ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第29話 剣姫と黒竜

 

 2人を取り囲む大量のノスフェラトゥは、殺到するようにエリーゼ達へと向けてその拳を振り下ろしていく。

 無数に迫る暴力の塊を前に、為す術が無いように思われたが、

 

「……甘く見るな!」

 

 アカツキが両手に持った霊刀を前後同時に振り上げる。白く光る霊刀には、青白い炎が宿り、ノスフェラトゥの腕を切り裂くと同時にその切り口から、斬り飛ばされた腕とノスフェラトゥ本体に燃え移り、

 

「弾けろ!」

 

 アカツキの言葉と共に、青白い炎が爆発するかのように拡散した。

 その様は、まるで花びらが散るように美しく、それでいて敵を殲滅せんと燃え盛る猛々しさを帯びていた。

 そう、例えるなら、命を咲き散らす華のごとく。

 

「ギギギガゲ!!?」

 

 青白い炎はやがて完全なる青へと変化し、飛び散った炎の花びらを浴びたノスフェラトゥ達すらも完全に炎の内へと飲み込んでいく。

 

「す、すごい……!」

 

 敵が燃え尽きていくという、本来なら凄惨なはずの様子でありながら、そのあまりの美しさにエリーゼは目を奪われていた。

 

「まだだ!」

 

 アカツキは一瞬だけエリーゼから離れ、炎にもがくノスフェラトゥ達に近づくと微塵の躊躇もなく、手にした刃でノスフェラトゥ達の頭へと次々に斬り込んでいく。

 ズシンという衝撃を大地に響かせてノスフェラトゥ達が倒れ伏す。そして、それによってエリーゼはハッとして周囲を見回した。

 エリーゼが気が付いた時には、自分達へと拳を向けていたノスフェラトゥ達の頭部は全て、完全に真っ二つに切り裂かれていた。

 

「……数が多すぎる」

 

 刀に付いた黒い血を振り払うと、アカツキは再び刀を構え直す。その目が見据えるのは、まだまだ増殖を続けるノスフェラトゥの軍勢。その勢いは、未だに衰えを見せていない。

 

「!! ノスフェラトゥが!」

 

 エリーゼの叫びにアカツキは振り返る。アカツキの瞳に映ったのは、ノスフェラトゥの1体が巨大な倒木を持ち上げ、こちらに向けて今まさに投げつけられた光景だった。

 

「くそ! あれは流石に切り捨てられない…!!」

 

 細い刀では、あの倒木を斬るのは無理だ。いや、どんな剣であろうと不可能だろう、一部の例外を除けばではあるが……。

 しかし、今はその例外はこの場に存在しない。アカツキではどうあっても、あの巨大な倒木を防げない。

 エリーゼを連れて倒木の範囲内から逃れる事は、今からではもう無理。

 

「万事休すか……」

 

「そんな…誰か、助けて……おにいちゃん……」

 

 アカツキはせめてもの抵抗とばかりに、刀を十字に構えて倒木を待ち受ける。

 エリーゼはギュッと目を閉じ、縮こまるように両手で体を抱き締める。

 

 そして、投げられた倒木が2人の真上に───

 

 

 

 

 

『ガアアアァァァァァァァァッ!!!!』

 

 

 

 

 

「「ッ!?」」

 

 突然、森に響く咆哮。そしてそれと同時に、真上で起こる変化。

 

「……ぁ」

 

 エリーゼは自然と声を漏らす。見上げた場所には、おとぎ話に出てくるような、大きな黒い竜がいた。

 

 

 

 

 アカツキは動揺していた。突如鳴り響いた獣のような咆哮と、そしてその咆哮の主が倒木を蹴り飛ばした事に。

 そして何より、それをやったのが竜であったという事に。

 

「ネネ…いや、カタリナ……なのか……?」

 

 しかし、自分の考えが見当違いだという事にすぐに気が付く。

 

(違う…。あの竜はネネでもカタリナでもない。形状も色も、大きさも、何から何まで違いすぎる…)

 

 自分の知っているものとは違いすぎるその黒き竜。ならば、この竜は一体何なのか。

 ここでは、『この世界』では竜は神であるとされている。白夜、暗夜それぞれの王族が引く血筋も、元を辿れば神祖竜。つまり『竜』。

 この世界において、竜という存在は特別な存在であり、普通に考えてこんな所に居るはずがないのだ。

 

 だからこそ、ネネ達は少々面倒な事になっているのだから。

 

「何故、竜が……」

 

 呆然とするアカツキをよそに、黒竜は倒木を蹴り返されて薙ぎ倒されたノスフェラトゥの群れに、その口から大きな黒炎球を撃ち出した。

 

『ガギギギ……』

 

 一瞬の間にノスフェラトゥの群れは黒炎に包まれ、呻き声もまた一瞬にして灰と共に消えていく。

 アカツキの青い炎とはケタ違いの黒い炎の威力に、またしてもアカツキに衝撃が走った。

 

「竜の力……これほどのものなのか…」

 

 思わず呟くアカツキ。そしてゆっくりと、黒竜はその鋭利な翼を羽ばたかせて降りてくる。

 

「か…」

 

 地面へと降り立った黒竜を前に、怖がる馬から下りて、エリーゼは恐る恐るといった感じに歩み寄る。

 そして、

 

 

 

「かっこいいーーーー!!!!」

 

 

 

 力いっぱい叫ぶと、エリーゼは黒竜の足元でぺたぺたとその竜鱗を触り始める。

 

「わー! ほんとに竜だー!! 飛竜よりも鱗がおっきい! それに手足と翼が別々だよー!!」

 

 嬉々として実況を始めたエリーゼ。しかし、忘れないで欲しい。彼女達は今、無数のノスフェラトゥに取り囲まれているという事を。

 

「エリーゼ様、危険です! いくら竜が神に等しいとはいえ、突如現れた謎の存在。それに、今はノスフェラトゥが大量に我らを取り囲んでいる。気を抜かれるな!」

 

 アカツキが注意を飛ばすが、エリーゼはどこ吹く風と全く耳を貸そうとしない。何故なら、エリーゼにはある自信があったから。

 

「大丈夫だよ! だって、この竜はあたしたちを守ってくれたんだもん。ぜったいに良い竜なんだよ、きっと!」

 

 ペタンと竜の脚にへばりついて言うエリーゼに、アカツキも、確かに竜に助けられなければ危なかったという事実に、納得出来ない訳でも無かった。

 

「まあ、確かに…」

 

「それにそれに、竜は神様なんだから、あたしたちの敵なんかじゃないって!!」

 

「…………全ての竜がそうとは限りませんが」

 

「え? なんて?」

 

 ボソボソととても小さい声だったので、エリーゼにはアカツキが何と言ったのかは分からなかった。

 アカツキも、話をはぐらかすように視線をノスフェラトゥへと戻してしまい、結局エリーゼは聞けずじまいとなった。

 

「??」

 

 怪訝な顔でアカツキの背中を見つめるエリーゼだったが、そこに更なる出来事が起こる。

 

「ま、待って下さいです! は、早すぎるですよ!!」

 

 黒竜が飛んできたであろう方向、死霊の館の方から聞こえてきた女の子の声。

 エリーゼはキョトンとして、アカツキはガバッと勢いよくそちらに振り向く。

 死霊の館から、金髪のおかっぱ頭の少女が息を切らせてこちらに走ってきていた。

 

「ネネ!」

 

 アカツキの知り合いらしく、金髪の少女も自分を呼んだアカツキの方へと駆け寄っていく。

 

「アカツキ…もしかしてピンチですか?」

 

「見ての通りだ。それより、お前はこの竜を知っていたのか?」

 

 ネネが黒竜を追ってきたような口振りだった事に、アカツキは問いかける。聞かれたネネはと言うと、どうにも困ったような顔をして、

 

「えーっとですね…、ネネもついさっき見てびっくりしたと言いますか、話には聞いていたので納得しちゃったと言いますか……」

 

「…煮え切らん! 結局この竜は何なんだ?」

 

 時折、近寄ってくるノスフェラトゥ達をその強靭な尻尾で凪払い、または黒炎のブレスで焼き払う黒竜を見上げて、アカツキは眉間にしわを寄せる。

 

「私達が暗夜の王城で仕えていた時、とある老兵の方から聞いた事があるです。王族はこの世界を作った神祖竜の一柱、白夜は光竜の血を、暗夜は闇竜の血を引く子孫である、と」

 

「…私も、それくらいは知っている。それが何だというんだ?」

 

「あー! それ、あたしも知ってるよ!」

 

 王族なので当然知っていてもおかしくはないエリーゼが、自信たっぷりの話に入ってくる。それにより、ネネは初めてエリーゼの存在に気が付く。

 

「……、っ!? エ、エリーゼ様ですぅ!?」

 

「…私も、こんな感じだったのだろうか……?」

 

 まさか王女がこんな所に居るとは思わなかったのか、ネネが盛大に驚いているが、アカツキは続きを促す。

 

「こほん、えっと、それでですね…。王族は神祖竜の血を引いているです。そして、稀にですが王族の中でも特に竜の血を色濃く受け継いで生まれてくる者もいるのです。その濃い竜の血は、竜脈を利用出来るだけでなく、自身を竜の姿へと変える事も可能にするです」

 

 そこまで聞き終えて、アカツキにはネネが何を言わんとしているかが分かった。

 

「まさか…」

 

「えー? あたしにも分かるように教えてよー!」

 

「そのまさかです。こちらにいらっしゃるのは……」

 

 エリーゼを華麗にスルーして、ネネは自分達を守りながらノスフェラトゥと闘う黒竜を指して言った。

 

 

 

「私達が本来仕えるべきである、幽閉されていた暗夜の第二王子、スサノオ様なのです」

 

 

 


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