どうぞ。
「アイズ、敬老の日は何をしたら良いと思う?」
「けいろう、の日?」
その日の朝、【ヘラ・ファミリア】ホームの庭園で遊んでいたアイズは、一緒にいた
フワフワとした尻尾を揺らす
「極東の祝日でね?敬老の日って言うんだけど―――」
疑問符を浮かべるアイズに、冬華が説明する。
敬老の日。
多年にわたり社会につくしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う事を主旨とした極東の祝日だ。
「へぇ……」
「それがね、明日なんだ!グリファスにはいつもお世話になってるし、何かしてあげたいと思って!」
「……私も、しようかな」
「うん!皆にも話して一緒に考えよ!」
ニコニコと笑う冬華の言葉に、アイズも笑った。
「……」
たまたま中庭を通りがかった時、少女達の話を聞いた少女は目を細める。
彼女自身、耳に挟んだ内容に思う所があった。
「……あいつ等にでも相談するか」
この後、
「何か欲しい物は無いか、だって?」
「うん!」
わざわざ自分の書斎までやって来た二人の少女の問いに、グリファスはただただ疑問符を浮かべる。
「いや、これと言ってやって欲しい物は無いが……一体どうしたんだ?」
「良いから良いから!」
「何か、無いの……?」
「む……?」
冬華とアイズにせかされる中、眉をひそめながらも考え込む。
(しかし、本当に無いんだがなぁ……)
武装の整備は事足りているし、新たに読みたい本も無い。それならば何か手伝って貰おうと思ったが、山の様にあった書類もつい先程若い幹部達に無理矢理持って行かれてしまった。
そこまで考えて、気付く。
今日の【ヘラ・ファミリア】は何かがおかしい。
一体何があった?
「……なぁ、二人共」
「「なぁに?」」
聞いた。
「今日、何かあるのか?」
「「え!?」」
ギクッ、と二人が肩を揺らす。
余りにも分かりやすい反応を見て当たりか、とさらに踏み込もうとした時だった。
「に、逃げよっ」
「し、失礼しましたぁ!?」
「あ、おい!?」
脱兎の如く走り去って行く二人の少女に硬直する。
ドアを破らんばかりの勢いでこじ開け、二人は逃げて行った。
呆然と呟く。
「何だったんだ、一体……?」
「逃げちゃった……」
「うーん、どうしよう……」
早足で廊下を歩く二人は、若干落ち込みながらも話し合う。
「やっぱり、プレゼントが良いと思ったんだけど……」
「アイズ、お小遣い幾らある?」
「ん、と……今日はジャガ丸くんガマンしたから……五〇ヴァリス、ちょっと」
「私は昨日ダンジョンに潜っていたから、六〇〇位だけど……何を買えば良いんだろう」
グリファスの欲しがっている物を買う為に先程の問いがあったのだが、逃げてしまったので聞きそびれてしまった。
むしろ【ファミリア】の皆で企画しているサプライズパーティが台無しになる処だったと汗を流す。
その時、通りがかった部屋から複数の物音がした。
「この部屋って……」
「アロナさんの、部屋だよね?」
生まれてからこの【ファミリア】で育った
扉に耳を当て、会話を聞き取ろうとする。
『―――ウガー、しんど……』
『ちょっとアロナぁ、サボらないでよぉ』
『うへぇ、まだいっぱいある……』
『畜生あのジジィ、いつもこの量を処理していたのかよ……』
『大変だよねぇ』
「「……」」
そっと耳を離した二人は、顔を見合わせる。
「グリファスの……お手伝い?」
「多分……」
アロナさん達偉いなぁ、と若干の尊敬を抱いた二人は当ても無くホームを歩き回る。
『なぁなぁアスフィ。どうして俺までこんな作業に駆り出されてるか聞いても良い?』
『いつも
『手厳しいなぁ……』
【ファミリア】の倉庫ではアスフィとヘルメスが倉庫の片づけを行っていた。
『ほらほら、飾り付け急いでー!』
『ルーナ、ケーキ届いたぁー?』
『よっ、と……』
大広間では【ファミリア】の構成員達がサプライズパーティの準備をしていた。
「「……」」
その様子を見て困った様な顔をする二人に気付いた女神が、そちらに駆け寄る。
「なになに、どうしたの?」
「ヘラ……」
「それが―――」
―――皆はそれぞれグリファスの為に動いているのに、自分達は何をしてあげれば良いのか分からない。
「何か買って、プレゼントしようと思ったんだけど……」
「グリファスからは欲しい物を聞けなかったし、どうすれば良いのか分かんなくて……」
「んー……」
うつむく二人の少女の言葉に考え込んだ女神は、一転して笑みを浮かべる。
「気持ちが込められていれば、何でも良いと思うよ?」
「きも、ち……?」
「うん。プレゼントにこだわらないで手伝いをしたって良いし、自分の良いと思った物を買ってあげても良い。それには必ず二人の感謝の気持ちがあるんだから。グリファスも喜んでくれると思うよ?」
「「……うーん」」
そして―――日が沈む、少し前。
「「―――できたっ!」」
二人の少女の、嬉しそうな声がホームの一室で響いた。
「―――じゃーん!」
「これは……」
その日の夜。
色とりどりに飾り付けられ、ごちそうが並べられた大広間。天井にはエメラルドの横断幕がかけられ、その横断幕には『
「っ―――」
目を見開き、次には笑みを浮かべる。
「―――おいおい。一体、どんな風の吹き回しだ?」
「今日は『敬老の日』って言う極東の祝日なんだって!冬華が言ってたんだ!」
「お爺ちゃんお婆ちゃんに感謝の気持ちを伝える日なんだよ!」
「そうか……」
何かが変だった【ファミリア】の理由に気付いて頬を緩める中、大勢の団員達が押しかけてきた。
「団長!」
「グリファス様、これはほんの気持ちです!」
「いつもありがとうございます!」
「これからもよろしくお願いしますね!」
口々に各々のプレゼントを渡して来る団員達に面食らいながらも受け取っていくグリファスは、自分に駆け寄る二人の少女に気付いた。
「グリファス!」
「これ……肩叩き券」
「私は貴方を描いた絵!」
「!」
アイズと冬華に渡された手作りのプレゼントにグリファスは瞠目した。
「何をあげようか、凄く迷ったんだけど……」
「ヘラから助言を貰って、精一杯書きました!」
目を合わせ、『せーのっ』と二人は同時に言う。
「「いつも、ありがとう!!」」
「っ―――」
不覚にも、泣きそうになった。
二人を抱きしめたグリファスは、楽しげな
「―――あぁ」
思い起こしたのは、愛したパートナーの声。
家族という名の存在を、痛い程に感じた。
「―――ありがとう」
抱きしめられて目を白黒させていた二人の少女は、その声を聞いて満面の笑顔を浮かべる。
「―――それじゃ、食べようか!今日はごちそうだよ!」
女神の声につられ、周りの面々も笑みを見せる。
血が繋がっていなくても、種族が違くても。
そこには確かな、温かい『家族』があった。
皆さんは、お爺ちゃんお婆ちゃんに感謝の気持ちをつたえていますか?
私は、伝えていません(おい)。
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