ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第35話 謎の訪問者と末妹姫のテヘペロ

 

 話し合いという名の説得へと赴くために、俺はフローラに連れられ、長のいる部屋へと向かっていた。考えたくはないが、万が一のために夜刀神を腰に差したまま、フローラの父との対談に臨むつもりだ。

 本来なら、説得に武器を持ったままでというのはするべきではないのだろう。ただ、俺は今1人。もしも、という可能性を考慮すると、身を守るための物くらいは側に置いておきたかったという理由から、夜刀神を帯刀したままにすると決めた。

 

 だからといって、夜刀神はあくまで自衛のための手段としか考えてはいないのだが。

 俺は部族の者の命を奪うつもりは更々無い。

 

 少しして、俺はこの家のとある一室の前までやってきた。部族の長だけあって、家も少し大きめのようで、俺が寝ていたのは離れの部屋だったようだ。

 

「着きました、スサノオ様」

 

 フローラが扉の脇へと逸れ、俺に道を譲るように立ち止まる。

 

「ああ。ありがとう、フローラ」

 

「…本当に、よろしいのですね?」

 

 不安そうに再度尋ねるフローラに、俺は決意を込めて頷き返す。

 

「もし説得が失敗しようとも、俺は誰の命も奪わないから、安心してくれ」

 

「…私が心配しているのは、そちらではありません。私は、あなたの身を案じているのです」

 

 俺の言葉は的外れだったらしく、フローラはため息を吐いて俺の身を案じる言葉を口にする。

 

「…悪いが、それについては保障出来ないかもしれない。ただ、もし俺が死んでもそれは俺の責任だ。だから、フローラは俺の死を絶対に背負うなよ?」

 

「……、まったく、スサノオ様はどこまでもお優しいのだから。あなたのような主君を持てて、私はメイドとして誇らしい限りです」

 

 不安は拭えなかったようだが、少し笑顔を取り戻したフローラ。そして、フローラは扉へとノックする。ついに、運命の時が来たのだ。

 

「誰ですか」

 

 中から男性の返事が。フローラはその返事に対し、

 

「私です、父さん。倒れていた方が目を覚まされ、父さんとお話がしたいとおっしゃるので、お連れしました。部屋に入れてもよろしいでしょうか?」

 

「おお…目を覚まされたのですか。よし、ではお通ししなさい」

 

 了承を得、フローラが扉を開く。そして俺はフローラの招きに応じ、室内へと足を踏み入れた。

 

 ここは書斎のようで、奥の方に40代くらいの男性が机を前に腰掛けていた。

 彼は俺が入ってくると、立ち上がり笑顔で会釈をしてきた。一応は歓迎的であるようだ。

 

「これはこれは、無事お目覚めになられたようで何よりです」

 

「お陰様で、危ないところを助けて頂き、本当にありがとうございます」

 

「いいえ、礼には及びませんよ。こちらとしても下心あっての事でしたので…」

 

 彼はフローラに椅子を用意させると、俺に腰掛けるように促してきた。俺はその厚意に素直に甘え、フローラが用意してくれた椅子に腰掛ける。

 

「おっと、まだ名乗っていませんでしたね。私はクーリアと申します。こちらは私の娘のフローラ。私はこれでも、この村の長をさせて頂いております」

 

「俺はスサノオと言います。…ところで、下心というのは?」

 

 俺の質問に対し、クーリアは視線を少し下に下げた。正確には、俺の腰に差した夜刀神に。

 

「ええ…。この村にはとある伝承があるのです。それがあまりにスサノオ殿と似ていたため、あなたを助けたのですよ」

 

「その伝承なら、娘さんからお聞きしました。確か…黄金の剣を持った勇者が世界を救うとか」

 

「はい。それ故に、私達はあなたを見殺しに出来なかったのです。本来なら、部外者を村に招き入れるような真似はしないのですが…あなたは例外です。もしあなたが伝説の勇者だった時、それを死なせてしまったとあれば、末代までの恥となりましょう」

 

 クーリアの言い方から察するに、それだけ氷の部族にとって伝承は重要なものであるのだろう。

 

「それにしても、最近は訪問者が多い。招かれざる客人の方が多いのですが、正式に村に招き入れたのは、あなたを含めれば5人目でしょうか」

 

 招かれざる客人というのは、多分暗夜の密偵だろう。ならば、俺の他にこの村を尋ねてきた4人とは…?

 その内の2人はアカツキとネネだろう。じゃあ、あとの2人は…?

 

「一つお聞きしても?」

 

「どうぞ、何かありましたか?」

 

「俺はその勇者になぞらえられて助けられたのなら、他の4人はどうしてなのかと思いまして…」

 

 俺の言葉にクーリアは少し考え込むように、顎に手を置いて黙り込む。その様子に、俺はチラリとフローラを見ると、フローラはギュッと口を閉じて父親へと一心に視線を向けていた。かなり不安なようだ。

 

「そうですね…」

 

 と、クーリアが口を開く。感じからして、考え込んでいたのではなく、何かを思い出しているようだった。

 

「この前の客人は2人組で…村の子どもが狼に襲われているところを助けて頂いたのです。その礼に、村に招待させて頂いたのだったと…」

 

 期間からして、その2人はアカツキとネネだろう。なんというか、出会いからしてあの2人らしいとは思える。

 

「そしてその前も同じく2人組でしたが…こちらは、何と言いますか…信じてはもらえないような話でしたので」

 

 言いよどむクーリアに、俺はより疑問が深まる。この魔法や幻想的な生物が存在する世界で、信じられないようなものとは一体何だというのか。

 

「一応聞かせて頂いても?」

 

「…まあ良いでしょう。おとぎ話でも聞いていると思ってお聞きください」

 

 咳払いをして、彼は話し始める。

 

「先程申し上げた2人にも共通する話なのですが、彼らは各地の伝承を集めて回っているようでした。その一環として、我が氷の部族の村にも訪れたようなのですが、先程述べた2人の前にこの村に訪れた2人も同じく伝承を求めていました」

 

 俯き目を閉じて、思い出しながら語るクーリア。再びフローラに視線を向けると、フローラも怪訝そうで、初めて聞いたという顔をしていた。

 

「そして、その2人は不思議な力を持っていました。その者達は、大群で村を襲おうとしたノスフェラトゥの群れを、たった2人で殲滅してしまったのです。およそ50は居たでしょうか」

 

 俺達は10人近くで100体を倒したのに、2人だけで50体も…。相当な実力者であるのは間違いないだろう。

 

「その時はまだ不審者として村に入れていなかったのですが、そこにたまたまノスフェラトゥの群れが押し掛けてきたようでした。私達がそれに気付き、村の外へと向かった時には既に、その半数以上を倒していたのです」

 

「どれくらいで襲撃に気付かれたのですか?」

 

「おそらく襲撃が始まったその時でしょう。何かが爆発するような音が聞こえ、すぐに向かいましたので。そこでは、大きな兎と魔道書を持った少女が、村を背に守るようにして闘っていました。私は大きな兎がもう1人の旅人であるとはすぐに気が付きました。彼は見たところ、獣人のようでしたので。そして、ここからが問題なのですが…少女が竜脈と呼ばれる特別な力を使用したのです」

 

「竜脈…!? では、その少女は王族だったのですか!?」

 

「分かりません。後で聞いたのですが、自分は遠く離れた国の、既に滅んだ王家の末裔だと言っておりました。実際、彼女の名は暗夜王家にはありませんでしたし、北の城塞に幽閉されているという王族も、その頃はまだ外に出ていないという話でしたので」

 

 幽閉云々は俺とアマテラスの事だろう。という事は、フローラもまだその頃は一緒に居たので、その話を知らなくても無理はない。

 

「竜脈を使えた事自体が不思議であるのに、彼女はそれだけに収まりませんでした。……少女は、なんと人間から竜の姿へと変身したのです」

 

「竜に…なった…!?」

 

 俺は耳を疑わずにはいられなかった。俺とアマテラスが竜になれるのなら、確かに他の王族の誰かがなれてもおかしな話ではない。

 しかし、それが暗夜の王族でも白夜の王族でもなく、得体の知れない人間が竜になったというなら話は別だ。そんな人間が居たのなら、知られていない訳がない。マークス兄さんだって知っていたはずだ。そしてエリーゼも。しかし、エリーゼは俺が竜化した時の反応からして、初めて竜化の事を知った風だった。

 その少女は一体何者であるのか、味方であるならそれで良い。だが、もし敵であった場合、実力の事も考えると、恐ろしくて仕方がない。

 

 クーリアは、そんな俺の驚きに気付いた様子もなく、淡々と語り続ける。

 

「当に圧倒的の一言でした。瞬く間にノスフェラトゥを殲滅し尽くすと、彼女は元の姿に戻り、私に向かってこう言ったのです。『村に被害が出なくて、本当に良かった』と…。あの時の満面の笑顔…私は忘れる事が出来ません」

 

「そんな事が…どうして話してくれなかったんですか、父さん?」

 

 今まで黙っていたフローラだったが、そのあまりに衝撃的な内容に、思わず口を出したようだ。

 

「さっきも言ったように、とてもじゃないが信じてもらえないと思ったからです。私だって、この目で見なければ信じられなかったでしょう」

 

「…それは、そうかもしれませんが…」

 

 彼らの言葉は、どちらも正しい。俺だって、実際自分が竜になれるからこそ、今の話を真剣に聞く事が出来た。何も知らなければ、到底信じられないような話であるのは間違いないのだ。

 

「…俺は、信じますよ。クーリア殿」

 

 信じる事から、信頼関係は始まり、築かれていく。ならば、俺が信じないでどうするというのか。

 

「あのような話を…?」

 

「命の恩人の話です。それが不思議な内容であろうと、信じる。それが俺の意思ですから」

 

「そうですか…あの2人といい、あなたといい…不思議な方々だ」

 

 そう言って、クーリアは穏やかな笑みを浮かべた。やはり、フローラとフェリシアの父親だけあって、2人の笑顔とどこか通じるものがある。

 

 話を切り出すなら、今しかないかもしれない。

 

「クーリア殿、あなたにお伝えしたい事があるんですが…」

 

「ほう、それは何でしょうか?」

 

「実は…」

 

 俺が反乱について切り出そうとした、その時だった。

 

 コンコン。

 

「? 誰でしょうか…」

 

 突然のノックに、俺は言葉を止め、フローラが扉を開ける。すると、

 

「クーリア様、アカツキ殿とネネ殿が参られております。どうも、他にも連れがいるようですが…」

 

 中年くらいの男性が扉の所から、クーリアに声を掛けた。突然の報告に、俺は全員無事だったのかと安堵した。しかし、同時に話を切り出すタイミングも失ってしまった。

 

「ふむ…また何かご用でもあるのかもしれませんね。スサノオ殿、すみませんがお客人のようですので、話はまた後でよろしいでしょうか?」

 

「…あー、そう、ですね。分かりました、また後で」

 

 仕方ないが、俺も今はみんなの顔を早く見たい気持ちが強い。クーリアの後に続き、俺も部屋を出ようとした時、手をグッと掴まれた。フローラだった。

 

「…話さなくて良かったのですか」

 

「まあ、後で時間を取ってくれるようだし、まだ大丈夫だろう」

 

「…そうだと良いのですが」

 

 

 

 

 

 

 

 俺はクーリアの後に付いて行き、村の入り口にまでやってきた。村の中は、不思議な事に村周辺に比べて吹雪が吹いておらず、寒さこそ強いが、あの猛吹雪に比べれば天と地の差である。

 

「…!」

 

 門のようになっている所では、仲間達の姿があった。全員の姿を確認出来た俺は、ほっと息を漏らす。

 

 向こうもこちら気付いたようで、

 

 

「おにいちゃーーーん!!!」

 

 

 馬から下りたエリーゼが笑顔全開で猛ダッシュで俺目掛けて走ってきた。

 

「無事だったんだね、良かったよー! …安心したら腹立ってきちゃった…もーう! 心配したんだよー!!」

 

 突進からの抱き付きで、腹に結構な衝撃を受けるが、伊達に鍛えてはいない。これくらいなら、兄としては笑って受け止めて当然だ。断じて、受け慣れすぎて鍛えたのではない。

 

「あ、ああ。悪いな、心配かけて」

 

「ほんとだよ! あたし、おにいちゃんが死んじゃったかもって、とっても心配だったんだからね!!」

 

「本当にすまない…」

 

 エリーゼを抱きしめ返し、その暖かさを感じて、これが夢じゃないと実感する。みんなの方を見てみると、遠目でも安堵した表情が見て取れた。

 

「すぐに探したのに、おにいちゃん見つからないんだもん。ほんとはもっと探したかったんだけど、アカツキとライルが、おにいちゃんなら1人でも村に向かうから、あたしたちも村に行くべきだって。でも、ほんとにおにいちゃんが居て良かったー!!」

 

 アカツキとライルの判断は、ある意味で正しかったかもしれない。実際、俺は1人でも村に向かおうとしたはずだ。まあ、フローラに助けられた形で村に到着したという、なんとも情けない事実は隠しようもないのだが。

 

 

 

 そして、スサノオ達とは別に、アカツキ達の方でも話が進んでいた。

 

「アカツキ殿、ネネ殿、何か忘れ物でもありましたか? …どうやら、あなた達はスサノオ殿とも知り合いであるらしいですが」

 

「そうだな。スサノオ…殿がこの村に用があるというので、途中まで私とネネが案内を買って出たのだ。途中ではぐれてしまったが…」

 

「スサノオ殿は、倒れているところを私の娘が見つけ、こちらで保護したのです。何はともあれ、命に別状が無いようで一安心しましたよ」

 

 アカツキは今の会話である事に気付いていた。クーリアは、スサノオが暗夜王子であると気付いていない。騒ぎになる前に、反乱を平定するという目的も果たせるかもしれない。

 

「こちらとしても、連れが無事で安心した。誠に感謝いたす、クーリア殿」

 

「礼には及びません。こちらとしても、スサノオ殿は捨て置けぬ方でしたので」

 

「…何故?」

 

「お忘れですか? 我が村の伝承を」

 

 言われて、アカツキは思い出す。氷の部族の伝承、そしてスサノオの持つ黄金の刀を。

 なるほど確かに、彼らがスサノオを助けた訳だ。

 

「あ~、なるほどです。そういえば、スサノオ…さんが持っている刀は、伝説の勇者の持つ剣と似てますですね」

 

「なるほど、理解した。さて、用があるのはスサノオ殿だ。何か話を聞いては?」

 

「いいえ。ですが、話があるとはおっしゃっておられましたね。恐らく、それがそうなのでしょう」

 

 ならばと、アカツキはクーリアと共にスサノオの元へ歩き始めるが、この時彼女は気付いていなかった。

 ただ単純に、アカツキでは知り得なかったというべきだろう。『彼女』の存在を。スサノオやエリーゼとの関係を。

 

 アカツキがスサノオ達に近付いた時、エリーゼが話している声が届いた。

 

 

 

「あれ? そういえば、どうしてフローラがここにいるの?」

 

 

 

 その言葉に、アカツキは違和感を抱いた。何故、エリーゼはスサノオの後ろに控えているフローラの事を知っている?

 

 違和感が疑念へと変わった時、アカツキはハッとして隣のクーリアを見た。

 クーリアもまた、ハッとした顔で、急ぎフローラの元へと走り出す。

 アカツキも遅れてクーリアの後を追い走り出した。

 

 違和感は当然だったのだ。今この時、初対面でなければならないエリーゼとフローラが、互いを知っている状況…それはつまり、2人が別の場で会った事があるという事。それも、フローラがこの村に居ない間に。つまりは暗夜で。

 

 となれば、エリーゼに兄と慕われるスサノオは、同じく暗夜の者であり、それも王城関係者となる。

 何故なら、フローラは暗夜王国に人質として、メイドとして仕えてきたのだから。

 

 そして、トドメの一撃ならぬ一言を、エリーゼは発してしまったのだった。

 

 

「よく分かんないけど、フローラもいるなら心強いね! じゃあ張り切って、反乱を平定しよー!!!」

 

 

 瞬間、雪の降り続ける中で、空気が凍ったのを、その場の全員が感じ取っていた。

 

「エ、エリーゼ…!?」

 

 焦るようにスサノオがエリーゼの口を手で塞ぐが、時すでに遅く、すぐ側まで来ていたクーリアに、ハッキリと、聞かれてしまったのである。『反乱を平定』と。

 

「反乱…平定…? それに、エリーゼというその名前…、まさか暗夜王女……!!」

 

 やはり、スサノオと違いエリーゼの名前は流石に知られていた。それにより、クーリアは確信した。エリーゼ王女に兄と呼ばれる彼は、確実に王家と関連する位置にいる人物であると。

 

「まさか、暗夜の手の者だったとは…! こんな事なら、助けなければ良かった。騙すとは、やはり暗夜王国は卑劣なやり方を好むようですね!」

 

 クーリアの溢れ出る怒りに、エリーゼもようやく自分が何かやらかしてしまったと気付き、そして───

 

 

「あ、あれ? あたし、もしかしてやっちゃった?」

 

 片目を閉じて頭をコツンと、可愛らしく舌を出して…俗に言う、テヘペロをやってみせたのだった。

 




「ベロアの『くんくん、ガルーアワーズ』…」

※ここからは台本形式でお送りします。

ベロア「……この面倒な企画も、慣れてしまえば何とも思わなくなってきましたね」

ベロア「かといって、このコーナーが好きかと聞かれれば、別に好きではありませんが」

ベロア「さて、本日のゲストはこちらです」

イグニス「…イグニスだ」

ベロア「……、それだけですか?」

イグニス「…別にいいだろう。俺はスサノオに言われてここに来ただけだ」

ベロア「そうですか」

イグニス「……」

ベロア「……」

イグニス「…なあ、ベロア」

ベロア「なんですか?」

イグニス「どうして俺は呼ばれたんだ? 正直言って、俺もお前も基本的には寡黙組だろう。この組み合わせでこういったコーナーは不向きだと思うんだが…」

ベロア「そんな事、わたしだって知りません。ただ、イグニスがゲストである事は嬉しいですね」

イグニス「え…!? そ、それは、どういう…!?」

ベロア「ソレイユみたいな変態や、オフェリアみたいな騒がしい人じゃなくて、とても助かるからです。わたしは静かな方が好きなので」

イグニス「…理解した」

ベロア「とは言っても、流石に黙ったままでは、わたしはスサノオからご褒美をもらえません。イグニス、何か話題はありませんか?」

イグニス「…急に言われてもな。…そうだな、この前ベロアにあげたお守りは今どうだ?」

ベロア「ああ、あれなら大切にしていますよ。今も肌身離さず持ち歩いています。それこそ、お風呂に入る時も眠る時も欠かさずに」

イグニス「…いや、流石にそれは離してなさすぎないか?」

ベロア「分かってませんね、イグニス。わたしにとって、使い古されていくほどにお守りは宝物へと進化を遂げていくんです。ほら、見てください。このほつれた袋、しなびれた布地…。そしてこの黒ずんだシミ…、はあ…どこをとっても素晴らしいと思いませんか?」

イグニス「すまない、分かりそうにない」

ベロア「即答されると、少し複雑な気分になりますが、まあ良いでしょう。ところで、わたしがあげたお守りはどうですか?」

イグニス「…俺も、大切にしている。あれをもらってから、俺の周りで怪奇現象が起き始めたが、概ね大事にはしているぞ」

ベロア「そうですか。具体的にどう大事にしているのですか?」

イグニス「え!? えっと、その、シャラに相談して、より大事にするにはどうしたらいいか聞いたら、白夜式のやり方を教えてもらえた。神棚といって、俺の天幕や個室の天井近くの角に、小さな棚を作るんだ。そこに、お守りと共に供え物を置いて祈ると、すごく効果が出た…」

ベロア「…効果が出た事は良いですが、わたしのあげたお守りが宝物へと昇華しないのは少し残念です」

イグニス「…そうか、すまないな。(言える訳がない。幽霊が頻繁に出るようになって、シャラに相談したら解決したけど、ずっとそれを続けないといけないなんて)」

ベロア「さて、尺はある程度稼げたでしょうから、さっさと本題に入って終わらせましょう」

イグニス「…メタいな。別に俺は構わないが」

ベロア「では、イグニス、読み上げてください」

イグニス「え、俺が? 何を…?」

ベロア「後ろです」

イグニス「…後ろ? !!!? な、ななななな!? か、母さん!? び、びっくりさせないでくれ…! …それを読めばいいのか」

イグニス「…『謎の訪問者とは』…らしいな」

ベロア「アカツキ、ネネの前に部族の村を訪問した2人組ですね。まあ、わたしとは違う種族の獣人…兎ですが、知っている方は誰だか丸分かりでしょう。ちなみに、兎さんもノスフェラトゥとは闘いましたが、ほとんど囮として機能していて、もう1人の方が7割方倒したそうですよ」

イグニス「…何故だろう、その兎に親近感を覚えるな」

ベロア「では、もう1人の少女に関して、大ヒントを差し上げましょう。彼女に関しても、察しのついている方はいると思いますが…。彼女は『覚醒』でいうところのマムクートです。しかし、この世界においては普通の『マムクートというクラス』ではありません。そして、彼女には姉がいます。ただし、皆さんが想像する人の妹では確実にありません。更に言うなら、その名前は既に皆さんご存知のはずですよ」

イグニス「…そんなに言ってしまって大丈夫なのか?」

ベロア「大丈夫です。彼女が誰かは分かっても、どうせ誰の血縁者かまではバレません。というか、それを見事的中させた人はすごいと褒めてあげます。素晴らしい野生の勘の持ち主ですね、と」

イグニス「…バカにしているようにしか聞こえないぞ」

ベロア「別にバカにはしてませんよ。素直に誉め言葉として受け取って欲しいです。…さて、今日はもう良いでしょう。お開きです」

イグニス「…なんだかんだで、2000字近くまで行ったな」

ベロア「…イグニスだってメタ発言してますよ。では、本当に今日はこれでお終いです。また次回、お会いしましょう。ありがとうございました」

イグニス「…ありがとう」

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