ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜 作:キングフロスト
第21話 闇へと堕ちていく
アマテラスがマークス兄さんへと夜刀神を構える。俺は、それを黙って見ていた。
「マークス兄さん…兵を退いてください」
アマテラスは選んだ。白夜を、本当の家族を。それが、アマテラスの答えなのだ。
「なに? アマテラス、まさか…白夜側につく気なのか?」
「はい…私は、白夜の側で闘います。そう決めたんです」
「アマテラス…。スサノオ、お前もそうだと、そう言うのか…?」
マークス兄さんの悲しい顔に、俺は目を閉じてしまう。今は、アマテラスの答えを全て聞きたかったから。
「…確かにお前達は、元は白夜王国の王族だ。私とお前達に、血の繋がりは一滴もない。だが、お前達が暗夜王国に来たその日から、私にとってお前達は本当のきょうだいだった。誰が何と言おうとお前達は…スサノオとアマテラスは私の大切な家族だ」
声だけでも分かる、マークス兄さんが今しているであろう表情。それでも、アマテラスの意思は変わらないようだった。
「カミラもレオンもエリーゼも、みんな同じ気持ちだ。父上だって、きっと。お前達は暗夜王国の人間だ…! 戻ってこい、スサノオ、アマテラス!」
「すみません、私達は戻れません。見たんです、ガロン王の卑劣なやり方を。町が破壊され、罪もない人達が死に、そして……白夜女王ミコト…お母様までも…」
脳裏に蘇ってくる、母の最期の言葉。自分の命よりも、我が子を守れた事を喜んで逝った、母上の暖かい言葉。腕に蘇ってくる、暖かい感触。でも、それでも俺は…。
「あの…兄さんはさっき、お父様も同じ気持ちだと言いましたよね。ガロン王も、私達の事を家族だと思っていると。ですが、私達は白夜女王に庇われなかったら…ガロン王から渡された剣の爆発で死んでいました。本当に家族だと…そう思っているのなら、私にそんな事をするはずがありません…。ガロン王にもし人の心があるのなら、白夜王国にこんな真似をするはずがありません! ガロン王こそが悪なんです!」
そして、アマテラスの言葉に、マークス兄さんは怒りを隠さず、
「何事を…! 父上が悪であるはずがない」
「兄さん…! ガロン王のしている事は、間違っています。兄さんも私達と…白夜王国と共に闘って……」
「いや、違うな」
「え…?」
俺は、ようやく沈黙を破った。アマテラスの意思は、想いは、もう分かったから。
ゆっくりと、マークス兄さんの元へと俺は歩き出す。アマテラスに背を向けて。アマテラスは俺を止めようと、手を伸ばすが、もう届かない。
「スサノオ…?」
そして、俺は振り返った。笑えているかも分からない笑顔を浮かべて、涙を堪えて、
俺は夜刀神をアマテラスに向けた。
「俺は、白夜王国には戻れない。俺の家族は、暗夜にいる。俺の家は、暗夜にある。俺は、もう白夜には帰れない」
それが、俺の選んだ答え。俺の選んだ道。
「そん、な……だって、白夜であんなに楽しく過ごしたじゃないですか…! お母様とだって、昔話をいっぱいしたじゃないですか! ガロン王の卑劣な行いを、この目で見たじゃないですか!!」
「それでも、だ」
「!!」
確かにガロン王の、父上の卑劣な策略は許しがたいものだ。でも、俺は譲れない。これだけは、何があっても譲れない。
「俺はな…アマテラス、昔ある事を誓ったんだ。とても遠い昔、今じゃはっきりと全部を思い出せないが、確かに誓った事がある。どんな事があろうと、『妹を守る』ってな」
「…! な、なら! 私と一緒に…」
「お前と一緒に行ってしまえば、エリーゼはどうなる? 俺にとって、お前と同様にエリーゼも大切な妹なんだ」
「でしたら、サクラさんだって…」
アマテラスの言葉に、俺は首を振る。
「確かにそうかもしれない。だが、お前がそっちを選んだ時点で、俺とお前はもう同じ道を歩めない。絆で繋がった妹を、家族を、俺は置いてはいけない」
俺にとって、暗夜のきょうだい達は、俺の心の支えだ。それを、裏切るなんて出来ない。たとえ、暗夜王国が、父上がどんなに卑劣であろうと、関係ない。
「お前が白夜につくと言うのなら、俺が、俺達が力ずくでもお前を連れて帰る」
「そうだな…帰ってから、説教をせねばならんだろう」
俺の隣で、マークス兄さんが馬上から剣を構える。愛剣、暗黒剣『ジークフリート』を…。妹を取り戻すために。
ただ、アマテラスは剣を向けられているというのに、動こうとはしなかった。
アマテラスは剣を構える事が出来なかった。たとえ、白夜王国につくと決めても、暗夜のきょうだいを傷付ける事なんて出来なかったのだ。
それでも、スサノオ達は止まってはくれない。
「何をボケッとしてる!」
「! リョウマ、兄さん…」
立ち尽くすアマテラスの前に、雷神刀を携えてリョウマが踊り出た。その目に、強い怒りを宿しながら。
「どういう事だ。何故、そちら側についている、スサノオ!」
リョウマの怒声を、スサノオは静かに受け止め、そして、
「俺は選んだ。暗夜につく事を」
「何故だ…! そいつらは、暗夜は母上を殺した奴らだぞ! それが分かっていながら、お前は暗夜に味方すると、そう言っているのか!?」
「…ああ」
「分かっているのなら何故、暗夜王国側につく理由がある!? お前は白夜王国の王子なんだぞ!? 本当ならお前は、俺達と共に白夜王国で育つはずだった! それなのにお前は、自分を連れ去った敵国のために闘うというのか!」
「…ああ」
リョウマの顔が、苦痛に歪む。弟は、自分達を捨てたのだと。取り戻したかった繋がりは、もう戻ってこないのだと。
「よく言った、スサノオ。さあ、行こう! 白夜に誑かされたアマテラスを、連れ戻すのだ!」
「黙れ! 貴様らこそ、よくもスサノオを誑かしてくれたな…! 力ずくでも、スサノオは白夜に連れて帰る!」
2人の王子が、互いに剣を構えて睨み合う。その殺気も闘志も、今までのどんな時よりも、とても濃厚で、立っているだけで頭が痛くなるような錯覚がするほどだった。
そして、互いの他の家族も、こちらへとやってくる。
「暗夜を裏切るなんて、許さない。絶対に逃がさないよ、アマテラス姉さん…」
「暗夜は母上の仇…! 全員、僕が倒してやる…!!」
「やっと、やっときょうだいが元に戻ろうとしているんだ…。もう二度と、スサノオもアマテラスも貴様らなどに渡しはしない!」
「うふふ…。白夜は皆殺しよ…。そうすれば、アマテラスだって私達の元にきっと帰ってきてくれる…」
「わ、私もっ、頑張りますっ! それで、スサノオ兄様に帰ってきてもらうんですっ…!」
「よ~し! 頑張って、アマテラスおねえちゃんを取り返すからね!」
きょうだい達が、互いにスサノオとアマテラスを奪い返そうと意気込んでいる。
大切な人達が、殺し合おうとしているのだ。それを黙って見ているなんて、アマテラスには出来ない。
「や、止めてください! どうか、軍を退いてください!」
アマテラスの叫びも、もはや皆には届いていない。
「…もう、闘うしか…道は無いのですか…」
どうしてこうなってしまったのか。自分の選択がいけなかったのか。
もはや、戦闘は避けられなかった。
「一度、貴様とは決着をつけなければならないと思っていた…。貴様を倒し、アマテラスは暗夜に連れ戻す!」
「ふん…それはこちらの台詞だ。俺が貴様に勝ち、スサノオの目を覚まさせる!」
マークスとリョウマが、互いに剣と想いをぶつけ合い始める。
それに続くように、他のきょうだい達も闘いを開始した。
「貴様らを打ち倒し、私の大切な弟と妹は何としてでも守る! 白夜第一王女ヒノカ! 参る!」
「何度言えば分かるのかしら…? スサノオもアマテラスも、私の弟と妹だというのに。あなたを殺せば、私の可愛いアマテラスもきっと、私の元へと帰ってきてくれる…」
ヒノカが天馬に乗って天へと駆けて行き、その後をカミラが斧を肩に担いで、飛竜を駆って追いかけていく。
「いいよ、暗夜一の魔法を、特別に見せてやる。僕に挑んだ事をせいぜいあの世で後悔するんだね」
「黙れ! 死ぬのはお前だ! 僕が、お前を殺してやるんだ…!」
レオンとタクミによる、魔法と矢の押収が辺りを破壊していく。
「さあ、俺達も始めよう。アマテラス」
スサノオは、夜刀神を構え直してアマテラスへと宣告する。
「もう…戻れないんですね。スサノオ兄さん…」
アマテラスも、夜刀神を構えてスサノオと対峙する。その眼には、涙が溢れていた。
「俺はお前を倒してでも
暗夜へ連れて帰る」
───『光』…俺は、間違ってなんかいないよな…?