ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第60話 フウマの闇に潜むモノ

 

 暗い森をしばらく進むアマテラス一行。進んでも進んでも、生い茂った木々による日光の遮断が途絶える気配はまるでない。

 日が差さない事もあり、木漏れ日の微かな光ですら許さない森林の地面は、じめじめとした湿気に満たされ、陰鬱な気分へと道行く者を否応なく(いざな)ってくる。

 忍とは生来、影に潜む者達の事を指しているので、この国の在り方も忍としては当然なのかもしれない。

 だからといって、それを白夜王国で過ごしてきた者達が慣れられるかと言えば、また別の話ではあるのだが。

 

「陰気な場所だよね、ホント。こんな所で生活なんて、あたしには絶対にムリだなぁ。ね、サクラもそう思うでしょ?」

 

「えっと、そのっ……あのぅ……」

 

 嫌だ嫌だ、と延々に続く森の薄暗さに、カザハナは仲間を得ようとサクラに同意を求める。しかし、サクラはここが忍の国という事もあって、同じ忍であるサイゾウ達に遠慮して素直に同意出来ず、あわあわと困っている様子だった。

 

「あー、また自分の主君を呼び捨てにしてる! いつも言ってるでしょー? 臣下なら臣下らしく優雅に振る舞いなよってさー。それに忍の三人にも失礼だよー?」

 

 と、同僚に注意を促すツバキではあったが、やはり彼もこの暗さには辟易しているようで、その顔は晴れやかとは言い難いものだ。

 

「いや、そう思うのも仕方の無き事故、別に気にはせぬ。我々とて忍はそういうものだと認識しているのでな。だろう? スズカゼにサイゾウよ」

 

 カゲロウは本当に気にしていない様子で、同じ忍仲間の二人にも声を掛ける。スズカゼは「ええ」と、とても簡単に同意の返答をするが、サイゾウだけは聞こえていなかったのか、それとも敢えて無視したのかは分からないが、カゲロウの声に何の反応も示さなかった。

 

「……兄さん?」

 

「……ん? 何か言ったか?」

 

 スズカゼは兄であるサイゾウの様子が妙だと感じ、心配しながら彼に呼び掛けた。その呼び声に、ようやく自分が話題を振られていると気付いたサイゾウ。

 だが、やはり心ここに非ずといった具合で、すぐに鬱蒼とした森林へと視線を戻す。

 

「………、」

 

 やりとりを見ていたアマテラスだったが、そのサイゾウの様子に、流石に何かおかしいと感じ始めていた。

 顔の半分、口元をマスクで覆った彼の心を、容易に読み取る事は出来ない。そもそも忍は感情を隠し、伏せ、殺す事に長けている。

 そんな彼らの心情を計るのは困難極まるものだが、それでもアマテラスですらも分かるサイゾウの異変。堅物なところのある彼が、明らかに普段と違う様子を見せているのに、気にならない筈がない。

 

「スズカゼさん。何かサイゾウさんの様子が変な事に心当たりはありますか?」

 

 こっそりと、本人には聞こえないようにスズカゼの近くまで行って耳打ちをするアマテラス。アマテラスの問いに対し、スズカゼは少し考える素振りを見せたが、やがて首を横に振る。

 

「いいえ。私にも特に思い当たる点はありません。ただ、それはここ最近の兄さんの様子からであって、もしやと思う事なら、一つだけ」

 

 一瞬、何か言い淀むスズカゼだったが、僅かばかりの思案の後に、決心したのかそれを口にした。

 

「過去、もう何年も前の話ですが───先代のサイゾウ、つまり私と兄の父がここフウマ公国に向かったきり、行方知れずとなっているのです」

 

「行方不明……ですか?」

 

 それは、つまり……。

 彼らの父は、この地で命を落とした可能性もある、と?

 もしそうなら、フウマ公国は白夜の忍を手に掛けたという事になる。その意味するところは、この国が白夜王国にとっての敵という事に他ならない。

 

「ミコト女王や前王であるスメラギ様も、私達の父が来なかったかとフウマ公国に幾度となく通達を送ったのですが、返事は知らぬ存ぜぬの一点張り。真実を知る者もなく、フウマの言っている事が虚実である証拠も無し。もしかすると、本当にフウマ公国は無関係で、道中で何か不幸に見舞われた可能性もある。故に、あまり(おおやけ)に敵対宣言する訳にもいかずに現在に至っています」

 

「そんな……」

 

 フウマ公国が黒である確信を持てないから、仇討ちすらもままならない。

 話だけならフウマ公国は十二分に怪しい。だが、証拠が無ければ、彼らが先代サイゾウの失踪に関与していると証明出来ないし、罪を問い質すのは不可能。

 それにもし、フウマ公国が何も関係ないのに、罪を問うような真似をすれば、国交の断裂は避けられないだろう。

 

「兄さんはもしかしたら、この国に来た事によって、父の失踪の真実を知る事が出来るかもしれないと考え、心ここに非ずとなっているのかもしれません」

 

「ふむ、なるほど。道理で奴にしては珍しく気が抜けたような、はたまた張り詰めたような様子をしていた訳か」

 

「あひゃ!? カ、カゲロウさん、急に話に入って来られるとびっくりしちゃいますよ!」

 

 いきなり話題に割って入ってきたカゲロウに、アマテラスは素っ頓狂(かつ可愛らしい)な叫び声を上げる。

 何事かと周りの警戒心を引き上げてしまい、慌てて何もなかったと弁解するアマテラス。そんな様子を見て、カゲロウも少し申し訳無さそうに謝罪の言葉を述べる。

 

「相済みませぬ。事がフウマ公国を抜けるに当たり重要な役割を負った忍が一人、サイゾウの注意力が散漫になっておった故に、奴の話題と聞いて聞き耳を立ててしまったのだ。しかし、奴を責めなんでやってはくれぬだろうか? 先代の失踪後、若くして跡目を継ぐ事になり、個人の意思でフウマに乗り込む訳にもいかず、こうして今やっと好機に恵まれたのだ」

 

「我々はアマテラス様一行を御守りする任を受けた身ではありますが、これまで任務の為に兄は自分の望みさえも殺して生きてきたのです。せめて今だけは、兄の望むままにさせてやってはくれないでしょうか? それが忍として、白夜王国に仕える者として取るべき行動ではないと重々承知しています。ですが、もし兄が真実を知ろうと動く事があれば、どうか黙認して欲しいのです」

 

「そうなった時は、我らが奴の分まで働いてみせよう。無論、死力を尽くしてでも」

 

 忍と言えど、やはり白夜王国の民か。仲間を想う気持ちの強さが、言葉の端々から滲み出ている。

 確かに、王家に仕える立場でありながら、王族を守らず私情に走るのは愚かだと言えるだろう。だが、父の真実を知りたいという気持ちを、アマテラスはよく理解出来た。

 己もまた、何も知らずに生きてきた───否、生かされてきた身であるが故に。

 真実への糸口がすぐ目の前にまで迫っている。そして、その好機は次にいつ訪れるかも分からないのであるとすれば……。

 

 アマテラスは、二人の忍の嘆願を受け、しばし考える。もしも、サイゾウが真実を知る事を望み、そのように動きたいと願ったならば───。

 

「分かりました。サイゾウさんがそれを望んだ時は、一時的に任を解きましょう。それに大丈夫、私達には心強い仲間がたくさん居ます。サイゾウさんが少しのあいだ抜けた穴だって、きっとしっかり埋めてくれますよ」

 

 仲間の為とあらば、きっと皆も親身に力になってくれるだろう。それが白夜王国の人間なのだから。

 

「感謝する、アマテラス様。この身に代えても、貴方がた王族を御守りすると誓おう」

 

「ありがとうございます、アマテラス様。やはり、貴女は───、」

 

 カゲロウ、スズカゼが順に礼を言う途中、唐突にスズカゼの言葉が途切れる。

 先程までの穏やかな表情から一変、険しく鋭い視線で、周囲に目を向けていた。

 それは彼に限った話ではなく、カゲロウもまた木々を警戒するように凝視している。

 

「どうしましたか? 何か……、!!」

 

 何かあったのか、と言い掛けたところで、アマテラスもようやく異変に気が付く。

 

 

 

 見られている。

 

 

 

 何者かの視線。それも一人や二人どころではない。数十にも及ぶ、刺すような鋭利な視線が、アマテラス達を取り囲んでいた。

 目を凝らして見れば、森の暗闇に紛れるようにして、幾人もの人間が姿を潜ませているのが分かる。服装からして忍であると思われ、ならば彼らはフウマの忍という事になるか。

 

「知らないうちに囲まれていたようね」

 

 いつの間にかアマテラスの隣に並び立っていたアクアが、槍を片手に周囲へと視線を巡らせる。他の仲間達も、それぞれが得物に手を掛け、警戒態勢に入っていた。

 

「ですが、彼らは白夜王国の同盟国であると同時に、戦争に対しては中立国という立場であるはずです。まさか攻撃してくるなんて事は……」

 

 アマテラスは淡い希望を口にするも、数分と待たずしてそれは脆く崩れ去る事となる。

 忍の一人が前に出て来るや、アマテラス一行に向けて声を発した。それも、望まぬ内容を。

 

「侵入者に告ぐ。許可無く我らフウマ公国の領内に足を踏み入れ、そればかりか貴様らには斥候の疑いが掛かっている! 見たところ白夜王国の兵士のようだが、同盟国であろうと関係ない。命が惜しくば武器を捨て、投降せよ! 逆らうならばこの場で貴様らを処断する!」

 

「な……!? 断りなく通過するというだけで、命を奪うだと!? その上、勝手に斥候呼ばわりなど、失礼にも程がある! いつからフウマ公国は野蛮な国に成り果てた!!」

 

 忍の宣告に、ヒノカが激昂して声を荒げる。何の断りもなく領内に入ったこちらにも非はあるかもしれないが、だからといってそれを理由に脅迫して良い道理も無し。

 が、ヒノカの憤りに対し、忍は何ら怯む事もなく、むしろそれが逆に決定的となってしまう。

 

「今の言葉、フウマ公国への侮辱と見なすぞ。我らが王、コタロウ様より反抗の意思を見せるようならば即刻始末せよとの命がある。よって、これより侵入者を排除する! 総員、この者どもを生かして帰すな! だが、女どもは生け捕りにしろ。見目麗しい女は殺すには惜しい。暗夜の貴族であれば高値で売れるだろうからな」

 

「外道が……!! 今の汚い言葉で分かった。やはり、フウマは暗夜と通じていたか!」

 

 怒りのままに、ヒノカが隊長らしき忍へと向けて薙刀を構えて突進する。

 しかし、相手は腐っても忍。そう易々と攻撃が当たるはずもなく、ヒノカが薙刀を振るう前に、刃の射程から逃れてしまう。

 

「チィッ!」

 

 そのまま闇へと姿を隠した忍を追おうとするヒノカ。アマテラスは急ぎその無謀な突撃を窘める。

 

「ヒノカ姉さん、落ち着いてください。怒りに身を任せては、敵の思う壺です」

 

「ヒノカ様、カッコ悪い……」

 

「ぐ……わ、分かっている! くそ、セツナに馬鹿にされるとは……!!」

 

 アマテラスへのセツナの予想外な助太刀で、ヒノカが少しだけ落ち着きを取り戻す。……若干、さっきよりも怒っているような気がしないでもないが、まだマシだろう。

 

「さて、どうしたものですかねぇ? この森は敵にとっては独壇場とでも言うべき場所です。それに比べて私達には土地勘も無ければ、この暗闇にも慣れていない。まさか忍であるお三方はそうではないでしょうが、あいにく他は陰気さとはかけ離れた脳天気な王族と臣下ばかり。はてさてどう切り抜けたものか、まったく困ったものですよ」

 

「アサマの棘のある言葉はこの際置いておくにしてもだ。確かにこの森で戦うにはこちらが不利ではある。ユウギリ、手練れの将兵として、この地での戦いをどう対処すべきか考えはあるか?」

 

 自らの臣下の毒舌はスルーして、歴戦の勇士であるユウギリに教えを乞うヒノカ。しかして、女武者はさほど困った風もなく、にこやかに答えを返した。

 

「そうですわね……。忍とは模擬戦でしか手合わせした事は御座いませんが、まずは開けた場所を陣取るべきかと。普段の戦場ならば弓の格好の餌食となりましょうが、身を隠す事に特化した彼ら忍は、遮蔽物が多ければ多い程に有利に事を運びます。よって、正々堂々と打ち合える場を確保する事を優先したいところですわね」

 

 開けた場所……とは言うが、この果てしなく続くかに思われる程に鬱蒼とした森に、そんな場所を都合良く見つけられるとも思えない。

 

「! せいっ!!」

 

 こちらが話すのを待ってくれる程、敵も甘くはない。会話の最中であっても、森の闇の中から手裏剣やクナイがアマテラス達に目掛けて次々と投擲されてくる。

 カザハナやヒナタのような、侍として感覚を鋭く研ぎ澄ませる事に慣れた者は、いわゆる心眼で、暗闇の中であってもどうにか飛来する敵の攻撃を打ち落とせていたが、

 

「いつっ!?」

 

 オボロやサイラスといった、特殊な環境に慣れない者や、物理による戦闘を得意としない者達は攻撃を避ける事で精一杯。

 いや、この暗闇で完全に避けるなど不可能だ。その証拠に、何人かは致命傷とまではいかないが、傷を負う者も出てきている。

 

「アマテラス! このままじゃ拙いぞ!」

 

「分かっています! 分かっていますが……!!」

 

 非戦闘員であるサクラ、アサマを庇うように、サイラスは騎士の名に恥じぬ防衛を見せているが、やはり防戦一方では危険に変わりない。

 彼の意見はアマテラスとて分かっている。だが、活路が見出せないのだ。

 闇の中を戦う事に慣れているのは、暗夜で生きてきたアマテラスとその臣下達、サイラス、そして忍であるサイゾウ達三人のみ。

 せめて少しでも光差す所があれば、まだまともに戦えるというのに……。

 

「クソッ! 暗い上に気配が掴めない相手じゃ、狙いが定められない……!」

 

「……えいっ。それっ。せいっ」

 

「うぎゃあぁぁ!!?」

 

 なかなか矢を放てないタクミとは対照的に、同じく弓の使い手であるセツナは逆に、弓を構えてはバンバンと敵を射ていく。

 恐ろしい事に、百発百中とまではいかないものの、闇に紛れた忍を次々と射抜く様はさながら凄腕の殺し屋である。

 

「なんで当たるんだよ!?」

 

「なんとなく……?」

 

「なんだよそれ!!?」

 

「これ! 漫才しとる場合か! ここは敵の懐じゃ、何人倒したとて、幾らでも湧いて出て来るのじゃぞ!」

 

 弓兵二人のやりとりをすぐ後ろで窘めるオロチ。彼女は彼女で、ツクヨミと共に呪術を用いて作り出した火鼠を、木々へと向けて走らせていた。

 忍の隠れる木を燃やして少しでも減らそうという魂胆だ。大火事になる危険性もあるが、アマテラスは竜化により水を操れるので、大事になる前に消火が可能である。

 アマテラスもそれが分かっているからこそ、彼女らの行動を咎めなかった。

 そんな彼女らの行動を横目で見ていたアマテラスだったが、ふと、とある策が頭に思い浮かんでくる。

 

「……そうです。そうですよ! 開けた場所が無いのなら、作ってしまえば良いんです!」

 

「作るだって? 簡単に言ってるけど、木を焼き払ったりなんてしたら、僕らまで火事に巻き込まれるかもしれないんだぞ。無謀だとしか言えないね」

 

 アマテラスの意見に、タクミが反発を示すが、何も彼女の言葉はまだ最後まで紡がれてはいない。構わず、アマテラスは続きを口にしていく。

 

「大丈夫です。呪術で燃やすのではなく、竜脈を用いて一帯の木々を焼き払います。上手く竜脈を操れれば、炎を周囲に燃え広がらせる事もありませんから」

 

「なるほど、それならもしもに備えて二段構えで、もう一人が消火を担当するのも良いわね。ただ、その間は二人が無防備になってしまうという危険もあるけれど」

 

 きちんと言い終えたアマテラスの策に、アクアが便乗するように、更に追加の案も出す。

 これには流石のタクミも、文句の付けようのない意見だと口を噤んでしまう。ただ、この策で行くとすると、竜脈を扱う際に王族が二人も無防備になってしまうのはやはり問題である。

 だが、他に良い手が無いのも事実。ヒノカはこの場に居る王家の年長者として、アマテラスの策を採用する共に指示を出す。

 

「他に策も無し。それで戦況を打破するしかないか。よし、竜脈を利用するにも探知が必要だし時間も掛かる。アマテラス、アクア、サクラの三人で竜脈の気配を探り、作戦を実行するんだ。その間は私達がお前達を何としてでも死守する。他の者も良いな?」

 

 ヒノカの確認に対し、全員が頷いて返す。それを合図に、それぞれが己の役割に応じて立ち回りを演じ始める。

 

「フェリシアさん、氷の部族の力で、氷の壁は作れますか? 出来るだけ分厚くに」

 

「は、はい! 頑張れば、ドーム状くらいには完全防御の壁を張れると思います!」

 

「では、すぐにお願いします。アクアさん、サクラさんもその中で一緒に竜脈の気配を探知しましょう」

 

 フェリシアは言われるがままに、すぐさま丸みを帯びた氷のドームを作り出す。見た目は氷で出来たかまくらだが、雪よりも硬度がある分、まだ安心感がある。

 

 早速ドームの中で竜脈を探知し始める三人。外では敵の攻撃を仲間達が弾く音が絶え間なく聞こえてくるが、それは奮闘してくれている事に他ならない。

 

「急ぎますよ。前衛のかたはともかく、本来なら後衛の呪術組やアサマさんが最も危険ですから」

 

「はいっ。頑張ります!」

 

「…………、」

 

 意気込むサクラを余所に、既にアクアは意識を竜脈の感知へと向けている。それに倣うように、二人も意識を集中する。

 

 魔力により祓串を扱う巫女であるサクラ、泉で一人歌う事で集中力が誰よりも深く澄んだアクア、竜の力を持つ事により竜脈を王族としては並外れて感じ取りやすいアマテラス。

 図らずも、竜脈を探す事に特化した三人が、僅かな時間とはいえ戦闘から離れて、竜脈感知だけに集中出来る状況にあるのだ。余程離れた場所にあるならまだしも、そうそう時間が掛からずに竜脈の気配を感じ取る事のは容易だった。

 

「見つけましたっ! 少し距離が離れていますが、私の前方を進んだ辺りから竜脈の力を感じます、アマテラス姉様!」

 

「! 確かに、私にも感じ取れました。ありがとうございます、サクラさん」

 

 自身も竜脈の気配を感知したアマテラスは、フェリシアに命じて氷のドームを崩させる。見れば、仲間達は暗闇での攻防に相当の神経をすり減らしているようで、かなり消耗していた。

 これ以上の無駄な体力の浪費を避ける為にも、アマテラスは急ぎ竜脈の力が溢れ出す地点へと走り出す。脚を竜化させ、速度を極限にまで高めた彼女を、たとえ忍であっても容易には捉える事など不可能。

 高速で竜脈の真上にまで到達したアマテラスは、速度を殺す暇もなく、到達と同時に拳を地面へと勢いよく突き立てる。

 

「竜脈よ、炎を!!」

 

 大地を脈動する力の流れが、アマテラスを中心に変動を始める。地響きと共にボコボコと地面が小さな山を作るや、凄まじい威力を持って火柱が噴出される。

 火柱は地面に生えていた木ごと立ち上り、瞬く間にアマテラスの周辺が焼き払われていく。

 

「アクアさん、サクラさん!!」

 

「分かっているわ、アマテラス!」

 

 ある程度の範囲を焼き尽くしたところで、アマテラスが二人に向かって声を張り上げて呼びかける。呼ばれた二人は、アマテラス程ではないが既に全力で彼女の元へと向かっており、辿り着くや否やすぐさま竜脈へと干渉を開始する。

 

「竜脈と同じように、大地には水脈も流れている。なら、竜脈の力を使ってその水脈を地上へと向けさせれば……」

 

 地面についた手を通して、アクアとサクラが今度は水流を地上に出現させる。竜脈のコントロールから外れて無作為に燃え広がり始めていた炎を、水流によって消火していく。

 その一連の流れは、まるで水の竜でも見ているかの如し。

 

「皆さん! 陣地を確保しましたのでこちらへ!!」

 

 炎が完全に消えた事を確認し、なおかつ竜穿で敵を迎撃しながらアマテラスは仲間達にこちらへ来るように呼びかける。

 

「よっしゃあ! 久しぶりのお日様だぜ! 陽向の下でなら負けっこねぇぞ!!」

 

「やっと鬱屈とした空気から開放される! よーし、みんなまとめて成敗するよ!!」

 

 長らく待ち望んでいたとばかりに、日光を目にした侍コンビの士気が向上する。それに引っ張られるようにして、他の仲間達の顔にも活力が取り戻されていく。

 

「皆さん、これは殲滅戦ではありません。ですので、機を見て戦線を離脱します。深追いは禁物ですよ?」

 

 敵地にて多少の地の利を得たとはいえ、敵陣真っ只中に居るのに変わりない。ある意味で無尽蔵に湧いてくる敵を相手にしていては、こちらが消耗する一方だ。

 故に、少しでも突破出来そうな綻びを生み出せたなら、そこから一点突破を狙うしかない。

 

「よし、遠距離攻撃の出来る者は遠慮なく撃ち込んでいけ! 狙いを付けずとも牽制にもなるからな」

 

 ヒノカの指示に、タクミを筆頭とした弓兵、呪術組が無遠慮に攻撃を放つ。狙いは特に決めず、木々にそれらが当たるが、当たる危険から敵も迂闊には顔を出せない。

 特に、タクミの持つ風神弓は神器特有の凄まじい威力を誇り、木々でさえも貫き穿ち、凪払いながら、隠れた忍すらも討ち果たす。

 

「木に隠れて良い気にでもなったのか? だとすれば甘い考えだね。そんなものくらいで風神弓からは逃げられないよ!」

 

 得意気に風神弓に光の矢を装填するタクミ。その脅威的な威力を前に臆したのか、忍の攻勢が弱まりつつある。

 

「敵の勢いが無くなってきましたね……。今なら、牽制しつつ森を脱出するチャンスかもしれません」

 

 アマテラスはこれを好機と見て、どこか突破しやすそうな地点を探すが、

 

「………、攻撃が……止んだ?」

 

 飛来してきていたクナイや手裏剣が、それこそピタリと無くなった。いくら風神弓を警戒したと言えど、この静まり方は不気味にも過ぎる。

 

「僕に恐れを為して逃げたのか?」

 

「……いいえ、まだそうとは断定出来ないわ。油断は禁物よ」

 

 少し慢心を見せるタクミに、アクアは周囲に視線を向けながら注意を促す。

 

「どうにも嫌な予感がするわ……」

 

「奇遇ですね、私も同じですよアクアさん」

 

 この攻撃の止み方は不自然すぎる。何か裏があるのでは、と推測したところで、二人の予感は残念ながら的中する事となる。

 

 

 

 

『グオォォォオオオオアアア!!!!』

 

 

 

 

 静まりかえった森から、前触れも無く、体の芯まで凍え震え上がるような凄まじい咆哮が上がった。

 ───いいや。前触れなら有ったのだ。忍達の攻撃が急に止んだのは何故?

 その答えが、()()だ。

 

「獣……いや、違う! ただの獣の鳴き声じゃない。かなりの大きさのある猛獣のものか……!!」

 

「全員今すぐ警戒し、備えろ! フウマの忍どもが引いたのは、今の咆哮の主が理由かもしれんぞ!!」

 

 カゲロウ、サイゾウの目つきが変わる。単純に敵を警戒するだけではなく、それ以上の暴威が近付いている事を予感させる、二人の険しい視線は、今の咆哮が上がった方へと向いていた。

 

「……まさ、か」

 

「エマちゃん? どないしたん……?」

 

 そんな中で、一人様子がおかしいエマに、モズメが心配の声を掛ける。その顔に、有りっ丈の笑顔を張り付けて、嬉々として得物へと手を掛けるエマは、モズメの声など聞こえないとばかりに、視線を森の闇へと向ける。

 

 まるで、仇敵と再会したかのように、獰猛な笑みを浮かべながら。

 

「あれ、は……!!」

 

 それは誰の漏らした呟きであったのか。

 

 唸り声と共に、暗闇から出でる獣の姿が、白日の下に曝け出される。それは見知らぬ獣ではなく、かつてとある村で見たその姿は───。

 

 

 

「人狼、『ガルー』……!!」

 

 

 

 




 

お狐通信並びにガルー・アワーズは次くらいから再開しようと思います。


追伸

FEHのミルラかなり強くありません?
一撃が重い、堅いとウチのミルラちゃん魔防除いて軒並み高いのですが……。

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