感謝してもしきれません!
モンスターの襲撃を受けた陣営の中では、大勢の
種族の違う亜人がここまで集結しているのはこの時代特に珍しい。潔癖なエルフに言動共に豪快なドワーフ、一匹狼を気取る
多種多様の亜人で形成された集団、『
たった一人で世界を回ったヒューマンが、一〇〇〇人規模にまで大きくした対モンスター最大派閥だ。
『物資の被害は?』
『弓兵部隊が空を飛ぶ
『前回は悲惨だったからなぁ…』
『やめろ、思い出したくも無い』
『「飛竜」が出て来て死者が出なかったのは奇跡に近いな』
『全くだ。あんな怪物命がいくつあったって足りやしない』
『「偵察」に行っていたジャックさん達が間に合ってくれて良かったよ』
「……」
用意された天幕の中央。
そこで正座をする
外で行われる会話に集中を乱す事も無く、穏やかだが莫大な魔力を練り、制御する。
『―――良いですか、グリファス様。貴方の戦い方は不安定過ぎる』
かつて、豊かな森の中で師に掛けられた言葉が脳裏に浮かぶ。
『貴方には才能がある。その凄まじい魔力はそれこそ上級の精霊にも劣らない物となるでしょう。貴方の考えた戦い方ともきっと相性が良い』
『――ただ、制御を
『制御を離れた魔力は、暴発する。目の前で同胞が身を焼き焦がして倒れる姿を、私は何度も見てきました。それこそ一瞬の動揺が命取りとなります』
『瞑想し、「大木の心」を身に付けなさい。何が起ころうと受け止め、流し、魔力の
「……」
瞑目するグリファスが瞑想を続けていると。
レイラ・ヴァリウス・アールヴ。
グリファスの出身である本家に忠誠を誓う分家の少女だ。
「失礼します……お邪魔でしたか?」
「いいや、構わないさ。どうしたんだ?」
「あ、はい。ジャックさんが呼んでいました。今後の確認をするそうです」
「分かった」
グリファスは天幕を出て野営地を見回す。
一際大きい天幕に向かいながら、付き従う少女と言葉を交し合った。
「今回のモンスターの襲撃、かなり厄介だったみたいですね。数も多かったですし……」
「そうだな。まあアレを抑えられたのは確実にクレスの指揮のおかげだろう」
「順調ですね。一時はどうなるかと思いましたが…」
「むしろここからが正念場だ、気を引き締めろ」
「はいっ」
天幕の中に入ると、既に主力の全員が集まっている様だった。
「来たぞ、ジャック」
「おう。じゃあ始めようか」
天幕の中央に用意された円卓、その一席に座る黒髪のヒューマンが笑みを浮かべた。
ジャック・アレキサンダー。
他ならない『
「さてと、そんじゃあまずは新たな仲間を紹介するとしようか」
精霊、ドワーフ、獣人、アマゾネス――陣営の維持を行っていた面々が、一人の
件の
「何人か知っている顔はあるが――ひとまずは初めまして。フィアナ騎士団第十四代団長、ディルムッド・フィアナだ。先程の戦いは素晴らしい物だった。君達のような勇敢な戦士達と共に戦える事を誇りに思う」
彼の自己紹介を聞いた何人かは仰天したようにジャックを見つめ、数名はディルムッドの持つ騎士の名に恥じない風格と気品、なによりこの場にいる者達にも劣らない存在感に納得した。その場にいる
「フィアナ騎士団のメンバーと出会ったのが……五日前だったかな。『偵察』で『穴』に向かう途中、モンスターの群れと戦っていた所を助太刀したんだ。正直に言うとその必要も無かったと言える位に洗練された戦いだった」
ジャックの説明を聞いて何人かが得心したような顔になる。
フィアナ騎士団。
「『
その言葉にグリファスは思わず苦笑する。自分が彼に誘いを受けた時の事を思い出したからだ。
「……あの情けないヒューマンがいまや一〇〇〇人単位の亜人を
「おい、誰の事だよ」
「お前が一番分かっているだろう」
「エルフなのに失礼な奴だな」
「お前に礼儀をもつ人間などどこにもいないさ」
「「「「「確かに」」」」」
「……ようしケンカなら買ってやる。お前等全員歯ぁ食い縛りやが痛ぇええええええええええええッッ!?」
ガタン!!と立ち上がったジャックが隣に座っていた
というか音が凄かった。仮りにも団長として君臨する人物が転がって悶え苦しむ姿にディルムッドが顔を引きつらせる。
「グリファス、後は頼む」
「了解した。レイラ、地図を」
「はい」
「戸惑ってるみたいだな、うん?」
「……否定はできない。どうなって……?」
「『
「?」
「単純な話さ。融通の聞かないエルフも
「……聞こえてますよ、シルバさん」
静かな圧力を発散するレイラに黙らされるシルバ。
よろよろと起き上がったジャックが痛そうに続けた。
「――地理も把握する記憶能力を持っていて、賢いし腕っ節も強い。俺より少し弱い位だな。まさに指揮者にうってつけで―――」
「何言ってるんですかジャックさん。前にグリファス様に無謀な挑戦をして組み手をやった時は一瞬で叩きのめされてたじゃないですか」
「だいたいジャックは脳筋だからなあ」
「グリファスが指揮を執れば、まあ死人は出ないが……」
「ジャックがやると……勝てる
「ごめん、ジャック……こればっかりは否定できないわ」
「……………………………………………………………………………泣いて良いか?」
「……ははは」
苦笑するディルムッドはグリファスに視線を向ける。
彼は円卓の中央に地図を広げていた。
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