ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第33話 氷の少女

 

 正しいルートを知っていれば森をすぐに抜けられるという話だったが、やはりそう簡単な話ではなく、結果的に森を抜ける頃にはすっかり深夜(暗夜王国内では判断が難しいが)になっていた。

 それでも、当初は2日程掛かると思っていた天蓋の森突破を、その半分の時間で成し遂げられたのだから充分な結果と言えるだろう。

 

「さて、ここからが本当の難関だ」

 

 星界で外の世界が朝になるのを待ち、そしていよいよ氷の大地が目に入る所までやってきた。

 

 ちなみに、外と星界では時間の流れに違いがあった。星界での1日が、外の世界では半日と、星界の方が時間の流れが早い。

 星界で半日程を過ごし、外に出る頃には朝になっていたという寸法である。

 時計で例えるなら、星界に入ったのが午前1時頃だったとして、そこで過ごした半日は12時間。それが外の世界では半分の時間の流れとなるので、実際に外で流れた時間は6時間。つまり、外には午前7時に出たという事になる。

 

 と、時間の流れに関してはこれくらいにして話を戻すと、スサノオ達は今まさに、氷の大地と森の境目に立っていた。

 不思議な事に、森から少し隔てただけなのに、すぐ先には一面の銀世界が広がっているのだから、当に不思議の一言に尽きる。

 魔法や飛竜、天馬などが存在するのだから、案外おかしな事でもないのだろうか。

 

「です。この先は、止むことのない吹雪が吹き荒れ、視界と共に体温も奪っていくです」

 

 ピシッと人差し指を立てて、アカツキの言葉に続け様に、ネネが子どもに注意を呼びかけるように話す。

 

「…視界を奪われる、か。それなら、はぐれないように固まって移動する必要があるな」

 

「ええ。それに、防寒対策も取る必要があります。氷の部族の村へ辿り着く前に永眠など、洒落になりませんので」

 

 と言うと、ライルが何やら自身の荷物の中から物を取り出した。それは魔道書のようだが、まさかファイアーで暖をとるつもりかと、全員が訝しげにライルを見守る。

 

「……そこまでジロジロ見られては集中しがたいのですが、まあ良いです」

 

 諦めたように、または見られている事を忘れようとするかのように、ライルは目を閉じて魔道書を開く。

 

「……………、」

 

 しばらくして、魔道書が仄かに光を放ち始め、次にライルを中心とした円状の魔法陣が地面に浮かび上がる。

 

「…ファイアー」

 

 ぼそっと呟くような詠唱と共に、ライルの魔道書を持っている手とは逆の手の平に小さな炎が浮かび上がる。

 それをギュッと握り潰すと、ライルの全身がうっすらとオレンジ色の光で覆われていった。

 

「ふむ。成功したようですね」

 

「何をしたんだ?」

 

 手の平を何度も開閉するライルに問いかけるスサノオ。ライルは何かの確認を終えると、視線をスサノオに向けて答えた。

 

「ファイアーの応用です。最低限の魔力でファイアーを放ち、それを全身へと熱のみを広げる事で、ある程度の防寒が出来ます」

 

「…そっか。ごく少量の魔力なら、小さな炎にもなるし、それを全身に広げるから熱量も分散されて自分が燃えちゃわないのね…」

 

 言いながら、ノルンはライルに両手を向けて暖を取っていた。それに釣られ、エリーゼやアイシス、エルフィもライルで暖を取り始めた。

 

「……そういう訳です。まあ、魔力のコントロールが難しいのがネックですが、一度コツを掴んでしまえば簡単なものですから。では、これを全員に施しますので、僕で暖を取るのは止めてください」

 

 ライルが皆をテキパキと整列させていく。どうやら暖房代わりにされるのが快くなかったらしく、ライルの顔には不機嫌さが垣間見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、1人残らず全身をファイアーの熱で耐寒して、スサノオ達は雪原へと足を踏み入れた。もちろん、ミネルヴァもしっかりコーティング済みである。特に、飛竜は爬虫類に近い種族のため、人間よりもファイアーのコーティングが厚めしかり熱めとなっている。飛竜=ドラゴンであるため、熱に対しての耐性が他の生物と比べて高いからこそ為せる事だった。

 しかし、それゆえに寒さに弱いとも言えるのだが…。

 

「うわぁ…ホントあったかいね~!」

 

 馬上では元気に声を上げているエリーゼが。他の者も寒さに震える事なく、足取り軽くとまではいかないが速度を落とす事なく前へと突き進んでいた。

 

「本当に暖かいわ。わたし、寒いと厚着してトレーニングするんだけど、いつも服がビショビショになっちゃうの。今度からは、寒い時はライルにこの魔法を掛けてもらってからトレーニングしたいわ」

 

「おお、それはいいね! 私も寒い時の仕事前にはライル君に一つ頼むとしよう。それなら、どんなに寒くてもコンディションを万全に整える事が出来るからね!」

 

 熱い視線をライルへと向けるエリーゼの臣下達。その当の本人はというと、ため息を吐いてうなだれていた。

 

「僕は便利な暖房器具ではないのですが。それと言っておきますが、この防寒対策は時間制限があります。効果の持続時間はせいぜい1時間といったところでしょうか。効果が切れる頃を見計らってスサノオ様の星界でかけ直すか、吹雪をしのげる場所でかけ直す事になるかと」

 

 部族の村まではアカツキいわく2日程掛かるらしく、歩ける内は行けるだけ進んで、休める時は星界で体力回復に努めるのが良いだろう。時間短縮にもなって効率が良い。

 

「ですね。あ、でも食事は星界でさせてもらえると嬉しいです!」

 

「そ、そうだな。ライルが料理上手で助かったよ。俺は料理出来ないから、干し肉買った訳だし」

 

「ほ、干し肉ですか? 良ければ、あとで私にも分けてもらえると…」

 

 期待に満ち満ちた目で訴えかけるネネに、スサノオは子どもにおやつを与える親の気分で了承したのだった。

 

「のんきなのは今はまだ別にいいが、まだここは吹雪の勢いが弱い所だ。村に近づく程にどんどん吹雪が強くなってくるという事を皆、心しておいてくれ」

 

「…アカツキがそこまで言うなんて、なんだか心配になってきたよあたし」

 

「…奇遇だな、俺も不安になってきたところだ。お前もそう思うか、ミネルヴァ…?」

 

 お気楽ムードが漂う中、心配そうに吹雪に目を細めるアイシスとミシェイルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

「~~~!!!」

 

 現在、スサノオ達は絶賛猛烈な吹雪に襲われていた。

 星界や道中見つけた洞窟での何度かの小休止を経て、着実に村へと近付いていた一行だったが、それに比例するかのように吹雪の勢いは次第に強くなっていた。そして、それはもはや視界すら奪い、互いが互いの位置を正確に把握する事すら困難にしていた。

 

「おい! みんな大丈夫か!?」

 

「なーにー!? 聞こえないよー!」

 

 視界どころか声さえ遮断してしまう吹雪に、スサノオやエリーゼの声はかき消されてしまう。

 目と耳に入ってくる情報は吹雪に完全に覆われ、闇雲に進んでいるような状態が少しの間続いていた。

 

「ふ、吹雪が強すぎて、何も見えないぃぃ!!?」

 

「くそ、仮面のせいで余計に視界が悪い…!」

 

 全員が四苦八苦しており、近くにいる者同士は手を繋いだりして離れないように進む事で、なんとかはぐれないようにしていた。

 

「やはり、何度経験してもこの吹雪の強さには驚かされる…!!」

 

「ですー!? 何か言いましたですかー!?」

 

 ビュービューと吹き荒れる風の音は、もう人の声すら置き去りにしてしまい、誰が何を叫んでいるかすら判断がつかない。いや、何を、どころか叫んでいるか自体分からない。

 

 足にまとわりつく雪、その深さは歩みを鈍らせる。飛竜とペガサスも空を飛べなくされ、雪を掻き分けて進まざるを得ない。

 ミネルヴァに関しては、頭部が必然的に雪に埋まる形になり、ミシェイル共々雪を掻き分けて進むのにかなり苦労していた。

 

(そろそろ、魔法が切れる頃合いか)

 

 もう何度かライルの防寒魔法を受けており、大体の感覚が分かってきていたスサノオ。

 前回の耐寒のための魔法を掛けてから、そろそろ1時間だと思い、振り返って皆を確認するが、

 

「…!?」

 

 分かる範囲には誰も存在していなかった。

 吹雪は自分に向かって吹いていたので、振り返れば多少は視界が確保されるはず。それは正しかったのだが、その視界に入ってくるのは一面の真っ白な雪の世界だけ。

 枯れ木はなく、岩もなく、ただただ白い世界が広がるばかり。

 

 要するに、スサノオはいつの間にかみんなとはぐれてしまっていた。

 

(くそ! いつからはぐれてたんだ!?)

 

 真っ直ぐ歩いていたつもりでも、視界が悪い上に吹雪で方向感覚が狂わされ、違う方向に歩いてしまったのかもしれない。

 そして、仲間とはぐれパニック状態のスサノオに更なる不幸が追い討ちを掛ける。

 

「…寒!!」

 

 スサノオの予想していた通り、ライルの魔法の効果が切れたのだ。

 

「まずい…早く…星界…に」

 

 急激に奪われる体温。それはスサノオの精神にも影響を及ぼした。星界への扉を開こうと集中しようにも、寒さで集中力が保たないのだ。

 それに加えて、仲間とはぐれたという焦りと、皆は大丈夫なのかという心配が、更にスサノオから集中力を削ぐ。

 

「くそ…手が…」

 

 震える手で、星界への扉に意識を傾けようにも、吹雪はスサノオから体力すら奪い始める。

 

「!!」

 

 そこに殊更猛烈な勢いの吹雪がスサノオを襲い、思わず倒れ込んでしまう。

 一度倒れてしまったが最後、立ち上がろうにも体が言うことを聞かず、あまつさえ眠気がスサノオに襲いかかり始めた。

 

 寝てはいけない。眠ってはいけない。意識を失ってはいけない。そうなれば、待っているのは凍死だ。

 それが分かっているのに、まぶたはどんどん落ちていく。スサノオの意思に反して、瞳が映すのは白い世界から暗い世界へと変わっていく。

 

 

───スサノオ様?

 

 

 必死の抵抗も虚しく、遠のく意識の中、スサノオは誰かの声を聞いた気がした。

 それは旅の仲間のものではなく、かといってここに居るはずのない声。

 幻聴のようなその声は、スサノオの昔からよく知る女の子の声だった。何故、彼女の声を聞いた気がしたのかは分からないけれど、今やスサノオは不思議と安心感に包まれていた。

 

 そして、その女の子とは、

 

 

 

 

「フロー…ラ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ん」

 

 気が付いたら、知らない天井が目の前にあった。それがスサノオがまず起きて思った感想だった。

 意識は朦朧としていたが、次第に覚醒していく。

 

 自分はどうして寝ていたのだろう?

 

 次にスサノオが思ったのは、そんな疑問だった。寝ぼけた頭で、何があったのかを1つずつ思い出していく。

 

(確か、みんなとはぐれて…それから魔法が切れて…それから………それから?)

 

 そこで記憶が途切れたはず。そう、それは何もない雪原であったはずだ。

 しかし、自分の今居る場所は雪原どころか屋内だ。それも、どういう訳かベッドで寝かされているらしかった。どうりで暖かかったはずである。

 というか、現実味が無いのが現状だ。吹雪の中で倒れたはずなのに、暖かい部屋で寝ている…まさか、自分は死んでいて、ここは天国なんじゃないかと思いゾッとするスサノオだったが、ここである事に気が付く。

 

 手の平を通して何かひんやりしたものが伝わってきているのだ。

 感触的に、それは人間の手のようなもの。またしても、スサノオはゾッとする。自分が天国に居るのだとしたら、死後の世界である天国に住む者は、死者同様に冷たい体をしているのでは、と。

 

 恐る恐る、そーっと体を起こして、手の平から感じる冷たい感触の正体を確かめるスサノオ。そして、その冷たいものの正体が目に映った。

 

「…………え」

 

 驚かずにはいられなかった。それは、その正体がこの世の者ではないからとか、想像していたよりももっとおぞましいものだったからとかではなく、むしろよく知っているもの、いや者だったからこそ、その驚愕はより大きなものとなったのだ。

 

 スサノオの手を握っていたのは人間だった。

 

 それは昔からよく知っている人だった。

 

 その小さくて華奢で、強く握れば壊れてしまいそうな、柔らかい手は女の子のものだった。

 

 その女の子にしては冷たい手は、何度もスサノオの頬に触れた事があった。

 

 

 

 

 スサノオの手を掴んだまま、ベッドにもたれるように眠っている少女を、スサノオは知っている。

 

 彼女の名は………、

 

 

 

 

「……フローラ?」

 

 




「ベロアの『くんくん、ガルーアワーズ』…」

※ここからは台本形式でお送りします。

ベロア「…正直に言って、今日はもうお腹いっぱいなので収録はしたくないのですが、スサノオがどうしてもと言うので仕方なく収録して上げようと思います」

ベロア「…別に、スサノオの部屋1日滞在券とかもらってません。私が寛大な心を持っているから、スサノオのお願いを聞いてあげただけですから」

ベロア「それでは、本日のゲストはこちらです」

オフェリア「ふふふ…ついに悠久の時を経て、選ばれし者である私、そう! 『宵闇のオフェリア』が満を持して降臨したわ!」

ベロア「…さっきのお茶会では、なんというか…ご愁傷様でした」

オフェリア「うっ…! ちょ、ちょっと今は言わないでよ…せっかく忘れるようにしてたのに…」

ベロア「すみません。あまりにも印象的だったので、私の記憶からは当分は消えそうにありませんでしたから…」

オフェリア「…そんなに?」

ベロア「………ご愁傷様でした」

オフェリア「止めて…そんなに生暖かい目で見られると、なんだか悲しくなってくるわ…」

ベロア「まあ、シャラも同じような感じだったので、印象としては半分半分という感じですから、良かったですね、仲間が居て」

オフェリア「あなた、それをシャラに直接言ったら呪われると思うわよ。まあ、その時はその時で、もし本当に呪われたらこの私が浄化して上げるから、大船に乗ったつもりでいると良いわ!」

ベロア「…泥船の間違いじゃ」

オフェリア「甘い…甘いわベロア。泥船…それはすなわち母なる大地の恩恵を大いに受けた土の化身…。大地の加護と、更に大いなる海の力たる水の加護の融合を果たして生まれた存在…それがマッドシップなのよ!」

ベロア「あ、今日のテーマをオフェリアのママが持ってきてくれましたよ」

オフェリア「ちょっとー! スルーしないでよー! 私が頭の残念な子みたいじゃない!」

ベロア「え…?」

オフェリア「うぅ…ベロアの目から、『え? 自分じゃ気付いてなかったの…?』っていうのがひしひしと伝わってくる…! しかも、母さんまで…。でも、へこたれたりしないわ、私!」

オフェリア「選ばれし者は、どんな苦境だろうと必ず乗り越えるの…! こんなところで、私はくじけたりしないわ! さあ、今日のテーマを発表するわよ! ずばり、『お茶会について』…って、うえぇ!?」

ベロア「自ら傷をえぐっていくその姿勢、潔いですね」

オフェリア「わ、私はカンペの通りに読んだだけよ」

ベロア「はいはい、そうですね」

オフェリア「…なんだか、今日のベロアはいつも以上に適当っぽいんだけど」

ベロア「だから、さっきのお茶会でお腹いっぱいになったので、早く終わらせて帰りたいだけです」

オフェリア「私の扱いがぞんざいなのはそのせいなのね…と、お茶会についてだったわね」

ベロア「お茶会もとい試食会なのですが、本当につい先程終わったばかりなので、映像の編集が追いついていないのが現状です」

オフェリア「あー、グレイの作ったクッキーおいしかったよね。あれはまさしく、恵みの神の施したる美味…名付けるならそう、『ギフト・ア・トリート』!」

ベロア「私も、ついつい食べ過ぎてしまいました」

オフェリア「というか、ベロアが1人で6割がた食べてた気がする…」

ベロア「まあ、シャラやオフェリアみたいに、ちょっとしたハプニングもあった訳ですが…」

オフェリア「…私としては、非常に不本意だけどお茶会の様子はまとまり次第お送りするらしいわ」

ベロア「ただ、それがいつになるか、そしてどういった形でお送りするのかは未定だそうですね」

オフェリア「作者さんとしては、通常の投稿で出すつもりはないそうよ。ふふ、つまり、『神々の記せし秘跡』という訳ね」

ベロア「要するに、限定的に表示するという事です」

オフェリア「乙女の秘密…そう簡単に衆目の場に出せないという事よ!」

ベロア「まあ、そんな訳ですので、期待しないで待って頂ければ良いと思いますので。…言うことも言いましたし、私はそろそろ帰ります。お疲れ様でした」

オフェリア「ええ!? もう帰っちゃうのー!? って、本当に帰っちゃったし! 仕方ない、ここは私の華麗なるシークレットメモリーの中から選抜した設定の数々を……」


以降、延々とオフェリアの熊本弁による選ばれし者講座が続いたので、カットさせて頂きます。

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