怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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決意

 

「ここが『穴』、か……」

 

「見てみろ、外周部分にある坂が螺旋階段(らせんかいだん)みたいになってやがる。空を飛べねぇ怪物(モンスター)共はあそこを通って地上に出てきたんだな」

 

 その日の夜。

 

 壁面が何故か()()()()()()()()『穴』の(ふち)に座り込んで中を見下ろすガランは畏怖の声を発する。傍に立つシルバも吐き捨てるように告げた。

 

 彼等の後方には新たに築き上げられた陣営がある。時折襲撃をしてくるモンスターの撃破を続けながら進軍を続けた『連合(ユニオン)』は無事に『穴』の付近に辿り着いていた。

 

「ようやく、ここまで来たか……」

 

「これからだろ」

 

 (すさ)んだ眼で『穴』を見下ろす狼人(ウェアウルフ)は長剣を構えた。

 

『~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?』

 

 高速の飛行で『穴』から飛び出した大蜻蛉(ガン・リベルラ)を一撃で斬り伏せ、地に堕ちて悶え苦しむモンスターの胸部を踏み潰す。

 核である『魔石』を破壊されて灰になるモンスターに目もくれず、シルバは身を翻した。

 

「―――もう誰もやらせねぇ。モンスター共は根絶やしにしてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――【迫る悪意、(よこし)まなる進軍。迎え撃つのは集結する戦士達】」

 

 同じ頃、築かれた陣営の中で土精霊(ノーム)の詠唱が行われる。

 

「【構えよ強弓(ごうきゅう)、防ぎ守り抜け(はがね)の盾】」

 

 クレス・バーナード・ダイダロス。

 

 彼は天界に住む神の意志を受けて戦士達に力を貸す精霊の一人だ。『連合(ユニオン)』が結成される前、まだ一人で世界を回っていたジャックに初めて力を貸した者でもある。

 

 紡がれる精霊魔法、その効果は武装生成。

 

「【その手に宿り(やみ)を払うは折れる事の無い銀の(つるぎ)】」

 

 無限に生まれる武器を取る事で戦士達は強大なモンスター達に立ち向かって来た。

 

「【邪悪なる敵を殲滅(せんめつ)せよ】――――【リベリオン】」

 

 剣、大盾、弓、槍、戦斧、大剣―――彼の周囲に無数の武器が生まれ、地面に突き立てられる。

 

 その時だった。

 

「―――悪いな、無理させちまって」

 

「……どうした、やけに神妙だな」

 

「おいおい、なんだよその言い方」

 

 歩み寄ってくるジャックの言葉に胡乱気な顔をするクレス。彼の言葉に心外だと笑うジャックは―――次には、表情を真剣な物に変えた。

 

「―――お前のおかげでここまで来れた。本当に感謝している、ありがとう」

 

「……なんか、変な物でも食ったか?」

 

「ひでぇな!?せっかく本気で礼を言ってたのに!!」

 

「ふん。その感謝の言葉とやらを他の面子に言ってみろ。似たような反応が返ってくるハズだ」

 

「うわーぶっ殺して―」

 

「はっ、ほざけ」

 

 軽口を叩き合う二人の顔には笑みがあった。

 

 やがて一本の剣を引き抜くクレスは表情を消して告げる。

 

「……だが……本当に、ここまで来たんだな」

 

「あぁ……ようやっとだ」

 

「……『穴』から出て来る狩り残しは俺達が(とりで)で抑えつける。塔や壁――『蓋』が完成するまでは気兼ね無く戦え」

 

「分かったよ。頼りにしてるぜ?」

 

「ああ」

 

 笑い合う二人は、拳を打ちつけ合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 一人天幕の中で過ごすレイラは、手の中にある杖を整備していた。

 

「(魔宝石が、摩耗している……)」

 

 故郷の森に君臨する聖木(せいぼく)、その枝から作られた杖の先には魔力を増幅させる深緑(エメラルド)の魔宝石が取り付けられていた。

 

 魔力に反応して美しい輝きを放つ魔宝石だが、戦闘の中で酷使されたそれは罅割(ひびわ)れ、輝きも鈍っていた。

 

 専門外である杖の整備に少女が悪戦苦闘していると―――

 

「入るぞ」

 

「ひゃぁ!?ぐ、グリファス様!?」

 

 突然声をかけられて体を震わせるレイラ。天幕の外に(たたず)むグリファスはその奇声に眉を潜めた。

 

「……出直そうか?」

 

「いっ、いえそんな!大丈夫です!」

 

 どこか慌てているレイラの声に怪訝(けげん)な顔をしながらも中に入る。

 

「い、一体どうしたんですか?」

 

「ん?いや、様子を見に来たんだが……」

 

 そう言ってレイラを見たグリファスは、その手に握られている杖に視線を向ける。

 

「……正解だったみたいだな。杖を貸してくれ」

 

「あっ、そんな、大丈夫ですから!自分でできます!」

 

「良いから貸せ。お前には本調子でいてもらわないと困る」

 

「し、しかし……」

 

「ほら」

 

「……」

 

 必死に粘ったレイラだったがとうとう折れてグリファスに杖を渡す。

 

 故郷で王家直属の魔術師(メイジ)に教えを受けたグリファスは流れるような動きで整備していった。

 

「……もうこれは駄目だな。雷精霊(トルトニス)から贈られた新しい魔宝石に取り換えておくか……どうして言わなかったんだ。整備ならいくらでも付き合うと前にも言っただろう」

 

「うっ……」

 

 細められた銀色の瞳に思わず目を逸らし、叱られた子供のように―――いや実際叱られているのだが―――身を縮めるレイラはポツリと呟いた。

 

「……その、グリファス様はお忙しいですし……お手を煩わせたくなくて……」

 

「……」

 

 思わず頭を抱えそうになったグリファスは咎めるような視線で少女を見据えた。

 

「そんな物は気にするな……と言ったのは、何度目だったかな?」

 

「八回、です」

 

「数えていたのか……」

 

 呆れたような顔になるグリファスは息を吐いた。

 

「―――明日、私とお前を含めた精鋭で『穴』に入る」

 

「!」

 

 緊張したような面持ちになるレイラに言い聞かせるように告げるグリファスは目を細めた。

 

「我々は今まで地上―――慣れ親しんだ場所で戦い続けていたが、『穴』の中はそれこそ未知の世界だ。危険な事態になる可能性も一気に高くなるだろう」

 

「……」

 

 顔を強張らせるレイラに向かって、それでもグリファスは笑った。

 

「―――だが、そんな状況になった場合、私達を助けてくれるのは―――レイラなんだろうと思う」

 

「わ、私ですか?」

 

「当然だ。お前の持つ精霊にも負けない強力な魔法なら、どんなモンスターにだって通用する」

 

 だから―――、と。

 

 少女の頭に手を乗せて、王族(ハイエルフ)は微笑んだ。

 

「私はいくらでもお前を助ける。だからその時に備えて万全の態勢を整えて―――危険な事になったら、私達を助けて欲しい」

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~~っ」

 

 顔を赤く染めた少女は、眼を潤ませ―――それでも、応えようと、最高の笑顔を見せた。

 

「――――――――――はいっ!」

 

 

 


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