怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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祭壇会議

 

 

「夜には打ち上げやるからなー!遅れんようにー!」

 

 そうのたまうロキに送り出され、【ロキ・ファミリア】の面々は北西のメインストリートに出る。

 

 朝食を終えたグリファス達は遠征の後処理を済ませる事になっている。

 

 ダンジョンからの戦利品の換金や武器の整備もしくは再購入、消費した道具(アイテム)の補充などやる事は山積みだ。遠征後はいつも団員総出で取り掛かる事になる。

 

 メインストリート沿いに建てられたギルド本部に着いた所で、笑みを浮かべるフィンが口を開いた。

 

「僕とリヴェリア、ガレス、グリファスは『魔石』の換金に行く。皆は予定通り、これから各々の目的地に向かってくれ。換金したお金はどうかちょろまかさないでおくれよ?ねぇ、ラウル?」

 

「あ、あれは魔が差しただけっす!?本当にあれっきりです、団長っ!?」

 

「くくっ、ラウル、気を付けろよ?信頼を築き上げるのは大変だが、失う時はあっと言う間だからな?」

 

「は、はいッ……!?」

 

「ははっ、グリファスもおっかない事を言うね。それじゃあ皆、解散だ」

 

 それぞれの任された『ドロップアイテム』を持った団員達が得意先の元に向かって行く中、グリファス等派閥首脳陣は白い柱で作られた荘厳な万神殿(パンテオン)に足を進める。

 

「……」

 

 だがエントランスホールを進む途中、何かに気付いたかの様にグリファスは立ち止まった。

 

「グリファス?」

 

「……ふむ。済まない、換金を任せてしまって構わないか?」

 

「ンー、まぁ大丈夫じゃないかな。数千万ヴァリス位は十分僕等で運べるし。問題無いよ」

 

「しかし、どうしたんだ?武器の整備に行く訳でも無いんだろう」

 

「あぁ、それは後で行くよ。ただ―――」

 

 エントランスホールの隅に彼は目をやり、呟く。

 

「―――かつての教え子を、見かけてな」

 

 一瞬だけ視界に入った、漆黒のローブ。

 

 珍しく表に現れたその姿は、既に消えていた。

 

 

 

 ギルド職員専用の廊下を堂々と通り、目当ての祭壇に向かう。

 

「あっ、先生!」

 

「おぉミィシャか、久方振りだな」

 

「えっと、どうしてここに……?」

 

「あぁ、今度のフィリア祭について上層部から相談されていてな。ミィシャは……随分と重そうな資料を抱えているな。手を貸そうか?」

 

「ホントですか!?それじゃあお言葉に甘え……るのは止めときまーす」

 

「ミ・ィ・シャ~?」

 

「ささっ、エイナ仕事仕事~」

 

「全くもう……申し訳ありませんグリファス様……ほんっとうあの子は……」

 

「ははっ、気にするな。それじゃあ」

 

 ギルド上層部の相談役として割りとギルドを訪れているグリファスを見咎める者はいない。止められる事無くウラノスの元へ向かう。

 

 そしてしばらく進んで行くと、長く長大な一本の通路に出た。列柱が立つ大通路に敷かれた赤い絨毯は地下に伸びる階段まで続いている。

 

「……」

 

 老神が『祈祷』を捧げる祭壇までの正規ルートである長い階段を下りて行くグリファスは、やがて石造りの祭壇に出る。

 

 彼を待っていたのは四炬の松明に囲まれた玉座に座るウラノス、そして傍らに控えるフェルズだった。

 

「来たか、グリファス」

 

「あぁ。こちらも気になる発見があってな、ウラノス」

 

師匠(せんせい)もか……遠征で何かあったのか?」

 

「そんな所だ。恐らくは考えている事もお前と同じだと思うがな」

 

 そして、二人は同時に告げた。

 

「「―――ダンジョンで、何かが起こっている」」

 

「……」

 

生きる伝説(レジェンド)】とかつての【賢者】、二人の英知が下した答えにウラノスは瞑目し―――口を開く。

 

「―――まずは情報交換と行こう。グリファス、深層で見た物を教えてくれ」

 

「あぁ。遠征に出発して一週間が過ぎた頃、50階層の安全階層(セーフティポイント)で―――」

 

 

 

「……ふむ」

 

「………」

 

 遠征中に遭遇(エンカウント)した芋虫型のモンスター、それについての説明を終えると、ウラノスとフェルズは思う所があるのか、一様に黙り込んだ。

 

師匠(せんせい)。その芋虫のモンスターから取れたのは、極彩色の魔石と言っていたが……」

 

「あぁ、間違い無い。見せようか?」

 

「いや……これで(・・・)間違い無いか(・・・・・・)?」

 

「何?」

 

 そう言ったフェルズの掲げた手に握られていたのは、小石程の大きさ―――グリファスの回収した物とほとんど変わらない、極彩色の魔石だった。

 

「……どこで、それを?」

 

「30階層でリド達が回収した。やはり未確認のモンスターだ」

 

「30階層だと……?いや待て、芋虫型のモンスターとは違うのか?」

 

「その通りだ。魔力に反応する(・・・・・・・)食人花と、迷宮に寄生する(・・・・・・・)巨大花のモンスターと遭遇したらしい」

 

「…………………………………………………………………………………………………」

 

 最初の数秒で、無理矢理に思考の空白から抜け出し。

 

 その食人花の『魔力に反応する』との情報からモンスター―――正確にはその魔石を積極的に狙っていた芋虫型との共通点を見い出し。

 

『迷宮に寄生する巨大花』と言う少々理解を超えた発言に、素直に両手を上げた。

 

「……詳しく頼む」

 

「長くなるが、構わないな?」

 

 

 

 フェルズの説明を聞いていく内、だんだんとグリファスの表情は深刻な物になっていった。

 

【ロキ・ファミリア】遠征中―――深層域に潜っていた頃に30階層で発生した、モンスターの異常発生。

 

 それの対処及び原因の調査に向かった『異端児(ゼノス)』から届いた報告の内容は、30階層の食料庫(パントリー)、その封鎖、変貌。

 

 そして封鎖された食料庫(パントリー)に侵入した彼らを急襲したのは、件の食人花と巨大花。

 

 未確認のモンスターとの戦闘で大きな被害を出しながらも辛うじてこれを撃破した彼らは、食料庫(パントリー)中心にある石英(クォーツ)の柱で得体の知れない『宝玉』を発見したらしい。

 

 それを『異端児(ゼノス)』の一人が回収しようとした途端、それは『寄生』した。

 

 手に取った半人半馬(ケンタウロス)の手に張り付いた直後、彼は変貌を起こしたらしい。

 

 体の至る所が隆起しては眼球から血涙を流し、生物のものと思えない様な破鐘(われがね)の咆哮が轟いたと言う。

 

 最後は彼が己の魔石を砕いて自害したが、灰の中にその『宝玉』だけが取り残された。

 

「少なくとも自分達(モンスター)の手に負えないと判断したリド達は一旦引き上げたそうだ」

 

 そこを封鎖していた巨大花のモンスターも死に絶え、『宝玉』のみが取り残された食料庫(パントリー)は彼等が見張り、モンスターも冒険者も近づけない様にしている。

 

 そう語ったフェルズに、グリファスはこれまで無い程の渋面を作った。

 

「モンスターに寄生し、変異させる存在……全く、留守にしていた間に本当に面倒な事になっているな」

 

「今は異端児(ゼノス)が見張っているが、それにも限界がある。極秘の冒険者依頼(クエスト)を発注する事にしようと思っているが……」

 

「事は慎重に起こさなければならない」

 

 フェルズの言葉を引き継いだウラノスは、その双眸を眇める。

 

「迷宮から人間が最も少なくなる時期……フィリア祭の当日に、『宝玉』を回収させる」

 

「……だが回収はどうする。最低でもLv.4の冒険者に行って貰わなければ30階層は厳しいだろう」

 

「それについては考えてある」

 

 グリファスに応じる様に答えたフェルズは顎の辺りに手をやって告げた。

 

「【爆拳闘士】、ハシャーナ・ハフナー。素顔を見られる事の少なく、【ガネーシャ・ファミリア】に所属する彼ならフィリア祭と相まって秘密裏に動きやすいだろう」

 

「……それならば、運び屋も手配しなければな」

 

「18階層辺りで『宝玉』の受け渡しをさせるのが良いだろう」

 

「……それなら」

 

 フェルズとウラノスが言葉を交わす中、グリファスは笑みと共に告げる。

 

「【ヘルメス・ファミリア】に丁度良い盗賊(シーフ)がいる。金に目が無い犬人(シリアンスロープ)だが、それなりの実力は保障する。報酬を弾めば問題無いだろう」

 

 この時、グリファスは気付かなかった。

 

 数日後、フィリア祭の翌日に18階層で起こる最悪な事件に。

 

 後に彼が軽く頭を痛めるのは、そう遠い事では無い。

 

 

 


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