この様な拙作をこれ程の方々に読んで頂き恐縮です、歓喜に打ち震えております。
皆さん、本当にありがとうございます!
今後も頑張らせて貰いますので、どうぞよろしくお願い致します!
「……まぁ、こんなものか」
灰色の大地に佇む彼は、眼前の惨状を感慨も無く見つめる。
50階層に広がっていた灰色の森。
その一角はグリファスの魔法によってモンスターごと消し飛ばされ、彼の目の前には焼け野原が形作られていた。
『詠唱破棄』。
超長文、長文、短文、超短文―――それぞれ量に差はあれど魔法を使う上で誰もが強いられる詠唱を省略し、より早く魔法を行使する技術だ。
魔法行使の簡略化と高速化と言えば聞こえは良いが、実際は『魔法』と言う名の暴れ馬を操る為の安全対策を全て無視して解き放つ様な物だ。
魔力の手綱を持つ事ができなければ、起こるのは
魔力の扱いにおいて世界で最も多くの経験を積んで来たグリファスにしかできない、最大の裏技だ。
急襲して来た芋虫型を詠唱破棄した魔法でもって殲滅したグリファスは息を吐き―――目を細める。
視線の先、51階層に繋がる急な坂。そこから無数のモンスターが現れたからだ。
「……全く、面倒くさい。下に行った連中は生きているんだろうな?」
こんな事なら、通信用
ほとほと辟易した様に嘆息し、地面を踏み締める。
モンスターの大群に対し、即座に迎撃に移った。
「早く、行かないと―――」
「よし、着いた―――わっ!?」
51階層で現れた芋虫型のモンスターとの突然の
そんな彼等が50階層に足を踏み入れた直後、純白の暴嵐に巻き込まれそうになった。
「寒ッ……!?何なのよ、コレ……」
「これ、グリファス様の……!?」
「アァ!?ったく、冗談じゃねぇぞ。これだからエルフは……」
「……なぁ、フィン。大丈夫か?」
「…………いつかのトラウマを思い出すよ」
「オッタルと一緒に氷付けにされかけてたからのう、お主」
間近で吹き荒れた絶対零度の嵐。
それが消えると、森と共に氷像と化していたのは見覚えのあるモンスターだった。
「これ、さっきの新種……!」
「やっぱり、来てた……」
「……まぁ、問題は無かったみたいだけどね」
そう言葉を交わしながらボロボロになった森を抜けると、平地で芋虫型から強引に魔石を抜き取っていたグリファスも彼等に気付いた。
「おぉ、戻って来たか。無事生きていた様で何より」
「ついさっき死にかけたわー!!」
「こんのクソ爺、馬鹿みたいな魔法ブッ放しやがって……ッ!!」
「お、お二人共落ち着いて……!」
レフィーヤの制止も振り切ってウガーッ、と噛み付くティオナとベート。
それ等を適当にかわしたグリファスは笑みを浮かべるフィンに歩み寄った。
「お疲れ、フィン。お前達もあのモンスターと?」
「あぁ、レフィーヤの魔法で難を逃れたよ。アイズとベート以外は武器を失う形になったけれどね」
「そうか、『竜の壷』には行けそうに無いな……ラウル、その腕は大丈夫か?」
「あ、はい。腐食液食らったんすけど治療してもらってどうにかなりました」
「そうか、後で念の為リーネにでも見て貰うと良い。……『対異常』を評価Cに上げるまであの腐食液を浴びない方が良いぞ」
「ハハ、多分辿り着くまでに一生が終わるっス……」
「何、諦める事は無い。
「すいません無理です死んじゃいますって!?」
「私が、やる……」
「あ、私も!面白そー!」
「お前等は絶対やめろ。引き際を考えない奴は絶対にやっちゃ駄目だ」
「えぇ~!?」
「あぁ確かに。こいつなら【ステイタス】無くなってても馬鹿みたいに突っ込んでいきそうだ」
「なんだとー!?」
「は、ははは……」
モンスターが粗方撃破された事で安堵したのか、束の間穏やかな空気が流れた。
「……やれやれ、相変わらず馬鹿げているな」
野営地を構えた一枚岩。その中で50階層を一望できる岩場に佇むリヴェリアは、沸きに沸く周囲の団員達を尻目にそっと息を吐いた。
全てを凍てつかせる吹雪、あらゆる物を焼き尽くす獄炎。詠唱を省略した事で本来のソレと比べれば雲泥の差と言える物だったが、それでもその威力はモンスターの大群を撃滅するに足る破壊力を秘めていた。
己の切り札である『詠唱連結』でようやく辿り着ける境地に、その老人は立っている。
いつも、彼は自分の目標だった。
「―――私も、負けられないな」
あらゆる冒険者の頂点―――【
思考に沈む。
(しかし、あのモンスターは一体……)
一〇〇〇年以上に渡ってグリファスとその仲間が集め続けた情報には無い新種、更に
その時だった。
美しい
無意識の内に、その呟きが零れ落ちた。
「何だ、あれは……」
「―――」
最初に気付いたのは、グリファスだった。
この場の誰よりも高い【ステイタス】で強化された五感が
先端の折れた銀杖を握り、臨戦態勢を取るその直後。
音が響き、木々をへし折る破砕音と共にソレは現れる。
そして、その姿を視認したグリファスの思考を空白にした。
「………………………………………馬鹿な」
いつの間に、この階層に現れた?
「……あれも下の階層から来たって言うの?」
「迷路を壊しながら進めば……何とか?」
「馬鹿言わないでよ……」
他の面々も唖然とする中アマゾネス姉妹の気の抜けた会話が静かな空間に響く。
黄緑色の体躯に扁平上の腕。芋虫型のモンスターの形状を引き継ぎながらも、全容の作りが大きく異なっていた。
「人型……?」
芋虫を連想させる下半身、扇のような厚みのない二対四枚の腕。
上半身は人型の形をしているが女を模したその姿は醜悪で、六
「あんな、でかいの倒したら……」
「……まあ、馬鹿げた爆弾が爆発するだろうな。だが―――」
―――それなら、腐食液ごと消し飛ばしてしまえば良い。
存在自体が害悪と言える怪物に向けて手を伸ばし、詠唱破棄して【ムスペルへイム】を発動、Lv.8の凄まじい火力で焼き尽くす直前。
「……」
「……グリファス?」
動きを止めた彼に首を傾げる金髪金眼の少女に目を留め、一言尋ねた。
「アイズ、お前の風で腐食液は防げるか?」
「……うん。問題無い」
「そうか。それじゃあ任せる。フィン、撤退の指示を出して構わないな?」
「……やれやれ、こんな時まで
「大丈夫だよ、この程度なら問題無い」
それだけだった。
背を翻したグリファスは、リヴェリア達に撤退の指示を伝えに向かう。いきり立つ若者達の対処は団長に丸投げした。
得体の知れないモンスターをアイズが撃破し、【ロキ・ファミリア】が遠征を切り上げたのはそれから数十分後だった。