ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

89 / 113
第38話 氷結の統率者

 

「………、」

 

 氷の部族の長であるクーリアは、現在の戦況を前に顔をしかめていた。

 というのも、最初こそはこちらが優勢だった。向こうが戦闘の手練れ揃いであっても、数の差から見ればこちらが完全に勝っていた。戦闘経験こそ少ない部族兵だが、その欠点を補うように、むしろ上回る程に氷の部族特有の力と、この氷の大地は相性抜群だったのだ。相手が大軍でない限り、こちら側が不利になる事などそうそうない、はずだった。

 

 それがどうだ。強味であった地の利は、たった2人によって崩された。あちらこちらで立ち上る炎の柱は、みるみるうちに氷や雪を溶かし、吹雪さえもせき止めてしまう。それは自然発生のものばかりか、能力によって生み出した吹雪をも消し去ってしまうのだ。

 それにより、こちら側は一度に二つ、圧倒的だったはずの有利性を簡単に奪われてしまったのである。そして、徐々にではあるが、形勢は既に劣勢へと向けて傾きつつある。

 

 たった2人。されど、やはりは王族というべきか。神にも等しきと呼ばれる、その竜脈を自在に操る力を前には、何人でさえも霞んでしまう。どんなに強かろうと、多かろうと、優勢であろうと、関係ない。

 1人いれば一個師団とも渡り合えるというその力は、紛れもない本物だった。1人で戦況を変えてしまうという噂は、真実なのだと身を以て知らされた。

 これが王族。竜の血を引きし者。こんな天と地程の差を見せつけられて、どうしろというのか。その傲慢とも言える力で、なおも従えというのか。であっても、それは是が非でも拒否する。

 

 部族の意志は既に決まっている。暗夜王国のやり方はとてもではないが賛同出来たものではない。となれば、最悪の場合、氷の部族は滅びる定めにあるのかもしれない。

 願わくば、闘う力を持たぬ者達に救済を与えてもらえる事を。この闘いで、氷の部族は敗北する。部族の長として、クーリアは負けると分かっていても、闘う事を辞めない。辞めてはいけない。これは、部族を率いる者としての義務なのだ。

 

「…来たようですね、スサノオ殿」

 

 そして、彼の前には、仲間の力を借り、襲い来る部族兵達の猛攻を切り抜けて来た暗夜王子が立っていた。その手に、氷の部族の伝承に登場する“勇者が持つとされる黄金の剣”によく似た剣を持って。

 

 

 

 

 

 俺は何度かの部族兵との戦闘を受け、時にはかわし、時には倒し、そして時には仲間の援護を受けて、ようやくクーリアの前へとたどり着いた。

 竜脈による炎柱の発生は、数にして20といったところか。それにより、氷の部族が放つ吹雪の猛攻は打ち消され、更には炎の熱で寒さを気にせずに闘う事が出来るようになり、ライルの防寒魔法も今は気にする必要がなくなった。

 こうなれば、エリート揃いの彼らを相手に、部族兵達は勝てないだろう。それだけの実力差で、数の利でさえも埋めてしまうのだから。

 あとは、俺がこの闘いに決着をつけるだけだ。

 

「クーリア殿、改めて言おう。俺達はあなた方と闘う為にここに来たのではない」

 

「何を言っているのです。現に今、こうして闘っているではないですか」

 

「それはあなたが俺の話を聞いてくれなかったからだ。俺達はあくまで、自衛の為に闘っているに過ぎない」

 

「……、だからといって、そうおいそれと暗夜の者の言葉を信じられるとお思いか?」

 

 その言葉は、俺にとって重くのしかかるものだ。たとえ俺にその意思が無くとも、『暗夜王国』という肩書きがあるだけで、そこに敵意や不満を持つ者達からは信用されない。

 だが、それは当然の事なのだろう。それだけの事を、暗夜王国はやってきた。父上は命じてきたのだから。不満どころか、憎悪さえ芽生えても当然かもしれない。憎しみは、憎しみや悲しみ、絶望といった負の感情しか生み出さない。

 

「確かに、俺達は、暗夜王国はそれだけの事をしてきた。そんな国の人間の言葉を信じてくれ、なんて虫のいい話だ」

 

「分かっているのなら、もはや話など──」

 

「だけど!!」

 

 俺はクーリアの言葉を遮ってでも叫ぶ。これだけは、どうしても伝えなければならない事だから。

 

「暗夜王国に住む全ての人間が、そうであるなんて事はない! 確かに、悪い人間だってたくさんいる。犯罪だってある。暗夜王国は他国を侵略する。でも、それと同じくらい、良い人達だってたくさんいるんだ!」

 

 俺は知っている。マークス兄さん達きょうだいの暖かさ、優しさを。

 俺はこの目で見ている。暗夜王国地下街での笑顔に溢れた賑わいを。

 臣下達だって、こんな俺の為に危険を承知で付いて来てくれている。

 そうだ。暗夜王国にだって、暖かい人達が確かにいるんだ。

 

「それを証明するためにも、これだけは言っておきましょう。俺達は、この闘いであなた方を誰一人殺さない。この闘いにおいて、一切の死者を出しはしないと」

 

「……何ですと?」

 

 俺のその宣言に、クーリアは俺の背後へと目を向けた。それは驚くだろう。遠目では、倒れた部族兵の生死を判断するのは難しいはずだ。そして、その倒れた仲間は死んでいないと、目の前の“敵”が言っているのだから、驚かない訳がない。

 だが、俺は断言しよう。俺のはるか後ろでは、仲間達が部族兵を殺さないように闘っている。俺は、仲間達を信頼している。絶対に約束を守ってくれている、と。

 

「……だが、だからといって、我々は暗夜に従う気はありません。あなたの要求を呑むという事は、今までと何も変わらないのと同じです」

 

「それは……、」

 

 クーリアの意見は正しい。そもそも、彼らは暗夜王国に不満を持ったからこそ反乱を企てた。それを今抑えたところで、いずれ再び不満が募り、また同じ事が起こるのは目に見えて分かる。

 

「あなたに、それを覆す意思があるというのなら、私は喜んで反乱を中止しましょう。我々の望みはただ一つ。暗夜王国による支配ではなく、我々による自治を認めてほしいだけなのです。それが叶わないのならば、やはり今ここで闘うしかありません」

 

 言って、クーリアは手にした魔道書を開く。それは、彼が戦闘態勢に入ったという何よりの証だった。

 

「くそ、やはり一度場を治めるしかないか…!」

 

 戦闘は避けられない。今は説得を諦め、ひとまずはこの闘いに勝ち、クーリアに話を聞いてもらい、部族兵達にも闘いを止めてもらわねば。

 

「私とて、部族の長。簡単にはやられはしません。『フィンブル』!!」

 

 クーリアの開いた魔道書を持つ手とは反対の手から、人の頭程ある大きさの氷塊が撃ち出される。それを夜刀神で弾こうと後ろ手に構えたところで、急に氷塊の飛来速度がグンと上がった。

 

「!!?」

 

 今から夜刀神を振っては間に合わない。とっさに腕を竜化させて、硬質化した竜腕でそれを受け止める。

 

「ぐぅ…!」

 

 先端が尖ったそれは、速度と大きさも相まって、硬質化した竜腕をも削り抉っていた。腕からは、少量だが血がポタポタと垂れ落ちて、真っ白な雪を点々と赤く染める。

 

「どうして急に速度が…?」

 

 突然の氷塊の変化に疑問を持つが、クーリアはそれに構う事なく、次の氷塊を作り出していた。

 

「チッ! またか!」

 

 先程と同じく、勢いよく射出される氷塊。それを今度はあらかじめ、その軌道から外れておく。さっきのあれには何か仕掛けがあるはずだ。それを横から見て、少しでもヒントを得たかった。

 すると、やはり横から見た限りでも、さっきと同じように急に氷塊の速度が段違いに上がり、先程まで俺が立っていた所を素通りしていく。

 

「そうか…!」

 

 そして、俺はその一連の動きを見て、仕掛けが何かを理解した。答えは、クーリアの手にある。氷塊が放たれたその手は、放った時と変わらず前に突き出されたまま。そこから、吹雪を起こして氷塊の速度を高めたのだ。

 

「仕掛けに気付いたところで、何も変わりはしません!」

 

 そして、クーリアは種がバレたのを気にする素振りすら見せず、それどころか問題ないとまでに吠える。

 その自信はまぎれもなく本物で、彼は手のひらを上に向けると、今度は先程の氷塊を同時に4つ生み出し、それを間髪入れずに連続で撃ち出してくる。

 

「うおぉ!?」

 

 避ければ今度はその避けた先に次の氷塊が飛んでくる。それを紙一重でかわし、または夜刀神で叩き落としていく。無論、やはり速度が急に上がるため、完全には回避しきれず、いくらか体を掠めていた。

 

「まだまだ!」

 

 再び、クーリアの手の上に大きな氷塊が数個生み出される。氷の部族と氷魔法がこれほど相性が良いとは想定外だった。いや、予想出来たはずなのに、しなかった。完全に油断だ。

 このまま同じ事を繰り返していても、ジリ貧になるだけだ。ただでさえ、さっきまでの攻撃でこちらも少し痛いのを喰らっている。何か対策を取らなければマズい状況だ。

 

 クーリアは氷塊を連射しながら、即座に氷塊を生み出し、そしてまた連射していく。それを繰り返し、俺もまた、避けては弾いて、そして少しダメージを受けてを少しの間繰り返す。

 既に、俺の体はあちこちが痛んで、血が滲んでいた。だというのに、こちらはまだ攻撃一つ出来ていない。

 

(多少の傷は覚悟してくれよ…)

 

 こうなれば、魔竜石の力を使うしかない。懐に仕舞った魔竜石に手を当てる。ただ、今は意識を集中する暇はない。全身ではなく、手足のみにオーラを纏い、回避性能の底上げと同時に身体能力強化により攻撃の機会を作る。

 

「! やはり王族は不可思議な力を使うようですね」

 

「それはお互い様だろう。何だよ氷の力って。すごくカッコイいじゃないか!」

 

 俺の姿にクーリアも流石に驚いたようだが、だからといって怯むような様子もなく、なおも冷静に氷塊を生成している。

 

「ならば、これでどうです!」

 

 そして、また氷塊を連続で射出していくが、今度は速さだけでなく、飛ぶ最中で氷塊は大きくなっていく。それは着弾範囲を大きくするどころか、殺傷能力すらも強化された、それぞれが直撃すれば必殺の一撃だ。

 

「ふっ!」

 

 だが、俺はこれら全てを完全に避けきる。強化された脚力があれば、多少の大きさが変わった程度は問題なく回避出来る。

 

「なに…!?」

 

 流石に全てを難なく避けられるとは思わなかったのか、先程よりも濃い驚愕の色を浮かべるクーリア。そこには、焦りの色すら伺える。もしかしたら、さっきの連続大氷塊発射は、彼にとってとっておきだったのかもしれない。

 それをかわされたという事は、切り札が通用しないのと同義。それはもう、焦りもするだろう。

 これを皮切りに、クーリアの作り出す氷塊にブレが生じ始める。大きさがバラけたり、照準が上手く合わなくなったりと、確実に動揺しているようだ。

 

「行ける…!!」

 

 少しずつ、着実に、俺はクーリアに近付きつつ、飛来する氷塊をかわし、夜刀神で打ち落とし、手足で直接砕いたり、と一手一手を潰しながら前へと進む。

 

「く…っ!」

 

 そしてとうとう、クーリアの額に浮かぶ汗が目で分かる距離にまで達し、クーリアが俺へと向ける手を、氷塊が生み出される前にオーラを伸ばした手で掴む。

 その怯んだ一瞬の隙を突き、俺は夜刀神でクーリアのもう片方の手、そこにある魔道書を斬り捨てる。魔道書は夜刀神による斬り上げを受けてクーリアの手から離れ、真っ二つになりながら地面へと落ちた。

 

「これで終わりだ、クーリア殿」

 

「無念ですね…私の、負けだ」

 

 そして、彼は膝を付き、目を閉じて俯いた。その唇を悔しげに噛み締めて。

 ここに、氷の部族との戦闘は終結を迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 間もなく、クーリアによって村全体の投降の宣言が為され、まだ闘える余力のある部族兵達も、縄で手を縛っている。

 考えたくはないが、もしもの事を考慮した上での措置だ。最後の抵抗で、全力で襲い掛かってこられては話し合いも何もない。

 

「さて、ようやく落ち着いて話が出来るな」

 

 仲間の皆が固唾を飲んで見守る中、俺は、正座をして覚悟を決めたような顔のクーリアに向けて、俺も地面に膝を付き話しかける。

 俺の言葉に、しぶしぶと顔を上げて、クーリアはその重々しい口を開いた。

 

「語る事など、もはや無いでしょう。我々は負けた。それでも、暗夜に従う気はもう更々ありません。かくなる上は、我ら氷の部族の誇りを懸けて、死を選びましょう。ここにいる戦士達も皆、私と同じ覚悟です。ただ、どうか力無き者達だけでも命を奪わないで頂きたい」

 

 彼の言葉に続くように、部族兵達は俺へと一斉にその力強き視線を向けてくる。死を覚悟した、勇士の眼だ。彼らをここで失うにはかなり惜しい事。それだけは防ぐべきだと実感させる意志の強さが伝わってくる。もちろん、最初からそのつもりだったのだが。

 

「クーリア殿。あなたはさっき俺に、“暗夜王国のやり方を覆す意思があるか”と問いを投げた。その答えを、俺は答えられなかったが、あなたと闘い、その真意を知り、俺はやっと答えを導き出した」

 

「………」

 

「俺は決めた。この国を、暗夜王国を内側から変えていく。今の父上…ガロン王のやり方は、認めるべきじゃない。侵略や支配以外にも、もっと良い方法はいくらでもある。傷つけ合うのではなく、手を取り合って生きていく道が」

 

 その場の誰もが静まり返って、その中心には俺が居た。今この場は、俺の舞台なのだ。役者、それも主演が下手を打つ訳にはいかない。

 

「あなたの言葉は、確かに聞こえは良いでしょう。しかし、それを証明するという目的の為に、死者を出さなかったのかもしれない。少しの疑念でも、私はあなたを信用は出来ないのですよ」

 

「…どうあっても、俺では信用に足らないと……」

 

 申し訳なさそうに、クーリアは俺から目を反らし、黙ってしまう。これ以上の議論は無駄だと言わんばかりに。

 どうする、どうすればいい、どうしたら彼らと和解出来る?

 このままでは、いずれ舌を噛んで自害しようとまでするかもしれない。何か、何か方法は無いのか?

 

 そうやって、考えあぐねていた俺の耳に、

 

 

 

「そんな事はありません!!!」

 

 

 

 ある叫びが届いた。喉が張り裂けるのではないかと思ってしまう程に必死な叫びは、しかしどこか可憐で柔らかな声音を内包し、それがどれほど無理をして叫んだのかが分かる程に。

 

「…フローラ?」

 

 それはメイドの少女の声だった。メイド服はしわくちゃで、所々破け、全身を埃や泥で汚し、その手は痛々しいまでに裂けて血が滲んでいた。

 彼女が必死で、閉じ込められていたどこかから抜け出してきたのだという事が、一目で分かるその姿。

 

「フローラ、どうしてお前が外に……!?」

 

 閉じ込めていた張本人なのだろう、クーリアは今日一番の驚きの顔を浮かべ、娘の姿に目を見開いていた。

 

 フローラは、全身をボロボロにしながらも、それでもなお力の限り叫び続ける。

 

「スサノオ様は決して、信用に足らないお方ではありません! 私の暗夜での日々に、暖かな心を向けてくれた! たかが使用人の私やフェリシアにも、親しく接してくれた! その優しさを、私は毎日目にしていた! ひたむきに努力する姿をずっと見てきた! だからこそ、私は自信を持って言えます! スサノオ様は信頼に値するお方であると!!」

 

 ボロボロの姿で、今にも倒れそうな足付きで、フローラは必死に叫んだ。俺は、フローラがそんな風に思ってくれていたなんて、ちっとも知らなかった。俺にとっての普通は、彼女にとっては特別で、大切なものだったのだと、今初めて知った。

 

 フローラの心を、初めて直に見た気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 娘のその姿に、クーリアはやっと分かった。娘は最初から、嘘なんてついていないし、洗脳されてもいなかった。これは、娘が本心から、スサノオという1人の人間を信頼していたというだけの話だったのだ。

 親として、娘の気持ちを汲んでやれないとは、なんと情けない事か。焼きが回ったという事なのかもしれない。村の事ばかりを考えていた自分には、娘の事が何も見えていなかった。村を、部族の行く末を案じるばかり、目が曇ってしまっていた。

 でも、ようやく目が覚めた。他ならぬ、大切な娘によって。娘を信じずして何が親か。ならばこそ、既に答えは決まっている。

 

「……私の負けです、スサノオ殿。あなたの事を信じてみましょう。娘からのお墨付きとあらば、安心出来るというものですからね」

 

「じゃあ…!」

 

「ええ。我ら氷の部族は、反乱を中止いたしましょう。そして、あなたを信じて待ちましょう。いつか、あなたが暗夜王国を変えてくれると信じて、氷の部族に自由を取り戻してくれると信じて」

 

 そしていつか、世界に平和が訪れると信じて。

 

 ここに、氷の部族の反乱は完全に終結した。

 




 
「ベロアの『くんくん、ガルーアワーズ』…」

※ここからは台本形式でお送りします。

ベロア「終わりましたね…」

カンナ「終わったねぇ…」

ベロア「終わってみれば、氷の部族の反乱も、案外あっさりしたものでしたね」

カンナ「そうだねぇ…」

ベロア「フローラの叫びは、聞きようによっては、愛の告白にも取れますよね…」

カンナ「だねぇ…」

ベロア「……」

カンナ「……」

ベロア「カンナ、今日はずいぶんとテンションが低いですね」

カンナ「え? 別にそんなことないよ~……」

ベロア「そうですか? それなら、別にいいのですが…」

カンナ「安心して? あしすたんとの仕事もちゃんとするから。それじゃあ、今日のげすとさん、どうぞ~」

ベロア「気の抜けた掛け声ですね」

ジークベルト「やあ! 今日は私がゲストを務めさせてもらうよ」

カンナ「あ、ジークベルトだ。今日はよろしくね」

ベロア「いつも思うのですが、ジークベルトとジークフリートって紛らわしくないですか?」

カンナ「あ、あたしもわかる! 似てるよね、名前」

ジーク「それは私にも言われても困るけどね…。まあ確かに、紛らわしくはあるかもしれない」

ベロア「将来的に、ジークベルトはパパの神器を受け継ぐんですよね。そうなった時、ジークベルトがジークフリートの所有者となる訳ですが、ややこしいのではないかと思います」

ジーク「うーん…痛いところを突かれてしまったな。私の名前とジークフリートを勘違いする人も居るそうだし、悩みの種と言えるかもしれない」

カンナ「ところで、それって今日のテーマじゃないよね?」

ベロア「そうです。では、さっさと本題に入りましょう」

ジーク「おや、あれは母上…何か持っているね。えっと、『フローラはどうやって倉庫から抜け出したのか?』…だね。確かに、気になる点ではあるな」

ベロア「それに関しては、本編に載せようかと思ったらしいですが、そこまで重要でもないかとの判断で、ここに掲載する事になったそうですよ」

カンナ「それじゃあ説明始めるね~。えっと、倉庫に閉じこめられた時に気になるところがあったよね?」

ジーク「ああ、フローラさんが何かを探していたね。たしか…子どもの頃の思い出から、それを探していたかな?」

ベロア「率直に言ってしまえば、亀裂です。フローラは、子どもの頃に見た亀裂を思い出して、そこを掘ったんです」

カンナ「でも、地下にあるよ?」

ジーク「その通り。でも、それが通路側にあったとしたら話は別だ」

ベロア「その壁さえ崩してしまえば、外に出られますからね。扉を壊すという手も考えられますが、地下の倉庫な訳ですから、木製では腐る可能性もあるので、扉は木材で作られたものではないとお考えください」

ジーク「そして、亀裂があるのなら、そこを削った方が早いだろうからね。それでも、人が1人通り抜けられる穴を掘るのは大変な作業だったはずだ」

カンナ「あ! だからあんなにボロボロだったんだね!」

ベロア「そうですね。フェリシアが氷像を作れるという事は、それなりに大きな氷を作れるという事です。なら、先端の尖った棒状の氷もたやすく作れるでしょう」

ジーク「だが、やはり所詮の氷だ。石壁をそう容易くは崩せない。だから、彼女は何度も氷の棒を作っては砕け、作っては砕け…それを繰り返していたんだろう。当然、壁を削る訳だから手にも相当の負荷が掛かる」

ベロア「だから、フローラは手から血を流していた訳です。服に関しては、小さな穴を無理矢理通ろうすれば、破けたり汚れたりして当然でしょう」

ジーク「そうして、彼女は満身創痍でスサノオさんの元に駆け付けたんだ。だから、ベロアが最初に言っていたように、彼女の愛の力がそれを成し得たとも言えるのかもしれないね」

ベロア「盗み聞きですか? 仮にも次期国王ともあろう者が、はしたないですよ」

ジーク「す、すまない! たまたま聞こえただけなんだ。悪気はなかったんだよ」

カンナ「ジークベルトはそんな事しないって知ってるから、大丈夫だよ!」

ベロア「まあ、わたしも本気で言った訳ではないので、あまり気にしないでください」

ジーク「あはは…ベロアのは、冗談に聞こえないからね…まあ、良かったよ」

ベロア「それでは、そろそろお開きとしましょう」

カンナ「ねえねえ。どうして『お開き』で終わりって意味なの?」

ベロア「…ジークベルト」

ジーク「無垢なる子ども程、恐ろしいものは無いというからね。さしものベロアでも、純粋さには勝てなかったか」

カンナ「それでそれで? どうしてなの?」

ジーク「後で教えてあげるから、とりあえずこの収録を終えてしまおうか」

カンナ「そうだね。それではみなさん」

ベロア「次回もよろしくお願いします」

ジーク「ありがとうございました!」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。