ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第31話 臣下の礼

 

 増援が到着して間もなく、増殖し続けていたノスフェラトゥも次第に駆逐されていった。

 エリーゼの臣下であるエルフィ、ハロルドの2人は王族の臣下という立場に恥じぬ闘いぶりで、現れるノスフェラトゥの頭部をことごとくそれぞれがその手にした槍、斧で粉砕していく。

 たまにハロルドの手から斧がすっぽ抜けてこちらに飛んできたり、エルフィの力が強すぎて戦闘不能になったノスフェラトゥ自体が飛んできたりと、少々心配にもなったが、闘い自体は何ら危なげなくこなしていた。

 当に、流石、の一言に尽きる闘いぶりだった。

 

 だがライル達も負けず劣らずの活躍を見せていた。

 

「エルファイアー!」

 

 ライルが魔道書を掲げて魔法の名を叫ぶと、彼の目前に大きな火球が生み出され、猛スピードで撃ち出されたそれは着弾したノスフェラトゥを瞬く間に炎に包んでいく。

 

「グガルル!!」

 

「!」

 

 魔法を放って隙だらけのライルの背を狙って、ノスフェラトゥが猛突進を仕掛けるが、

 

「させん! ミネルヴァ!!」

 

「グオォォウゥゥ!!!」

 

 すぐさまミシェイルとミネルヴァが、ライルを狙うノスフェラトゥへと向けて飛翔する。

 

「せい!!」

 

 そして、振りかぶったノスフェラトゥの拳を、ミネルヴァが空中での尾の回転攻撃で弾き、生じた隙をミシェイルがノスフェラトゥの頭目掛けて斧を振り下ろした。

 頭を斧で完全に、文字通り割られたノスフェラトゥは、うなり声すら上げられずに地面へと倒れ伏す。

 

「助かりました、ミシェイル」

 

「まだ終わっていない。気を抜くなよ、ライル」

 

 友の無事を確認すると、ミシェイルは再び自らの戦場へとミネルヴァと共に飛び立って行った。

 

「ええ、分かっていますよミシェイル」

 

 ミシェイルから視線を前に戻し、ライルはメガネに手を置き一言、自信に満ちた顔で言った。

 

「カラクリの見当が付きましたので」

 

 

 

 

「ヒーローは! どんな悪にも屈しないよーーー!!!」

 

 元気良く、その宣誓と共にアイシスの槍がノスフェラトゥの体を滅多刺しにする。その体には大量の刺し傷が刻まれ、ノスフェラトゥの動きを阻害する。

 そこにトドメの一撃とばかりに、顔面へと同じく槍が突き刺され、ノスフェラトゥは完全に機能停止となった。

 

「まだまだ行くよー!!」

 

 ペガサスの手綱を引き、アイシスは次なる悪へと天を駆ける。その姿はさながら、絵本に出てくるヒーローのようだった。

 そしてそんなアイシスとは逆に、

 

「ふははははは!! まだまだ射足りんわ!! もっと勇み挑むがいい、この肉塊共が!!!」

 

 悪鬼のような形相で、ノルンが弓を引いていた。彼女の周辺には、頭を矢で針のむしろのようにしたノスフェラトゥで溢れ返っている。その中心で弓を引く彼女は、アイシスとは対照的にまるで邪悪そのもののようにも見える。

 実際は、ノルンの本質はそれとは正反対なものであるのだが、何も知らない者が見ればこう思うだろう。

 

『悪魔が恐怖の笑みを浮かべて矢を放っている』と。

 

「喜ぶがいい! この我が! 貴様らを殲滅し尽くしてくれるわ!!」

 

 そんな風に声高々と言い放つ彼女は、実のところノスフェラトゥの撃墜数が最も多いのだった。人は見かけによらないとはよく言ったものである。

 

 

 

「懐かしい顔がチラホラと見えるな…。この闘い、我らの勝ちは最早揺るがぬ」

 

 撃墜数第2位であるアカツキは、猛攻の勢いを次第に落としていく。何故なら、もう敵の数は数える程となっていたからだ。いつの間にか、ずっと増え続けていたノスフェラトゥも増えなくなっており、完全にこちらに戦局が傾いていた。

 

 そして間もなく、最後の1体が倒され、辺りには無数のノスフェラトゥが倒れ尽くしていた。

 

 

 

 その様子を座り込んで見ていたスサノオだったが、彼らの強さに魅入られていた。開いた口は開いたまま閉じず、まばたきをするのも忘れてポカンとする程にである。

 

「す、凄まじい快進撃だな…。数十分と掛からずに全滅させたぞ…」

 

 唖然とするスサノオを余所に、エリーゼとネネは平然としていた。

 

「ふっふーん! すごいでしょー! エルフィとハロルドはあたしの自慢の臣下なんだよ!!」

 

 鼻高々と嬉しそうに語るエリーゼ。それを隣のネネはなおも平然として、

 

「当然です。王族臣下ともなれば、王都の一般兵より桁外れの強さを持っているのが普通ですから。そんな人がこんなに居れば、それはもちろんノスフェラトゥ如きが多少束になって掛かったところで、返り討ちは間違いナシです」

 

 折れた杖を持って腕を組みながら、うんうんと頷くネネ。そんなネネも、その折れた杖が彼女自身も常軌を逸しているという事を物語っている事には気付いていない。

 

「…そんな臣下を4人も持てて、俺は恵まれてるな」

 

 そのありがたみが、今になってしみじみとスサノオへと浸透したのだった。

 

 しばらくして、何やら調べていたらしいライル達がスサノオ達の元へと寄ってくる。

 

「命に問題は無いようで安心しましたよ、スサノオ様」

 

 メガネを光らせて言うライル。他の面子も、スサノオの無事に安堵した様相をしている。

 

「ああ。間一髪のところだったよ。ありがとう、みんな」

 

「えっへへー。あたしのお手柄だよね!」

 

「えっと、ライルの魔法がスサノオ様を助けたんじゃないかしら…」

 

 照れるようにはにかむアイシスに、ノルンのおどおどとしたツッコミが入るが、彼女の耳には届かなかったようで、アイシスは未だニコニコとしていた。

 

「途中でハロルドが沼に落ちなければ、もっと早く援護に来れたんだがな…」

 

「むむ、その節は君とミネルヴァ君に助けてもらったおかげで、思ったよりも早く沼から脱出出来たぞ! ありがとう、ミシェイル君!!」

 

 ハッハッハ、と豪快かつ爽快に笑うハロルドと、その彼に背中をバシバシと叩かれて、下半分しか見えないが嫌そうな顔をしているミシェイル。

 

「良かった…エリーゼ様に怪我が無くて…」

 

「い、いたた…ちょっと痛いから、あんまりギュッてしないでエルフィ~…」

 

 エリーゼはエリーゼで、自分の無事に感激して自分を抱きしめるエルフィに苦笑いを浮かべていた。確かに、ゴツゴツした鎧姿で抱きしめられるのは少々痛そうである。

 

「………」

 

 そして、何も言わずにジッとスサノオを見つめる者がいた。その美しい顔は、どこか悩ましげにも見える。

 

「…自己紹介がまだだったな。俺はスサノオ…暗夜の第二王子だ」

 

 スサノオも、アカツキが自分を見ている事に気付いていた。周りが和気あいあいとしている中、スサノオとアカツキ、そしてネネだけは真剣な顔をしていたのだ。

 

「…お初にお目にかかる、私は名をアカツキ…以前、暗夜王城に仕えていた身。あなたの事は、王城にて話に聞いていました。お会い出来て光栄にございます…」

 

 膝を付き、礼の姿勢をとるアカツキに、ネネも同じくその隣で礼の姿勢をとった。

 その様子に、周りも自然と静かになっていく。

 

「先程のあのお姿…あれは、竜…ですね?」

 

「あ! そうだよ、おにいちゃん! すごいすごーいかっこよかったよー!!」

 

 エリーゼがぴょんぴょんとはしゃいでいるが、それを知らなかった他の者は、疑問符を浮かべる者、ぎょっとした顔をした者の二者に分かれた。

 そして、その後者であったライルが、重々しく口を開く。

 

「竜…すなわち、『神』…。スサノオ様が、その『神』の姿になれる、と?」

 

 先程まではしゃいでいたアイシスでさえ、ピタリと動きを止め、無表情でスサノオを見つめている。いや、それどころか、ノルンとミシェイルも同じように、ただただスサノオをジッと見つめていた。違うところがあるとすれば、2人は何かを悟ったような顔をしているところか。

 

「違いない。私はこの目で、スサノオ様が竜から人へと戻るのを見ている」

 

「私も、スサノオ様が人から竜になるところを見ましたです」

 

 それを聞き、ライルは考え込むように俯いた。事情を飲み込めないエルフィとハロルドが、心配そうにライル、スサノオと視線をせわしなく動かせるが、やがてライルが顔を上げる。その顔は、何かを決意したようだった。

 

「僕達は、あなたに仕えると決めたのは間違いではなかったようです。神に…いえ、竜へとなれるあなたに仕える事が出来て光栄です」

 

 ライルはその場に跪く。すると、それに倣うようにスサノオの臣下達も跪いていく。

 

「お、おいおい…そんなにいきなりかしこまられても…」

 

 スサノオは座ったままだったので、跪かれた事で余計に近距離に感じてしまい、若干尻込みしていた。

 

「そう言ってやらないで頂きたい。こやつらは、真に仕えるべきお方を見つけたのです。そして、それは私も同じ」

 

「です!」

 

 アカツキの言葉に、膝を付いている5人が頷く。その瞳に宿った強い意志は、語らずともスサノオへと伝えてきた。心の底からの言葉である、と。

 

「ここに、このアカツキ。暗夜王国ではなく、暗夜王子スサノオ様への忠誠を誓おう。あなたに仇なす災いを退ける刃となると」

 

「私もあなたにお仕えする事を、ここに宣誓するです!」

 

 その迷いない言葉に、スサノオは思う。ならば、こちらも迷いなく答えねば失礼であろうと。

 

「座りながらで格好がつかないが、分かった。アカツキ、ネネ。これからよろしく頼む。ライル達もな」

 

 天蓋の森の奥深く、今ここに場違いではあるが、確かな臣下の礼が執り行われたのであった。

 

 

 

「ところで、まだ彼の紹介がまだなんだが…」

 

 一段落ついたところで、スサノオはようやくもう1人の初対面の人物の事を尋ねた。

 

「おっとこれは失礼を。私はハロルド。エリーゼ様の臣下であり、暗夜王国の民を守る正義の味方だ! どうぞよろしくお願いするよ!」

 

 爽やかな挨拶と共にスサノオへと握手の手を伸ばすハロルド。しかし、スサノオは手を上げようとしない。

 

「?」

 

 ハロルドが不思議そうに手を差し出して止まっているが、それでもスサノオは手を差し出そうとしない。

 いや、

 

「はは…悪いな。今はちょっと…」

 

 上げられなかった。スサノオの腕は脱力しているように、だらんとしていた。

 

「体に力が入らないんだ…。今も、こうして座っているのがやっとでさ」

 

 申し訳なさそうに笑うスサノオに、ハロルドもそれなら仕方ないと笑って手を引っ込めた。

 

「もしや、竜の力の影響ではないだろうか?」

 

「あり得ますね。いくら王族が竜の血を引いているとは言え、本質は人間です。やはり、竜の力は人の身に余る力という事なのでしょう」

 

 アカツキの推測に、ライルが更に詳細を加えた。その説明を聞いてスサノオもまた頷く。

 

「自分の意思での完全な竜化は初めてだったからな。前は暴走してたみたいだったけど、多分あの時は竜が持つ獣の本能に引っ張られてただけだと思うし」

 

「これからは、竜になるのは避けた方がいいです。それは切り札として取っておくべきだと私は思うです」

 

「だな…。部分的な竜化はまだ後遺症は出ないし、竜化はここぞという時に取っておくか」

 

「うんうん! あたしも、おにいちゃんが元気なくなっちゃうのは嫌だもん! さんせいだよ!」

 

 ぴょんぴょん飛び跳ねるエリーゼに笑みをこぼすと、スサノオは目を閉じる。

 意識を、己の内側に眠る星竜の力へと傾けていき、そして───。

 

「ちょっと休息が必要だから、今から安全な所に皆を移すぞ」

 

 皆が疑問を口にする前に、スサノオは星界への門を開いた。全員が光に包まれて、やがて天蓋の森からその姿は消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら? 消えちゃった…」

 

 スサノオ達が姿を消した後、1人の人間が姿を見せる。

 

「一体どんな力を使ったの…? ああ、気になる…気になって仕方がない…」

 

 唇に指を這わせて、熱っぽい息を漏らすのは、暗夜の邪術師の衣に身を包んだ妖艶な女。

 その頬を朱く染め、にたぁ、といやらしい笑みを浮かべて身をよじる彼女は、周囲に散乱したノスフェラトゥへと視線を移す。

 

「一応、マクベスの指示通りにノスフェラトゥをザッと100体は放ったのだけど…まさか犠牲もなく全滅させるなんて…」

 

 口を三日月のように歪ませて、女は歓喜に震えていた。

 

「スサノオ様…あなた、素敵よ…。マクベスはあなたを苦しめろと言ったけど、あんなツマラナい男の命令なんてもうどうでもいい。ああ…イイわ…その力も、その心も、その魂も…。何より竜の姿になれるなんて、タマらない…! 知りたい、識りたい、あなたを、竜を…あなたの全てを……!!」

 

 妖艶な女は、その美貌をより妖しく魅せる笑みを浮かべて、動かぬノスフェラトゥ達に囲まれて、魔女のごとく笑っていた。

 ただただ、笑っていた。

 

 




「ベロアの『くんくん、ガルーアワーズ』…」

※ここからは台本形式でお送りします。

ベロア「……はあ」

ベロア「また始まってしまいましたね…面倒です…」

ベロア「報酬を頂くためにも、我慢しますが…。では、本日からゲストをお呼びしていますので、その方に丸投げしてしまいましょう。では、ゲストの方、どうぞ…」

ソレイユ「はーい! あたし、ソレイユさんが今回のゲスト&記念すべき初のゲストさんだよー!」

ベロア「…面倒そうな人が来ましたね」

ソレイユ「え~!? そんなツレナイ事言わないでよベロア~。うふふふふ、可愛いな~」

ベロア「止めてください。私の尻尾をもふもふしても良いのは、パパとママとスサノオだけです」

ソレイユ「よいではないかよいではないか~! ふへへ…本当に可愛いよね、ベロアってさー」

ベロア「よく臆面もなくそんな台詞が吐けますね…。甘ったるくて胸焼けしそうです」

ソレイユ「え~? でも、女の子が喜びそうな事しか言ってないよ? あたし」

ベロア「そうですか…価値観の違いですね。では、さっさとこのコーナーを終わらせ…」

ソレイユ「あー!? ちょっと待ってちょっと待って!? そんな適当に締めないで! もうちょっとマジメにやるからさ?」

ベロア「…はあ、疲れるのであまり厚かましく構ってこないで下さいね」

ソレイユ「うう、ベロアが冷たい…でも、そこがイイ…」

ベロア「……」

ソレイユ「ご、ごめんごめん! ちゃんとするから、そんな睨まないで!?」

ソレイユ「コホン! えー、それでは本日のお題はこちら! ずばり『作者さん、更新が遅れ気味だよ!』だね」

ベロア「作者…? ああ、キングフロストさんですか」

ソレイユ「いやいや、そこは即答してあげようよ!? 一応あたし達のお話を考えてくれてるんだよ!?」

ベロア「最近、戦場に駆り出される事が多いので、ちょっとした意趣返しですよ」

ソレイユ「そ、そうなんだ…。っとと、お題についてだったね。えっと、今ベロアが言った事が少しヒントだったんだよね~」

ベロア「…? 私がヒントを言いましたか?」

ソレイユ「言ったよ。ほら、『よく戦場に駆り出される』ってさ。その言葉通りの意味だよ」

ベロア「…それは、あれですか? 資金稼ぎついでの育成に遺跡まで付き合わされている事を言っているんですか?」

ソレイユ「そう! 作者さん、更新したいらしいんだけど、あたし達や父さん達の育成(ゲーム)が楽しくて仕方ないらしくてさ。そっちに熱がこもってるみたいなんだよね」

ベロア「私としては、面倒なだけなので、いい迷惑ですが…」

ソレイユ「まあまあ、ゲームしながらでもお話は考えてるみたいだからさ、どーんと胸を張って待ってあげようよ!」

ベロア「…まあ、私もよく部屋でもふもふして頂いてますから、大目に見ます」

ソレイユ「ところでさ、胸を張ってで思い出したんだけど、ベロアってけっこうおっぱい大きいよね。あたしとお風呂で比べっこしな…」

ソレイユが獣化したベロアにアッパーでノックアウトされた為に、収録はここで中断します。

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