「……」
その日の朝から、クレスは何故か落ち着かなかった。
胸に何かが詰まっているかの様な不快感。それがずっと彼を
何かを忘れている様な、ナニカを予感するかの様な。
それは居住区の改築計画の図面を引いている間も彼にのしかかり、彼を悩ませていた。
その時、彼の住む工房、その扉が外からノックされる。
「……」
浮かない顔のまま扉を開くと、その場にいたのは見知った顔だった。
「お前等か……精霊が勢揃いだな」
その場にいたのは、『
その全員が、どこか不安気な、張り詰めた表情をしている。
「何の話かは、大体分かるが……まぁ良い、入れ」
彼等を招き入れたクレスは、薄く薄く息を吐く。
扉を閉じた。
「……ねぇ」
真っ先に口を開いたのはアリアだった。
普段は天真爛漫な彼女は、どこか焦燥に駆られている様な表情で尋ねる。
「クレスも、感じる?何だか、凄く嫌な予感がするんだけど……」
嫌な予感。
他人の言葉を聞いて初めて己の抱いていた感情の正体に気付いたクレスは息を吐く。
「(……成程な)」
精霊の勘は良く当たる。これはもう人類の共通認識に近い。
その勘が、神々の授けた感知能力が、人類を今日まで導き続けて来たのだ。
そして、今回は精霊達の誰もが見えないナニカを警戒している。
どうも、今までで最大の危機が人類に迫っているらしい。
「……お前等は、どう思う」
「単純に考えれば、モンスターじゃない?」
クレスの問いかけに応じたのは
アリアとも仲の良い彼女の言葉に、その場の全員が同意を示す。
「まぁ、多分そうだよな……」
「ここまでヤバイのは初めてだけど、ね……」
単純に考えて、この場にいる上級の精霊達全員が危惧をする程の存在が接近しているという事実に重苦しい空気が生まれる。
「……とりあえず、俺はジャックに警告しておく。そうだな……グリファス、いや主力陣全員にも話は伝えておけ」
「……うん」
「了解した」
クレスの提案に納得した面々はそれぞれ工房を離れ、各地に散っていく。
「……」
生涯で最大の厄介事が近付いている事を悟ったクレスは、重々しい顔でジャックの元に向かった。
「……そんなに、ヤバイのか?」
「7人の精霊の全員が警戒している。それだけ言えばお前でも分かるだろう?」
「……マジかよ」
クレスの言葉を聞いたジャックは、疲れきった様に息を吐いた。
頭を抱え、呟く。
「……それがモンスターだったら、まぁ、野放しはできないよなぁ……」
「……死人が出るぞ」
声を低くして警告する。
こんな感触は初めてだった。少なくとも精霊達が本気で警戒する存在だ。それこそ
だが。
それでも。
「……やるっきゃねぇだろ。野放しにしてられるか」
危険性を理解しながらも、ジャックは宣言する。してみせる。
自分達には、自分には仲間の命が、世界の命運がかかっている。
だから決して、引くわけにはいかない、と。
「グリファス達を呼ぶ。早く対策を立てねぇと」
そう告げるジャックに、クレスは目を見開き―――一笑を浮かべた。
「……そうだな」
きっと、精霊達から警告を受けた他の者達も同じ決断をするだろう。
仲間を、同族を、世界を救う為に。
「……」
こいつ等と戦えるなら、死んでも悪くない。
笑みを浮かべながら、クレスはそう心中で呟いた。
「……それで、どうする」
ジャックの呼び出しに応じた面々が集まる中、シルバが尋ねた。
「正直、ここにいる面子以外じゃぁ少し厳しいんじゃないか?」
ガランの言葉に、他の面々が同意をする。
予想の域を出ないが、近い内に現れるモンスターは高い凶悪性が認められる。
「……一旦壁や塔の建築を切り上げ、各地の砦に避難させるか?」
「それだ」
グリファスの提案にジャックが乗った。
具体的な計画が組み立てられる。
「それじゃあここにいる面子で『穴』の側に待機。出てくるモンスターを確実に仕留めるぞ」
「物資の運搬に、構成員への通達もしなければな……」
「
「レイラがいる。大丈夫だ」
「あぁ……」
先の見えない、何が来るか予想のできない戦い。
それに備え、準備を行う彼等に、グリファスが告げた。
「―――勝つぞ」
『おぉ!!』
次回、アレが出てきます。
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