怪物と戦い続けるのは間違っているだろうか   作:風剣

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食料庫

 

「……は?」

 

 唖然とした様な声が、クレスから漏れた。

 

 その心境は、皆同じだ。

 

 より強い光を放つルーム、そこを訪れた彼等の視界に映った光景。

 

 飛竜(イル・ワイヴァーン)大熊(バグベアー)殺人蟻(キラーアント)―――多種多様のモンスターが、心なしかくつろいだかの様に休息を取っていた。

 

「ここ、は……」

 

 目を見開いたグリファスも辺りを見回す。

 

 1階層にあったルームよりは一回りも二回りも大きいルーム。その奥には水晶でできた美しい柱が存在し、そこからは透明な液体が流れていた。モンスター達はそれを摂取しているのだ。

 

 迷宮の奥深くに存在する、モンスター達の食料庫(パントリー)

 

 夢にも見なかった光景に戦士達は束の間目を奪われていたが、そんな時間も長くは無かった。

 

『―――!』

 

 当然、迷い込んだ異物に、モンスター達が気付かないはずも無い。

 

 彼等に気付いた無数のモンスターが目の色を変え、殺気をむき出しにした。

 

「……戦闘準備」

 

「レイラ、詠唱を始めろ」

 

 ジャックとグリファスが指示を出す、その直後。

 

 迷宮に訪れた招かれざる侵入者に、凶暴なモンスターの群れが襲いかかった。

 

 

 

 

『ギェ!?』

 

『グェ!?』

 

「ったく面倒臭ぇなぁ……」

 

 襲いかかって来た二体のインプを一蹴したジャックが息を吐く。

 

 食料庫として機能しているだけあってモンスターは多かった。むしろ増えてる。ここに食料を求めて通路からやって来た怪物(モンスター)が次々と彼等に襲いかかって来ているのだ。

 

 鈍いオークを始末する直後、彼の目の前でガランが薙ぎ払われる。

 

「がっ……!?」

 

「ガラン!?」

 

『オォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

「こいつ……!!」

 

 ガランの死角から尾で一撃を叩き込んだのは金色(こんじき)の肉体を持つ雷激の蛇(サンダー・スネイク)。人間など丸呑みできそうな顎が開かれ、戦慄するジャックに放たれるのは―――雷撃。

 

「ッ!!??」

 

 横っ飛びに回避する彼の後方から、巻き込まれたモンスターの断末魔と共に焦げ臭い臭いが届く。

 

「舐めんな、クソ蛇が!?」

 

『!?』

 

 疾走するジャックの振るった聖剣がモンスターの胴体を深々と切り裂く。

 

『―――』

 

 白熱する口腔を開き、ジャックに雷撃を撃ち込もうとしたサンダー・スネイク。

 

「―――」

 

 不可避の一撃を目の前に、硬直したかの様に見えたジャックは―――不敵に笑った。

 

 直後、跳躍したガランの振り下ろした大剣が大蛇の顎を縫いとめた。

 

『~~~~~~~~~~~~!?』

 

 直後、顎を縫いとめられたサンダー・スネイクの口内で雷が暴発した。

 

 頭部を消し飛ばしたモンスターから飛び降り、粗暴な笑みを見せたガランはジャックと手を打ち付けあう。

 

 その直後、王族(ハイエルフ)の少女が起こした絶対零度の吹雪に巻き込まれそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 殲滅魔法【二ヴルヘイム】でモンスターを一掃したレイラは息を吐く。

 

 モンスターの食料庫(パントリー)はレイラの魔法によって純白の世界と化していた。

 

 銀杖を振るうグリファスが凍り付いたモンスターを破壊し、戦闘が終わる。

 

 十分な力を発揮した己の魔法に、レイラが満足気な表情を浮かべた直後―――ジャックとガランに拳骨を落とされた。

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!??」

 

 爆発する痛み、揺れに揺れる視界。

 

 頭部を抱えて涙目になる少女がきっ、と睨みつける。

 

「なっ、なにするんですかっ!」

 

「こっちの台詞(セリフ)だぁ!?」

 

「死ぬかと思ったわ!何思いっ切り巻き込んでんだ!」

 

「あっ、あの位躱せばよかったでしょう!」

 

「何それ理不尽!?」

 

「ふざけるなよお前……!?」

 

 言い合う三人を中心に弛緩した空気が流れる。

 

「おい、早くここを出るぞ。モンスターがまた来るはずだ」

 

 白夜の言葉に同意した面々が移動を始める、そんな中。

 

「……」

 

 モンスターに透明な液体を与えていた水晶樹、それをグリファスが見上げていた。

 

 ガッ!と拳を叩き込み、水晶を割る。

 

 その一部を採取した。

 

「グリファス、何やってんだ!行くぞ!」

 

「―――あぁ!」

 

 彼は背を翻し、ルームを出る。

 

 その後、あらかた迷宮内を見て回り、彼等は地上に帰還した。

 

 




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