怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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ロキ・ファミリア

 

 

「ハッハッハッハッ!アイズがいきなり飛び出したから一体何があったと思っていたら、グリファスに火を点けられたか!それは笑えるわ!」

 

「……」

 

 爆笑するガレスに、王族(ハイエルフ)の老人は面白くないとばかりに憮然とする。近くに座るフィンとリヴェリアも苦笑を見せていた。

 

「まぁ、グリファス自体に非は無いと思うけどね……」

 

「あの時はレフィーヤも危なかったからな。仕方が無いだろう」

 

「ガハハ、アイズも負けず嫌いだからなあ」

 

「……全く」

 

 心底疲れた様に息を吐き、天幕の天井を見上げた。

 

 今、彼等【ロキ・ファミリア】がいるのは50階層。

 

 危険が腐る程―――寧ろ腐って欲しい位存在するダンジョンにおいて、モンスターの生まれない安全階層(セーフティポイント)の一つだ。

 

「……で、そのアイズは?」

 

「ティオネに呼びに行ってもらっているよ」

 

「……便利な奴だな」

 

「ハハハ……」

 

 半ば呆れた様なグリファスの言葉にフィンが苦笑していると……入り口をくぐって、件の【剣姫】が現れた。

 

「フィン」

 

「あぁ、来たかい、アイズ」

 

「がははっ、今ちょうどお前の話をしとった所だぞ、アイズ」

 

「ガレス……今は笑うな」

 

「……」

 

 派閥首脳陣の中で唯一無言を貫くグリファスに、アイズは若干の冷や汗を流す。

 

「さて、前置きは良いだろう。何故呼び出されたか分かるかい、アイズ」

 

「……うん」

 

「なら話は早い。どうして前線維持の命令に背いたんだい?……いや、まぁ原因は分かっているんだけどね」

 

「……そこで私を見るな」

 

「……」

 

 フィンの流し目に、グリファスは辟易した様に息を吐いた。己の悪癖(負けん気)を暗に指摘されたアイズも肩を揺らす。

 

「アイズ、君は強い。だからこそ組織の幹部でもある。内容の是非を問わず、君の行動は下の者に影響を与えるんだ。それを覚えてもらわないと困る」

 

「……」

 

「窮屈かい?今の立場は」

 

「……ううん、ごめんなさい」

 

 素直に自省し謝罪するアイズに、その場の四人は軽く笑った。

 

「まぁ、そう言ってやるな、フィン。理由はともかくとしてアイズがフォモールの群れに突っ込んでくれたのは正直助かった。危うく崩れかけたからのう」

 

「それを言うなら、詠唱に手間取った私の落ち度もあるか」

 

「私もあの大型級の対処に遅れを取ったからな」

 

 ガレス、リヴェリア、そしてグリファスもが助け舟を出す。

 

 アイズが申し訳無さそうに眉を下げると、ドワーフの偉丈夫は軽く目を弓なりにし、二人の王族(ハイエルフ)は何も言わず瞑目する。そんな彼等の姿にフィンも苦笑した。

 

 何も言わずとも伝わる。長い時の中で築かれた信頼が、四人の中にあった。

 

「アイズ、ここはダンジョンだ(・・・・・・・・・)。何が起きるか分からない。そしてレフィーヤ達全員がアイズの様に動けないし、戦えない。それだけは心に留めて欲しい」

 

「……分かり、ました」

 

「その顔を見ると、もうティオナ辺りに絞られたんだろう。行って構わないよ」

 

「……」

 

 ぺこりと頭を下げ、出て行く。そんな彼女を見送ったフィンは、グリファスに視線を投げた。

 

「良かったのかい?何も言わなくて。アイズも終始ビクビクしていたじゃないか」

 

「言いたい事が全部お前に言われてしまったんだよ。仕方が無いだろう」

 

「ははっ」

 

 苦い笑みを見せたグリファスにフィンも笑った。

 

 天幕から遠ざかって行くアイズの背を見つめたリヴェリアが口を開く。

 

「……心配だな」

 

「……強くなる事は良い事だよ。アイズにとっても【ロキ・ファミリア(ぼくら)】にとっても」

 

「だがあの子は、ひた向き過ぎる。強さを求めるあまり、誰も着いて行かれない様な場所に(ひと)りで行ってしまいかねない」

 

「どうしたものかなぁ……」

 

「困ったものだ……」

 

「……お主らふけとるのー、見た目若いのに」

 

 はぁ、ふぅ、と嘆息するリヴェリアとフィン、二人の苦労人にガレスが呆れた様な表情をしていると。

 

「……心配する必要も無いと思うがな」

 

 とても嬉しそうな笑みを浮かべるグリファスの言葉が、天幕に響く。

 

「お前等なら分かるだろう。今もまだ危なっかしいが、アイズは随分と丸くなった。今だって……ほら」

 

 天幕を一歩踏み出した、その先。

 

 第一級冒険者の視力が、親友(ティオナ)にじゃれつかれて仲間達と笑い合っている、アイズの姿を捉えた。

 

「……」

 

「あの子達も強い。アイズと一緒に強くなって行く事もできるさ」

 

 そんなグリファスの言葉に、それを証明するかの様に笑い合う少女達の姿に。

 

 三人も、確かな笑みを浮かべた。

 

「確かに、僕等の出る幕は無さそうだね」

 

「騒々しい者ばかりだからのぅ、この【ロキ・ファミリア】は。くよくよさせてもくれんじゃろ」

 

「……そうだな」

 

 眼前の光景に、グリファスも目を細める。

 

「―――【ロキ・ファミリア】、か」

 

 その名を、呟く。

 

 かつての精霊(アリア)の選択は、決して間違ってはいなかった。

 

 そう思考するグリファスは、楽しげに笑う少女の姿にそっと笑みを浮かべた。

 

「……良き仲間(とも)に巡り合えたな、アイズ」

 

 

 

 

大荒野(モイトラ)の戦いではご苦労だった。みんなの尽力があって今回も無事に50階層まで辿り付けた。この場を借りて感謝したい、ありがとう」

 

「いっつも49階層越えるの一苦労だよねー。今日は出てくるフォモールの数も多かったし」

 

階層主(バロール)がいなかっただけマシでしょ」

 

「ははっ。ともかくにも、乾杯しよう。お酒は無いけどね。それじゃあ―――」

 

『乾杯!』

 

 (みな)が唱和し、食事が始まる。

 

(……相変わらず、流石だな)

 

 団員達を纏める小人族(パルゥム)にグリファスは目を細めた。

 

 柔軟な思考、決断力、部隊を引っ張る統率力に仲間を鼓舞するに足る『勇気』。

 

 これまで会った者とは違う『英雄』の素質。

 

 静かに感嘆するグリファスは、ダンジョン内ではごちそうとも言える肉果実(ミルーツ)のスープを完食した。

 

 確かな栄養補給はできるが粘土の様な食感と苦味の拭えない自家製携行食は老人には少々堪える。団員の士気を考慮したフィンの計らいは正直ありがたい物だった。

 

 過剰摂取を避けているのか、食欲を刺激するスープを近付ける褐色の小悪魔から逃れるアイズを視界にいれつつ容器や鍋を片付ける。

 

「―――それじゃあ、今後の予定を確認しよう」

 

 食事を終え、見張り以外の者が輪を作る中フィンが口を開く。

 

「『遠征』の目的は未到達階層の開拓、これは変わらない。けど今は、59階層を目指す前に冒険者依頼(クエスト)をこなしておく」

 

「冒険者依頼《クエスト》……確か【ディアンケヒト・ファミリア】からのものですか?」

 

【ディアンケヒト・ファミリア】と言う単語に、義手が疼いた気がした。

 

「あぁ、内容は51階層、『カドモスの泉』から要求量の泉水を採取する事」

 

「できればで良いが、魔導具(マジックアイテム)作成用に私の分も採ってくれ」

 

「えぇー、グリファス行かないのー?」

 

「私は精神力(マインド)を消耗したリヴェリアと拠点(ここ)の防衛だ」

 

「お前が行けよ……」

 

「貴重な経験値(エクセリア)を私が独占する訳には行かないだろう。済まないが頼む、ベート」

 

「チッ、面倒臭ぇ……て、おい、何だよお前等!?」

 

 王族(ハイエルフ)が頭を下げた事実に戦慄するエルフ達。それには狼人(ウェアウルフ)の青年もたじろいだ。

 

 エルフの団員達を落ち着かせた後、フィンが詳しい説明をする。

 

「51階層には少数精鋭のパーティを二組、送り込む。無駄な武器、道具(アイテム)の消耗は避け、速やかに泉水を確保後、この拠点(キャンプ)に帰還。質問は?」

 

「はいはーい!何でパーティを二つに分けるの?」

 

「注文されている泉水の量がこれまた厄介でね。『カドモスの泉』はただでさえ回収できる量が限られている、要求量を満たすには二箇所の泉を回らなくてはいけない」

 

「食糧を含めた物資には限りがあるからのう。冒険者依頼(クエスト)の後59階層に向かう為にも時間はかけられん。二手に分けて、効率化というやつだ」

 

 説明も終わり、パーティが編成される。

 

 一斑:アイズ、ティオナ、ティオネ、レフィーヤ。

 

 二班:フィン、ベート、ガレス、ラウル。

 

「え、えぇっ!?」

 

「じ、自分っスか!?」

 

「気張れよ」

 

 必然的に強竜(カドモス)と戦う事になるパーティに参加させられた第二級冒険者達に軽く声をかけたグリファスだったが……不安は拭えなかった。

 

 それは他の面々も同じだった様だ。

 

「……なぁ、一斑(こいつら)、大丈夫か?」

 

「ンー……」

 

 三人の戦闘狂(バーサーカー)後輩(レフィーヤ)で抑える事は不可能。ベートに尋ねられ、フィンは一瞬グリファスを見たが―――顔を上げる。

 

「ティオネ、君だけが頼りだ。僕の信頼を裏切らないでくれ」

 

「―――お任せくださいッッ!!」

 

 ―――大丈夫か?

 

 物凄い、嫌な予感がした。

 

 




執筆時間無事確保。原作入りしてからは章が小分けされる事になります。大体8話前後で。
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