ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第32話 氷の村へ

 

 光が収まると、俺達の目の前にはどこか寂しい雰囲気を持った風景が映ってきた。そうだ、ここは暗夜王国を模した星界。俺の心を反映させた、俺の城だ。

 

「これは…?」

 

「ほへ~…一瞬で場所が変わったよ!」

 

「ヒイィィィ!!?? 何!? 敵襲!?」

 

 疑問を抱く者、呆ける者、怯える者と三者三様の反応を見せる仲間達…というか、ノルンは俺がやったのに気付いてないのか。それにしたって驚きすぎだろうと思うが、何も言わないでおこう。

 

「まだ言ってなかったが、ここは星界と呼ばれる異界で、俺はこの世界への扉を開ける事が出来るんだ」

 

「星界…? ちょっと待って下さい」

 

 俺の言葉に、ライルが意見を述べる。

 

「書物で読んだ事があるのですが、星界とは星竜の力が無くしては行く事の出来ない世界のはず。そして、その星竜の系譜はもう絶えたともありました」

 

「…それが、星竜の力は途絶えていなかったのさ。それも、その人はずっと俺のすぐ近くに居たんだ」

 

 その人物とは誰なのか、昔から俺を知るエリーゼでも思い当たる者が居ないようで、目を閉じながらうんうんと唸っていた。

 

「そんな人いたっけ?」

 

 諦めたのか、エリーゼは率直に答えを求めてくる。別に隠す必要も意味も無いので、俺は包み隠さずリリスについて語り始めた。

 

「エリーゼもよく知ってる、リリスだよ」

 

「…リリス? あのリリス?」

 

「そう、あのリリスだ。ほら、カミラ姉さんが言ってただろう? 俺とアマテラスが昔、傷付いた小鳥を助けた事があるって。あれは小鳥じゃなくて、獣の姿をしたリリスだったんだ」

 

「リリスが…あれ? そのリリスはどこにいるの?」

 

「今はアマテラスの元にいる。この力は、別れ際にリリスからもらったんだよ」

 

「なるほど、だからスサノオ様が星竜の力を持っているのですね。それにしても、力を譲渡出来るとは興味深いですね…」

 

 ライルも納得したようで、今度は別の方向に思考が向いているようだった。

 

「ひとまず、ここなら安全だから俺の体が動くまで、皆には悪いが少し休ませてもらうよ。多分暇になると思うから、暇つぶしの出来る場所も用意しておく」

 

 俺はこの星界を満たしている竜脈に精神を集中していく。幸い、竜脈の力は体を使う必要もないので、今の俺でもこれくらいならどうという事もない。

 

「…………………っ!!」

 

 視線の先、何もない平坦な地面に、一点に集めた竜脈の力を、湧き水が湧き上がるイメージで一気に噴出させる。

 すると、地面からゴゴゴゴ!! と大きな音を立てながら、まるで地面から古代文明の地下遺跡さながら、大きめの建物が盛り上がってくる。

 

「うわー!? なにこれ!? すごいすごーい!!」

 

 エリーゼがはしゃぎながら、突如現れた建物へと突進していく。それをエルフィがすぐさま追い掛けて行った。

 

「…まるで魔法だな」

 

「ははっ。そんな大それたものじゃないさ、ミシェイル。これは竜脈の力だ。ここは竜脈の力で充満しているから、ある程度は都合がつくのさ。今建てたのは食堂で、材料なんかも自給自足出来るようになってるぞ」

 

「食堂!? そ、それは良いものを建てましたですよスサノオ様! 私は丁度お腹が空いていたですから!」

 

 食堂と聞いた途端、ネネがエリーゼ以上の猛スピードで走って行った。そういえば、初めてネネと会った時も、腹を空かせてアカツキから隠れて何か食べていた。そんなにお腹が空いていたのだろうか?

 

「んー、あたしもさっきの戦いでちょっと小腹が空いちゃったし…早速行ってくるね、スサノオ様!」

 

「そ、そうね…私も少しお腹が空いたかも…」

 

 アイシスとノルンも食堂へと歩き始め、ミシェイルとハロルドも肩を並べ、アイシス達の後に続くように食堂へと向かって行く。

 その時、ミネルヴァがハロルドを見ながら唸っていたが、気にしてはいけない。

 

 ほとんどが食堂へ行った中、アカツキとライルのみが俺の前に残っていた。何故、他の者に続かないのか気になって聞こうとすると、

 

「スサノオ様、お伝えしたい事があります」

 

 ライルが先に口を開いた。その顔は少し険しいもので、あまり良い内容ではないらしい。

 

「なんだ?」

 

「先程のノスフェラトゥの群れですが…あれは人為的に呼び出されたものでした」

 

「…なに?」

 

 それが事実なら、一体誰が? 一体何の目的で? しかも、俺があそこを通ると知っていた?

 

「ノスフェラトゥを殲滅した後、私達はライルの指示で周辺を調査した。すると、いくつかの魔法陣が確認出来たのだ」

 

 そういえば、ライル達が何かを探していたが、それだったのか…。

 

「はい。ですから、何者かが召還陣をあの場に刻み、ノスフェラトゥを送り込んでいたのでしょう。まあ、大体の見当はついていますが」

 

 もう見当がついているらしいライル。俺は全く心当たりすらないというのに、やはりライルは頭が切れて頼りになる。

 

「それは一体誰だ?」

 

「…あの召還陣の構成、あの恐ろしい程きめ細かい術式に、様々な方式を組み込んだ癖の強さは一度だけ見た事があります。恐らくあれは、マクベスの配下であるシェイドという女邪術師のものでしょう」

 

 ライルの言った名前に、アカツキが明らかに難色を示した。

 

「ぐ…あの女か。もうあの女とは二度と関わらずに済むと思っていたのだが…」

 

 このアカツキをして、そこまで言わせしめるシェイドとは、一体どんな人物なのだろうか…。嫌な予感しかしない。

 

「ともあれ、マクベスの差し向けたものであるのは間違いありません。恐らく、僕らがスサノオ様と合流した事もバレていると見て違いありませんね」

 

「マクベス…か。ん? そういえば、かなり今更なんだが…アカツキやネネはともかく、皆はどうしてここに?」

 

 ピンチの連続で、今まで完全に忘れていたが、氷の部族の反乱を平定するのは、俺1人でとの事だったはず。まあ、皆が来てくれたおかげで助かったので、それ自体は良かったのだが。

 そんな俺の疑問に、ライルが答えてくれた。無論、メガネを光らせて。

 

「マークス様が僕達を送り出してくれたのです。ガロン王の思惑に、陰ながら対抗してくれたのでしょう。しかし、相手が一枚上手でした。せっかくのマークス様の計らいでしたが、秘密裏の合流はマクベスにバレてしまいましたから」

 

 残念そうに語るライルは、「それでは」と告げると自身も食堂へと向かって行った。

 

 俺はその背中を見送りながら、何故か1人だけ残り、あまつさえ俺の隣に腰掛けたアカツキへと声を掛ける。

 

「…アカツキは、皆と一緒に食堂へ行かなくていいのか?」

 

 草の上に正座をして、目を閉じながら一言、彼女は呟くように言う。

 

「主を1人置いていく訳にもいきませぬ」

 

 その声音は、どこまでも澄んでいて、どこまでも穏やかなものだった。なんだか、『母さん』を思い出させるような、そんな安心感と懐かしさに似た気持ちになる。

 

「そうか…」

 

 それっきり、俺とアカツキは無言で座ったまま、ボーッと空を眺めていた。いや、アカツキは目を閉じたままなので、ボーッとしているのは俺だけか…。

 

 星界に広がる空は、外の世界とまるで変わらない。正確には、暗夜のどんよりとした光の届かない暗い空と同じだ。それでも、雲の流れだけは辛うじて分かる程度には明るさもある。

 

 流れる雲をぼんやりと眺めていると、時間の流れも忘れてしまいそうになる。

 

「ところで」

 

 と、口が半開きになったまま空を見上げていた俺に、アカツキが再び声を発した。

 

「ん?」

 

 変わらず、アカツキは目を閉じて、正座の姿勢のままで尋ねてくる。

 

「スサノオ様は何か任務の途中らしいが…それはどういった用向きなのだろうか?」

 

「ああ、父上からのお達しで、氷の部族の反乱を平定しろと。だから、氷の部族の村に向かう途中だったんだ」

 

「む? 氷の部族…」

 

 と、今まで閉ざされていたアカツキの目が、ゆっくりと開かれていく。

 

「ふむ、フリージアならば先日まで滞在していた。道案内くらいは私とネネで出来るだろう。よし、案内人は私達に任せていただこう」

 

「それは願ってもない申し出だ。よろしく頼むよ、アカツキ」

 

「あい分かった。……ただ、村に着いた時は覚悟なされよ、スサノオ様。彼らは暗夜王国への長年の不満でピリピリしている。くれぐれも無謀な事は考えなさるな」

 

「分かってる。ああ…分かっているさ」

 

 

 

 

 

 

 しばらく経った後、体もようやく自由が利くようになってきたので、俺は食堂で時間を潰していたメンバーに声を掛けると、再び星界の門を開く。

 

 意外だったのは、ミシェイルが料理を皆に振る舞っていた事だ。

 普段、仏頂面…といっても、顔の上半分は仮面で隠れて分からないのだが…そんなミシェイルが料理が上手とは思わなかったのだ。

 どうも、アイシスに無理矢理作らさせられたらしく、嫌々ながらも全員に手料理を振る舞ったらしい。

 そして結果は、

 

『すごいよ! あたしのコックが作る料理よりも美味しいよ! あたしの所に居た時、どうしてこんな特技隠してたのー!?』

 

『おお…! なんという美味! 不覚にも、お袋の味を思い出す優しさが味に出ている…! くっ、いかん、思わず涙が零れてしまいそうだ!』

 

『美味しい、美味しいわ…! これならわたし、無限にでも食べ続けられる自信があるわ…!! ミシェイル、おかわりをお願い』

 

『ミシェイルの料理はやっぱり美味しいです! まあ、ルフ…ごほんごほん! あの人が作ってくれた料理には負けますが…』

 

 と、軒並み良い意見ばかりで、ミシェイルは誉められる事が苦手なのか、若干不機嫌になっていた。アフターケアはミネルヴァがしてくれると信じたい。

 

 

 話は戻り、俺達は天蓋の森へと戻ってきた。さっきまでいた星界よりも、やはりここは暗い。ともすれば、こちらの方がより闇で覆われている。

 

「さて、フリージアへ行くのだったな。実のところ、この森は広さこそあるが、フリージアへ向かうだけならば存外すぐに着く」

 

「です! この森は道さえ間違えなければ、抜けるのはさほど問題ありません。人を迷わせる木々の乱立、人を惑わせるこの暗闇が、この森を突破困難にしているです」

 

 こっちです! と、ネネが元気良く皆を先導し始める。皆がネネの後ろに付いて行く中、俺はふと後ろを振り返った。

 そして、そこにあるはずの死霊の館は、

 

「………え?」

 

 何も無かった。館が建っていた場所、そこは木々が生い茂るばかり、館は最初から無かったかのように、その姿を消していた。

 

「おーい、スサノオ様ー! 置いてっちゃうよー!!」

 

「あ、ああ! すぐ行く!」

 

 アイシスの元気な呼び声に、俺は後ろ髪を引かれるように、後ろに目を向けながら皆の後を追う。

 結局、死霊の館とは何だったのか…。謎は謎のまま、天蓋の森の闇へと姿を消してしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの噂には、まだ続きがあるんだよ。死霊の館と呼ばれる古びた館、そこは天蓋の森の闇に紛れて建っているの。誰が建てたのか、どうしてそこに建てたのかは誰にも分からない。でも、確かな事が1つだけ。あの洋館は、ずっと誰かを待ってるの。それが誰だかは分からない。いつ現れるのかも分からない。でも、待ち続けるよ。いつかきっと、洋館に染み付いた呪いを取り払ってくれる人が現れると信じて。ずっと、待ってるの。その呪いが解ける日が来るその時まで、館は旅人を中へと誘う…。ところで、

 

 

 

 

今話しているわたしはだーれ?

 

 

 

 

 

ふふ、ふふふふふふ。答えは噂、闇の中…」

 

 





「ベロアの『くんくん、ガルーアワーズ』…」

※ここからは台本形式でお送りします。

ベロア「…面倒なこの時間も、慣れればどうという事もない気がしてきました」

ベロア「では、早速ゲストを呼び───」

「やっほー!」

ベロア「…なんですか? 今は、ガルーアワーズの収録中なのですが」

キヌ「遊びにきたよー!」

グレイ「よっ。お前に聞きたいんだけどさ、お前って生肉食うのか?」

ベロア「………食べませんが、何か?」

グレイ「いんや、ちょっと気になっただけだから、あんまり気にしなくていいぞ。ほれ、クッキーやるよ」

ベロア「頂けるものは頂きます。ありがとうございます」

キヌ「あ、ガルーアワーズしてるんだったね。じゃあ、アタシも手伝うよ!」

ベロア「え…いや、別に結構で…」

キヌ「げすとさんどうぞー!!」

ディーア「…なんでキヌが居るんだ? 俺、ベロアのゲストで呼ばれたと思ったんだけど」

ベロア「……もういいです。このまま行ってしまいましょう。本日のゲストはディーアです」

ディーア「え、このままやっちゃう感じ?」

グレイ「成り行きだよ、成り行き。つーか、俺もお前に用があったから丁度いいぜ」

ディーア「…俺に用?」

グレイ「ああ、実はな…」

ベロア「関係のない話は収録外でしてください」

グレイ「おっと、悪いな。じゃあまた後で言うわ」

キヌ「え? お茶会のこと今言わないの?」

ベロア「お茶会…それは美味しいものが出ますか?」

ディーア「ああ…そういう事か。グレイの俺への用事ってそのお茶会で俺に紅茶出して欲しいって事だろ?」

グレイ「そういう事だ。…なんだよ、ベロアも乗り気だな」

ベロア「食べる事は生きる上で大切ですので」

キヌ「じゃあ、ベロアも参加するんだね! 良かった~! アタシ誘おうと思ってたんだ!」

ベロア「そうですか。では、私も参加しますので安心してください」

ディーア「紅茶って事は…グレイはクッキーを焼くのか?」

グレイ「おう。色々と種類を作るが、新作もいくつか作ろうと思ってる。ちなみに、俺らの世代全員を呼ぶつもりだぜ」

ディーア「え…面倒だな…まあ、やりがいがあるって思うか。父さんに勝ちたいし、大人数でも余裕で紅茶を淹れてやるよ。当然、全員分を完璧にな」

キヌ「なんだかすごそうだね! アタシ、ワクワクしちゃうよー!」

ディーア「期待しないで待っててくれよ。まあ、俺とグレイで満足のいくお茶会にしてやるからさ」

グレイ「おっと、これはプレッシャー掛かるぜ。いっちょ張り切って準備しないとな」

ベロア「クッキー…楽しみです。では、本題に戻りましょう」

ディーア「本題…? …ガルーアワーズだったっけ、忘れてたな。……さっきから母さんがカンペ持ってるのは、そういう事か」

キヌ「えっと…『フリートークで』…って書いてあるね」

ベロア「…今まで散々していたような気がしますが」

グレイ「…だな。ま、それじゃ締まらないし、適当に話題見つけるか」

ディーア「適当な話題、ねぇ…面倒くさいし、この辺でお開きでいいんじゃないの?」

ベロア「私もそれで良いと思います。早く報酬とモフモフに行きたいですから」

キヌ「あ~、アタシもお腹空いてきちゃった…山で何か狩ってこようかな~」

グレイ「ダメだ…俺じゃ収拾つかねぇ…。これ、スサノオとかアマテラスに怒られるんじゃ…」


グダグダとなってしまったため、収録は終了となります。
後日、ベロア達はしっかりスサノオとアマテラスに叱られました。

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