ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜 作:キングフロスト
「どうして、フローラが…?」
俺の手を握りしめて眠る、メイドの少女。そのひんやりとした柔らかな感触が、彼女の存在を確かなものであると実感させていた。
いや、確かにフローラが何故ここに居るのかは気になるが、それ以前に『ここ』は何処だ?
みんなとはぐれてすぐに、あまりの寒さと吹雪の強さに倒れて、そこから先の記憶がない…。
何時の間にかベッドで寝かされていたようだが、もしかしてフローラが助けてくれたのか?
というか、どうしてフローラがここに居るんだ?
情報が無さすぎて、何度となく同じ疑問の渦をグルグルとループし続けていると、
「…ん、んんっ……」
フローラが若干艶やかな声と共に顔を上げ、少し寝ぼけ目で俺に視線を送ってきた。
どうやら俺があたふたと考え事をしていたために、フローラを起こしてしまったらしい。
少しの間、フローラにしては珍しくボーッと俺を見つめていたが、しばらくしてハッとした顔になると、
「ス、スサノオ様!? お目覚めになられたのですね!?」
身を乗り出し、俺の手を握る力も強くなるフローラ。
「あ、ああ。……フローラ、どうしてお前がここに? というより、ここはいったい何処なんだ? あと、その、近いぞ?」
「! し、失礼しました!」
そそくさと、顔を真っ赤にして後ろへと引くフローラ。その際、握られていた手もソッと離される。なんとなく、寂しいような気がした。
「…その、スサノオ様。ここは氷の部族の村です。村より少し離れた場所でスサノオ様がお倒れになっているのを見つけたので、こちらまでお運びさせていただいたのです」
まだ少し頬を赤くして、フローラは落ち着いた様子で俺がここにいる経緯を話す。
しかしそれにより、俺は自分の状況を理解した事で、最初にフローラを見た時の疑問がより強くなった。
「そうか…俺は部族の村に着いたんだな。うん、それは分かった。じゃあ、ならフローラはどうしてここに居るんだ? 確か…北の城塞で留守番してたはずじゃなかったか?」
「…それは……」
俺の質問に対し、フローラは言いよどむ。さっきまで顔を真っ赤にしていたのに、すぐさまいつもの色白な肌へと戻ってしまう程に、彼女は苦悩を顔へと浮かばせていた。
「フローラ」
「…はい」
「…お前がそんな顔をするんだ。よほどの事があるんだろう。お前が言いたくないのなら、俺は追及はしない。でも、お前が抱え込んでより苦しい思いをするというなら、どうか話してはくれないか。吐き出して楽になれるんなら、俺にぶつけてはくれないか」
「スサノオ様…」
俺の言葉に、フローラは俯いてしまう。心なしか、その華奢な体がプルプルと小刻みに震えているように見えるが、完全に下を向いてしまっているため、その顔を見て様子を窺う事が出来ない。
心配して、しかし声を掛けていいのか分からないでいると、
「……やっぱり、あなたはお優しいのですね」
そう言って顔を上げたフローラの目許には、小さく涙が零れていた。
「お、おい、大丈夫か!?」
「はい。お心遣い、ありがとうございます。スサノオ様の優しさに触れて、嬉しくて、感激して…涙が溢れてしまいました」
その綺麗な手で涙を拭うフローラ。少し目が赤くなってしまっていたが、その穏やかに微笑む彼女の様子は、どこか儚げな美しさを醸し出していた。
「そ、そうか。改まって言われると、なんか恥ずかしいな…」
「…私も、今になって恥ずかしくなってまいりました」
互いに顔を赤くし合って、そしてその赤くなった顔を見て互いに笑い合う。
こうしていると、今だけは、あの頃に……北の城塞で皆と仲良く過ごしていた頃に戻ったかのような気がして、その懐かしさに嬉しさが込み上げてくる。
それが虚しい気持ちである事は分かっていても、心に嘘はつけなかった。
「……分かりました。お話します。私がここにいる理由を。そしてスサノオ様の現状を」
フローラは佇まいを正すと、いつもの真面目な表情で話し始める。
俺もベッドの上で姿勢を正し、静かに耳を傾ける。
「まずは私がここにいる理由からですね。これをお話しする前に、スサノオ様。スサノオ様がここに向かわれたのは、氷の部族の反乱が原因ですね?」
「…ああ、そうだ。色々あって、父上からの任務として、部族の反乱を平定するように言われている」
「やはり、そうでしたか…。実は私がここにいる理由も、部族の反乱に関してなのです。それも、スサノオ様とは逆の立場として…」
そうだった。フローラとフェリシアは、氷の部族出身だ。なら、彼女がここにいる理由も容易に想像出来るではないか。
「…村から要請があったんだな。村に戻って、反乱に協力するように、と…」
「はい。そして、私は村に戻る事を選んだのです。…スサノオ様やアマテラス様、フェリシア、ジョーカー、リリス、そしてギュンターさん達との思い出がたくさん詰まった、あの北の城塞を捨てて…」
「……」
その時のフローラは、いったいどんな思いで城を出たのだろうか。
大切な人達との思い出に溢れた所を捨てる時、いったいどんな気持ちになるのだろうか。
今の話しているフローラの顔を見れば、それがどれだけ辛い事であったのか、分かるような気がした。
そしてアマテラスも、フローラと同じように、大切だった場所を捨てる苦しみに、今も苛まれているのだろうか…。
「…村に帰ってきた私は、族長の娘の責務として、周囲の見回りをしていました。暗夜から、私達の反乱に関する情報を得ようとよく密偵が放たれていましたから。そして、いつものように見回りをしていた時、私はスサノオ様が倒れているのを見つけたのです」
「そうか…。でも、どうして俺を助けてくれたんだ? 俺がここに来る目的が分かっていたなら、そのまま放置しても良かったんじゃないか?」
知り合いとはいえ、俺とフローラでは立場が真逆なのだ。ならば、俺を見殺しにしてもおかしな話ではなかったはず。
今は戦争の時代なのだから、顔見知り同士が殺し合う事だってある。白夜に知り合いのいる、当に今の俺のように。顔見知りであるとか、そういった事は戦時中では意味を為さない。それが敵同士であるならなおの事である。
俺の疑問に、フローラはばつが悪そうに、
「…暗夜への人質として辛い記憶しか持てないと絶望していた私に、スサノオ様は暖かい思い出を、希望をたくさん与えて下さいました。私とフェリシアに、居場所をお与え下さいました。あなたとアマテラス様は、私達姉妹にとって大切な恩人なのです。たとえ立場が違えど、そんなお方を見殺しになんて、私には出来ませんでした…」
「…俺とアマテラスが…知らなかったな、フローラがそんな風に思ってくれていたなんて。俺なんて、お前達に迷惑ばかり掛けてすまないと思っていたのに」
「いいのです。私達はメイドとして、従者としてあなた方にお仕えしていたのですから。それに、存外私はメイドの仕事も性分に合っていましたので」
言われてみれば、フローラはこまめ過ぎるくらいに俺やアマテラスの身の回りの世話を焼いたり、完璧に家事をこなしていた。フローラが食事を作る事も多々あったくらいだ。ちなみに、フェリシアは言わずもがなである。
「私がここにいる理由はこれでお分かりになられたと思います。では、次はスサノオ様の現在の状況についてお話しします」
「状況…と言えば、俺は部族の村まで来る事が出来た訳だが…」
「はい。問題はここからです」
フローラの顔付きが一層険しいものへと変わる。
「スサノオ様は部族の反乱を平定するためにここに来た。しかし、村は暗夜への不満が募りに募った状態…そんな状態の村に、暗夜の者、それも王族が1人でなんて死にに来ているようなものです」
最初、1人でここに向かおうとしていた自分がどれだけ脳天気だったのかと、フローラの話を聞いて思い知らされる。
改めて応援に駆け付けてくれた皆に感謝すると同時に、やっとその存在を思い出した。
「そういえば俺、仲間とはぐれたんだった! あっちは大丈夫だといいんだが…」
「…お連れがいらっしゃったのですか。……、スサノオ様、今までのお話からあなたにお願いがございます」
「お願い…?」
今までにない鬼気迫る迫力を持ってフローラは切り出した。
「どうか、このままお帰りになって下さいませんか?」
そのお願いに、俺は少しの間固まってしまう。
フローラの言い分は、恐らくこうだ。
帰ってくれ。私達には暗夜に従う気はもう毛頭ない。ここに居れば、あなたの命の安全は保証出来ない。だから、今のうちに帰ってくれ……と。
「幸い、スサノオ様の事を知る者はこの村には居ません。あなたが暗夜の者…王族であると知っているのは、私だけ…。今なら、素性を知られる前に村の外に出て頂けるのです」
「………」
フローラのお願いを、俺は聞けるかどうかで言えば、答えはノーだ。
部族の平定は俺が父上に認められるための必要条件。アマテラスを連れ戻すためにも、それは絶対の前提でもある。
今フローラの頼みを聞いて帰ってしまえば、俺は任務に失敗したとみなされ、処刑されるだろう。
かといって、俺がこのまま反乱を平定出来るかと言えば、それも難しいだろう。
竜の力があるといっても、出来ればそれは使いたくない。あれは、あの禍々しい力は、敵を殺す力だから。あれを使ってしまえば、この村の人達が俺に向かって来た時、俺は彼らを殺してしまう。きっと、殺す。
俺はフローラの家族を、大切な人達を殺したくはない。だから、竜の力は使えない。
ならば、人間の姿のまま、相手を殺さずに闘うしかない訳だが、それを1人でやるとなると、これまた無謀としか言えないのもまた事実ではある。
つまるところ、帰っても地獄、残っても地獄と、八方塞がりなのである。
「……フローラ、俺…泣きたいくらいヤバい状況だ…」
「え、ええ!?」
思わず両手で顔を覆ってしまう。はぐれた仲間達が居たなら、話はまた違っていただろうが、こうなってしまった以上そんな幻想にはいつまでもしがみついていられない。現実を見なければ…辛すぎるが。
「俺さ、父上から命じられたこの部族の平定という任務を達成出来ないと、処刑されるかもしれないんだ。だから、おめおめと帰る訳にもいかないし、かといって俺1人で反乱を平定なんて…」
「そんな…まさかそんな事が…それでは、もうどうする事も…せっかくスサノオ様をお助け出来ると…」
目に見えて落ち込むフローラだったが、それは俺も同じ。この絶望的な状況に、現実逃避したくなる。
「くそ…俺1人で…部族の人達を説得なんて出来るのか…?」
「……………今、何と仰られましたか?」
唖然として尋ねてくるフローラに、俺はおかしな事でも言ったかと思いながら答える。
「いや、俺だけで説得なんて出来るのかって…」
「説得、ですか…?」
「ああ。平定と言っても、武力で解決するだけじゃないはずだ。話し合えばなんとかなるかもしれないし、そもそも氷の部族の人達は何も悪くなんてないんだから。もし説得が失敗して闘う事になったとしても、それは最後の手段だ。死者の無いようにしたいとは思うが……俺1人だと、俺が死にそうだよな」
今度は呆然とした顔になるフローラ。俺は本当に変な事は言っていないはずなのに、何故そんな顔をされるのだろうか。
しばらく黙って見守っていると、フローラが小さく笑いを零した。
「ふふ。そうでした。あなたはそういうお人でしたね。やっぱりスサノオ様はお優しいお方です」
「?」
優しい笑みを浮かべて、フローラは一つ頷く。俺は何がなんだか分からないでいると、
「あなたは、もしかしたら本当に、伝説の勇者なのかもしれませんね」
「勇者? 俺がか?」
どうにも話が飲み込めない。というか、話が大きくなりすぎているような気がしてくる。
「はい。私達氷の部族の伝承に記述のある、世界を救うといわれる、伝説の勇者…スサノオ様の持つその黄金の剣も、その勇者が持つ剣とよく似ているのです」
そう言って、ベッドのすぐ側に立て掛けられている夜刀神に目を向けるフローラ。
「本来なら、よそ者を村に招き入れる事はしないのですが、その黄金の剣のおかげで父はスサノオ様を見捨てる事なく、そして私はスサノオ様をここまでお連れする事が出来たのです」
自分の知らないところでそんな事になっていたとは知らず、俺はまじまじと夜刀神を見つめた。
『夜刀神』。白夜王国に、母上の元に保管されていたそれは、マークス兄さんの『ジークフリート』やレオンの持つ『ブリュンヒルデ』、リョウマ兄さんの『雷神刀』、タクミの『風神弓』と同じ、『神器』と呼ばれし特別な武器だ。
その中でも、『夜刀神』は持ち主を自分で選ぶ特殊な刀で、夜刀神を扱えるのは夜刀神に選ばれた者だけ。
本来なら、使い手は1人のはずだったそれは、不思議な事に俺とアマテラスの2人を同時に使い手として選んだ。
それにより、夜刀神は2つに分かれ、使い手もまた2人となった訳だが…。
氷の部族の伝承が本当なら、夜刀神に選ばれた者が勇者という事になる。つまり、俺とアマテラスが、世界を救う勇者なのである。
ならば、その勇者たる俺とアマテラスが敵同士になった時、いったいどうなってしまうというのか。
勇者と勇者の闘い、それぞれの掲げる正義のぶつかり合い…それがもたらすものとは、この世界の救いとなるのだろうか。
もしかしたら、どちらかは救世主になれず、真逆の存在となってしまうのではないか。
救世主同士のぶつかり合いとは、つまりそういう事なのだから。
「夜刀神…勇者、救世主…か」
竜の力といい、夜刀神といい、俺達兄妹はまったく奇妙な運命を背負っているらしい。
それを言うなら、転生している時点で奇妙な話だが。
「ともかく、話し合ってみない事にはどうしようもないな」
「…本当に説得するんですね」
「俺は後に引けないからな。こうなれば、成るようになると信じて突き進むだけだ」
「分かりました。ですが、私はこの件に関してはお力にはなれません。スサノオ様がご自身で、部族の皆を納得させなければならないでしょう」
それもそうだろう。フローラが俺に味方するなら、裏切りとみなされるかもしれない。フローラにもしもの事があれば、俺はフェリシアに合わせる顔がない。
ここは俺がやらねばならない。他ならぬ、この俺が。
「そうと決まれば、早速行動に移るとしよう。フローラ、お父上の元まで連れて行ってくれるか?」
俺はベッドから降り、立て掛けられていた夜刀神を腰に差す。
「はい。かしこまりました、スサノオ様」
さあ、ここからが正念場だ。
「ベロアの『くんくん、ガルーアワーズ』…」
※ここからは台本形式でお送りします。
ベロア「またこの時間が来てしまいましたね…。わたしはこれから、宝探しに行きたいと思っていたのですが…」
ベロア「さっさと終わらせて、宝探しに行きましょう…。それではゲストの方、早く出てきてください」
エポニーヌ「投げやりすぎない? まあ、あたしもベロアの気持ちは分かるけど」
ベロア「あ、今日のゲストはエポニーヌでしたか」
エポニーヌ「ええ、スサノオさんに頼まれてね。あたしもベロアともっと仲良くなれると思ってたから、了承したわ」
ベロア「そうですか」
エポニーヌ「あら? 尻尾が揺れてる…喜んでくれてるのね。なんだか嬉しいわ、ベロアがそこまで喜んでくれるなんて」
ベロア「嬉しいですよ。ソレイユみたいな変態じゃなくて、お友達が来てくれましたから」
エポニーヌ「…ソレイユが何かやらかしてベロアにぶっ飛ばされたって聞いてたけど、あの子いったい何をやらかしたの?」
ベロア「わたしとお風呂で胸の大きさを比べようと言い出したので、お仕置きしました」
エポニーヌ「…仕方ないわ。うん、それはソレイユが悪いわね。あの女の子好きさえなければ、ソレイユも良い子なんだけどね~」
ベロア「無理だと思います。あれは直る事はないでしょうから」
エポニーヌ「尻尾の毛が逆立ってる…そんなに怒ってるの?」
ベロア「わたしの胸をいやらしい目で見てきました。わたしじゃなくても、女性なら不快ではないですか?」
エポニーヌ「…分かるような気がするわね。あたしも胸元開けた服装でいる事が多いんだけど、男どものイヤラシイ視線を感じる時があるし…ソレイユもそれはヤりすぎだわ」
ベロア「…話が逸れましたね」
エポニーヌ「そうね。じゃあ、そろそろイキましょうか」指ぱっちん
ベロア「あ、エポニーヌのママ…こんにちは」
エポニーヌ「ありがと、母さん。じゃ、今日のお題イくわよ~! 『カムイがスマブラ進出した件に関して』……え?」
ベロア「へぇ、異界のスサノオですか。そんな面倒な催しに参加するなんて、異界といってもやっぱりスサノオですね…」
エポニーヌ「え!? ちょ、え!? なにそれ!? あたし初めて聞いたんだけど!?」
ベロア「聞いてなかったんですか? なんでも、第四の選択肢らしいですよ」
エポニーヌ「そういった事に疎そうなベロアが知ってるのに、このあたしが知らなかったなんて…義賊としての情報収集力がナマってるのかしら」
ベロア「わたしがパッと見た感想だと、なんというかノリノリで、流石主人公という感じでしょうか」
エポニーヌ「ちょっと待って、今資料を確認してるから………、……こ、これは……!!」
ベロア「どうかしましたか?」
エポニーヌ「男の子達が、互いに研鑽し合ってるじゃない! 女の子も何人かいるけど、素晴らしいわ! 特にこのリ○クって剣士とマ○スって剣士…この組み合わせ、最高じゃない! どちらが攻め? 受け? なのかしら! 妄想が捗るわぁ~!」
ベロア「エポニーヌ…?」
エポニーヌ「このネ○って子とリ○カって子もイイわね…、!! ピ○トとブラックピ○ト!? 同じ顔をした2人が仲むつまじく…うふ、うふふふ! なんなの!? この闘技大会!? まさか楽園!? ああ、イキたい…あたしも直接その場で様子を眺めたい…観察したい…!! あーーー!!!」
ベロア「…エポニーヌも、この変な趣味が無ければ良い人なのですが。これはもう戻りそうにもないですね。さて、わたしは宝探しにでも出かけましょう。…結局、お題はわたしのちょっとした感想だけになりましたね。まあ、良いでしょう。それではみなさん、また次回お会いしましょう」