ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜 作:キングフロスト
暗夜王都・ウィンダム。その中心に存在する巨大城、それが暗夜城・『クラーケンシュタイン城』だ。
大きな螺旋を描くような構造をしており、中心部分は大きな穴が開いたかのように吹き抜けとなっている。その穴の上に掛けられた空中廊下には、手すりの
幸い、城内という事もあり、天井は存在しないが風も吹かないので、よっぽどの事がなければそのような事故は起き得ない。
「へぇ……。こいつはすごいな。底は一体どこなんだ?」
この城にはよく来ている他のきょうだい達はグングン前に進んで行くが、初めてここに訪れたスサノオ達は落ちないように気を付けながら、空中廊下の下を覗き込んでいた。
「本当に……、すごく高いですね……」
アマテラスは底の見えない暗闇に、息を呑む。ここから落ちたら、命は無いだろう。
「流石は暗夜王城ってところか。例え城内であっても、臆病な構造は許さないってか?」
この高さに恐れを感じているアマテラスとは違い、スサノオはむしろ納得といったように、平然と下を覗き込んでいた。
「さあ、行きますよスサノオ兄さん。マークス兄さん達はもうとっくに城の中に入って行きましたし」
「はいよ」
そそくさとアマテラスは早足に空中廊下を歩き出す。いつまでもこんな所には居たくなかったからだ。
急かされたスサノオは、そんな妹の可愛らしい一面に、少しの笑みを浮かべて、ゆったりとした足取りでその背を追った。
王城内にいくつか存在する内の、比較的大きな中庭で、きょうだい達を待っていた人物が居た。
「よく来たな、スサノオ、アマテラス」
暗夜王・ガロン。随分と年を取るにも関わらず、未だその権威は衰えを見せず、その鎧の上からでも分かる肉体の逞しさは、王が現役の戦士である事を物語っているようだ。
「はい、父上。お久しぶりで御座います」
「お呼び頂き、光栄です。こうして、このクラーケンシュタイン城でお父様にお目通りが叶う日が来るなんて、夢のようです」
膝をつき、胸に手を当てて礼の姿勢を取るスサノオとアマテラス。
他の4人のきょうだい達は、スサノオ達より少し後ろに控えるように立って、その様子を見守っていた。
「いや…、お前達の日々の精進故の事だ。聞けば、マークスから見事に一本取ったというではないか。ようやく暗夜の王族に相応しい力をつけた……。故に、お前達をここに呼び寄せたのだ」
ガロンの言葉に、自然と嬉しそうな笑みを浮かべるアマテラス。スサノオは、妹の横顔にチラリと目をやって、兄としてビシッとしなければと自分は顔を引き締めるように意識した。
「…その、お父様、あたしも嬉しいのですが、大丈夫なんですか? スサノオおにいちゃんとアマテラスおねえちゃんは……」
と、エリーゼが突如、心配そうに声を上げる。そのエリーゼの言葉を続けるように、カミラが口を出す。
「……ええ。私もずっと聞かされておりましたわ。この子達は私達とは違い、結界に守られた北の城塞にいなければ危険だと……」
心底2人を大切に思っているからこそ、カミラもエリーゼも、スサノオ達が外に出られた事を祝福したと同時に、その身を案じていたのだ。
そんな姉妹の心配に、他でもない本人達が答える。
「どうって事ないさ。俺達だって暗夜王族の一員なんだ。そんな結界なくたって、平気だよ」
「私達はこうして外に出られた事が何より嬉しいんです。それに、私達きょうだいが力を合わせれば、どんな危険や困難だって乗り越えていけますよ」
笑顔で答える2人に、カミラ達もまた、困ったような嬉しいような顔で頷き返す。
話が一区切りついた所で、ガロンが本題を切り出した。
「さて、スサノオ、アマテラスよ。お前達も知っているだろうが、我が暗夜王国は、東方の白夜王国と今も戦争の最中にある」
「! はい……」
「十分に存じております。ギュンターさんからもよく聞いていましたから」
外に憧れを持っていた事もあり、幼い頃からギュンターにはよく話を聞かせてもらっていたので、2人は暗夜王国の現状もある程度は把握していたのである。
「我ら王族は、
「はい。承知しております、父上」
「私達は、少しでも兄達に近づくため、剣技に魔道と、今まで各々が修練を積んで参りました」
「ほう……。それは頼もしい。では、お前達に授ける物がある」
ガロンがスサノオ達に向けて手を翳すと、それぞれの前に、闇が口を開き、中からは黒塗りの剣がアマテラス、黒き輝きを放つ拳大の宝石がスサノオの前に現れる。
「話によれば、スサノオは剣技に問題は無いが、アマテラスは魔道に秀でた分、剣技が兄に劣るそうだな。それは『魔剣ガングレリ』…。異界の魔力を秘めたその剣は、お前の魔力に呼応する。その魔剣をお前の腕を以て振るえば、白夜の兵供をたちどころに殲滅出来ようぞ」
「魔剣ガングレリ……」
父からの説明を受けたアマテラスは、宙に浮かぶその剣に手を伸ばす。思いの外、その魔剣は自分の手に馴染むような、そんな感覚をアマテラスは覚えた。
「父上、この宝玉は……?」
と、スサノオもまた、自らの前に浮かぶ黒き宝玉に疑問を持つ。
「それはマークスやレオンの持つ神器と同じく、我が暗夜王家に伝わる宝具だ。名を『魔竜石ギームル』…。我らが神祖竜の力の一部が宿っているという。その宝玉を所持している間、所持者は本来の自分を超えた身体能力を得ると言われている」
「そんな大切な物を、俺が受け取って良いのですか?」
「構わぬ。置いておいても宝の持ち腐れでしかないのだ。ならば、お前に授け白夜軍を滅ぼす方が価値はある」
「ありがとうございます。必ずや、父上の期待に応えて見せます!」
「私も、暗夜の王族として、恥を晒す事のないよう励みます」
2人は与えられた宝玉と剣をそれぞれ手に、ガロンへと深く頭を下げた。
「…さて、ではアマテラスよ。お前には早速その魔剣を試させてやろう。捕虜供をこれへ!」
ガロンが叫ぶと、控えていたであろう兵士の1人がスサノオ達の背後からやってくる。
見ると、スサノオ達が入ってきた中庭の入り口辺りに、縄で縛られた者が複数いた。
「よいか…、この者らは、先の戦闘で捕らえた白夜の兵だ。お前の力が見たい。その魔剣を以て、こやつらを斬り伏せてみよ!」
ガロンがアマテラスに命じると、捕虜を連れてきた兵士が、縛られていた白夜兵の縄を解き、彼らの武器らしきものをその足下に投げ捨てた。
「ま、待ってください! それならば、俺がやります! アマテラスはまだ実戦に対する心構えが未熟です。だから代わりに俺が……!!」
スサノオが、まだ人を殺す事への覚悟を持てていない妹を庇おうとするが、
「ならん。それでは意味がない。これは、アマテラスへの命令だ。お前が敵を殺す事に戸惑いを持つ事が無いという事は、マークスとの訓練の報告で承知済みなのだ」
「くっ…、しかし!」
頭に血が昇り掛ける一歩手前で、スサノオの肩を掴む手が。隣にいるアマテラスのものだった。
「いいんです、スサノオ兄さん。心配しなくても、私は私のやり方で戦うだけですから」
いつにも増して、その瞳に強い意思を宿したアマテラスに、スサノオも渋々といった様子で、マークス達の元へと向き、
「仕方ない…。ただ、これだけは忘れるな。これは、遊びでも訓練でもない、実戦なんだって事は。お前が気を抜けば、それを敵は見逃さずに仕掛けてくる。命を狙ってな」
言うだけ言って、スサノオはその場を離れた。
「ありがとうございます、スサノオ兄さん。大丈夫、油断なんてしませんよ……」
アマテラスは魔剣を構える。少々離れた位置にいる敵の数を確認するが、ザッと数えただけで6人ほど。1人で戦うには分が悪い、と思っていたら、
「お供いたしましょう」
ギュンターが、ジョーカーとフェリシアを引き連れて、アマテラスの前へと躍り出た。
「ギュンターさん!? それに、フェリシアさんとジョーカーさんも……」
「ご心配めさるな。王から許可は得ています。我らはアマテラス様の剣も同じなのですから。……ジョーカー、フェリシア。戦えるな?」
ギュンターの問いかけに、ジョーカーはニヤリと笑い、
「バカ言えジジイ。当然だ。アマテラス様を怪我させてたまるか」
「あ、あのあの~! 私も頑張って戦います! アマテラス様に危害は及ばせませーん!!」
気合い十分とまでに、2人は自身の武器である暗器に手を掛けて言う。
「アマテラス様! 戦いは私達に任せて、ゆっくりと寛いでいて下さい~! 後で美味しいお紅茶をお淹れしますから~」
「バカ、お前が紅茶を上手く淹れられるか! 紅茶は私がお淹れしますので、どうぞこのバカが言うように、ゆっくりなさっていて下さい」
「ば、バカってひどいですよ~ジョーカーさん!」
「ええい、少しは静かに出来んのか! 忘れるな。あくまで我らはアマテラス様の剣。アマテラス様自身が何もしなくては意味が無いのだからな!」
「あはは……。よろしくお願いしますね、皆さん?」
「ふざけてるのか……!!」
今まで従者コンビによる漫才を静観していた白夜兵の1人が、怒鳴り声を上げた。
それは、逞しい体つきをした女性からのものだった。
「あたしはリンカ! 誇り高き、炎の部族の族長の娘! そこのお前!」
手に持った棍棒をアマテラスへと向けながら、リンカが叫ぶ。
「わ、私ですか?」
「お前が暗夜王国の王女か。名は何という!」
条件反射的に、アマテラスは名を問われたので率直に答えた。
「は、はい! 私はアマテラスです」
その言葉に、白夜兵達の内、1人だけ。ジョーカー達に似た軽そうな武器を持つ男が驚愕の表情を浮かべる。
「!! アマ、テラス……?」
その様子に疑問を持ったアマテラスは、その男に尋ねるが、
「私の名が、何か……?」
「…いえ、何でもありません。…私はスズカゼ。偉大なる白夜王国に仕える忍の者です。…では、参ります」
先程までの驚愕はなりを潜め、スズカゼは手にした手裏剣を構え、低姿勢でアマテラス達を見据えた。
「さあ、見せてみよアマテラス。お前の未熟な剣技が、どこまで使えるのかをな……」