ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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幕間 一難去りて、訪れし休息の一幕

 

 翌日、スサノオ一行は村の入り口に集まっていた。反乱は治まり、暗夜王城へと帰還する時が来たからだ。

 

「みんな、忘れ物は無いなー?」

 

 スサノオによる、まるで遠足の引率の先生がするような確認に、一同はコクリと頷きを返す。

 

「よし…では、これより帰還する。クーリア殿」

 

 クルリと反転し、見送りに出向いていたクーリア夫妻へと向き直る。

 

「部族の自治の事、確約が出来ないのが心苦しいですが、父上をどうにか説得してみせます。ただ、この戦争が終わるまでは待って頂きたい」

 

「…あなたを信じると言ったのです。我々はただあなたを信じて待ちましょう。いつかきっと、我ら氷の部族は再び自由を手にすると…期待していますよ、黄金の剣持つ『勇者』殿?」

 

 にやりと笑みを浮かべて、手を差し出してくるクーリアに、スサノオも同じように笑みで返し、その手を握り締める。

 暗夜の王子と氷の部族の族長、その両名の握手は、彼らの友好を確固なものとして、そこにいる全員に明確な形として示されたのだった。

 

「さて、行くか」

 

 最後に、クーリア達に向かってスサノオは深くお辞儀をすると、氷の村を後にした。

 そして、その後に続こうとするフローラの背に、両親から声が掛かる。

 

「フローラ…スサノオ殿にも、お前の事は頼んでいます。きっと、また元気な顔を私達に見せなさい。今度は、フェリシアも一緒に」

 

「父さん…」

 

「フローラ、母さんも父さんも、あなたの無事を心から祈っています。私達の可愛い子…いつでもまた、帰ってきなさいね? あ、今度は朗報にも期待してますからね?」

 

 と、娘からチラリと、村を後にする隊の先頭にいるスサノオへと視線を逸らすミスト。その言葉に、フローラは少しの間訳の分からないと言わんばかりだったが、母の視線の先を辿って、ようやくその意味を理解し、即座に赤面する。

 

「か、かか母さん! な、何を…ッ!?」

 

「あらあら? 私の勘違いだったかしら?」

 

「……はあ」

 

「~~~ッ!!」

 

 含み笑いで娘を手玉に取るミストと、複雑そうにため息を吐くクーリア。

 それを見て、更に顔を赤くしたフローラは、そそくさと両親に頭を下げて帰還する隊の末尾に付いた。

 そして、ある程度距離が離れ、最後にフローラは振り返り、未だ一行を見送る両親に向けて一言。届かないと知りながらも、ボソリと呟いた。

 

「私、頑張るから…。行ってきます、父さん、母さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 はてさて、ここから先は少し時間が掛かるという事で、一行は星界での休息を何度か摂りながら、暗夜王城を目指す事となった。

 

「ふう…」

 

 ちょうど、現在は休息中であり、各々が気ままに時間を過ごす中、彼女もまた、一人鍛練に励んでいた。

 休息中に鍛練とはいかがなものか、とも思えなくもないが、それが彼女の日課であるのだから仕方ない。

 

「精が出るな、エルフィ」

 

 と、そんな彼女に掛けられる声。それは、

 

「アカツキ。どうかしたの?」

 

 大岩を何度も上下に持ち上げるトレーニングを続けながら、エルフィは来客に応じる。応じると言っても、意識をそちらにも割く程度ではあるが。

 

「いや、こうしてゆったりと話すのは初めてだろう? 私が城に居た頃も、そこまで互いに顔を合わせなかったしな。これも良い機会…と思い立ってな」

 

「…そうね。私も、あなたとはお話してみたいと思っていたの」

 

 ズシン、と抱えていた大岩を地面に下ろすと、エルフィは一息つき、今度はその場に寝転がって腹筋を始める。

 アカツキも、エルフィが上体を起こした時にちょうど正面になる場所に腰を下ろし、話を続ける。

 

「…私もお主も、共に強さを…力を求める女だ。それに、その力は自分の為のものではない。我らはどこか似ていると感じていた」

 

「…そうね。私が力を求めるのは、主君であるエリーゼ様のためだし…。じゃあ、あなたは? あなたは誰のために力を求めるの?」

 

 エルフィの問いに、アカツキは眼を閉じ、優しい笑みを浮かべて答える。

 

「私は……妹のために」

 

「妹?」

 

「ああ。今は離れているが、あの子は私にとって、唯一残された家族だ。私はあの子を守るためなら、この命だって捨てても構わぬ」

 

 腹筋を一時止め、エルフィは空を眺めて、アカツキの言葉を頭の中で反芻させていた。

 誰かのために、己の命ですら投げ打ってみせる覚悟。それはまさしく、自分がエリーゼに対する想いとほぼ同じもの。

 

「私も…エリーゼ様は…いいえ、エリーゼは、私にとってかけがえのない親友。私の最初の、大切なお友達。私にたくさんのものをくれたあの子を、私は何が何でも守ってみせるわ。それこそ、命を懸けて」

 

 見つめる空はどこまでも青く、エルフィの心もあの空と同じように、どこまでも澄んでいた。その誓いを、心に深く刻み込んで今一度、自分の気持ちを再確認する。

 

「ふむ…やはり、我らは似た者同士だな。お主のような輩は人として好ましいと感じる。…ん? それだと、私は自画自賛をしている事になるのか?」

 

「…そうね。似た者同士で、自分に似ている人を褒めるのだから、そうとも言えるかも」

 

 途端に、アカツキは珍しく頬を染めると、そっぽを向いてしまう。その様子を、上体を起こして見たエルフィは、自然と笑っていた。

 

「そうだわ。アカツキ、あなたは技。私は力。それぞれが互いに刺激し合えば、良い訓練にもなると思うんだけど…」

 

「ほう…面白いな。白夜には、こういう言葉があるらしいぞ。『切磋琢磨』。互いに競い合い、磨き合う事によって、共に高みを目指していくという言葉だ」

 

「切磋琢磨…。良いわね、それ。私、そういう関係を築ける相手がずっと欲しかったの。エリーゼは私の守るべき存在だし、ハロルドじゃ、私の訓練には付いて来れないし…。ミシェイルは絶対に付き合ってくれそうにないし…」

 

「そうか。私で良ければ、お主の良き訓練仲間になろう。今度、それぞれの訓練内容について話してみるか」

 

「ねえ、それなら今からでも良いわよ」

 

 こうして、訓練好きな女子2名による、女子会とは程遠い何かが始まるのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 所変わり、場所は食堂。ここでは、ライル、ネネ、ミシェイル、そしてゼロが時間を過ごしていた。

 とは言っても、ミシェイルはネネにせがまれて料理をひっきりなしに作り続けており、ネネもひたすらに料理を食べ続けている。

 ならば、ライルとゼロは何をしているかと言えば、ライルは資料の整理、ゼロはライルが必要な資料のピックアップをしていた。

 

「まったく…俺にナニをしてほしいのかと思ってみれば、まさかこんな事を手伝わされるとはねぇ…」

 

 ぶつくさと文句は言うものの、仕事を確実にこなしている辺り、流石はレオンの臣下といったところか。

 

「仕方ないでしょう。今居るメンバーで、こういった事をこなせるのはゼロ以外にフローラとスサノオ様、ミシェイルくらいなものです。ですが、ミシェイルはあの通り手が離せないですし、フローラはスサノオ様の身の回りの世話に熱心ですし、こんな雑用をスサノオ様に手伝わせる訳にもいきません。なので、必然的にあなたに白羽の矢が立ったんですよ」

 

 テキパキと、不要な資料をまとめていきながらも、適宜メガネに手を伸ばす辺り、彼はメガネにどれだけこだわっているのかがよく分かる。

 

「他の連中はどうなんだ? オーディンにアイシス、ノルンとハロルドは? エルフィとアカツキはさっき二人っきりで熱く語らってたから除外するとしてだ。…一体ナニを二人っきりでシているのやら」

 

「オーディンはすぐに変な病気が出るので却下です。その度に作業が遅れるのは面倒ですので。アイシスは論外です。あれでドジなところが多々見られるので、作業に集中出来る自信がありません」

 

「ハロルドは…アレだな。アイツの不運で、仕事が捗らんか。ならノルンはどうだ? それこそ、アイツには適任だと思うが」

 

「ノルンは“今は”無理です。さっき頼みに行ったのですが、お守りを使っての訓練をしていましたので、当分は近寄らない方が良いでしょう」

 

「ああ、アレか。あの魔神顔になる人格の切り替え…を訓練してるんだったか? あんなもんで訓練になるのかは知らないが、確かにアイツのアレは強いからな」

 

 手だけは止めずに、ゼロはノルンの魔神顔を思い出す。初めてアレを見た時、不覚にも彼は息を呑んで驚愕したのだ。ちなみに、ノルンの豹変を見て驚かなかったのは、ライル達を除けばマークスの臣下であるピエリという女騎士だけだった。

 

「はあ…。まあ、イイさ。同じ主君を持っていたよしみだ。少しは手伝ってヤるよ」

 

「恩に着ますよ、元同僚さん。…その妙な話し方さえ無ければ普通に優秀な人材なのですが」

 

「おいおい。別に俺は変なつもりはないぜ? そう感じるのはお前たちの勝手だろ」

 

 悪びれる素振りは全く無く、むしろ開き直っているゼロの様子に、ライルは思わず眉間に指をつき、

 

「はあ…、あなたのそれは諦める方が賢明ですね。さあ、さっさと資料を探して下さいね」

 

「はいはい…。ところでこんなもの集めて、どうするつもりだ」

 

 と、ゼロはある程度の資料をまとめて、ライルに手渡す前にその手にした資料に目を通して尋ねる。

 ライルもまた、作業を止めずに、資料に目を通しながら答える。

 

「いえ、帰ってからの心配事に、今の内にある程度対策を立てておこうと思いまして」

 

「対策、ねぇ…。何したかは知らんが、面倒事に巻き込むなよ」

 

 そう言って、ゼロは資料をライルの前に投げ渡した。バラバラと一纏めにされたそれはページが捲れ、開けた部分には断片的にではあるが、こう書かれていた。

 

 

『──の部族の末裔、シェイド女史のノスフェラトゥ研究の成果に関して。死者を用い──』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び場所は変わり、星界内に作られた厩舎において、アイシスは天馬と共にオーディン、ハロルドととある話し合いをしていた。と言うのも…、

 

「いやいやいや! 決めポーズはやっぱりこうだよ!」

 

「ふっ…甘いな、アイシス。そうではなく、こうだ!」

 

「ふむ。それよりもこちらの方が良くないだろうか」

 

 それぞれが奇妙なポージングをしながら、議論をしているのだ。

 どれもが奇妙かつ珍妙なポージングでありながら、自分ではそれが格好良いと思っているのだから、まるで終わりの見えない討論会のようである。

 

「え~? やっぱり勝利のポーズなんだから、空の王者な鷹のポーズが格好良いよ!」

 

「いや、甘美なる勝利の美酒に酔いしれるポーズの方がカッコいいに決まってる! ほら、こう顔に手を当てて、『ふっ…』ってクールに決める感じで」

 

「うーむ…オーディン君のは、少しキザすぎやしないかい? やはり、ここはシンプルに筋肉と勝利の栄光をイメージした、両腕を上に掲げるポーズの方が…」

 

「ないない。あたし女の子なのに、そんなマッチョなポーズは似合わないよ。ここはやっぱり、大空の覇者である鷹のポーズを…」

 

「…いいや。やはり俺のポーズが一番カッコいい。キザで結構。むしろ上等だ。勝者なんだから、余裕を醸し出してる方がそれっぽいだろ」

 

「そんな事はない。万人に理解される私のポーズの方が、より印象も良いし、何より覚えて貰いやすいと思うぞ」

 

「分かってない! 全然分かってないよ2人共! 第一、あたしは天馬騎士なんだから、空をイメージしたポーズが良いに決まってるじゃん!」

 

「それを言ったら、俺は孤高なる闇の戦士なんだし、やっぱり闇の戦士っぽく、カッコつけたポーズが良いに決まってるだろ!」

 

「私は正義の味方として、皆から親しみを持たれるこのマッスルポーズこそが相応しいのだよ!」

 

「と言うか、あたし達はそれぞれが好きなポーズをしたら良いだけ…って事?」

 

「それもそうだな…。何も、無理して他人に合わせる事はないし…」

 

「まあ、そうなるね…。そもそも、アイシス君が格好良いポージングの研究と称して私達を誘ったのだから、別に自分のポージングが一番であるかを競う必要もなかったような…」

 

「…それもそっか。よーし! じゃあ、今からは互いに格好良いと思うポージングを教え合おうよ。主観的な意見だけじゃなくて、客観的な意見も欲しかったんだよね」

 

「よし、そうするか! なら、まずはハロルドのポージングは…」

 

 

 結果的に、収まるところに収まった3人なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、スサノオとエリーゼ、フローラは現在、スサノオが竜脈により建てたスサノオの部屋に居た。

 

「これから大変だな…」

 

 フローラの淹れた紅茶を手に、スサノオは先を見据えてボソリと呟く。その顔には、明らかな憂鬱が見て取れた。

 

「お父様は頑固だもんね。説得するのはたいへんそう…」

 

 同じく、スサノオの対面で、ソファに腰掛けながら紅茶をすするエリーゼは、父の性格を思い出して苦笑いを浮かべる。

 スサノオの背後に控えるフローラの顔にも、2人に対する同意が浮かんでおり、あまり顔色も優れないように見える。

 

「昔はガロン王も、今のようではなかったと父から聞きましたが…」

 

「うん。あたしも、レオンおにいちゃんから聞いたんだけど、昔のお父様は自分で戦場の最前線に立ってたくらい勇猛果敢で、それでいて子煩悩で、レオンおにいちゃんを肩に乗せたこともあったんだって」

 

「あの父上がか…? 今の父上からでは、想像もつかないな」

 

 スサノオの知るガロンは、出会った時から今に至るまで、まるで変わったところは見られない。となると、ガロンはスサノオをさらうより以前に、今のように変わったという事になる。

 

「うん。あたしが生まれた時には、もうお父様は今みたいな感じだったんだって」

 

「つまり、ガロン王に何かがあって、それがきっかけで今のようになった、と?」

 

「だな。それも、ずいぶんと前に。この辺に関しては、帰ってからマークス兄さん達に聞いてみよう。レオンが昔の父上を知ってるって事は、当然マークス兄さんとカミラ姉さんも知ってるはずだ。そして、父上が変わってしまった原因にも心当たりがあるかもしれない」

 

 きっかけさえ分かれば、ガロンを昔のように戻せる方法も分かるかもしれない。そんな淡い希望を胸に、スサノオは紅茶を一気に飲み干す。

 無駄かもしれなくとも、少しでも可能性があるのなら、それに縋らない訳にはいかない。暗夜王国を内側から変えるという、壮絶なる難題を前に、使える手段は全て使う。それくらいの心持ちでなければ、到底叶わぬ夢──否、目標であろう。

 

「とにもかくにも、まずは帰還、そして報告だ。何事もなく済めばいいけどな…」

 

 一縷の不安を抱いて、スサノオは紅茶のおかわりをフローラへと頼むのだった。

 

 






 一方その頃、ノルンはというと……、


「はあ…、……………ふ、ふは、フハハハハハ!! 我は最強なり! 邪魔をする者は全て屠る! フハハハハハハハハハハハ!!!!! ………ふう。疲れるわ…」

 1人、星界の片隅にて、人格を即座に、自由に切り替える訓練をしているのだった。


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