怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

46 / 79
アスカロン

 

 

『―――へぇ、階層主や陸の王者(ベヒーモス)に有効打を与えられる様な得物が欲しい?』

 

『まぁ、できればな』

 

『任せな!最強の武器を打ってやるよ!図面引くから待ってな』

 

『お、おい?』

 

 最初は、他愛も無い話の中で出した冗談のつもりだった。

 

『……なぁ、もう何時間も待たされているんだが』

 

『……うーん。このままだと五、六(ミドル)級の怪物ができるな。お前持てる、よな?』

 

『おい待て、どんな武器を打つつもりだ』

 

 鍛冶師が本気になった時程恐ろしい物は無いと後にグリファスは語った。

 

 当時オラリオに存在した鍛冶派閥、【ヴィシュヴァカルマン・ファミリア】。

 

 目を輝かせる団長の言葉に応えた彼等は大量の鉱物(インゴット)を用意し、上級鍛冶師(ハイ・スミス)十人がかりで鍛えぬいてとうとうソレを完成させた。

 

『これ、は……』

 

『名付けて「アスカロン」だ!はっはっはっ!』

 

 笑顔で彼女が見せてきた極大の大剣とその請求書を見てグリファスは本気で頭を抱えたのを覚えている。

 

 六(ミドル)もの規模を持つ両刃の大剣。片刃は精製金属(ミスリル)、もう片刃は超硬金属(アダマンタイト)でできた怪物。深層域で採れた最上質の鉱物(インゴット)でできた第一等級特殊武装(スペリオルズ)はLv.7の腕力を持ってもロクに振るえず、わざわざ武器を振る為に『力の手袋(ヤールングローヴィ)』を作る羽目になった。

 

 馬鹿げてる、と当時のグリファスは思った。

 

 でも。

 

 そんな規格外の武器だからこそ、怪物達を討つ一手となるのかも知れない。

 

 

 

 

「―――ッ!!」

 

 駆ける。

 

 彼の足元が爆ぜると同時、彼は一〇〇(ミドル)以上あった距離を一瞬で詰めていた。

 

『オォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

「!」

 

 放たれた咆哮(ハウル)が彼の後ろで砂丘を吹き飛ばしたが、その余波に屈する事無く彼は一歩踏み込む。

 

 六(ミドル)もの大剣が、爆砕音と共に前足に叩き込まれた。

 

『ウゥ!?』

 

「チッ……」

 

 超硬の皮膚に軽傷どころか深々と裂傷を刻んだ一撃に陸の王者(ベヒーモス)が目を見開き、グリファスは相変わらずの硬さに舌打ちを漏らす。

 

 堅実に一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)、速やかに離れる。

 

 そしてアスカロンを構えなおしたグリファスを―――陸の王者(ベヒーモス)が、その足で踏み潰した。

 

 砂漠の形を大きく変える一撃。足はめり込んで大きなクレーターを作り出していた。

 

 そもそも八〇(ミドル)もの巨体を持つ陸の王者(ベヒーモス)に対して生半可な距離を取ろうならば、たった一歩で全て押し潰される。

 

 そのはずだった。

 

 だが。

 

「―――色々対策も考えて来たが……やはり手袋(これ)に尽きるな。ただ、砂漠に足を取られるのが難点か」

 

『!?』

 

 細身のエルフを踏み潰したはずの足が、揺れる。

 

 直後、強引に足が持ち上げられて無理矢理横にずらされた。

 

 砂漠に轟音が轟く。

 

「……」

 

 グリファスはともかく足場の方が耐えられなかったのだろう、踏み潰しを受けて胸まで砂に埋まった彼は高い【ステイタス】を利用して一息で砂を吹き散らす。

 

 だが本来、グリファスでも生身ならば今の一撃を受ければ無傷ではいられ無かっただろう。

 

 普段の効果とは別に、使用者にかかる負担(荷重)が大きければ大きい程『力』の補正を跳ね上げる『手袋』があって初めてできる力技だ。

 

「―――【我が身に翼を】」

 

 地上での戦闘は不利と早々に判断したグリファスは詠唱を始める。

 

「【矮小なる妖精の身を遥か空の上の神々(かれら)の元へ届ける】―――」

 

 ゴッッ!!と、再び陸の王者(ベヒーモス)の踏み潰しが炸裂したが、それは当たらなかった。

 

 一気に前方へ疾走したグリファスが、巨竜の腹の下まで潜り込んでいたからだ。

 

「―――【奇跡の翼を】」

 

 並行詠唱。

 

 大上段に構えた極大剣が振り下ろされ、超硬金属(アダマンタイト)で形作られた片刃が後ろ足に深々と食い込み、堅く分厚い筋肉、その束を次々と切り裂いて―――骨で、止まった。

 

「……【我が名はアールヴ】」

 

 鼓膜が割れかねない大音量で叫喚が飛び、怒り狂う陸の王者(ベヒーモス)が暴れ出す直前。

 

「【フィングニル】!」

 

 虹色の翼が生まれた。

 

 それは王族(ハイエルフ)の老人の背だけに留まらない。彼の魔力に呼応して竜殺し(アスカロン)が光を放つ。精製金属(ミスリル)で形作られた片刃から、小さな翼が出現する。

 

 後は簡単だった。

 

 カンストした魔力、A評価の『魔導』によって形作られた二対の翼。

 

 それを羽ばたかせて生まれた莫大な力でもって、陸の王者(ベヒーモス)の後ろ足、その片方を一息に斬り落とす。

 

『~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!??』

 

 前足を落としてやった方が効果的だっただろうが、それでも体勢を崩してやるには十分だった。

 

 陸の王者(ベヒーモス)、その巨体が崩れ落ちる。

 

 足を切り崩し、地に落とす。

 

 グリファス達冒険者が一〇〇〇年に渡るモンスターとの闘争の中で手に入れた、階層主及び超大型モンスターに対する最適解(セオリー)

 

「―――よし」

 

 確かな手応えに笑みを見せるグリファスは宙に浮かび、陸の王者(ベヒーモス)を見据える。

 

 彼の黒竜と同じ様に傷は癒え血は止まり始めているが、失われた足が戻る事は無い。

 

 その差に笑みを浮かべるグリファスは、畳みかける為詠唱を始めた。

 

「―――【凍てつく風(・・・・・)迫り来る冷気(・・・・・・)】」

 

 




感想、どしどしお願いします!


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。