怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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30話が予想以上に人気で何よりです。評価ありがとうございました!




妖精王の朝

 

 

「……」

 

 老人(グリファス)の朝は早い。

 

 日もまだ昇らない内から起き上がり、彼は寝室を出る。

 

 見る者が見ればその美しさに息を呑む白亜の宮殿、その廊下を歩いて彼が向かうのは【ヘラ・ファミリア】の図書館だ。

 

 扉を開き、その空間に足を踏み入れる。

 

 無数の書物が納められた図書館には、それこそ色んな物がある。

 

 ヘラを含めた【ファミリア】の人間達が気に入って買った小説、グリファスの執筆し、使用された魔導書(グリモア)、博識なエルフによって集められた書物等。

 

 その中にある一冊の書物を手に取ったグリファスは、パラパラとページを(めく)って中身を確認した。

 

「ふむ……これが良さそうだな」

 

 魔導書でこそ無いが、魔法についてしっかりと書かれた書物。

 

 彼の立場は【ヘラ・ファミリア】の団長であると同時、オラリオ最古最強の冒険者だ。

 

 であれば―――若い冒険者、その卵に指導を行うのも当然だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――【どこまでも広がる(あお)き世界よ、無限の蒼穹(そうきゅう)よ】」

 

「そうだ、ただ詠唱を口ずさむだけで良い。自分の中にある魔力を意識しろ」

 

「【晴れ渡る青空、迫る暗雲、清濁併せ持つ世界】」

 

 グリファスの指導を受ける幼い狐人(ルナール)の少女が唱えるのは彼女の発現させた魔法では無い。

 

 ただ、実際に存在し、確かな力を持つ魔法を唱える事で魔法種族(マジックユーザー)の才能を目覚めさせる切っ掛けを作っているだけだ。

 

「【大いなる力よ、我に応えたまえ】―――きゃっ!?」

 

 詠唱を完成させた直後、彼女に衝撃が叩き込まれる。

 

 規模こそ小さいが、発現させてもいない魔法を唱えた事による魔力の暴発(ファンブル)

 

 そしてそれは、彼女の中に眠る確かな魔力を示していた。

 

「っ……グリファス、これって―――」

 

「あぁ……ひとまずは成功だな」

 

「!」

 

 倒れ込んだままパァッ、と顔を輝かせる少女に顔を綻ばせる。

 

「数週間良く頑張ったな、冬華(ふゆか)。ずっと練習をしていたのか?」

 

「うんっ、グリファス達が迷宮に潜っているから、私も頑張らないとっ、て……」

 

「そうか、偉いぞ」

 

 頭を撫でながら褒めると、頬を染めて少女も笑った。

 

「―――ヘラに【ステイタス】を見てもらいに行ってきまーす!」

 

「おい、まだ早朝だぞ。アレも眠っているんじゃぁないか?」

 

「もう日は昇ってるから大丈夫!」

 

 暴発(ファンブル)を起こして消耗しているにも関わらず元気に駆け出していく少女に声をかけたが止まる様子は無かった。

 

 きっと彼女に叩き起こされたヘラは、文句を言いながらも可愛い眷属の為に【ステイタス】を更新するのだろう。その光景を思い描いたグリファスは可笑しくなって笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【ヘラ・ファミリア】の構成員が朝食を摂るのは、二階の大広間だ。

 

 上座に座って細々と食べるグリファスは、隣にいる主神に視線を向けた。

 

「うぅ……」

 

「……随分と眠そうだな?」

 

「グリファスゥ……面倒見てたんなら、止めておいてよぉ……」

 

 ヘラの向けて来る恨みがまし気な視線からサッと目を逸らす。

 

「……済まない。どうもあの輝いた眼を見てると、止められなくてな……」

 

「止めてよ爺馬鹿(じじバカ)!私の安眠が懸かっているんだからね!?あんな朝っぱらから特訓した子供が叩き起こして来るとかありえないから!」

 

「お、おいヘラ!」

 

 途端にグリファスが焦り出す。

 

「?」

 

 珍しく、本当に珍しく焦燥を露わにする王族(ハイエルフ)の老人に首を傾げるヘラだったが―――自分達に、いやグリファスに集中する視線に気付く。

 

『―――早朝から、特訓?』

 

『団長と、誰が?』

 

『あ、私!』

 

『ふ、冬華!?おまっ、団長に……!?』

 

『長時間、一対一で御指導頂いていたのか!?』

 

『うん!魔法も使える様になったんだよ!』

 

『ぐぅ、羨ましい……!!』

 

「……あぁ、そう言う事」

 

「……」

 

 無言の肯定があった。

 

 【ヘラ・ファミリア】内では『優しいお爺ちゃん』『強い』『凄い』『憧れる』等々、グリファスの人気は凄まじい物がある。もし誰かが指導を受けていたとなれば自分も私も、と団員達が殺到してくる事だろう。

 

 幼い少女に口止めするのを忘れてたグリファスが嘆息するのを見て、食事後のグリファスの姿を思い浮かべたヘラはクスクスと笑う。

 

「ふふふっ、今日はギルドの用事も無かったでしょう?久々に相手して上げなさい」

 

「……あぁ」

 

 その、少し後。

 

『グリファス様、御指導お願いします!』

 

『俺も!』

 

『わ、私も!』

 

「……」

 

 何人ものの若者達に囲まれ、グリファスが遠い目になる。

 

 迷宮帰りの翌日だと言うのに、今日はとても休めなさそうだ。

 

 

 




幾ら【ステイタス】を昇華させようがグリファスはお爺ちゃんです。戦闘後は腰痛、肩こりが酷くなります。流石に戦闘中『ゴキィッ』となったりする事はありませんが消耗が早いです。

この後、団員達の面倒を見る破目になった【妖精王(オベイロン)】は筋肉痛を起こしましたとさ。



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