ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜 作:キングフロスト
俺は魔竜石を高く掲げる。そして、魔竜石から湧き出た黒いエネルギーが体にオーラのようにまとわりついてく。
「!!」
纏った黒きオーラを、投げるように振ると、腕の部分のオーラがアマテラス目掛けて勢いよく伸びていく。
「せやぁっ!」
アマテラスは迫り来るオーラの手を夜刀神で弾こうとするも、
「っ!?」
夜刀神はオーラをすり抜け、それを見たアマテラスはとっさに腕でガードの姿勢を取った。
ゴガッ!!
夜刀神をすり抜けた黒いオーラは、アマテラスをすり抜ける事なく、アマテラスのガードした腕に的中する。
「今のをよく防いだな」
オーラが伸びた勢いと同じ勢いで俺の腕へと戻っていく。
俺は腕をグルグルと軽く回して、不敵に笑みを浮かべた。
「何ですか…その力は?」
アマテラスが腕を押さえながら尋ねてくる。
「俺も驚いている…、というのは嘘だな。魔竜石の力を何度も使っていた事で、俺は所有者として完全に認められたらしい。魔竜石から、俺の頭の中にコイツの使い方がはっきりと伝わってくる。それも、恐ろしいくらいに自然な感じでな」
ズオォォ、と俺を包む黒いオーラが、より大きく空へと立ち上っていく。それにより、不思議な高揚感が胸の中に立ち込めていくのを感じた。
「不思議な気分だ…。最初から、俺と魔竜石は一つだったかのような……。ふふっ…、この力、もっと試してみたい…!」
魔竜石から伝わってくる知識が、俺の好奇心を刺激してくるのだ。もっとこの力を試してみたい、と。
俺はアマテラスより少しだけ横にズラして腕を向け、オーラを撃ち出す感覚で放つ。
ズドン!!
「………な」
アマテラスの頬を黒き砲弾が掠めていった。
凄まじい速度を持った拳大のそれは、アマテラスの後方にある丘に着弾すると、大きな衝撃と土煙を生み出す。
「危ないな…、コントロールがまだ上手く利かないか。危うくアマテラスを殺すところだった……!」
心底良かった、と俺は一息つく。一応はアマテラスに当たらないように狙いを付けたのに、掠った程度だが当たったのだ。もっと練習が必要だ。これでは誰だろうと、撃った相手を殺しかねない。
アマテラスは今のオーラ弾にあからさまに警戒を示し、その懐から竜石を取り出した。
「行きますよ……!!」
竜石に封じられたアマテラスの竜の力の一部を、脚へと集中しているらしく、見えはしないが感覚的に竜の力が伝わってくるのを感じる。ちょうど、アマテラスが魔力で身体能力にブーストを掛けるのと同じ感覚だ。いや、もしかしたらそれ以上かもしれない力をアマテラスの脚に感じる。
「…! 竜の力か…」
アマテラスが竜石を手にしたのを見て、俺も警戒を強め、夜刀神を構えようとする。
が、アマテラスはその構えようとする俺の一瞬の隙を狙って、一気に竜の力を解放した。一時的にアマテラスの脚が竜化すると、一足跳びで俺の眼前へと躍り出る。
「!」
俺はその速度もさることながら、初めてで竜化を使いこなしているアマテラスに驚きを隠せない。アマテラスは夜刀神の刃を裏返して思い切り叩きつけてくる。
が、
「竜の力ともなると流石に速い…」
俺は即座に竜化させた腕で、アマテラスの夜刀神を受け止めた。竜鱗で覆われた腕は硬質で、まるで刃が通りそうにないような硬さを持っていた。たとえ裏向けていない夜刀神であっても、俺に傷がつくかどうかも分からない程に。
俺は黒い竜腕を乱暴に横に振って、受け止めた夜刀神ごとアマテラスを振り払う。
アマテラスは即座に受け身を取って立ち上がり、竜石を高く掲げた。今度はその腕を竜化させると、アマテラスはいつの間にか手にした石を竜の手で握り締める。
「ッ!」
更に竜石から力を引き出すと、アマテラスの竜化していた腕が膨れ上がり、やがて腕は手に持った石ごと、大きな竜の口へと変貌していく。
その大きな口をグワッと開いて、
「ハッ!」
俺に向けて、竜化した腕の口内から持っていた石を撃ち出した。
撃ち出された石は水で覆われており、それはアマテラスが竜化してやった外套の男の刀と同じ状態であった。
石に水を纏わせたのは、水単体で撃つよりも、石を核として撃ち出した方がスピードが出るためだろう。
更に言えば、スピードを出して尚且つダメージがなるべく少なくなる方法がこれだったのか。
竜化していた時の朧気な記憶だが、この水には攻撃と妨害の使い分けが出来ていた事を覚えている。
狙いは、俺の動きを封じる事だろう。
動きさえ止めてしまえば、リョウマ兄さん達の援護に行く事が出来る。マークス兄さん達を撤退させるには、あちらに有利な状況を作り上げる必要があるのだ。
いくらマークス兄さん達が強くても、流石に多勢に無勢では退かざるを得ない。そのためにも、暗夜のきょうだいの誰かを戦闘続行不能にしなければならないのである。
「ちっ…!」
水を纏った石の砲弾を、俺は身を反らして避ける。夜刀神で防ぐのはマズいという事は分かっているからだ。
俺が夜刀神を使って弾かなかったのを見ると、アマテラスは残念そうな顔になる。やはり、狙いは武器を使えなくする事のようだ。直接俺の動きを止めるには、少しでも俺から攻撃力を削りたかったらしいが、甘んじて受ける訳にはいかない。
「お前、早速竜石を使いこなしてるじゃないか。体の一部だけを竜化させたか。流石は俺の妹だ…」
妹の優秀さに、場違いながら嬉しくなるが、そうも言ってられない。俺は肩を回すように腕を大きく振ると、
「じゃあ、俺も見習わないとな」
前傾姿勢になり、背中と魔竜石に意識を集中していく。すると、ぶちぶちぶち、と肉を破るような音と共に俺の背から鋭利で真っ黒な竜翼が飛び出してきた。
「これは考え物だな…。これの度に服が破けると面倒だ」
言いながら翼をリハビリするかのようにバザバサと羽ばたかせると、体が地面から離れ、少しだけ宙に浮く。
「今はまだ高くは飛べないか…」
ストンと地面に降りると、俺は今度こそ夜刀神を構えて、竜の力により猛スピードでアマテラスに向かって走り出す。
「くっ!」
アマテラスも急ぎ応戦の体勢に入る。夜刀神を構えて間もなく、俺の振りかぶった一撃がアマテラスの夜刀神とぶつかり合い、2本の夜刀神が鍔迫り合いになる。
「ぐくっ…!!」
俺の夜刀神を受け止めるアマテラスの腕が、徐々に押され始めていく。
「このまま押し切らせてもらうぞ!!」
俺は更に押す力を強くする。このまま一気に押し切ってしまうために。
「させま、せん!」
しかし、アマテラスは竜石から力を引き出し、腕を竜化させる。それにより、力で俺に勝る事が出来たアマテラスは、ゆっくりと、俺の夜刀神を押しのけていき、
「言い忘れてたが、俺の腕は今4本だ」
「がっ…!?」
押し勝てると油断していたアマテラスを左右から竜翼により続けざまに2発打ち込む。それによってアマテラスは全身を強打される。
そして更にもう1発、よろめくアマテラスの体に俺は腹を避けて蹴りを入れ、アマテラスの体は後方に大きく吹っ飛ばされる。
ゴロゴロと何度も転がってようやくアマテラスの体は止まる。
「ケホッ、ゴホッ、…ハァ、ハァ、何、が…?」
痛む体を何とか起こして、アマテラスは飛ばされた方を見る。俺はアマテラスに何が起きたのかを教えるために、翼を大きく開いていた。
それを見て、アマテラスもすぐに何が起きたのかを理解したようだ。さっきの攻撃はこの強靭な翼膜を叩き付けたという事に。
息を切らせて立ち上がると、苦痛に歪んだ顔でアマテラスは叫ぶ。
「…ハァ、遠近自在なんて、ハァ、反則じゃないですか……!」
離れればオーラの攻撃が、近づけば竜の体を活かした攻撃が。
これではアマテラスは迂闊な事が出来ない。今、この闘いは俺の独壇場となっているのだ。
「……」
「全身が痛むだろ? だから、もうこんな争いは止めて、俺達と一緒に暗夜王国に帰ろう! 俺達の家があるのはこっちなんだ!」
「…いいえ。私の家があるのは、そちらだけじゃありません。白夜にも、私達の帰るべき場所が、家があります! お母様が守り続けてきた家が! 国が! 白夜王国だって私達の大切な故郷なんです! だから、兄さんこそこっちに戻ってきてください!」
もはや届かないと分かっていても、俺は叫ぶ。どうしても、諦めきれなかったから。
ただ、それはアマテラスにしても同じ事。どうあっても、俺達の主張は片方しか認められないのだ。
「…もう話し合いで解決出来る段階はとっくに過ぎてるって事くらい分かってる。やっぱり、力ずくしかないみたいだな」
俺は夜刀神を持つ腕を竜化させていく。これなら、たとえアマテラスも腕を竜化させたとて、パワーで負ける事はないだろう。
アマテラスもそれに対応するため、腕だけではなく脚も竜のものへと変えていく。
「ふっ!」
黒いオーラの腕をアマテラスへと勢いよく伸ばす。しかし、アマテラスはそれをしゃがんで避けると、頭上を素通りしたオーラを掴んだ。
俺はまさかの事に驚き、そして掴まれたオーラにアマテラスの握力を感じた。
アマテラスはすぐに起き上がり、掴んだオーラをそのまま手繰り寄せるように一気に引っ張る。
「うおっ!?」
竜の腕で引っ張られた俺は急な事に驚き、オーラごとアマテラスへと吸い寄せられるように体が引っ張られていく。
「当たれーーー!!!」
全力でオーラを引っ張った腕はそのまま後ろにして、そして引っ張られた俺に向けて、力を込めたその拳で思い切り殴りつけた。
「ぐぶっ!!?」
アマテラスの竜の拳が俺の腹に綺麗に吸い込まれていき、その体がグンと吹き飛んでいく。
何度もバウンドしながら転がっていく俺の体が、ようやく止まり、ゆっくりと立ち上がろうとするが、
「う、く」
腕に上手く力が入らず、なかなか起き上がれない。そして倒れ伏す俺の元まで歩を進めてアマテラスは言う。
「これで決着はつきました、スサノオ兄さん! 私の勝ちです! だから、白夜王国に……」
───戻ってきて。
と、言おうとしたのだろうが、俺にその言葉が届く事はなかった。
ズシャア!!
と、突如アマテラスのすぐ近くに、何かが大きな音を立てて空から落ちてきたのだ。
土煙でよく見えないが、それによってアマテラスの意識が俺から離れてしまっていた。
だから、気付くのに遅れてしまった。こちらの援軍に。
「ああ…私の可愛いスサノオ…。こんなに傷だらけになって、大丈夫…?」
俺の頭上に、カミラ姉さんが空から急降下してきたのだ。
「アマテラス…あなたがやったの? お姉ちゃん、きょうだい喧嘩は嫌いなのよ…」
「…カミラ姉さん」
悲しそうな顔をして、アマテラスと対峙するカミラ姉さんに、俺も少し心が痛む。
本当なら、こんな争いをする事もなかったのに。あの無限渓谷での出来事のせいで、俺達の運命は狂ってしまったのだ。
あれさえ無ければ、俺達はこれからもきょうだいとして今まで通りの生活を送っていけたのに。
「……!!」
土煙がようやく晴れていき、アマテラスは落ちてきたものの正体に驚愕する。
美しい白い毛並みに、鳥のような大きな翼。それは天馬。ヒノカ姉さんの愛馬である天馬が、空から降ってきたのだ。
主人と共に。
「ヒ、ヒノカ姉さん!!」
天馬のすぐ傍で倒れるヒノカ姉さんにアマテラスは駆け寄り、抱き起こす。
どうやら命に別状はないらしく、意識も辛うじてあるようだった。
「く…済まない、アマテラス…。スサノオを連れ戻すと意気込んでいたというのに…このざまだ…。くそ…くそ、クソォ……!!」
涙がヒノカ姉さんの頬を伝う。傷だらけの体で、涙を拭う事すらままならず、ヒノカ姉さんは俺を取り戻せなかった悔しさと、再び、しかも今度は目の前で連れていかれる悲しみに、悲壮な表情を浮かべていた。
「残念だけど、スサノオを連れて帰って治療しないといけないの。アマテラス…また、今度会いましょう? その時こそ、もう一度私の胸に飛び込んでいらっしゃい…。あなたが戻ってきてくれるのなら、お姉ちゃん、とても嬉しいわ」
カミラ姉さんは俺を担いで自身の竜に乗せると、自分も竜へと跨がり、飛び立っていく。去り際の寂しそうなカミラ姉さんの横顔に、アマテラスは一層、悲しそうな顔で見送っていた。
姉さんの後ろで、俺は姉さんにもたれるようにして飛竜の羽ばたきに揺られていた。
「すまない…姉さん」
俺の謝罪に、カミラ姉さんは静かに答える。その声音は、慈しみに満ちていた。
「…あなたは何も悪くない。悪いのは、私の可愛いあなた達を誑かした白夜王国なのよ。…ああ、私の可愛いスサノオ…お姉ちゃん、あなたが無事に帰ってきてくれただけでも嬉しいわ…」
カミラ姉さんの腰に回すように飛竜に乗っていた俺の手に、カミラ姉さんの手が重ねられる。
その柔らかな姉さんの手は、とても暖かく感じられた。
「スサノオ…あなた、アマテラスに手加減していたでしょう…?」
「……」
「別に怒っている訳ではないのよ? あなたのその優しいところが、私は大好きなんだから…。それに、アマテラスを殺さないでくれて、私も嬉しいの」
カミラ姉さんの言葉に、俺は姉さんの背に頭を預けて言った。
「…すまない。本当に、すまない…カミラ姉さん。俺は、アマテラスと闘う事に、心のどこかで躊躇していた。心の迷いを捨てる事が出来ていたら、アマテラスを連れ戻せたかもしれないのに……!」
俺の懺悔のような呟きを、カミラ姉さんの慈愛を込めた言葉が、優しく包み込んでくれる。
「もう…何度言わせるの? あなたは何も悪くないのよ。今度こそ、白夜の連中を皆殺しにして、私の可愛いアマテラスを取り戻す。今は私もあなたも、それだけを思っていればいいの」
「…ああ、そうだな」
俺は再確認する。俺が選んだのは暗夜王国だ、暗夜の家族なのだと。
アマテラスを取り戻す。たとえ白夜のきょうだい達に憎まれようと、恨まれようと、俺は俺の目的を果たすだけだ。
俺とカミラ姉さんを乗せた飛竜を、夕日が赤く照らして、俺達は軍の後方へと退くのだった。
ちょっとアンケート的なものでもしようかな、と思います。アンケートと言っても、本編に関わるものではないのですが、まあ詳しくは活動報告にて、気が向いた方は見て頂けると良いかもです。