ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜 作:キングフロスト
※時間軸に関しては、今より少し進んだ時期を想定しています。
私は暗夜王国第三王女エリーゼ様の臣下エルフィ。今日はここに、エリーゼ様の最近の行動、言動について記そうと思う。
というのも、ここ最近のエリーゼ様の様子がどこか少しおかしいからだ。休日、私がどこかへ出かけないかと誘っても、曖昧に言葉を濁して遠回しに断る事が増えたり、私が一緒に夕食を摂ろうと言っても、今日はアイシス達と食べるからと断られる事があったり、私のトレーニングを見ていて欲しいと頼んでも、用があるから出来ないと断られる事もあったり…。
とにかく、今までよりもエリーゼ様に断られる頻度が多くなったのだ。それに、なんとなく、私の事を避けている節も見られる。これは由々しき事態に他ならない。エリーゼ様の臣下であり、エリーゼの親友であるこの私が、当の本人に避けられるなんて、何かの間違いだと信じたい。
だからこそ、私は原因究明の為に、エリーゼ様の観察記録を付ける事にした。
これは、私による、私の為の、私のエリーゼ観察記録である。
一日目。
今日は朝から訓練をしていたため、エリーゼ様と会えたのは昼を回ったところだった。今日の昼食は一緒に摂れたが、午後からは何か用事があるらしく、野営地を出て行ってしまった。お供に付いて行くと申し出たが、「あー、だいじょうぶだよ! アイシスが付いて来てくれるから」と断られた。怪しい…。
結局、エリーゼ様とアイシスが帰ってきたのは、夜になるかという時間だった。
二日目。
今日は、午前中は軍議に参加せねばならなかった。エリーゼ様は軍議にはほとんど参加していないので、午前中はネネと時間を共にしていたようだ。
午後は軍での合同訓練で、これにはエリーゼ様も参加しており、特に変わった様子は見られなかった。必死に魔法の練習をする姿は、どこか微笑ましく、愛らしかった。眼福である。
この日は疲れてしまったのか、夕食後、少し私やスサノオ様と談話を楽しんだ後、エリーゼ様は少し早めの就寝をされた。今日は特段、変わった様子は見られなかったように思う。
三日目。
この日は朝から、野営地にエリーゼ様の姿が無かった。前日、就寝が早かったためか、朝一番に起きてどこかへ出掛けてしまったらしい。その様子を目撃した見張り番によると、どことなくこそこそしているように見えたそうだ。
お昼を過ぎて、いつの間にか帰っていたエリーゼ様は、ミシェイルに何かを自慢しているようだった。ミシェイルは半ば呆れたように、疲れた顔でエリーゼ様とやりとりしていたが、エリーゼ様のはしゃぐ姿には見ていて癒された。
四日目。
今日はエリーゼ様と約束があったので、2人で街に繰り出した。目に付く出店のアクセサリーを眺めて、時には手に取ったりして楽しく回った。お揃いの花の髪飾りも買ったり、素敵な一日だった。昼食に立ち寄った定食屋では、少ししか食べなかったが、何故か値段が張ってしまった。おかしい。ご飯は大盛を7杯で、定食も4人前しか頼んでいなかったというのに。
ともあれ、この日はエリーゼ様に変なところはなく、充実した一日を過ごせた。
八日目。
ここ最近、近隣の街で妙な噂が流れているらしい。なんでも、正義の味方を自称する、仮面で顔を隠した変質者が現れるというものだ。そんな変態……いや、似たような見た目のミシェイルに悪いので、ここは正義の変質者と呼ぼう。そんな正義の変質者など、エリーゼ様の教育上、まことによろしくないので、極力接触させないようにしなければ…。
ちなみに、今日もエリーゼ様はアイシス、ネネと連れ立って街へと繰り出していた。変質者と遭遇していなければいいが……。
十二日目。
今日は一日自由だったので、かねてより懸念していた変質者の情報集めを街で行う事にした。連れ添いとして、ノルンとアカツキが同行してくれた。エリーゼ様と一緒ではないのは、もし情報収集中に変質者と出くわしでもしたら、意味が無いからだ。それに、変質者により興味を抱いてしまうかもしれない。それはあってはならない事案だ。
アイシス、ネネは最近エリーゼ様と怪しい動きを見せているので、私がエリーゼ様を観察している事がバレる危険があり、声は掛けないでおいた。
フローラは、スサノオ様のお世話をしているので、遠慮しておいた。あの子は、スサノオ様の世話を焼いている時が一番キラキラしている。それを邪魔しては悪いだろう。
男性陣には街に行くとだけ言っておいた。私としても、気の知れた女友達と街に行く方が、気楽で良かったからだ。一応、私達の軍の参謀役であるライルにはそれとなく目的を伝えておいた。彼も正義の変質者を不審者として目を光らせていたので、彼にしても悪くない話だろう。それと、ライルには聞き込み調査に関してはエリーゼ様達への口止めをしておいたので、大丈夫だと思う。
朝から夕方に掛けて行った聞き込みによれば、正義の変質者はそこまで嫌われてはいないという事が分かった。他にも、正義の変質者に関する情報をいくつか得る事が出来た。街で得られた情報を纏めると、
・正義の変質者は複数確認されている。
・単独のもの、グループのものがある。
・いずれも小柄ではあるが、腕は確からしい。
・全員の名前(自称であるが)が割れている。
どうやら、正義の変質者は1人ではなかったようだ。街の人達から嫌われていないのは、それなりに功績も上げており、なおかつ無償で人助けをしているかららしい。
ここで気になったのは、変質者はグループも複数あるという事か。これは厄介だ。その分、エリーゼ様が街に出た時に遭遇する可能性も上がってしまう。何より厄介であるのは、その変質者達が悪人では無いという事。これでは退治などする訳にはいかないし、注意しようにも、向こうは善行しかしていない。どう対処すべきか悩みどころである。
ここで、聞き込みで判明した正義の変質者の名前を挙げておこうと思う。
『エアリー・スカイ』
『マムクルート』
『プラチナブロンドリル』
どうやらこの3名は仲間であるらしい。そして、単独で活動しているらしきもう1人の変質者の名は、
『正義のヒロイン
彼女(?)だけはあやふやな情報しかなく、私達が聞き込みをした街以外でも目撃証言が多数あるらしい。彼女が目撃された街だけでも、およそ20を越えており、街から街へと渡り歩く正真正銘『正義の味方』とされているそうだ。
ただ一つ、確かなのは彼女が持つ剣の名前は、『封魔剣エクスブレード』という事らしい。オーディンあたりが聞いたら喜びそうな名前の剣だ。
帰投の後、エリーゼ様から街に行った事だけを伝えると、「もーう! どうしてあたしも誘ってくれなかったの~!!」と、怒られてしまった。頬を膨らませてぷんぷん怒る姿は、とても可愛らしかった。眼福眼福…。
蛇足ではあるが、この日もご飯にお金が消えていった。もう少し値下げしてくれてもバチは当たらないと思う。
十五日目。
スサノオ様の星界で休息中の事だった。エリーゼ様とアイシス、ネネが食堂で何やらこそこそと密談していたのだ。私は、エリーゼ様が最近怪しい動きをしている原因が突き止められると思い、こっそりと、3人に気付かれないように聞き耳を立てる事にした。
「………じゃあ、明日に……」
「うん……、………がんばろうね」
「………です」
ほぼ断片的にしか聞こえなかったが、何かを明日、実行しようとしているらしい事が分かった。これは、明日は無理に休みを貰ってでも、エリーゼ様を追跡しなければならない。
スサノオ様に『DOGEZA』なるものをして、なんとか休みを貰う事が出来た。もしもの事を考えて、アカツキにも協力を要請してあったので、アカツキも一緒に『DOGEZA』をしたのだが、スサノオ様は困惑した様子だった。そういえば、
「な、なんで土下座なんだ…?」
と、不思議そうに首を捻っていたが、何かおかしかったのだろうか。ちなみに、『DOGEZA』はアカツキに教えてもらった。なんでも、誠心誠意謝罪する時、もしくはお願いする時にするのだそうだ。
明日に備え、今日は早めに休む事にした。エリーゼ様達も、今日は夕食後すぐに自室に戻ったようなので、やはり明日に何かあるのだろう。何事も無ければ良いが……。
そして当日。まだ暗い内からエリーゼ様の部屋を死角から見張っていると、周囲を窺うようにエリーゼ様が部屋から顔を出した。そして警戒するように星界の入り口まで行くと、そこにアイシスとネネも合流し、朝の早くからエリーゼ様とアイシス、ネネは星界の外に出て行った。私とアカツキも、3人を追って外へと出る。
しかし、
「見失ったわ…」
星界と外の世界では時間の流れが違うらしいが、どうやら外もまだ完全に夜が明けていないらしく、空はまだ少し暗く、その上3人は何故か薄暗い森の獣道を通って街へ向かったようで、途中で見失ってしまった。あの難なく進んでいった様子を見るに、この獣道にも通り慣れているようだ。
ともかく、方向的に街へと向かったのは間違いないので、私達も街へ向かおう。ただし、こんな獣道ではなく、ちゃんとした街道で。
街に到着したは良いが、まだまだ早朝という事もあり、静けさに包まれていた。ちらほらと見える、店の開店支度をしている人に女の3人組を見なかったかと聞いて回るが、誰一人としてそんな3人組は見ていないそうだ。
「ふむ…、まだエリーゼ様達は街に到着しておらぬのか?」
「そうね…ここから他の街へは2、3日は掛かるし、この街が目的地だとは思うんだけど…」
街を一回りしてみたが、やはりエリーゼ様達の姿はおろか影すら掴めなかった。そしてその頃には、すっかり夜も明け、街も活気づいてくる。
人通りが多くなれば、余計にエリーゼ様達を発見し辛くなってしまう事が懸念されたが、
「強盗だー!!」
とある店を通り過ぎた際に、ちょうどその店から物盗りが発生したようで、エリーゼ様の捜索どころではなくなってしまった。
「アカツキ!」
「ああ!」
私達は互いに得物をすぐにでも構えられるように手を掛け、私達とは反対方向に逃げていく犯人を追い始める。見たところ、犯人は男で単独犯のようだ。
この街は賑やかな市場があるが、治安は決して良いとは言えず、先日の聞き込み調査の際もどこかの店で盗みがあったと聞いた。その際は、例の正義の変質者3人組の内の2人が捕まえたそうで、私達が向かった時には既に消えてしまっていた。
もしかしたら、この犯人を追っている、ないし捕まえた時には、その変質者達も現れるかもしれない。
「くそ…案外足が速いな、あやつ…!」
今日は私も、エリーゼ様を尾行するためにいつも着ているアーマーは邪魔だったので脱いでいるが、アカツキの言う通り、あの強盗犯はとても足が早く、全く追いつけない。それどころか、少しずつ距離を離されつつあるくらいだ。おそらく、盗みに慣れているのだろう。あの男の走る逃走ルートには迷いが全くと言っていいほど見られない。
「このままじゃ逃げられるわ…!」
「むぅ…こうも人混みを行かれては、走り難くて仕方がない!」
道行く人々を避けながらの追跡劇は、こういった状況での追跡に慣れていない私達にとってかなり不利だ。その点、犯人は人と人との合間をすいすいと縫うように走り抜けていき、経験値の差がこれでもかというくらいに分かってしまう。
そうこうしている内に、犯人は街の出口付近までたどり着こうとしており、このままでは逃げられてしまう。
「ちょっと待ったーー!!!」
そんな時だった。威勢の良い張り声が聞こえてきたのは。
見れば、街の出口の影から、1人の少女が現れた。上半分を仮面で覆い、見えている口元には不敵な笑み浮かべて、彼女よりも遥かに長いであろう槍を手にしている。
「な、なんだ!?」
「ふっふっふ。その焦りようと逃げる様、そして小脇に抱えられた麻袋…。どうやら盗みを働いたみたいね…」
犯人の男も、その急な仮面少女の登場に、足を止めて驚いている。まあ、当然だろう。なんせ、自分の道を塞ぐ存在が突如現れたのだから、足を止めない方がおかしな話だ。
「誰が呼んだか……蒼空より舞い降りし、天の御使い。我こそは空を衝く正義の乙女! 『エアリー・スカイ』とはあたしの事よ! 正義の名の下に、このあたしが成敗するわ!!」
ババーン! という効果音が聞こえそうなくらいに、名乗りと共に決めポーズをしながら槍を構えた仮面少女。端から見ればアホにしか見えないが、私達と戦闘のプロから見れば違う。その構えは大胆不敵ではあるが、ほとんど隙が伺えない。かなり戦闘慣れしているという、何よりの証だ。
それが分かっていないのか、犯人の男は仮面少女を頭のおかしな、可哀想な娘だと判断したらしく、
「へっ! 頭の沸いた小娘が! 大人をナメてんじゃねーぞぉ!」
脚に装着していたらしいホルダーから大振りのナイフを取り出し、仮面の少女に向かって無謀にも突進していく。
しかし、やはり仮面少女は余裕の笑みを以てそれを迎え撃つ。男がナイフを雑に振り回す中、仮面少女は悠々と、蝶が舞うかのごとくヒラリヒラリと全て紙一重で避けていく。仮面少女が紙一重で避けるのは、おそらくワザとだろう。現に、犯人の男は当たると思った攻撃を全て完璧に避けられて、焦りを隠せないでいた。
「くそ、くそ! クソ!!」
「ふっ! よっ! ほっ!」
元々雑だった男のナイフ捌きが、更に雑になっていく。それに伴って、無駄に力の入ったその動きは男からどんどんとスタミナも削っていき、目に見えて動きに鈍りが表れ始めた。
これはチャンスだ。下手に動いて危険な事にならないよう、様子を見ていたが、犯人がへばった今の内に取り押さえてしまおう。
「突撃するわ!」
「!? ぐべへ?!!」
すぐさま背後からタックルをかまし、犯人の男をうつ伏せに倒し取り押さえる。
「武器は取り上げさせてもらうぞ。…それにしても、突撃した後で『突撃するわ』、は無いだろうエルフィ?」
アカツキは倒れ伏す男の手からナイフを奪うと、軽口を言って笑いかけてきた。私は男が完全に伸びているのを確認して、身動きが取れないよう腕を持っていたロープ(訓練用)で拘束してから、立ち上がり埃を払うと、
「さてと……そこ」
「は、はひ!?」
そろーりと、それこそ泥棒のように抜き足差し足で逃亡を図ろうとしている仮面の少女を呼び止める。ピタリと止まった彼女は、裏返った声で素っ頓狂な返事をして、壊れたオモチャのようにギギギと振り返る。顔の上半分は仮面で分からないが、口の端はヒクヒクと痙攣していた。
「な、何で御座いましょう~……」
「一体何をしているの?」
「何をしていると言われましても…正義の味方です、としか~……」
心なしか、仮面の上からも冷や汗が伝っているような錯覚がする少女に、いや、
「そう…。なら、エリーゼ様は今、一体何処にいるの? アイシス?」
「え゛!? なんでバレて…!?」
「いいから、答えなさい」
私はおもむろに、袋からリンゴを取り出し、アイシスの目の前で持って見せる。
「な、何? 急にリンゴなんて取り出して…」
「ふん!!」
私は、手に持っていたリンゴを一息に握り締め、粉砕した。手からはリンゴの果汁が溢れ、果肉はグシャグシャになり、ポタポタと地面へこぼれ落ちていく。
それを見ていたアイシスは途端に顔を青くして、
「ひ、ひいぃぃぃ!!??」
「教えてくれたら、こうならないで済むわ」
「教える! 教えます! 教えますからどうかお慈悲をーー!!!」
うん。素直で大変よろしい。最初から承諾してくれれば、私もリンゴを無駄にせずに済んだのに……。ああ…もったいないわ……。
「お主…たまに豹変したノルンよりも怖い時があるぞ」
アカツキが何か言っていたが、聞き返してもはぐらかされてしまった。まあ、ともかく今はエリーゼ様だ。
「さあ、エリーゼ様はどこに居るの?」
アイシスからエリーゼ様の居場所を吐かせた私達は、エリーゼ様が居るという街の中心地、いわゆる商業エリアへと向かった。アイシスが言うには、エリーゼ様はネネと一緒に、三階建てで一番大きな店の屋根の上から街中を見張っているらしい。どうやって登ったのかと尋ねれば、天馬に乗って登ったそうだ。それも、まだ陽が昇る前に。人々が起き出す頃では目立ってしまうからとの事。
そして、到着して早々に、またしても事件に出くわす事となった。犯人は男の2人組で、どうやら夜通し酒を飲んでいて些細な事から喧嘩になり、やがて殴り合いへと発展、更には周囲を巻き込みながらの大喧嘩となったらしい。
それだけならまだ良かったものを、彼らの争いに巻き込まれ、突き飛ばされた人が何人もいるようで、中には怪我人も出てしまっている。これは仲裁に入らなければ、もっとひどい事になるだろう。
「はあ…次から次へと…。止めるぞ、エルフィ、アイシス」
「イエス、マム!」
「急に従順になったわね、アイシス……、って、ちょっと待って! あれは…!?」
さあ、止めに入ろうとした時、喧嘩に近づいて行く影があった。それは小柄な少女2人分。片や赤を基調として、リボンをたっぷりとあしらったメルヘンチックな衣装に身を包み、その手には先がヘコんだ杖が握り締められている。
片や黒と白をベースに、ところどころにハート型の意匠を施した、動きやすさと可愛らしさを両立した洋服で、その手にはいかにも新品そうなピカピカの魔道書が。
そして、両者共に共通しているのは、顔の上半分を仮面で隠しているという事だった。
そのどこか面妖な姿に、周囲の人々も驚きを隠せないでいたが、少女達は臆せずに喧嘩をする2人へと歩いていく。そうして喧嘩する2人のすぐ傍まで来た少女達は、その手にした杖と魔道書をそれぞれ構えて、名乗りを上げた。
「わるい心あるところ、正義のおとめが舞い降りて、悪をくじけと声が轟く! その名を呼べば、平和をもたらす正義の光! そう、あたしこそが、闇夜を照らす光の聖女、『プラチナブロンドリル』よ!!」
「良い子を守れと天が言う。悪を滅せと神が言う。さあ、我らが神の御旗の下に、正義の鉄槌を下しましょう! 悪事撲滅撲殺シスター、『マムクルート』参上! です!」
先程のアイシスと同じように、各々が決めポーズで、決めゼリフを叫んだ。
そして、その名乗りに周りの人々がざわめき始める。
「おい、今の……」
「ええ! 最近噂の……」
「ぼくしってるよ! せいぎのみかたのおねえちゃんたちだ!!」
「あの人助けして回ってるってヤツか!」
「いいぞー! 成敗しちまえー!」
ひそひそだった話し声も、次第にヤジ混じりの声援へと変わっていき、まるで歓声の中に居るかのようになっていく。それに応えるかのように、2人の少女も手を振って、口元に微笑みを浮かべて返した。
「あーん? なんだテメーラ!!」
「ジャマすんじゃねー! ガキは引っ込んでろ!!」
流石に周囲の喧しさで、異変に気付いた酔っ払い共は、仮面の少女達が自分達の近くに居る事に気付いた。まるで悪びれる様子もなく、反省などはさらさらしていないようだ。
その高圧的な態度に、少女達の口元からも微笑みが消え、場もシーンと静まり返る。当事者以外の、その場の全員が息を呑んで見守っているのだ。
やがて、片方の少女が口を開く。
「ガキ、ですか? 私が一番気にしている事を、言ってしまいましたね……」
ゴゴゴ、という轟音が聞こえてきそうな程に、どんどん気迫に満ちていくメルヘン仮面に、隣のキューティー仮面が呆れた風にため息を吐いた。
「あーあ。怒らせちゃったー。あたし、知ーらないっと。あ、でもオシオキはあたしも参加するからね?」
「は? 何言って…」
男の1人が詰め寄ろうとした瞬間、メルヘン仮面がその男に飛びかかり、ジャンピングからの大きく振りかぶった杖の叩き落としが放たれた。
ゴッ、という鈍い音を響かせて、男は沈黙と共に大地へと沈み伏していく。
「なっ…!? て、テメェ何、をォォオオ?!!」
突然の喧嘩相手の退場に、もう1人の男も咄嗟に反撃しようとするが、
「はいはーい、あなたも寝ててくださいねー」
キューティー仮面が手にした魔道書から放ったギガウィンドにより、クルクルと高速回転しながら上空へと舞っていき、数分の後、ゆっくりと地面へと降り立った時には目を回して気絶していた。口からは泡を吹いて倒れている。
「いっちょあがり~! みんなー、もう大丈夫だよー!!」
キューティー仮面もといプラチナブロンドリルが大きく手を振って、民衆に呼びかけると、
「おおおおお!!! すげえーーー!!!」
「かっこいいー!!」
「ヤバい、好きになりそうだぜ……」
「プラチナブロンドリルたん、マジかわゆす」
「マムクルートちゃん可愛い~!! なでなでしたーい!!」
「わたし、あんな妹が欲しかった……」
老若男女問わず、大歓声が湧き起こる。その中心では、怒りから我に帰ったマムクルートが恥ずかしそうに小さく手を振り返し、プラチナブロンドリルは元気いっぱいに手を振り続けていた。
「で、エリーゼ様はどうしてあんな事を為さっておられたのですか?」
あたしはエリーゼ。暗夜王国の第三王女だよ。実は今、現在進行形で怒られてるの。というのも、アイシスに誘われて始めたヒーロー活動だったんだけど、思いのほかハマっちゃって…。危ないからって理由で止められると思ってエルフィには秘密にしてたんだけど、とうとうバレちゃったの。てへぺろ!
……なーんて、ふざけてみたものの、エルフィは許してくれそうにはないし、どうしよう?
「あの、ね? アイシスに誘われて、ちょっとおもしろそうかなーって、最初は気軽にやってたんだけど、人助けをしてるうちに、ありがとうって言ってくれるのがすごく嬉しくて…つい、のめり込んじゃって…。エルフィ…ほんとうはエルフィとも一緒に正義の味方をしたかったんだけど、エルフィはあたしに過保護だから、許してくれないと思ったの。だから、エルフィには内緒だったんだ…」
「だから、最近私の事を避けてたのね…。……はあ」
うんと深いため息を吐くエルフィ。どうしよう、エルフィに嫌われちゃったかもしれない。そんなの嫌だ…エルフィはあたしにとって、一番大切な親友なのに…。エルフィに嫌われるなんて、絶対に嫌!
「ごめん、ごめんねエルフィ! あたし、もう勝手なことしないから! 危ないこともしない! エルフィの言うこともちゃんと聞くから! だから、だからあたしを嫌いにならないで! あたしとずっと、ずーーっと親友でいて!! お願い……!!」
このあいだアカツキから教えてもらった『DOGEZA』をしながら、あたしは必死に謝った。「心の底から謝る時にするといい」…って言っていたから、あたしの今できる精一杯で、エルフィに謝るしかなかった。
「………」
「………」
少しの間、沈黙が続く。エルフィに許してもらえないかもっていう不安と恐怖で、あたしの心臓はすごくバクバクと音を立ててる。今にも涙がこぼれてきそうで、必死に目をギュッと閉じて我慢する。
「……ふふっ」
あたしは顔を下に向けているから、エルフィの様子は見えないけど、でも確かにエルフィの笑った声がした。思わず反射的に顔を上げると、そこには、
「おバカさんね、エリーゼは」
いつもの、穏やかな笑みを浮かべたエルフィがいた。
「私がそんな事くらいでエリーゼを嫌いになる訳ないでしょう?」
「で、でも、エルフィすっごく怒って……」
「そうね…。確かに怒っていたわ、私。でもね…私が怒っていたのは…」
エルフィはしゃがみこむと、あたしと同じ目線の高さで、優しく微笑みかけてくれながら、
「私を誘ってくれなかったからよ。エリーゼが危険な事をしているのは、私も見過ごせないけれど、でもエリーゼは何も悪い事はしてないわ。むしろ、誰かの為になる事をしていたんだもの。だから、私が怒っているのは、エリーゼが私に内緒でヒーローになっていた事。私が一緒なら、何があってもエリーゼを守ってみせるのに……っていう、私のワガママも少し含まれているけれど」
「エルフィ…」
「いい? 今度はきっと私も誘ってね? 親友なんだもの、隠し事なんて無しよ」
「うん! エルフィ、だーいすき!!」
あたしは『DOGEZA』の姿勢から、ムリにエルフィに抱きつく。エルフィも、あたしを優しく抱き止めてくれて、なんだか胸がぽかぽかした気がした。
そんなこんなで、私とエリーゼは、今度のヒーロー活動を一緒にすると約束したのだった。ちなみに、仮面はミシェイルから貰ったもので、先日エリーゼがミシェイルに自慢していたのは、その日の活動成果についてだったのだそうだ。となると、ミシェイルはこのヒーロー活動について知っていた事になるが、多分私が聞いても教えてはくれなかっただろう。なんだかんだ言いつつ、ミシェイルはけっこう義理堅いところがあるのだ。
「うんうん、良い話だね。思わずあたしもホロリときちゃったよ!」
「ですね…」
さてと、私達のやりとりを遠くで眺めて勝手に感動しているアイシスとネネには、少しキツーイお仕置きが必要だろう。
「何を勝手に良い感じに終わらせようとしているの? まだ、あなた達へのお話は終わっていないわよ」
「ぴいぃぃ!!?」
「ア、アイシスが飢えた狼に怯えるウサギのようになっているです!?」
「お、お助けくださいエルフィ様! もう黙ってエリーゼ様を連れ出したりしませんからぁ!!」
「安心なさい。
お説教1時間プラスお尻ペンペン30発で許してあげる」
「いやあぁぁぁあああ!!!!????」
「エルフィの怪力でお尻ペンペンなんて、お尻がおかしくなるですよ!? そ、そうです! 私も、アイシスに無理やり誘われて、仕方なく…」
「その割りには、ノリノリで名乗りを上げていたみたいだけど?」
「そ、それは、その、何事も本気でやらないと失礼と言いますか……」
「そう。なら、潔く最後まで本気で、お尻を叩かれなさい」
「ひ…!? で、でえぇぇぇぇすうぅぅぅぅ!!!!????」
「ふむ…因果応報、か。正義を為したはずなのに、皮肉なものだな、アイシス、ネネよ……」
「うん…なんか、ごめんね。アイシス、ネネ……」
お尻をペンペンされて、まるで屍のように倒れ伏すアイシスと、未だ絶叫混じりに泣き叫びながらお尻を叩かれているネネを眺めながら、アカツキとエリーゼは並んで合掌するのだった。
アイシス…(ヤ)ムチャしやがって…。
という訳で、エリーゼ誕生日回の特別編でした。
気が付けば、UA50000超えという事もあり、エリーゼと自分へのちょっとしたお祝いのノリで書いていたら、何故か日頃の更新よりも濃厚で、文字数もかなり多くなってしまい(軽く1万字超え。しかも、途中で辞めないともっと長くなる恐れがありました)、一種の短編に匹敵する内容になってしまった気がします(笑)
さてさて、自分へのお祝いだけではアレですので、私の拙い文章、物語をご愛読してくださっている読者様方の為にも、感謝と祝福を込めて少しばかりサプライズを挟ませていただきました。それはずばり、
“ファイアーエムブレム覚醒、スマブラfor 3DS/WiiUをプレイした方ならばご存知のあの方の存在の示唆”
でございます。
あの方のファンには、少し嬉しいサプライズかも?
ちなみに、彼女の肩書きに関しては、彼女の持つ武器の別名(正式名称ではありませんが)と、ちょうどFGOがスターウォーズとコラボってた時にこれを思いついたが故です。あまり深い意味や他意はございませんので。
最後に、今回の反省としては、エリーゼ誕生日回のはずがエリーゼとエルフィの2人がメインとなるという始末…。あれ? どうしてこうなった?
まあ、エリーゼとエルフィは大親友ですので、そこら辺は大目にみてほしいですね、はい。
ともあれ、エリーゼ誕生日おめでとう!!
至高の幼女に幸福のあらん事を…!
そして、聖王の末裔に(早期登場の)ご加護があらん事を……。