怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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ロキ・ファミリア
プロローグ


 

 

 度重なる咆哮が轟く。

 

 地下迷宮(ダンジョン)の奥深く、『深層』に存在する赤茶色の荒れた大地。

 

 49階層、大荒野(モイトラ)にて【ロキ・ファミリア】のパーティとモンスターの群れが激突していた。

 

『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!』

 

 個体によってはLv.5に匹敵する力を持つ事もあるモンスター、フォモール。

 

 それぞれが大型の天然武器(ネイチャーウエポン)を持つそれらが棍棒にも似た武器を振り下ろし、盾を構える冒険者達が鬼気迫る表情で受け止める。その威力を物語る様に彼等の(かかと)が地に埋まった。

 

【ロキ・ファミリア】のパーティは、あまりの大軍に押されつつあった。

 

「前衛、密集陣形(たいけい)崩すな!後衛は攻撃を続行!」

 

「ティオナ、ティオネ!左翼支援急げ!」

 

「あ~んっ、もう体が幾つあっても足りなーいっ!」

 

「ごちゃごちゃ言ってないで働きなさい」

 

 小人族(パルゥム)の団長の指示が次々と飛び、揺らぎかける戦況を何度も立て直す。

 

 アマゾネスの姉妹が眼前のフォモールを瞬殺する中、戦況を俯瞰(ふかん)していたグリファスが口を開く。

 

「フィン、私が出ようか?」

 

「君が出たらすぐに終わるだろう。団員達が育たない」

 

「まぁ、それもそうだな」

 

「お二人共、どうしてそんな平然としてるんすか……」

 

「ほらラウル、手を休めるな。あそこ突破されかけてるぞ」

 

「は、はいっス!?」

 

 グリファスに指摘されるラウルが慌てて弓を放つ。彼の矢は見事にフォモールの頭部を撃ち抜いた。

 

「腕を上げたな……大型級のフォモールと単独(ソロ)で戦ってみたらどうだ?多分【ランクアップ】すると思うぞ」

 

「流石にそれはお断りします全力で!」

 

 そんな彼等の後方で。

 

 魔法と矢を連発する魔導師や弓使い(アーチャー)に囲まれた中心から、その美しい声は絶えず紡がれていた。

 

「―――【間もなく、()は放たれる】」

 

 玲瓏な声で詠唱を紡ぐのは、【九魔姫(ナイン・ヘル)】の二つ名を持つ都市最強魔導師。

 

「【忍び寄る戦火、免れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む】」

 

 絶世の美貌を持つ彼女は翡翠(ひすい)の色を持つ魔法円(マジックサークル)を展開し、前方を見据えていた。

 

「【至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火】」

 

 流れる詠唱を耳にしながら誰もが全力を振り絞る中。

 

 フォモールが、吠える。

 

『―――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウッッ!!』

 

 群れの中でも一際の巨体を誇る一体が仲間を蹴散らしながら驀進し、握る得物を大上段に構えた。

 

 振り下ろされた一撃は、構えられた盾に直撃し―――前衛の一角を、吹き飛ばす。

 

「ベート、穴を埋めろ!」

 

「ちッ、何やってやがる!?」

 

 素早くフィンの指示が飛び、遊撃を務めていた狼人(ウェアウルフ)が急行するが間に合わない。数匹のフォモールの侵入を許す。

 

「……」

 

 無言でグリファスが地面に屈みこむ、それと同時。

 

 前衛に守られていた魔導師達に、フォモールが攻撃を叩き込んだ。

 

「レフィーヤ!?」

 

 一人の少女が吹き飛ぶ。

 

 直撃を避けながらも、凄まじい膂力から生まれたその衝撃波は細身の少女(エルフ)を殴り飛ばした。

 

「―――ぁ」

 

『フゥーッ……!』

 

 地面に転がる彼女の目に映ったのは、鈍器を振り上げる獣蛮族(フォモール)

 

 仲間の壁を突破した超大型、その赤い目玉に射すくめられて時を止める。

 

 その時だった。

 

『―――ゥ!?』

 

「えっ?」

 

 爆砕。

 

 頭部で炸裂した衝撃によろめくフォモールは―――その直後、金と銀の光を目にした。

 

 無数の斬撃に斬り裂かれ、その首を宙に舞い上がらせる。

 

「……」

 

 呆然とする少女の先。

 

 後方に侵入したモンスターを全滅させ、無言で不壊剣(デスペレート)を振り鳴らすアイズが見つめたのは―――後方に佇む、王族(ハイエルフ)の老人だった。

 

「(……グリファス様が、狙撃を?)」

 

 僅かに遅れて気付いたレフィーヤだったが、周囲に矢も無い事に疑問符を浮かべ―――フォモールの付近に落ちている、砕けた石を見つけた。

 

「まさ、か―――」

 

「―――流石だね。小石一つでフォモールにダメージを叩き込むなんて」

 

「何、無駄に高い【ステイタス】にただ頼っただけだ。技も何もあったものでは無い」

 

 見えなかった投擲に感嘆するフィンの言葉に、グリファスは肩をすくめる素振りを見せた。

 

 最初は直接行こうかと思っていたが、現場に駆けつけるアイズを見つけて必要な時間を稼いだ。

 

 そう告げた彼は、その金髪金眼の剣士と目が合った。

 

 その金色の瞳は、確かな闘志を燃やしていて―――、

 

 ―――負けない。

 

 …………………………………………………………………………………………え、おい?

 

 その固い絆で為し遂げられる、王族(ハイエルフ)の老人と少女の奇跡の意思疎通(アイコンタクト)。ちょっと待て。

 

 顔を強張らせるグリファスから視線を外し、アイズは前を見据える。

 

 隣のフィンも嘆息した。

 

「……もの凄く嫌な予感がするんだが、気の所為だよな?」

 

「グリファス、ロキの言葉を借りるけどそれはフラグ―――」

 

『ちょ、アイズ、待って!?』

 

「「……」」

 

 仲間(ティオナ)の制止を振り切って更に前進する少女。

 

 攻めかかってくるフォモールの大軍に突っ込んで激しい剣舞を繰り広げる彼女に、二人は軽く頭痛を感じた。

 

「……私の所為か?」

 

「やっぱり、闘志を刺激しちゃうんじゃないのかな……」

 

 高みを求めて【戦姫】と化す少女の姿に、重い重い息を吐いた。

 

「【汝は業火の化身なり】」

 

「【ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」

 

 後方、莫大な魔力の高まり。

 

 紡がれていた長文詠唱が完成に至ろうとする中、ティオネに呼ばれたアイズも自陣に帰還する。

 

「【焼き尽くせ、スルトの剣】―――【我が名はアールヴ】!」

 

 魔法円(マジックサークル)が拡大、【ロキ・ファミリア】の、全てのフォモールの足元まで広がる。

 

 広範囲殲滅魔法。それが完成する。

 

 白銀の杖を振り上げ、リヴェリアは魔法を発動させる。

 

 

「【レア・ラーヴァテイン】!!」

 

 

 大炎。

 

 魔法円(マジックサークル)から突き出す無数の炎柱、それが放射状に連続して放たれる。

 

 人間の一団を避けて放たれたそれらはフォモール達を次々と呑み込んだ。

 

「……」

 

 フォモールの群れが数瞬で一掃され、グリファスが感嘆の息を吐く。

 

 相変わらず優れた魔法だ、純粋な攻撃範囲なら【ムスペルヘイム】を優に上回るか。

 

 だがまぁ、そう褒めちぎってもいられない。やる事がある。

 

 そう思考するグリファスは、アイズの後ろ姿を見つめる。

 

「!?」

 

 その視線に肩を震わせたアイズは、静かに冷や汗を流した。

 

 




とうとう原作突入。えっ、白兎?もう少しお待ちくださいな。


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