書きたい物書いてたら凄い量になった。後悔はしてない。
あの日。
『―――お帰りなさい、グリファス』
『ヘラ……』
オラリオに帰還し、ホームに戻ったグリファスを呼び出したヘラの笑顔は、どこか寂し気だった。
『やっぱり、レイラは……?』
『……
『そっ、か……』
自嘲を含んだ笑みと共に告げると、女神はそっとうつむく。その目には涙が浮かんでいた。
事実として理解はできても、そうそう受け入られる物では無かったのだろう。そう察するグリファス自身胸中を哀しさが支配するのを感じていた。
それでも喪失感を感じないのは、最期に力を譲渡された事が関係しているのだろうか。
思考するグリファスに、切なく笑うヘラはそっと尋ねた。
『……【ステイタス】、更新するでしょ?前の遠征からやって無かったし』
『……あぁ』
無理して気丈に振る舞おうとする主神に気付きながら、それに甘える。更新の為上着を脱いで横になった。
『―――どんな死に方だったの?』
『……そうだな。思い出のある
『え?魔力を?そんな事ができるんだ……レイラから貰ったんなら「魔力」が凄い上がってそうだけど……』
『……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………え』
『?』
『「魔力」がD評価だったのに、カンストしちゃった……「スキル」も、レイラと同じ効果のが……』
『……何だって?』
『ちょっと、待って……これ』
『……はは』
羊皮紙に綴られている、
スキルの欄に新たに刻まれたソレに、思わず苦笑する。
『全く、アイツは……とんでも無い物を残してくれた』
「―――【世界の始まりから存在する二つの深遠】」
高速で飛行するグリファスは翼の出力を跳ね上げ、急旋回する。その直後に
レイラに魔力を譲り渡された後の更新で発現した
その効果は、詠唱文と効果を把握した
「【足を踏み入れし愚者は瞬く間に凍りつき、無数の氷像が形作られる】」
詠唱するのは、最愛の妻であると同時に迷宮都市最強魔導師として君臨していた
あらゆる物を凍てつかせる純白の吹雪でもって宿敵を撃滅しにかかる。
「【咲き誇れ青い
巨竜の
彼を中心に、純白の
行使者と共に世界から一度失われた魔法、その名が紡がれる。
「―――【二ヴルヘイム】」
その瞬間、世界が塗り替えられた。
生き物に等しく飢えと渇きを与える砂漠、その一角が純白の嵐に呑み込まれたからだ。
『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!??』
絶対零度の吹雪に閉じ込められた
抵抗があった。
そしてそれは、魔法を脱け出すにはまだ遠かった。
『―――』
一〇秒にも及ぶ絶対零度の暴嵐。
それが終わった時、白く凍てついた砂漠には物言わぬ巨像があった。
「……」
油断無く眼下の白い世界を見下ろすグリファスは、静かに武器を構える。
余程の力が無い限り、この魔法を耐える事は難しい。
大抵のモンスターは断末魔を発する事もできずに氷像と化すし、よしんば数秒耐えたとしても息を吸った途端極寒の暴風が内臓を破壊し尽くすからだ。
それでも、忘れるな。
黒竜には劣れど、目の前の巨竜は一〇〇〇年も生き続けたLv.7を超える
『―――ッ』
パキっ。
氷の罅割れる音が、純白の世界で響いた。
ピシッ、ビキ、ミシ……、と破壊の音が連鎖する。
氷像の全身に罅割れが走るのは、そう時間がかからなかった。
『―――オォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
完全に凍りついた左前足を除いて氷の牢獄を完全に破壊した
「―――」
そしてそれを認めたグリファスは、パックバックから三冊の書物を取り出す。
それぞれ表紙の部分に美しい宝石を埋め込まれたそれを、ぞんざいに放り投げた。
「回路接続確認、『紅蓮の書』『蒼の書』『白の聖典』―――
その直後、三冊の書物が同時に開かれて光を放ち、グリファスの周囲に浮かび上がる。
発展アビリティ『魔導』『神秘』を最も極めたグリファスにしか作成できない、
その効力は、書に刻まれた複数の魔法の
「【クリムゾンランス】、【フリーズエッジ】、【ホーリーレイン】」
それが輝き―――一斉砲撃が放たれた。
『ッ……!』
「……」
凄まじい爆音が連続し、グリファスの表情に感情は無かった。
炎の槍、大氷の刃、光の雨―――空を埋め尽くされん程の魔法の連射を受ける巨竜は、しかし一歩も引かない。
どんな傑作でも第二級魔導士の長文詠唱程度の威力しかでないと言う難点を除けば最高の一品と言えるが、やはり
「―――さて」
もう一つの
彼の魔力を一定量、一〇年に渡って溜め込まれた宝玉は魔法に縫い止められる
【二ヴルヘイム】を受けて凍りついた前足を、粉々に吹き飛ばした。
『オォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?』
「よしっ……」
巨竜の視界と動きを奪った砲撃は、魔法で負わせた傷に
「―――【吹き寄せる熱風、
崩れ落ちた
「【世界の始まりから存在する二つの深淵】」
紡ぐ【
全てを焼き尽くす炎を呼び起こし、最後の一撃を叩き込む。
「【足を踏み入れし愚者は瞬く間に焼き尽くされ、跡には灰すら残らない】」
『ッ―――アァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
「っ!」
放たれた
迫り来る衝撃に、
アスカロンを振り下ろし、衝撃波を打ち砕く。
『ッッ!!??』
「【咲き誇れ紅蓮の
詠唱を終わらせたグリファスは、驚愕に眼を見開く
記憶の中の
『オォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!??』
苦悶の叫喚を上げる
「【ムスペルヘイム】!!」
展開された
そして―――紅く燃える巨剣が、
『ッ……!!』
左の眼球を中心に頭部を斜めに焼き切られ、巨竜のシルエットが崩れる。
全力で回復を始め、どうにか命を繋ぎ止めようとする
『「―――っっ!!」』
巨竜は回復を即座に放棄、その角を振るってグリファスを迎撃し、
激突する。
「な……!」
炎剣が押し負け、罅割れる。
翼の後押し、
「やれやれ、これだから怪物は―――」
「―――【ムスペルヘイム】」
それは、世界を焼いた。
それは巨竜の角を消し飛ばし、頭部を貫き、肩、胸と次々と肉体を撃ち抜いて―――巨大な『魔石』を、完膚なきまでに打ち砕いた。
『―――』
灰になる巨体、馬鹿げた量の『ドロップアイテム』。
「……ははっ」
それを見て、笑い―――老人は崩れ落ちた。
「はは、ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」
炎で焼かれても溶けなかった氷の大地に仰向けに転がり、一頻り笑う。
「やったぞ、私は遂にやった!たった一人で
両手を広げ、天に宣言するかの様に叫んだグリファスは―――そこで笑みを苦い物に変える。
「だが―――
その、一週間後だった。
黒竜討伐の為グリファスと合流した【ゼウス・ファミリア】、【ヘラ・ファミリア】が黒竜に敗北し、壊滅したと言う急報が彼等の主神からもたらされたのは。
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