「ここが『穴』、か……」
「見てみろ、外周部分にある坂が
その日の夜。
壁面が何故か
彼等の後方には新たに築き上げられた陣営がある。時折襲撃をしてくるモンスターの撃破を続けながら進軍を続けた『
「ようやく、ここまで来たか……」
「これからだろ」
『~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?』
高速の飛行で『穴』から飛び出した
核である『魔石』を破壊されて灰になるモンスターに目もくれず、シルバは身を翻した。
「―――もう誰もやらせねぇ。モンスター共は根絶やしにしてやる」
「―――【迫る悪意、
同じ頃、築かれた陣営の中で
「【構えよ
クレス・バーナード・ダイダロス。
彼は天界に住む神の意志を受けて戦士達に力を貸す精霊の一人だ。『
紡がれる精霊魔法、その効果は武装生成。
「【その手に宿り
無限に生まれる武器を取る事で戦士達は強大なモンスター達に立ち向かって来た。
「【邪悪なる敵を
剣、大盾、弓、槍、戦斧、大剣―――彼の周囲に無数の武器が生まれ、地面に突き立てられる。
その時だった。
「―――悪いな、無理させちまって」
「……どうした、やけに神妙だな」
「おいおい、なんだよその言い方」
歩み寄ってくるジャックの言葉に胡乱気な顔をするクレス。彼の言葉に心外だと笑うジャックは―――次には、表情を真剣な物に変えた。
「―――お前のおかげでここまで来れた。本当に感謝している、ありがとう」
「……なんか、変な物でも食ったか?」
「ひでぇな!?せっかく本気で礼を言ってたのに!!」
「ふん。その感謝の言葉とやらを他の面子に言ってみろ。似たような反応が返ってくるハズだ」
「うわーぶっ殺して―」
「はっ、ほざけ」
軽口を叩き合う二人の顔には笑みがあった。
やがて一本の剣を引き抜くクレスは表情を消して告げる。
「……だが……本当に、ここまで来たんだな」
「あぁ……ようやっとだ」
「……『穴』から出て来る狩り残しは俺達が
「分かったよ。頼りにしてるぜ?」
「ああ」
笑い合う二人は、拳を打ちつけ合った。
「……」
一人天幕の中で過ごすレイラは、手の中にある杖を整備していた。
「(魔宝石が、摩耗している……)」
故郷の森に君臨する
魔力に反応して美しい輝きを放つ魔宝石だが、戦闘の中で酷使されたそれは
専門外である杖の整備に少女が悪戦苦闘していると―――
「入るぞ」
「ひゃぁ!?ぐ、グリファス様!?」
突然声をかけられて体を震わせるレイラ。天幕の外に
「……出直そうか?」
「いっ、いえそんな!大丈夫です!」
どこか慌てているレイラの声に
「い、一体どうしたんですか?」
「ん?いや、様子を見に来たんだが……」
そう言ってレイラを見たグリファスは、その手に握られている杖に視線を向ける。
「……正解だったみたいだな。杖を貸してくれ」
「あっ、そんな、大丈夫ですから!自分でできます!」
「良いから貸せ。お前には本調子でいてもらわないと困る」
「し、しかし……」
「ほら」
「……」
必死に粘ったレイラだったがとうとう折れてグリファスに杖を渡す。
故郷で王家直属の
「……もうこれは駄目だな。
「うっ……」
細められた銀色の瞳に思わず目を逸らし、叱られた子供のように―――いや実際叱られているのだが―――身を縮めるレイラはポツリと呟いた。
「……その、グリファス様はお忙しいですし……お手を煩わせたくなくて……」
「……」
思わず頭を抱えそうになったグリファスは咎めるような視線で少女を見据えた。
「そんな物は気にするな……と言ったのは、何度目だったかな?」
「八回、です」
「数えていたのか……」
呆れたような顔になるグリファスは息を吐いた。
「―――明日、私とお前を含めた精鋭で『穴』に入る」
「!」
緊張したような面持ちになるレイラに言い聞かせるように告げるグリファスは目を細めた。
「我々は今まで地上―――慣れ親しんだ場所で戦い続けていたが、『穴』の中はそれこそ未知の世界だ。危険な事態になる可能性も一気に高くなるだろう」
「……」
顔を強張らせるレイラに向かって、それでもグリファスは笑った。
「―――だが、そんな状況になった場合、私達を助けてくれるのは―――レイラなんだろうと思う」
「わ、私ですか?」
「当然だ。お前の持つ精霊にも負けない強力な魔法なら、どんなモンスターにだって通用する」
だから―――、と。
少女の頭に手を乗せて、
「私はいくらでもお前を助ける。だからその時に備えて万全の態勢を整えて―――危険な事になったら、私達を助けて欲しい」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~っ」
顔を赤く染めた少女は、眼を潤ませ―――それでも、応えようと、最高の笑顔を見せた。
「――――――――――はいっ!」