ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

76 / 113
第27話 悪霊の正体

 

 互いに叫んだところでようやく、どちらも幽霊ではない事に気が付く2人。

 

 スサノオは落ち着いたところで、扉から顔を覗かせた少女をよく見てみる。

 おかっぱ頭に2つの長い三つ編みを前に流すようにした『金髪』の少女。そう、『金髪』なのだ。

 スサノオが噂で聞いた悪霊は、長い黒髪の女というものだった。つまり、彼女は噂の悪霊ではないという事になる。

 

 少女も落ち着きを取り戻したようで、扉に体を隠しながらおずおずと口を開いた。

 

「あ、あなたは誰ですか…?」

 

 警戒心を露わにして、少女は選別でもするかのように目を細めてスサノオを見ている。

 スサノオも、少女になるべく不安を与えないように言葉を選びながら答えた。

 

「あー、えっと、俺は怪しい者じゃない。天蓋の森を抜ける途中でこの館を見つけて、噂になってたのを思い出したから少し調査してみようと思って、ここに来たんだ」

 

「噂…ですか」

 

 少女は噂について知らないのか、どこか疑りの目をスサノオに向けている。もしかしたら、この少女は暗夜から来たのではないかもしれない。それならば、あの噂を知らないのにも頷ける。

 

「ところで、君こそこんな廃屋で何をしていたんだ?」

 

「あのですね、私は旅の途中でして…宿代がもったいないって旅の連れがケチった所為で、ここ最近はこの館で寝泊まりしているのです」

 

 少女の『連れ』という言葉に、彼女が1人ではない事を知ったスサノオ。しかし、人の気配はこの少女の分しか感じられず、やはり彼女は現在1人のようだった。

 

「そのお連れさんはどうしたんだ?」

 

「あの…その前に、お名前をお聞きしても良いですか? 誰だか分からない人とお話するにも、互いに名前くらい知っておいた方がいいですから」

 

 なかなかに物怖じしない少女の言葉に、スサノオもまた名乗るべきだと判断して、己の名前を告げた。

 

「そうだな、うん。俺はスサノオという。暗夜王都から来た者だ」

 

「へー、スサノオっていうですか……、…? あれ、どこかで聞いたような……」

 

 少女は唸るように考え込み、やがて顔を驚愕させていくと、

 

「お、思い出したです…! ス、スサノオって、あのスサノオ王子ですか!?」

 

「…そうなるな」

 

 少女が驚くのも無理はない。なんせ目の前に王子様が居るというのだから、驚かない方がおかしな話なのだ。

 ただ、少女はひとまずの間を置いた後、とある事に思い至る。

 

「…王子様がどうしてこんな所に1人で居るですか? お連れの従者や兵も、見たところ引き連れてはいないみたいですが…。本当に王子様なんですか?」

 

「うぐっ…」

 

 痛いところを突かれ、スサノオは何を言おうかと考えあぐねていると、少女はすかさず次の疑問を口にする。

 

「それに、スサノオ王子と言えば、双子の妹であるアマテラス王女と常に一緒だとも聞きましたです。あと、暗夜王国の北部にある城塞で半幽閉状態とも」

 

 ますます強くなる少女の疑念。何か決定的な証拠でも無ければ、信用してはもらえないだろう。

 

「…信じてもらえるかは分からないが、つい最近になって外に出てきたばかりなんだよ。それと、アマテラスについては…」

 

 アマテラスが暗夜を裏切った話は、遅かれ早かれ暗夜王国に伝わるだろう。いや、暗夜に限らず近隣諸国にさえも広がるはずだ。

 スサノオ達の決断は、本人達が思っている以上に周囲にも多大な影響を与え始めていたのだから。

 

 なので、言っても問題ないと判断したスサノオは、事実のみを簡潔に話す。

 

「アマテラスは白夜についた。俺達の袂は分かたれたって事さ」

 

「アマテラス様が…白夜に……!? そ、それは本当なのですか!?」

 

 扉から体を出すと、取り乱しながら少女がスサノオに詰め寄った。血相を変えた少女に、スサノオは訳が分からず宥めようとするが、

 

「落ち着け。いきなりどうしたんだ?」

 

「じゃ、じゃあ、ルーナ達はどうしたです!? アイシスは? オーディンは? ミシェイルは? みんなはどうしたですか!?」

 

「! お前、あいつらを知ってるのか?」

 

「…あ」

 

 自分が暴走気味だった事に気付いた少女は、スサノオから離れると、佇まいを正して元の平静さへと戻っていく。

 

「し、失礼しましたです。ちょっと、友達が暗夜の王城で勤めているもので…、あれ? ひょっとして、ルーナ達を知ってるです?」

 

「知ってるもなにも、アイシス、ミシェイル、ノルン、ライルは俺の臣下だし。そのルーナとオーディンは知らないけど」

 

 少女は息を呑んだ。自分が言っていないはずの仲間の名前まで、スサノオは答えた。それはつまり、スサノオが王城関係者である事はまず間違いないという事。

 そして、少女はスサノオをよくよく見て、その身なりが普通の兵よりも良いという事に気付き、いよいよスサノオが王子だという事に信憑性が出てきた。

 

「じゃあ、本当に…あなたはスサノオ様、なのですか…?」

 

「やっと信じてもらえたのか…」

 

 若干の疲れを顔に滲ませ、スサノオは溜め息をついた。

 

「さて、そろそろ君の名前を教えてもらっていいか? アイシス達の知り合いらしいけど」

 

「で、です! 私はネネというです。ちょっと前までは暗夜の王城で従事していたですが、仲間の1人が暗夜のやり方に反発したのを機に、私達も一緒に旅をする事になったです」

 

 暗夜の王城で仕えていたと聞き、スサノオは意外な事実に少し驚いた。そして、暗夜のやり方がそんなに酷いのかと思うと同時に、つい先日の白夜での一件が頭に蘇ってくる。

 なるほど、確かに暗夜の、ガロン王のやり方には全面的に賛成出来るものではない。反発して兵を辞めるというのも頷けるかもしれない。

 

「そうか…。まあ、俺も父上のやり方を肯定出来るかと聞かれれば、全面的にとは言えないからな。いや、むしろ否定的かもしれない」

 

「…スサノオ様は、暗夜のやり方を分かっていて、暗夜に居るのですか? アマテラス様は白夜についたと言いましたが、どうしてスサノオ様は残ったのですか?」

 

「俺は…家族を捨てられなかった。血はつながってなくても、暗夜のきょうだい達は俺にとっては本当の家族なんだ。今まで育んできた絆を、俺は捨てるなんて出来なかったのさ…」

 

 スサノオにとって、血のつながりよりも大切だったのが絆だった。血がつながっていれば本当の家族? 血のつながりが無ければ本当の家族ではない?

 そんな事、関係ない。大切なのは、血ではなく、心がつながっているかなのだ。

 暗夜に残ると決めたのは、遠い昔の誓いもあったけれど、今まで紡いできた絆が失われるのが恐かったという事もあった。

 

「…私はまだ、スサノオ様の事はよく知りませんし、暗夜王国の非道なやり方も容認出来ません。ただ、私個人としては、スサノオ様のその考え方はとても素敵だと思うです。私が独断で決める訳にはいかないですが、私はあなた自身にお仕えして、あなたの人となりを見定めたいと思うです」

 

「そうか…。ありがたい話だけど、今は任務の途中なんだ。しかも、俺1人でこなさなければならないから、今はまだそう思ってくれているだけでいい。気が向いたら、俺のところに訪ねてきてくれたらいいし」

 

「…ですか。私も、連れに相談しないとですので、その方がありがたいです」

 

 そう言って、ネネは穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「そう言えば、ネネはその部屋で何をしていたんだ?」

 

「え!? えっとですね…そのですね…」

 

 途端、何故か急に焦り始めるネネ。どういう訳か、やたら冷や汗をかいている。

 

「その…お腹が空いてて、森で採ってきたキノコや木の実を食べてたです…。その、連れの分まで食べちゃったのです…」

 

 そう言ってネネが差し出してきたのは、かじりかけのキノコだった。それも、生の。

 

「…生でキノコを食うのはどうかと」

 

「大丈夫です。私の胃袋の鉄の如しなので、そうそうお腹を壊したりしないです。なんなら、そこら辺の草や木の根っこだって食べられます。いいえ、食べました」

 

「……えっ」

 

 彼女の言葉に、スサノオは絶句した。まさか、人間がそんなものを食べるなんて考えられないからだ。しかも、嘘だとは思えない程にネネの目は真剣そのものだった。

 

「とにかく、スサノオ様、私がここでキノコと木の実を食べていた事はくれぐれもご内密にお願いするですよ」

 

「あ、ああ」

 

 とりあえず、謎の呟きの正体が判明したのだった。

 

「あれ? じゃあ、噂の悪霊って一体…?」

 

 と、その時だった。

 

 

 

「きゃーーー!!!?」

 

 

 

 館の外から、女の子の悲鳴が聞こえてきたのだ。それも、聞いた事のある声が。

 

「な、何事ですか!?」

 

「あの声…まさかエリーゼ!? どうして天蓋の森に…!?」

 

 とにもかくにも、スサノオはなりふり構わず一気に館を走り抜け、外へと飛び出す。

 

 そして、スサノオの目に映ったのは、

 

 

 

 無数のノスフェラトゥに取り囲まれるように、その中心に立つエリーゼと、エリーゼを守るようにして刀を構える、長い黒髪の女剣士だった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。