ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第44話 見えざる暗殺者

 

「邪魔をするな!!」

 

 行く手を阻む白夜兵を、その手にした夜刀神で次々と斬り伏せていくスサノオ。その刀を振るう腕には、一切の躊躇いはなかった。たとえ生まれた国の兵が相手であろうと、大切な仲間を襲う者は倒すべき敵だから。

 

 ゼロやフローラも、それぞれ得意とする弓と暗器で、確実に敵の急所を一撃で貫き、着実に道を確保していく。

 

「どんどん増えていくなんて、煩わしいわね。まとめて片付けましょうか。『ライナロック』」

 

 目前にうじゃうじゃと、次から次へと迫り来る白夜兵を相手に、ニュクスは手にした魔道書を掲げて、魔法を放つ。ニュクスの翳した手の先から、巨大な炎塊が生み出され、密集する敵地のど真ん中へと撃ち出した。

 

「熱いぃぃ痛いぃぃぃ!!??」

 

「ぎゃあぁぁぁァァ!!??」

 

 砦内が広いといえども、密集していれば全員がそれを避けられる訳もなく、多くの白夜兵が全身を炎に包まれていく。燃え盛る炎は白夜兵の皮膚を焼き、爛れ、骨までも焼き尽くしていった。

 

 しかし、

 

「白夜兵士の本懐、見せてやる!」

 

 スサノオ達の猛攻を受けてなお、白夜兵達は恐れを為すどころか、更に勢いを増して襲いかかってくる。その猛烈な勢いに、スサノオ達は困惑をせざるを得ない。何故、ここまで狂気的になれるのだろうか、と。

 

「くそ…前に進めてはいるが、後ろからも敵が来ていては、挟み撃ちだぞ!」

 

 そう。スサノオ達は左へと進軍したのだが、元々多かったであろう右側の通路から、次々に白夜兵が押し寄せていたのだ。なので、後ろに警戒しつつ前の白夜兵とも闘っていた訳だが、あまりに敵の増加が激しく、次第に背後の白夜兵達の攻勢が抑えきれなくなってきていた。

 

「ここは二手に分かれるか、スサノオ様?」

 

「どういう事だ、ゼロ」

 

 弓を引きながら、ゼロは振り返らずに敵を見据えたままで続ける。

 

「このままじゃ、敵を捌ききれなくなるのは目に見えている。なら、前後の敵で担当を分けた方が賢いだろう。前に進み仲間を連れて戻る者と、後ろの敵を残って足止めする者とにな。2人組でヤるべきだろうが、足止めの方は負担が大きい事になる。2人で凌ぐのは困難だろうがな」

 

「なら、俺とフローラ、ゼロとニュクスのペアに分かれよう。俺が竜化で敵を押し止め、フローラは杖でサポートをメインに。そっちはニュクスの高火力で敵を殲滅しつつ、ゼロが細かな敵を駆逐しながら先へ進むんだ!」

 

「承りました、スサノオ様!」

 

「自ら負担の大きい方を選ぶだなんて、坊やにしては偉いわねスサノオ」

 

「よし、ならさっさとイくか」

 

 スサノオは一度敵を威嚇するようにオーラで攻撃を放つ。その一瞬の隙に、即座に黒竜へと化し、敵の群れ目掛けて口から火炎球を放った。

 ゼロ達も、ニュクスがライナロックを敵陣へと確実に命中させ、討ち漏らした白夜兵をゼロが弓矢で1人ずつ討ち取っていく。

 

『任せたぞ、ゼロ、ニュクス!』

 

「ああ。期待シて待っていな」

 

「やれるだけやってあげるわ」

 

 そして2人は走り出す。あちらの敵はエルフィ達も倒しているはずだ。おそらく、もうそこまで大量には残っていないだろう。問題は、仲間が駆け付けるまでスサノオとフローラが持ちこたえられるかだ。

 

「スサノオ様、傷を負ったら申して下さい。すぐに治療致します!」

 

『ははっ。頼もしいな、フローラ。頼りにしてるぞ! ハア!!』

 

 竜の姿を前に、怯える者もいたが、やはり無謀にも突進してくる白夜兵が居り、スサノオは近づく白夜兵をその槍のように鋭い手で串刺しにする。

 そのまま敵を腕を振るって白夜兵の群れへと火球と共に投げ捨てる。既に絶命した白夜兵を火球が呑み込みながら放たれ、周りにいた白夜兵にもその火が燃え移っていく。

 

「化け物め!!」

 

 人から竜へと転じたスサノオを、怪物でも見るかのように睨み付ける白夜兵達は、刀や槍を手に、果敢にも突撃を開始した。彼らにも、引けぬ理由があるのだろう。化け物と称した相手に自ら突っ込んでいくのだから、大した度胸と言える。

 

『フローラ、少し下がっていろ!』

 

「は、はい!」

 

 スサノオはすぐ傍で杖を構えながら、脚の付け根に備えた暗器に手を掛け、いつでも攻撃に移れるよう構えていたフローラを下がるように命じる。フローラも、スサノオが何かをするのだと感じ取り、速やかにスサノオから距離を取った。

 

『「邪竜穿」!!』

 

 その叫びと共に、スサノオの手から大きな水塊が発射され、突進してくる白夜兵に着弾すると同時、

 

「な、ぐぶぁ!?」

 

 着弾した胴の反対側、つまりは背中一面から、透明な水晶のようなものが突き出すように生えた。白夜兵は体内を水晶に貫かれ、その血が背に生えた水晶から滴り落ちていく。

 そして、その突如現れた水晶の槍により、その白夜兵の後ろに続いていた他の白夜兵達も数人がその槍に貫かれていた。水晶の槍は血を吸い、更に肥大化していく。血により成長を続ける水晶は、少し経つと柔く崩れ落ちて、水晶が寄生していた白夜兵の背にはぽっかりと大きな穴が開いていた。

 

「ひ…!?」

 

「な、なんだあれは!?」

 

 流石にその異様な光景を前に、白夜兵達の戦意も削がれており、恐怖心が狂気を押しのけたようだ。なおも、スサノオの手の先で浮かぶ水塊に、いつ自分も惨く殺されるのかと白夜兵達は恐れを為して、尻込みしていた。

 

『………む?』

 

 そんな中で、スサノオは奇怪なものを目にする。後ずさりをしていく白夜兵の更に後ろから、他の白夜兵に紛れてこちらへと来る者が居た。それは、本来ならあるはずもない存在で、その男は、“着物ではなく、暗夜で見られる洋服”を纏っていたのだ。それなのに、白夜兵達は誰一人として、その男に目もくれない。いや、()()()()()()()()

 初めから、()()()()()()かのように、男はすいすいと白夜兵の間を抜けてくる。

 

 そして、

 

『なに!?』

 

 その男は、戦意を喪失しかけていた白夜兵を殺し始めたのだ。ナイフによる心臓を一突き。首筋を目にも留まらぬ速さで切り裂き。どれも手慣れたように、スマートに殺していく。まるでそれが日常とでも言うように、男はすらすらと殺していた。

 

「な、なんだ!? 急に…! どうした!?」

 

 当然、その男に気付いていない白夜兵達は、目の前で崩れ落ちていく仲間の姿に戸惑いを隠せない。その姿を目にした男はニヤリと笑みを浮かべて、

 

「暗夜は卑怯ニモ、戦意を削ガれた者ヲも殺スノか! 許せン非道ナル行為だ!!」

 

 と、白夜兵達を煽るかのような言葉を大きな声で発した。

 

「そうだ! やはり、暗夜は卑怯な連中ばかりだ!」

 

「行くぞ! 仲間の無念を晴らすんだ!」

 

 その勇ましい姿とは裏腹に、白夜兵達の目には真実が見えていない。突如倒れた白夜兵達を殺したのは、目の前の竜がやった事ではないというのに。それが分からず、全て暗夜の仕業だと信じて止まないのだ。少なくとも、全てではないがスサノオには真実が見えていた。あの謎の男は、決して暗夜の陣営の人間ではないと。

 理由は簡単だ。それは、暗夜の者が敵を煽る必要など無いからだ。以前のマクベスによるノスフェラトゥ襲撃は、結果的にはエリーゼに危険が及んだものの、本来はスサノオを狙ったものであったため、暗夜に直接の損害を与える事はなかった。しかし、今回は違う。この黒竜砦が落とされれば、王都ウィンダムへの道が開かれ、白夜からの侵攻を容易にする可能性がある。王付きの軍師であるマクベスが、このような愚行を取るとも思えないし、ここを守るのがマクベス派の兵士達である以上、自分に不利益な事はしないだろう。

 

 なら、あの謎の男は何者なのか。見たところ、暗夜の装備に身を包んでいるが、明らかに暗夜への敵対の意思がさっきの行動から分かる。しかし、その姿が白夜兵達に認識されていないというのはどういう事か。それこそ、透明人間のように、誰にもその存在を知られていないようで───。

 

『………! まさか…』

 

 そして、スサノオは思い当たる節がある事を思い出す。うろ覚えではあったが、以前の竜化による暴走時、姿の見えない敵とリョウマやヒノカ達が闘っていた事に。自分には姿が見えていたため、特に気にもならなかったが、アマテラスとスサノオを除いて、他の者達は確かに苦戦していたのだ。姿の見えない兵士を相手に、とても闘い辛そうにしていた事に。

 

 その姿の見えない敵こそが、今ここに居る謎の男なのだ。それを裏付けるように、フローラも、突然白夜兵が死んだ事に驚き、戸惑っていた。

 

「スサノオ様、一体何が…!? いいえ、そんな事よりも、敵が向かってきます!」

 

 フローラも、再びスサノオの傍へと戻り、杖を片手に、暗器を取り出す。

 

『ちぃ…! フローラ、多分捌ききれない! 討ち漏らしを頼む!』

 

「はい!」

 

『……くそ、逃げられたか』

 

 謎の男は白夜兵の突進に乗じて、その姿を眩ませていた。スサノオの目に映るのは、大量に押し寄せる白夜兵達の姿のみ。

 

(嫌な予感がする……皆無事だと良いが…)

 

 一抹の不安を胸に、スサノオは竜の体を存分に使う。せめてフローラへの負担を少しでも減らすべく、白夜兵を出来る限り多く倒すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼロ、ニュクスはというと、ニュクスの火力により、難無く順調に歩を進めていた。彼らの通った後には、白夜兵の焼け焦げた姿や、額や心臓から矢を生やすようにして死んでいる白夜兵の姿が散見出来る。

 

「ヒュー…ヤるじゃないか。ガキの割に、結構な場数を踏んでやがるな」

 

「…貴方も、私を子どもだと思って侮らない事ね。人は見掛けにはよらないものよ」

 

 軽口を叩きながらも、敵を矢で射つつ走るゼロに、ニュクスはもう少し真面目な口調で話せないものかと呆れるばかり。そうこうしているうちに、2人はやたらと白夜兵が密集している地点へと出た。しかし、白夜兵達はこちらに気付く事もなく、背を向けて誰かと闘っているようだ。

 

「ほう…味方が居るみたいだな。おい、ニュクスとか言ったか?」

 

「何よ…?」

 

「ヤツらが囲ってる中心より少しズラして、一発熱くてデカいのをぶち込んでヤってくれ」

 

「……誠に不本意だけど、そうしてあげる。いいえ、もっと良いやり方を見せてあげるわ」

 

 ニュクスは不満そうに魔道書を開くと、敵に気付かれる前に魔力を練り始める。ズラして撃つのがゼロからのオーダーではあったが、もっと手っ取り早い方法がある。それは中心だけを避けて炎の渦を描くという事だ。しかし、細かい魔法の操作程、必要な魔力量も増え、コントロールも難しくなり、時間も掛かる。当然のデメリットではあるが、今はそれをまとめて消化出来るチャンスでもあった。ゆえに、ニュクスはそちらを選択したのだ。

 

「ライナロック……!!」

 

 少しばかりの気合いが籠もった呟きと共に、円を描くような業炎が白夜兵達に降り注ぐ。突如頭上から降った炎の渦は、一瞬で白夜兵を燃やし、もがき苦しみながら、または炎から逃れようと走って渦から出る白夜兵達であったが、もはや助からない。全身を焼き尽くされるのみだ。

 

「…これには驚いた。お前、レオン様にも負けない魔法の技術だな」

 

 その見事なまでの魔法捌きに、ゼロは珍しく、普通の口調で素直な感嘆の言葉をニュクスに贈る。しかし、ニュクスはさして喜ぶ事もなく、淡々と返事をした。

 

「別に嬉しくないわね。私のこれは、私の罪の証…。それだけ、私が罪深い事に他ならないのだから…」

 

 何が彼女をそう卑屈にさせるのかは、彼女しか分からない。ただ、だとしてもその実力は味方からすれば喜ばしい事に間違いないのだ。

 

「まあ、お前がそう思うんなら別に良い。お前の勝手だからな。だが、その魔法の腕には感謝と感心だけはしといてやる。俺の勝手でな」

 

「そう…」

 

 ニュクスは相も変わらず仏頂面ではあったが、どことなく纏う雰囲気は和らいだ気がしたゼロだった。

 

 ゼロは敵が倒れたのを確認すると、先程まで白夜兵に取り囲まれていた味方に声を掛ける。

 

「おい…今ので誰もイってやしないか?」

 

「…その下品な口調…ゼロか」

 

 ゼロの言葉に応じたのは、仮面の竜騎士。彼の周りには、同じく生き残っている暗夜兵の姿がちらほらと、そして見知った顔があった。

 

「ナンだ、ピンピンしてるじゃないか。余計な心配だったか?」

 

「いや、援助感謝するよゼロ君!」

 

 ハロルドのグッドスマイルを受け、ゼロは口の端をひくつかせる。どうにも、ゼロはこの他意の無い笑顔が苦手なのだ。それも、自分に対してのそれが。

 

「た、助かった…のか…?」

 

「し、死ぬかと思ったぁ~……」

 

「やった、やったんだ…! 俺達は助かったんだ!」

 

 気が抜けて、へたり込むようにその場に膝をつく暗夜兵達。ひとまずの命の危機を越え、安心したのだろう。

 ミシェイルも窮地を脱し、ミネルヴァにもたれて一息ついていた。そして、ゼロの隣に立つ少女が知らぬ顔である事に気がつく。

 

「ゼロ、その子どもは誰だ?」

 

「ん? ああ、こいつは…」

 

「私は子どもではないわ。開口一番で初対面の女に向かって失礼な男ね。……今日だけで、何度『子どもじゃない』と言わないといけないのかしら」

 

 ニュクスはミシェイルを軽く睨み付ける。その反応を見て、ミシェイルは得心した。この手合いには仲間のとある少女で慣れている。

 

「…ネネと同じタイプか。すまなかった。悪意があっての発言ではない」

 

「分かればいいのよ。まあ、仕方ないと言えない事もないし…」

 

 とりあえず納得したニュクスに、ミシェイルは疲れたようにため息を吐いて、ゼロに視線を変える。説明しろという意思が仮面越しでも伝わったのか、ゼロもミシェイルの言いたい事を察したようで、ニュクスの事を掻い摘まんでだが説明する。

 

「こいつはニュクス。スサノオ様が砦の外で見つけてな。俺達と同行する事になった。実力の方は安心しろ。さっきの魔法はこいつがヤった、と言えば分かるな?」

 

「ほう! それはすごいね! 頼もしい仲間が増えて、私は嬉しいよ!!」

 

 と、ハロルドが割り込んで、ニュクスの手をとり大袈裟に腕を振って握手する。されているニュクスは、かなり嫌そうな顔をしていたが、ハロルドはまるで気がついていない。

 

「それで、どうしてお前達が前から来たんだ?」

 

 ミシェイルの疑問はもっともだ。最初の手筈では、ミシェイル達4人が先に砦に入るというものだった。なのに、自分達より先の方からゼロ達が現れたのだから、不思議に思うのは当然である。

 

「それこそ、色々あったのさ。そんなコトより、お前達も俺達と一緒にイってくれ。スサノオ様とフローラがこの先で敵の進軍を食い止めてるから、助けにイくぞ」

 

「ふん…どういう事かは知らんが、ならばさっさと行くぞ。主君に死なれるのは困るからな」

 

 手足を軽くほぐして、ミシェイルは立ち上がる。理由はどうあれ、主君を助ける事が何より優先すべき事であるからだ。

 しかし、

 

「ちょっと待って」

 

 ニュクスがそれを止めた。その唐突な言葉に、全員が不可解な顔をしてニュクスを見つめるが、彼女はそれを気にも留めず、自分達が来た方を鋭く睨み付ける。

 

「そこの貴方。何者?」

 

「何を言って…?」

 

 誰も居ない通路、正確には白夜兵の死体が転がるだけの通路に向かって、ニュクスは誰かに問い掛ける。誰も居ない場所に話しかける彼女に、違和感を覚えたミシェイル達だったが、それがニュクスの勘違いでは無い事を知る事になる。

 

「黙っていても無駄よ。呪いの気配がするもの。それも、とびきり強力な呪い…今まで感じた事も無いくらい、邪悪で歪な呪い…」

 

 

 

「ほウ…まサカばレるとハな」

 

 

 

 誰も居ないはずの通路から、少しノイズの掛かったような男の声が響く。その異常にニュクス以外の者が軒並み驚く中で、特に取り乱す者が1人だけ居た。

 

「そ、その声……嘘だ、ありえない…! そんな事、あるわけが……!」

 

 何かに怯えるように、うずくまり震えだす1人の暗夜兵。その怯え方は尋常ではなく、恐怖に顔を歪ませ、譫言(うわごと)のように同じ言葉を何度も繰り返している。

 

「何者だ…! 姿を見せろ…!」

 

 ミシェイルが身構えるが、姿の見えない男の声は嘲笑する。

 

「はっ。出来ルもンナらやッてルトコろだガ、あいにく俺はまダ出来ンモノでな」

 

「恐らく、呪いによって姿が消えているわ。だから、視認は出来ないと思って」

 

 警戒しながら魔道書を広げるニュクス。その言葉に、ミシェイルはようやく得心したとばかりに斧を構えた。

 

「なるほど、()()()()()()という訳か…」

 

「ナンだ? ミシェイルは知ってるのか?」

 

「少しだがな。気をつけろ、こいつは目では簡単には捉えられん。気配を察知しろ…というのは難しいだろうから、目をよく凝らせ。少しぼやけている所に、そいつが居る」

 

 その言葉にゼロもハロルドも、よく目を凝らしてみると、確かに何かが通路の先にぼやけて立っているようだった。

 

「なるほど…確かに、ナニかが居るな。まあ、それ以前に、熱い殺気がビンビン伝わってきやがるがな」

 

「ふむ…しかし、変な声ではあったが、どこかで聞いたような気がするぞ…」

 

 ハロルドの悩むような素振りに、ミシェイルが注意を喚起する。

 

「悩むのは後にしろ! 油断するなよ、お前達。気を抜けば一瞬で死ぬぞ!」

 

 それはハロルドのみならず、へたり込んでいた暗夜兵達にも向けられたものだった。いきなり訳の分からない敵の出現に、暗夜兵達は混乱しながらも武器を手に立ち上がるが、先程の1人のみ、立ち上がれずにうずくまっている。

 

「けひ、キひヒ。ココでオ前らヲ殺せバ、褒美がもラエるカモなァ」

 

「来るぞ…!!」

 

 はっきりとは目視出来ないが、気配が動くのは感じ取れる。透明な男は、一気に駆け出すと、真っ先に自分を感知したニュクスに向かう。

 

「…!」

 

 自分に猛スピードで接近してくる事に気付いたニュクスは、その歩みを止めるために魔法を放つが、男は炎の渦をするりと避けてしまう。

 

「させん!」

 

 咄嗟にミネルヴァを飛ばせていたミシェイルが、ニュクスに接近する透明な男に向けて軽い斧を投げつける。だが男は斧が当たる直前で後ろへ飛び退き、ミシェイル目掛けて手にしたナイフを投擲した。

 それを、直感的にハロルドが自身の持つ大きな斧で弾く。それらの見事なまでの対応に、男はハロルドやミシェイルの動きに対して、賞賛の言葉を発した。

 

「いヤはヤ、恐レイッた。ハッキりと見えテイなイハずなの二、よク防いダナ」

 

「お前のような奴とは闘った事があるというだけの話だ」

 

「私は勘だがね!」

 

 ミシェイルはともかく、ハロルドのそれはどうなのかと問いたいが、実際出来ているのだから、文句の付けようがない。

 

「おいおい。俺にもイヤらしい褒め言葉を投げかけてくれよ」

 

 不意打ちのようなゼロの矢を、男は腰に差した剣を抜いて叩き落とす。落ちた矢は、真ん中から真っ二つに折れていた。

 

「弾かれたか…」

 

「甘い甘イ。矢デ殺るナラ、口は閉ジときナ」

 

 いかにも余裕そうに、男はゼロに言い返す。それだけではなく、意趣返しと言わんばかりに、背に掛けていた弓を構えると、ゼロに目掛けて矢を放った。

 

「!!」

 

 それを、ニュクスの魔法による炎が焼き払い、ゼロに届く前に矢は炎で凪ぎ払われる。

 

「ナイフに剣、そして弓矢…多彩な攻撃手段を持つのね。近・中・遠距離全てに対応した戦闘スタイル…厄介ね」

 

 剣、ナイフによる近距離での戦闘。ナイフの投擲による中距離への対応。弓での遠距離からの攻撃。非常にバランスの取れた戦闘スタイルと言える。相手がアーマーナイトのような分厚い守備を誇る者でない限り、有利に立ち回れるだろう。

 だからこそ、エルフィの居ない今、この敵は厄介なのだ。

 

「キヒ。やッパりオ前、邪魔だなァ。先二殺しテやるヨ!」

 

「そう簡単にいくかしら」

 

 この中では誰よりも、その男の気配を感じ取れるニュクス。彼女は、透明な男の攻略に重要な存在となる。それを分かっている仲間達も、ニュクスの守りに重点を置いた配置に付いていた。

 

「チッ…暗殺者をアンまリ舐メるなよ」

 

 見えはしなくとも、ミシェイル達には伝わっていた。透明な男が、邪悪な笑みを浮かべて舌なめずりしているであろう事が。

 

 そんな中で、未だに怯えている暗夜兵に、仲間の暗夜兵が声を掛ける。いつまでもうずくまっていては、敵の良い的であるからだ。

 

「おい、いつまでそうしてるんだよ! 俺達も注意しないと、殺されるんだぞ!」

 

「そ、そうよ! 早く立って、あなたも闘いなさいよ!」

 

「お、お前らは知らないんだ! ()()()の怖さを…! それに、あいつがここに居る訳がないんだ! なのに、どうして……!?」

 

 しかし、その暗夜兵はまるで立ち上がる気配がない。それどころか、より一層恐怖に支配されている。

 

「だって、あいつは……あいつは!!

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()!!!!」

 

 

 




 
「ベロアの『くんくん、ガルーアワーズ』…」

※ここからは台本形式でお送りします。

ベロア「…疲れました」

カンナ「ソレイユとお風呂楽しかった~」

ベロア「カンナとソレイユは相性が良いのですね…ああ、羨ましい、妬ましいソレイユ…」

カンナ「? まあいいや。それじゃ今日のゲストさんどうぞー!」

エポニーヌ「また来たわよー」

ベロア「あ、エポニーヌ。よろしくお願いしますね」

カンナ「うわー…ソレイユの時とは大違いだね」

エポ「色々世話してあげてるうちに、懐かれちゃって…ほら、今も尻尾がすごく揺れて喜んでる」

カンナ「うわ、ホントだ! この前のソレイユの時なんて、揺れるどころかしなだれてたのに!」

ベロア「当然です。わたしはエポニーヌの事は子世代の中ではトップクラスに好きなお友達です。ソレイユはその逆ですから」

エポ「あたしはソレイユの趣味にも理解してるし、ソレイユもあたしの趣味を理解してくれてるから、普通に仲が良いんだけどね」

カンナ「あ~、あれかな? 『あなたと私は友達じゃないけど、私の友達とあなたは友達』みたいな?」

ベロア「そんな感じです」

エポ「どこの、排球に懸けた青春よ、それ」

ベロア「でもみんな目が死んでますよ」

カンナ「だいたいそんな感じだよ~」

ベロア「ここは本編程真面目である必要がありませんからね。多少はネタに走っても良いんですよ」

エポ「…カンナがアシスタントになってから、更にメタになったわね。このコーナー…」

カンナ「え!? あたしのせい!?」

ベロア「いいえ。カンナが悪いのではありません。この空間が悪いのですよ」

エポ「ついにはコーナー自体を否定し始めた…?」

ベロア「このコーナーの存在意義は、わたしがカンナとふれ合える事、スサノオからご褒美が貰える事だけですから」

カンナ「え、そんな下心があったのベロア!?」

エポ「そうじゃないと、あのベロアがこのコーナーを続ける意味が分からないものね」

ベロア「さて、ではご褒美のためにも今日のお題に入ってしまいましょう」

カンナ「うん」

エポ「また母さんが持ってるのね。えーナニナニ…『アサシンについて』だって」

ベロア「ああ、それですか。面倒ですし、簡単に説明を読みましょうか」


???

姿の見えない暗殺者。暗夜の装備に身を包んでいるが、その詳細は不明。

武器は剣、暗器、弓を扱い、オールラウンドな戦闘スタイルを得意としている。

暗夜兵の1人がその声に心当たりがあるようだが、曰わく、『生きている筈のない人物』であるらしい。


ベロア「…これくらいですかね」

カンナ「ざっくばらんだね」

エポ「これくらいがちょうどイイんじゃない? ほら、あんまりイきすぎると、後がツマラナイじゃない。ナニ事も、引き際が肝心なの」

ベロア「それでは、カンナ、エポニーヌ。一緒に温泉にゆっくり浸かりましょう」

エポ「イイわね~! あわよくば、事故に見せかけて男の子達が仲睦まじく肌と肌を重ね合わせている現場を覗けるかも……ぐふ、グフフ…」

カンナ「うわ~、またエポニーヌが妄想しちゃってるよ…」

ベロア「一度こうなると、なかなか治りませんから、このまま連行だけしちゃいましょう」

カンナ「りょうか~い!」

エポ「ああ…ダメよ、いいえ、イイのよ! 可愛いフォレオの華奢な体を、ジークベルトの逞しくも繊細な腕が優しく抱き締めて、従兄弟というどことなく禁断の匂いが香る関係でありながら、それでも2人は溢れ出る衝動を止められず……ぐへへ」


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