怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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気付いたら評価数もお気に入り数も跳ね上がっていてビックリしました。本当にありがとうございます!



豊穣の女主人

 

 

「……はぁ」

 

「どうしたんだい、辛気臭い(つら)して」

 

「いや、今日は本当に大変でな。ウチの派閥の若い面子の面倒を見る羽目になった。挙句アロナやフロス達にも模擬戦を挑まれてな……あぁ疲れた」

 

「ほー、年長者は大変だねぇ」

 

「全くだ。私もとっくに老人だと言う事をアイツ等は理解できていない」

 

 ギシィ、と左腕が軋んだ音を立てた。

 

「うん?……ボロボロじゃないか、その銀の義手(アガートラム)

 

「これはあくまで滞り無く生活をする為の道具であって戦闘に適した物では無いからな。第一級冒険者なんかと戦えば磨耗も早くなるし拳を全力で振り抜けば義手の方が砕ける」

 

「はー、何事も万能とは行かないもんだ」

 

「【ディアンケヒト・ファミリア】の方にも改良品を注文しているが、まぁこれ自体が『調合』と『鍛冶』を発現させた者にしか作製できない作品だからな。時間も金もかかる」

 

「第一級冒険者だろう。そん位どうにでもなるんじゃないか?」

 

「あぁ。今まで溜めてきたヴァリス金貨の一部を持っていかれる代わりにな。……この赤ワイン、美味いな。一体どこのだ?」

 

「最近大きくなって来た【デメテル・ファミリア】の葡萄(ぶどう)を使ってるんだ。安くて美味いから重宝してるよ」

 

「成程。……材料の割りにやけに高いのは気の所為か?」

 

「何言ってるんだい。相応の代金だろう?」

 

「まぁ、この味であれば文句は無いが……」

 

「ところで、聞きたい事があるんだけどね……」

 

「?」

 

 首を傾げる王族(ハイエルフ)の老人に、彼女が尋ねる。

 

 

「―――何でアンタがここにいるんだい、【妖精王(オベイロン)】」

 

 

 ドワーフの女将(おかみ)、ミア・グランドの向けて来る胡乱気な視線にグリファスは思わず苦笑する。

 

「いや、大した用は無いさ。あの【女巨人(ガイア)】が酒場を開いたと聞いてな。様子を見に来ただけだ」

 

 どうだか、と鼻を鳴らすドワーフだが、彼女も無理にグリファスを追い出そうとはしなかった。

 

 ただ冷やかしに来た様であれば己の得物(スコップ)で頭部をかち割ってやる所だったが、ちゃんと飯を食って行く様ならば彼女に文句は無い。

 

 主神(フレイヤ)に何か言われている訳でも無く。食事をしている間くらいは客として扱ってやろうと判断した。

 

「……それにしても」

 

「アン?」

 

「話を聞いた時は耳を疑ったが……いざ見てみると中々様になっているじゃないか」

 

「そりゃあどうも」

 

「店の用意はフレイヤが?」

 

「いいや、私の貯蓄からだよ。良い立地だろう?」

 

「確かに」

 

 ここ、『豊穣の女主人』はオラリオ、西のメインストリート沿いに建つ建物の中でも一際大きい造りの酒場だ。グリファスの目の前にいる店主の持つ人柄と、後は働く店員が全て女性と言うのに惹かれた者達によって大分繁盛していた。

 

『ほいっ』

 

『うげっ!?』

 

『ハッハーン!賭けは俺の勝ちィー!』

 

『チクショォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?母ちゃん、酒お替わりぃー!』

 

「……こう言う雰囲気も、悪くない物だ」

 

「だろう?話が分かるじゃないか」

 

 自棄酒に走る神々、飲み比べをする冒険者。若干酒臭い様な気もするが、立場も種族も違う皆が醸し出すこの騒々しい雰囲気は、グリファスにとっても心地良い物だった。

 

「……あぁ。昔を思い出すよ」

 

「へぇ。『古代』の話かい?素直に興味があるね」

 

「ほう。長い話になるぞ?」

 

「私だってそういう話も好きなんだ。幾らでも昔話に付き合ってやるよ」

 

「ふむ、どうしたものか……」

 

「黒竜の話が聞いてみたいねぇ」

 

「じゃあそれにするか」

 

 束の間の一時(ひととき)が過ぎて行く。

 

 酒を飲み、『古代』の話を続けるグリファスの顔には、楽しそうな笑みがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冒険者辞めて私も店を開くか……?」

 

「それは流石に止めた方が良いんじゃないのかい?」

 

 それは駄目ェー、と、どこかで女神の涙声が聞こえた気がした。

 

 実際、彼が冒険者を辞めたら【ヘラ・ファミリア】は破滅する未来しか見えない。

 

 

 




今回は日常回でした。フレイヤ出そうか迷いましたがひとまずはこんなもんです。

ミア母さんの二つ名もオリジナルです。こちらも原作の進行によって変更します。

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