の一角で食事をしている主神を発見する。

 

「ロキ、向かい良いか?」

 

「ん、構わんでー」

 

 気にせずにそう返したロキは、シチューに伸ばした手を止めてグリファスを見る。

 

「あれ、グリファス右手腫れてないか?」

 

「ん、あぁ……一応回復薬(ポーション)かけたからすぐに腫れは引くと思うがな」

 

 ロキに見せる様にして右手をぷらぷらとさせたグリファスは苦い笑みを浮かべる。

 

「ダンジョンに潜っている途中、12階層でインファント・ドラゴンを潰してな。安物の籠手は着けていたが、少々痛かった」

 

「て事はまた【ステイタス】無効化してダンジョン乗り込んだんか……」

 

「まぁLv.8にもなるとロクに経験値(エクセリア)が溜まらないからな。多少は裏技を使う必要がある」

 

「相変わらずメチャクチャやなぁ……」

 

「はは、まともな手段を取っていない自覚はあるさ。後で更新良いか?」

 

「えぇでー。飯食い終わったらウチの部屋来てや」

 

 

 

 

「……相変わらず汚い所だな。多少は気を付けろ」

 

「一言目がそれかい」

 

 雑多な物にあふれた部屋に訪れたグリファスの言葉に、ロキが辟易した様な顔をする。

 

 早速上着を脱いだグリファスの背に神血(イコル)を垂らし、【ステイタス】の更新を始めた。

 

「大体自分はどうなんや。あんな量の魔導具(マジックアイテム)、それこそ足の踏み場も無いんじゃないんか?」

 

「お前と一緒にするな、持ち物と空間を有効活用しているよ」

 

「……成程、あの袋やな?ウチにくれ」

 

「余裕ができたら新しいのを作ってやる」

 

「マジか。約束やで……おっしゃ、終わりや」

 

「今写すなー」と告げたロキが羊皮紙に情報を書き込む中、グリファスは上着を着込む。

 

「はい、これや」

 

「……」

 

 主神の渡したそれに、ゆっくりと目を通した。

 

 

グリファス・レギュラ・アールヴ

 

Lv.8

 

力:E486→D502 耐久:F340→344 器用:C638→659 敏捷:C681→699 魔力:A831→834 魔装:S 魔導:A 精癒:B 神秘:B 耐異常:C 魔防:C 拳打:F→E

 

魔法

【グングニル】

 

【フィングニル】

 

 

スキル

妖精舞踏(フェアリィ・ダンス)

任意発動(アクティブトリガー)

・魔力を纏い身体能力上昇。

 

妖精追憶(オベイロン・ミィス)

・効果、詠唱文を把握した魔法の行使。

同胞(エルフ)の魔法限定。

 

 

「……えらい上がったなぁ」

 

「まぁ、こんな物か」

 

「アイズたんが見たら絶対へこむでこれ……」

 

「はは、違いない」

 

 苦笑しつつ立ち上がるグリファスは、目を細める。

 

 真の意味での本気で戦っている訳では無い為上位の経験値(エクセリア)は中々溜まらないが、数年前に始めてから順調に強くなっている。

 

 だが、これでも―――、

 

「グリファス?」

 

「……」

 

 思考の渦に呑まれかけていたグリファスは、ロキの言葉に我れに返る。

 

「どうした?」

 

「ん、いやぁ、頼みがあってなぁ……」

 

 どこか悪どい笑みを浮かべたロキは、王族(ハイエルフ)の老人に対してこう言った。

 

「今夜『宴』に出るから、良いモンあったら貸してくれん?」

 

 


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