ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜 作:キングフロスト
ミシェイル達が暗殺者を退けた頃、スサノオとフローラは未だに白夜兵との交戦を続けていた。倒しても倒しても、次から次へと白夜兵は溢れるかのごとく現れる。これでは、いくら倒したところでキリがない。
「ハアァッ!!」
夜刀神を振るうスサノオの腕も、疲労で随分と鈍ってきていた。
現在、スサノオは既に竜化を解いていた。思った以上に時間が掛かっているため、竜化の使用のし過ぎでへばる事を避けるためだ。今ここでへばってしまえば、スサノオもフローラも命は無いだろう。スサノオ1人ならば、まだ諦めがつくが、フローラが居るとなれば話は別。彼女をこんな所で死なせるなんて、スサノオ自身が許せないから。
だから、スサノオは人の姿に戻ってなお、フローラの前に出て闘い続けていた。
「死ねっ!!」
「ぐっ!? せい!!」
1人で大軍を捌ききるのにも限度というものがある。何度もその身に傷を負いながらも、スサノオは敵を退ける。傷を負う度に体力も削られて、スタミナは奪われる一方。それでも、スサノオはフローラを守るために、剣を手に立ち続ける。もうすぐミシェイルやアカツキ達が助けに駆け付けてくれると信じて。
「スサノオ様、すぐに治療を!」
スサノオが傷を負う度に、フローラが暗器での攻撃の合間に、都度杖を用いて回復を計るが、失った体力までが戻る訳ではない。傷は消えども、スタミナがどんどん減っていく。そしてそれはフローラとて同じ事。スサノオの体に気を遣いつつ、自身も敵を暗器で倒しているのだ。それがどれだけ神経をすり減らしているのかは、想像に難くない。
しかし、フローラのサポートは確実にスサノオの助けになっている。その成果こそが、スサノオとフローラが未だ善戦を続けていられる証拠でもあるのだ。自分のサポートで、スサノオを助けられている。それに勝る喜びを、今のフローラには感じられないだろう。
彼を助ける力になれている、それはフローラにとって特別な事だから。だって、フローラは───。
そしてしばらくの同じ事の繰り返しに、変化が生じた。スサノオの目の前に、1人の男が現れたのだ。その男の纏う空気が、他の白夜兵のそれとはまるで違う。だからこそ、彼がただ者ではないと、スサノオは一目見て分かった。
「我こそは、白夜王国の将が1人!! 名をハイタカ!! 貴様がスサノオだな!!」
薙刀の柄尻をガン! と地面に叩き付け、男、ハイタカは名乗りを上げた。そしてスサノオも、彼の言葉に応じる。
「そうだ! 俺がスサノオだ!」
その言葉を確認するようにしっかりと聞き届けると、ハイタカは高笑いをして、すぐさまスサノオへと鋭い睨みをぶつける。
「そうか、裏切り者のスサノオで間違いはないか。貴様は白夜の王子でありながら、我ら白夜王国を裏切り、敵である暗夜王国へと靡いた! そしてミコト様はそれを大層嘆いておられる! 故に、私が貴様を処刑する!!」
「母上が…? しかし、もう母上は……」
死んだはずのミコトが嘆いている? 確かにミコトがそれを知れば、そうなるだろうが、しかしスサノオにはハイタカの言葉に引っかかるものがあった。
「そうだ、ミコト様は貴様ら暗夜王国の卑劣なる罠によって亡くなられた。しかし! このハイタカにミコト様の天啓が届いた! 暗夜を滅ぼせ、裏切り者のスサノオを殺せと!! だから私は、そのお言葉に従うのみ!!」
「何を世迷い言を……。母上は亡くなった! 天啓などと言うが、それはお前の妄言だろう!! それこそ、母上の思想を汚しているのはお前だ!!」
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ!!! 私は聞いた! 確かにミコト様のお声を耳にしたのだ!! 貴様の戯れ言など、ミコト様のお言葉と比べれば雑音でしかない!!」
もはや、聞く耳持たずといったように、ハイタカは唾を飛ばす勢いで怒鳴り散らす。もう、まともに会話も出来そうにないと判断したスサノオは、夜刀神を構え直す。そのスサノオの行動に、ハイタカは更に語気を荒げて、夜刀神を指差し叫んだ。
「知っているぞ。貴様、そしてアマテラス様は神刀に選ばれたと! 何故だ!? 白夜王国に戻り、ミコト様の意志を引き継ごうとなされているアマテラス様なら分かる。なのに何故、裏切り者である貴様もその神刀を手にしている!? それは世界を救う者が持つとされる神器……なればこそ!! アマテラス様へとその割れた神刀をお返しせねばなるまい!!」
血気盛んと言えば聞こえは良い。だが、これは度が過ぎている。狂気的……。いや、狂信的と言うのが正しいか。
ハイタカは異常なまでにミコトを崇拝している。そしてその娘であるアマテラスを、ミコトを継ぐ者として次の崇拝対象にしようとしている。いや、もうしているだろう。
アマテラスという新たなる偶像を得た彼は、スサノオから夜刀神を奪う事、スサノオを処刑する事で、ミコトひいてはアマテラスへの捧げ物とするのだろう。
しかし、スサノオとてこのまま倒される訳にはいかない。仲間を残して死ぬ訳にはいかない。このままアマテラスと会わずして、終わる訳にはいかないのだ。
「悪いが、この夜刀神を渡す気も、殺される気も更々無い。お前の母上への妄執、ここで断たせてもらうぞ!!」
もう語る事など無い。スサノオは夜刀神を固く握り締め、ハイタカへ突進する。ハイタカの周囲を取り巻く白夜兵を全て一太刀で斬り伏せ、ハイタカへと意識を切り替えるが、既にスサノオの頭上ではハイタカの薙刀による振り下ろしが迫っていた。
「せいやぁッ!!」
「ッ…!!」
掛け声と共に放たれる斬撃。それをスサノオは、夜刀神を頭上に即座に運んで受け止める。滑るようにして薙刀の刃を流すと、そのまましゃがんで足払いを仕掛ける。しかしそれは読まれており、ハイタカは蹴りを高く跳んでかわした。そしてそのままの高さから、薙刀を少し短く持ち直したハイタカが、スサノオを串刺しにせんと刃を下に向けて落下していく。
「喰らえ!!」
「喰らうか!」
モーションの大きな動き程、避けるのは容易。スサノオは後ろに飛び退いてそれを回避する。ズガッ、という石床を削る音が通路に響き、後ろに下がっていくスサノオへと、ハイタカの恨めしそうな睨みが送られていた。
「まだだ!!」
スサノオは下がった瞬間、すぐに再びハイタカへと一足跳びで肉迫する。足を竜化させてのそれは、爆発的な脚力を以て、一気にハイタカへの急接近を可能とした。
「!!?」
いきなりすぎる急接近に、ハイタカは驚愕を露わにするも、冷静に待ち受ける。スサノオの足が人間のそれではないのを目にしてなお、ハイタカは怯まない。もとより、スサノオが竜の力を持っていると知っていたという事もあるが、その神の力と等しき竜の力を、スサノオが持っているという事への怒りの方が勝っていたに過ぎない。
予想外にも、ハイタカの冷静な反応に、スサノオは途中では止まれないため攻撃を続行する。高速の斬撃にも関わらず、ハイタカはそれを涼しい顔で受け流し、夜刀神は薙刀の柄を滑らされる。
すかさず空いた左拳をハイタカの腹へ目掛けて打ち込もうとするも、肘で受け止められ、逆にハイタカの膝蹴りがスサノオの腹へと沈むように打ち込まれる。
「ぐぶっ……!?」
それにより少し浮いたスサノオの体に、薙刀の柄での打ち払いが襲う。当にクリーンヒットとも言うべきその一撃を受け、勢いよく後方へと吹き飛ばされるスサノオ。
雑兵の攻撃を牽制、捌いていたフローラは主人が飛ばされたのを見ると、軌道上に居た自分の体を使ってスサノオを抱き止めた。しかし、華奢なフローラの体型では勢いを殺しきれず、スサノオと共に少し後ろへと転がる。スサノオの頭をその胸に抱えて、頭を守るように抱き締めるフローラ。服は擦れ、擦り傷が白い肌に赤く血を滲ませる。
「だ、大丈夫…ですか、スサノオ様……?」
「ゲホッ……、ああ。ありがとう、フローラ」
ようやく止まったところで、フローラは主人へと無事の確認をとる。労るようなその声に、スサノオは咳混じりに返答した。
すぐに立ち上がり、スサノオはフローラの体に腕を回して抱き起こす。見れば、フローラの足はガクガクと少し震えていた。今の衝撃で、調子を悪くしてしまったのだ。
「俺のせいで怪我を……すまない、フローラ……」
「いいえ。私の事は良いのです。私などに構わず、スサノオ様は敵を倒す事に集中してください」
フローラの示す先、スサノオはそちらに再び目を向ける。スサノオをぶっ飛ばした張本人である白夜の槍兵ハイタカは、失望と共に嘆息を吐きスサノオを見ていた。
「これはどうした事か。裏切り者のスサノオ王子よ、貴様の剣にはまるで重みが感じられない。その程度の想いの程で、貴様は白夜を裏切ったというのか? 得物を振るう武人の手には、その者の内面が表れるというが、貴様のそれは軽すぎる。私が討とうと意気込んでいたスサノオ王子が、よもやこのような弱き者であったとは……神、竜の力に縋っただけの貴様に、私を倒す事など到底叶わぬ!!」
それは武人としての失望。それは白夜の民としての怒り。それは白夜の将としての憤り。
ハイタカは憤りを覚えたのだ。スサノオの攻撃に、相応の重みが無かった事に。戦闘経験の少なさ、それも一重に要因の一つであろう。しかし、何よりも足りないと感じられたのは、想いの強さ。敵を、白夜の将を倒すには、それが足りていない。それをハイタカは刃を交える間に読み取った。だからこそ、怒るのだ。半端な感情、気持ちで同胞を裏切ったのか、と。
「何を……!! 取り消しなさい! スサノオ様が弱き者であるはずがありません。この方は誰よりも強きお方、誰よりも優しきお方。きっとスサノオ様はあなたのような者の言葉でさえ、許されてしまうでしょうが、私は見過ごせません! 我が主を愚弄した事、悔い改めなさい!」
フローラにしては珍しく、熱く反論の叫びを上げた。それこそ、嘆いていたハイタカなどとは比べものにならないその憤り。スサノオを馬鹿にされた事で、フローラの内側が憤怒の感情で満たされる。
許せない。赦せない。許せる訳がない。大切な人をコケにされて、黙っていられる訳がないのだ。
だけど、
「いいんだ、フローラ」
スサノオは怒りで興奮したフローラを諫めるように、優しく宥める言葉を投げかける。
「分かっているさ。俺の剣に、想いが籠もっていないなんて事。誰よりも、俺自身が分かっている。そうだ、ハイタカ。お前の言う通り、俺には想いの強さも、経験も足りていない。白夜という、生まれ故郷に属するお前達白夜兵を、この母上から託された夜刀神で斬っても良いものかと、未だに迷う」
そう、だからこそ、スサノオはこの黒竜砦において、最初の戦闘でも竜化したままだった。竜化にはリスクがあると分かっていても、夜刀神を白夜兵の血で汚して良いものかと、知らずの内に拒否していたのだ。それを改めて指摘されて、それも敵に指摘されたというのに、スサノオの心は穏やかだった。
もしかしたらそれは、先にフローラが怒ったからかもしれない。他者が先に怒った時程、かえって自分は冷静でいられると言うからだ。
だが、やはりそれもどこか違う。なんだかんだと、夜刀神に白夜兵の血を吸わせたスサノオは、迷いながらも白夜兵を殺した。
この道を選んだ時点で、割り切らなければならなかった事。未だに割り切れずにいながらも、白夜兵を斬る自分に、スサノオ自身が分からなくなっていた。
ただ、板挟みになりながら剣を振るっても、想いなど宿らないという事は分かっていたのだ。それが分かっていたからこそ、スサノオはそれを指摘されても怒らなかったのかもしれない。
「だけど、お前のおかげで分かったよ。もう迷いは捨てる。仲間を、友を、家族を守るためなら、俺は故郷の人間だろうと斬り捨てる。この夜刀神を以てでも、俺の道を邪魔する者は排除する。それがたとえ……白夜の兵であろうとも」
そうしなければ、勝てないというのなら、迷いなど捨ててしまおう。自らの選んだ家族を守るために、家族に害為す敵は打ち払う。白夜だ暗夜など関係ない。大切な者を傷付けるなら、誰であろうと容赦など要らない。
「喜べハイタカ。俺の持てる全力を以て、貴様を超えて行こう」
スサノオは宣言すると共に、全身から黒きオーラを噴出させる。それは今までのただ全身を包んでいた形状とは異なり、全身を包んだ上で、スサノオの姿そのものを完全に飲み込んでいた。まるで化け物のようなその姿は、目の部分のみが紅く揺らめき、頭部にはオーラが竜の角を模したような形状を取り、手足には鉤爪のように。
言ってしまえば、小規模な竜化のごとき姿をしていたのだ。その身に先程の何倍もの殺意と敵意を秘めて、スサノオはハイタカへと夜刀神を向ける。決意を込めて、母に託された神刀を。
「さっきお前は、想いに重みが無いと言ったな。なら、思い知ると良い。今の俺は、さっきまでの俺とは違うって事を」
黒き獣が、神刀を白夜の槍兵へと向ける。刀身すら黒きオーラに包まれた、まるで汚染されてしまったかのような神刀・夜刀神。それを前にして、ハイタカは畏怖どころか、鼻で笑って返した。
「もはや神と呼ぶにも烏滸がましき姿よ。まるで妖怪や悪鬼のようではないか。穢れに満ちてしまった夜刀神をアマテラス様に献上するのも憚られるが、それを貴様が持っている事が腹立たしいのもまた事実。良いだろう、掛かってくるがいい悪竜よ。我が白夜の魂、砕けるものなら砕いてみよ!!!!」
闇に身を堕とした竜の御子と、亡き白夜女王を狂信的に盲信する白夜の槍兵が、互いの誇りを懸けて、再び闘争をぶつけ合う。もはや、止められはしない。負けた方が死ぬのではなく、死んだ方が負けの闘いに他ならない。逃げ場など存在しない死闘が、始まろうとしていた。
「ベロアの『くんくん、ガルーアワーズ』…」
※ここからは台本形式でお送りします。
ベロア「なんだか久しぶりにこのコーナーをする気がします」
カンナ「だね~。最近は白夜編が更新されてたし、作者さんもお仕事が変わって忙しいから、なかなか書くタイミングが掴めなかったらしいからね」
ベロア「まあ、その分わたしが仕事をせずに済みますので、助かりますが……」
カンナ「そんなこと言わずにもっと前向きにしようよ!」
ベロア「カンナが言うなら仕方ありませんね。さあ、今日のゲストを招きましょうか」
カンナ「なんというチョロさ……。まあ、いいや。それじゃあゲストさんどうぞー!」
ジーク「やあ、また来させてもらったよ」
ベロア「おや、ジークベルトですか。今回は真面目回になりそうですね」
ジーク「ゲストによって回の趣向が変わるのかい?」
カンナ「その時々に寄るよ」
ベロア「基本的に、ソレイユのような軟派者ならぬナンパ者がゲストの時は、ギャグに走る割合が高いですが」
ジーク「ソレイユ…君は一体ゲスト時に何をしてるんだ……?」
カンナ「その時の話題やテーマも関係するから、別にソレイユが悪い訳じゃないんだけどね」
ベロア「さて、今日のテーマに入ってしまいましょうか」
ジーク「…そうだね。ソレイユの素行は、将来の主君として、気になるところではあるけれど、ひとまず置いておこう。では、読み上げるとしようか。『スサノオの黒いオーラについて』だね」
ベロア「本編でも軽く説明がありましたが、それでも分かり辛いという方も居るかもしれません」
カンナ「だから、イメージの手助けになりそうな例を言うね!」
ジーク「それはズバリ、『NARUTO』の人柱力達がなる事の出来る『尾獣のチャクラの衣ver.2』だ」
ベロア「あちらは真っ黒ではありませんが、スサノオはそれの真っ黒バージョンという訳です」
カンナ「あたしは使えないんだよね……」
ジーク「もちろん、普通の竜化ではないから、リスクは軽い。だが、“リスク自体は存在する”という事を忘れてはいけないよ」
ベロア「強すぎる力には、それ相応の危険が伴うものです。それこそ、ゲームの高性能の武器のように。わたしの超獣石だって、デメリットがとても大きいですから」
カンナ「あたしの真竜石だってそうだよ!」
ジーク「だからこそ、父上のジークフリートやリョウマ王子の雷神刀によって、扱う者と神器共に性能の良さから、チートと称されているんだろうね」
ベロア「神器持ちはズルいです。デメリット無しで強力な武器を思う存分振るえるのですから」
カンナ「あたしも専用武器が欲しいなぁ…」
ジーク「泡沫の記憶編で夜刀神が使えたじゃないか。私もジークフリートを使っていたし、それで妥協しよう」
カンナ「ジークフリートがジークベルトを使用、っていうややこしいのが現実になったよね」
ジーク「…カンナ、逆だよ? それだと、意味がおかしくなってしまう」
ベロア「別にいいじゃないですか。わたしは専用武器すらありませんでしたが」
ジーク「あ…あはは……、この物語の『泡沫の記憶編』に期待しようか……うん」
ベロア「……期待しないで待っています」
カンナ「それじゃ、そろそろ終わろっか」
ジーク「そうだね。いつの間にか1000文字を超えていたようだし、頃合いだろう」
ベロア「おおっ……ジークベルトがそんなメタな発言をするなんて、意外です」
ジーク「ハハッ。何て言ったって、私は父上の事をパパ上と呼んだ事があるからね。メタ発言なんて、それに比べたら軽いものさ」
カンナ「このままじゃ、あとがきだけで2000文字になっちゃうから、もう本当に終わろうね?」
ベロア「そうですね。すぐに終わりましょうカンナ」
ジーク「すごくチョロいね、ベロア……ゴホン! それでは、また次回も見てくれると嬉しいよ」
ベロア&カンナ「次回もよろしくお願いします(!!)」