怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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日常風景

 

 

「……はぁ」

 

 ホームにある広い中庭、その中で銀杖を持つグリファスはどこまでも重く息を吐いた。

 

「だぁー、負けたぁ……」

 

「やっぱ強ぇ……」

 

 呻き声が聞こえた。

 

 彼の周りには【ヘラ・ファミリア】の第一級冒険者達が死屍累々と転がっている。

 

 彼は目の前で凶笑を浮かべる狼人(ウェアウルフ)の少女に、うんざりとした視線を向けた。

 

 肩まで伸びた黒い髪。同じ色の耳が彼女の動きに合わせて揺れ、尻尾も楽し気に振られていた。

 

「……次はお前か、アロナ」

 

「ははっ!行くよ!」

 

「―――来い」

 

 双剣を構えて躍りかかる少女に嘆息し、グリファスは銀杖を振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうなった理由は単純だった。

 

 団員達に指導をするグリファスを見た第一級冒険者(戦闘狂)達がらんらんと目を輝かせ、次々と模擬戦を挑んで来たのだ。

 

 格下の団員達が止められる訳も無く、グリファスが半強制的に彼等の相手をする羽目になったのだ。

 

「―――らぁぁっ!」

 

「おっと」

 

 高速の挙動でもって繰り出される無数の斬撃。

 

 Lv.5上位の敏捷(スピード)を活かして攻めたてて来るアロナの猛攻にグリファスも汗を流す。

 

 彼女に限った事では無いが、挑んで来る第一級冒険者達は割りと『本気(マジ)』だった。正直に言うと階層主と戦う以上の気迫を感じる。

 

 ガンギンゴンガンゴンドッッ!!と金属音が連続する。

 

「おい、殺す気で来られている気がするのは気のせいか?」

 

「アンタと()るならその位がちょうど良いんだよッ!!」

 

「おいやめろ戦闘狂、私の耐久はそれ程高くないんだ」

 

「フロスやラインを無傷でのしといて良く言う!」

 

 そうは言っても彼女も【大狼(オルトロス)】の名を冠する第一級冒険者だ。その攻撃が直撃すればグリファスでも普通に痛い。

 

 連続する斬閃を弾いては受け流し、生まれた隙を逃さずに銀杖を振り下ろした。

 

「げっ!?」

 

 顔色を激変させて双剣で防御するアロナが薙ぎ払われ、何M(ミドル)も吹き飛んで行く。

 

「っ~~、私に合わせろよ……」

 

「流石にそこまで手加減したら私が斬られる。勘弁してくれ」

 

「ははっ」

 

 よろよろと起き上がったアロナは―――詠唱を始める。

 

「―――【唸れ、暗雲の野獣】」

 

「―――」

 

 それを見逃すはずは無かった。

 

 詠唱を始める少女に一瞬で肉薄したグリファスは銀杖を叩き込む。

 

「!」

 

 キィン、と金属音が響く。

 

 音に等しい速さで振るわれた銀杖を、双剣の片割れが弾いた音だった。

 

「【轟け咆哮。(いかづち)の如く駆け抜け、世界に放たれよ】」

 

 並行詠唱。

 

 詠唱、移動、攻撃、防御―――格上(グリファス)の猛攻を前にその全てを実現して見せるアロナに、グリファスが目を細める。

 

 それは、孫の成長を喜ぶ老人の様な表情だった。

 

「【何よりも速く()れ、何よりも鋭く()れ。神の怒りよ、我れに宿り顕現(けんげん)せよ】」

 

「【あらゆる物を喰い尽くせ、(いかづち)の牙】!」

 

 互いの武器を高速で打ち合わせる中、とうとうアロナが詠唱を完成させる。

 

 それは行使者の移動速度を強化し、武器の威力を激上させる雷電の付与魔法(エンチャント)

 

 雷速の連撃でもって獲物を血祭りに上げる、狼人(ウェアウルフ)の少女が発現させた魔法。

 

 そして、魔法名を告げる。

 

「【サンダーファング】!」

 

 双剣に紫電(しでん)(まと)う、その直後だった。

 

 ゴンッ!!と言う轟音と共にアロナの意識が揺さぶられる。

 

「な、ぁ―――」

 

 見えなかった。

 

 側頭部に凄まじい衝撃を叩き込まれたアロナが最後に見たのは、銀杖を振り抜いたグリファス。

 

 己の『敏捷』と『力』を総動員して少女に一撃を叩き込んだ老人は、深い重い息を吐いた。

 

「―――流石に、地上(ここ)魔法(それ)を使うのは禁止だ。ホームが崩壊する」

 

 彼の先に広がっていたのは、第一級冒険者達との模擬線でボロボロになった庭園。

 

 極力被害を出さずに済ませるつもりだったが、しっかりと余波が辺りを蹂躙していた。

 

「……片付けるとするか」

 

 周囲で観戦していた団員達を呼び出し、彼はアロナの介抱を行う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――早くっ、行こう!」

 

「ちょっと、待ってっ!」

 

「おいおい、走ると危ないぞ」

 

 目の前で駆け出していく娘と妻の姿に青年が不器用に笑う。

 

 彼の名はライズ・ヴァレンシュタイン。

 

 オラリオ最強派閥、【ゼウス・ファミリア】の団長を務めている冒険者だ。

 

 Lv.7の一人として世界に名を轟かせる第一級冒険者でもある彼は、家族と過ごすかけがえの無い時間に頬を緩ませる。

 

 彼の前で楽し気に笑い合う二人は、容姿は勿論中身も本当にそっくりだった。

 

 精霊である彼女(アリア)が本当に子供を孕んだ時は、居合わせた主神共々本気で仰天した物だ。

 

 今、彼等はアリアの所属する【ヘラ・ファミリア】のホームに向かっている。

 

 あそこの美しい庭園で一時(ひととき)を過ごすのが、娘であるアイズの楽しみだった。

 

「……あれ?」

 

「ん?どうし―――え?」

 

「……?」

 

 『理想郷(アルカディア)』正門前で硬直する二人に首を傾げる青年は傍まで追いつき―――顔を強張らせる。

 

 彼等の憩いの場となっていた庭園。それは凄まじい様相となっていた。

 

 芝生は抉れてはめくり上がり、草花は半ばから折れ、花畑も散乱している。

 

 その惨状を見たアリアは、ポツリと呻いた。

 

「………………………………………………………………………………………………………………………あぁ、またか」

 

 模擬戦、襲撃、喧嘩―――人間離れした【ステイタス】を持つ彼等が暴れてホームを破壊してしまうのは、まぁ良くある事ではあった。

 

 その後、【ゼウス・ファミリア】の頂点(トップ)が懇意派閥の修繕作業に奔走させられると言う衝撃的な光景があったと言う。

 

 

 

 




アイズの父親の名前はライズと言う事で。原作の進行によって名前が出る様であれば即変更いたします。
……これ当たってたら、凄いよなぁ。


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