ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜 作:キングフロスト
イザナ公王が救出されて一夜が明けた。闘いの疲れと、宴でのハシャぎ疲れで一部の者は顔面蒼白だったが、いつまでもイズモに居座り続ける訳にはいかない。
全員が起床の後、出立の仕度を整えて、城下町の門前へと集合していた。
「いや~、もう出発しちゃうなんて。僕としては、もっとゆっくりしていってくれても構わないんだけどね~」
「いいえ。お心遣いはありがたいのですが、私達も遠征中の身。あまり一カ所に長居する訳にもいきませんし、これ以上迷惑を掛ける訳にもいきませんから」
見送りへと来ていたイザナ公の申し出を、アマテラスは頭を下げて丁重に断った。
宴に招いてくれただけでもありがたいというのに、厄介になり続けるのは出過ぎた真似というものだろう。そう思ったからこそ、アマテラスはその申し出を受けなかったのである。
「そっか~……。じゃあ、またおいでよ! その時は昨日よりも盛大に歓迎させてもらうからね~!」
心底残念そうにしていたイザナ公ではあるが、その持ち前の軽さで、別れの寂しさを感じさせないのだから、流石と言うべきか。
「はい! その時は、よろしくお願いしますね!」
「任せてね~! で、話は変わるんだけどさ」
と、あまりに唐突な話の切り替えで、アマテラスは「え、これでお別れするのでは?」と少し面食らってしまったが、すぐに気を持ち直す。
「君達の目的はノートルディア公国に居る『虹の賢者』なんだよね? なら、あそこの公王を訪ねるといいよ。彼女は僕の古い友人でね、きっと君達の力になってくれるんじゃないかな~。式神の使いを出しておいてあげるから、行けばすぐに会えると思うよ!」
「ありがとうございます。何から何まで、色々とお世話になって……。きっと、この戦争を終わらせてみせると約束します」
今度こそ、本当にアマテラス一行はイザナ公へと別れを告げて、イズモの国を出発した。目指すはノートルディア公国。そして、そこに居るであろう虹の賢者の元へ。
「行っちゃったか~。さーて、早速タマモに放つ式神の仕度しよっと」
ノートルディア公国へと行くには、イズモ公国から南西に進んだ所にある港町へと向かう必要がある。
そして、イズモ公国とその港町との間を隔てるように存在している国があった。
その国の名は『フウマ公国』。領内の殆どが木々で覆われた、緑の生い茂る国で、優秀な忍びを多数抱えた、言わば『忍の国』である。
「そのフウマ公国を通らないと、港町へは遠回りする事になるんですね?」
「はい。フウマ公国は入り組んだ山林が多く、その広大さから迷いの森としても知られていますね。そこに住む彼らフウマの民でさえ、その全容を把握仕切れておらず、時折遭難する者が出るとか」
アマテラスの問いかけに、十二分の答えをもって返すスズカゼ。その丁寧な説明で、フウマ公国がどのような地形が多い国であるかをなんとなくだが把握出来る。
だが、アマテラスにはその他にも心配する事があった。というのも、
「フウマ公国の方々は、私達が通る事を許して下さるでしょうか?」
一応は同盟国であるフウマ公国だが、曲がりなりにも忍が治める国だ。忍とは警戒心を常に持つもの。
大国同士の戦争中で、しかも王族まで混ざった遠征軍を歓迎するかと言われれば、厄介事に巻き込まれたくないというのが本音だろう。
白夜に良い顔をしたとして、暗夜王国から難癖どころか侵略を受ける危険さえあるのだから。
「どうだろうな。同盟国とはいえ、最近のフウマ公国は良い噂を聞かない。もしもという事は考えておいた方がいいかもしれないぞ」
「ですが、仮にフウマ公国が我々との同盟を裏切る事があったとして、いきなり襲い掛かってくるような愚直な真似をするでしょうか」
アマテラスの疑問に、フウマ公国に対して否定的な意見を述べるヒノカと比べ、スズカゼはそれを踏まえた上での考えを口にする。
確かに、もしフウマ公国が同盟を破棄するとして、白夜の遠征軍に急に攻撃してくるのは愚かにも程がある。
定期的にリョウマへと向けて連絡を送っているので、どこでそれが途絶えたか分かれば、無論フウマ公国でという事になる。
異変を察知すれば、軍に余力が無いとしても、リョウマなら少しくらいは兵を寄越す事だって考えられるのだ。
まあ、フウマ公国がその事について知っているかと言われれば、どちらとも言えないのだが。
「とにかく、行ってみてどうなるかだ。ここで話していても何も変わりはしないしな」
ヒノカはそう言うや、部隊の先頭へと舞い戻る。白夜王家の長姉として、弟妹の先を自らが率先して進んで、危険をなるべく排除しておきたいというのが、ヒノカの基本方針であるが故に。
「フウマ公国、忍の治める国……ですか。何事も無く通過出来れば良いのですが」
やはりアマテラスの不安は、未だ脳裏に焼き付いたまま離れない。
遠征が始まってからというもの、どういう訳かトラブルや厄介事にかなりの頻度で巻き込まれている。
テンジン砦への襲撃から始まり、モズメの村での事件、風の部族との一悶着、イズモ公国での闘い……と、よくよく考えてみればほぼ全てで、直接でない事もあるが、暗夜王国の陰謀が影に潜んでいた。
もうここまで来れば、フウマ公国へも既に何らかの手が回されていてもおかしくはないのだ。
心配になってきたアマテラスの様子を、その顔色から読み取ったのだろうアクアは、アマテラスと歩調を合わせ、その隣で軽く手を触れて励まそうとする。
「安心して。もし何かあったとしても、私達がいる。それに、こちらにも忍が3人もいるのよ。同じ忍として、フウマの忍の手だって幾らかは見切れる筈よ」
そう言って、アクアは前方、後方、そして中間でそれぞれ敵の気配が無いか警戒しているサイゾウ、カゲロウ、スズカゼへと視線を送る。
アマテラスもそれに釣られて、忍達の方を見て、一つ小さく頷いた。
「そう、ですね。恐れる事なんてありません。何があろうと、全力で駆け抜けるだけです!」
ガッツポーズで、笑顔を取り戻すアマテラスの姿に、アクアは微笑ましいとばかりに、柔らかな笑みを彼女へと向けるのだった。
「………フウマ公国、か。父上……」
前にまで彼女らの声が聞こえていたサイゾウの、そんな呟きには誰も気付かぬままに。
イズモ公国も木々の多い緑豊かに土地が多かったが、フウマ公国もまた土地のほとんどを緑で覆われた、自然溢れる国とされている。
前者が森林の中でも神秘に包まれた、神々しさや神聖さを持つとするなら、後者は自然本来の荒々しさや猛々しさ、生い茂る森の生命力に溢れているといった違いが挙げられるだろうか。
同じ緑豊かな国でも、その雰囲気だけで大きく印象が異なってくるのだから、不思議なものだ。
実際、アマテラス達はフウマ公国の領内に足を踏み入れて、そのような感想を抱いていた。
「なんだか、イズモ公国とはまるで違いますね……」
「確かに、向こうが神々が宿る深緑とするなら、こちらは野生そのものの深緑と言えるでしょうか」
アマテラスは零した感想を、ジョーカーはさり気なく同意しながらも補足を加える。
そこで得意気にならずにアマテラスへと説明を付け足す辺り、流石はアマテラス命の忠実なる執事と言えるか。
「ふわあ~。これだけ緑が生い茂ってると、食べ物もたくさん採れそうですね~」
「バカが。どう見たって猪や熊、毒草に毒茸だって有りそうだろうが。そう簡単に食材が手に入るはずないだろう」
「ひ、ヒドいですよジョーカーさん! どうして私の時だけ当たりが強いんですか~!?」
同じように、フェリシアが率直な意見を口にすると、即座に否定しに掛かるジョーカー。この通り、主と同僚では扱いの差が天と地程もある。
それがジョーカーという男なのだ。
「アマテラス姉さんの従者二人組が馬鹿げた漫才をしているけど、ジョーカーの意見は概ね正しいよ。豊富に食材があるのは否定しないけど、その分、人にも牙を剥くのが山や森でもあるからね」
タクミは普段から山へ狩りに出掛ける事があるため、ジョーカーの言葉に賛同するように頷いていた。
いや、彼のみならず、そういった事に詳しいモズメやセツナ、忍はもちろんのこと、アサマまでもがうんうんと頷いている。
「はわわ!? わ、私の認識がおかしいんですかぁ!? アマテラス様~!!」
「えっと、その、別にフェリシアさんは間違ってるという訳じゃ……。あ、あはは……」
自分の考え方がおかしいのだと言われているように感じ、アマテラスへと泣きつくフェリシア。
それを、アマテラスは困ったように、頭を撫でて慰めながら抱く形となっていた。
「それにしても、これだけ森が深くては、街があるのかも分かりませんね」
「そもそも、忍の国なんだし街なんて無いんじゃないかな?」
アマテラスに続く形でカザハナが意見を述べる。そしてその意見がまた、言い得て妙なのだ。
忍とは普段から気配を殺す事に長けており、目立つ事を良しとしない。日常においても、自分が忍であると悟らせないようにさえ心掛けているのだ。
サイゾウなどはその最たるもので、街や村にはまず滅多な事でも無い限り、普段の恰好(忍装束)のままでは入らないし、入っても人の眼に付かないように意識さえしている。
そんな、目立つ事を好まない忍が、国であるからといって、街なんて作っているはずがない、カザハナはそう言いたかったのである。
それに返答をするのは、やはり同じ忍でるサイゾウ達だった。
「確かに、俺達白夜に仕える忍も、街なんぞ持っていない。代わりにあるのは集落だけだ」
「左様。家屋も必要最低限のものが建っているだけだからな。おかげで、我ら忍は子どもの頃から遊び道具など無かったゆえ、自然と忍として学ぶ事が遊戯代わりになっていた」
「まあ、私やカゲロウさんは忍としての修行以外にも、趣味を見つける事が出来たのですが、それでも忍の里は娯楽には疎く、また外界からの接触もほとんど無いような辺境に存在していましたからね。そういった意味でも、国であろうと忍が街を持つという事はあまり考えられません」
忍3名からの否定的な意見が目立つが、それならばと、また異なる考えを口にする者が1人。
おずおずと周りに気を配りながら手を上げて、サクラはそれを語り始める。
「で、ですが、忍の国といっても、国民の全てが忍ではない事だって考えられますっ。農家の方だって、少なからずはいらっしゃるかもですし……」
これもまた、なるほど、という意見だ。
忍だけが国民であると誰が決められよう。この中にはフウマ公国出身の者は居らず、フウマにとても詳しいという者も居ない。
忍社会が閉鎖的だと言うなら、忍の国であるフウマ公国の情報もまた、外に流れ難いと考えられる。ならば、国の内情などそう分かる筈もないのだ。
「俺はサクラ様と同じ意見かなー。よく知りもしないで、『こうだ!』って偏見だけで決め付けて掛かるのは美しくないしねー」
「そうね。美しい云々は別としても、私も行ってみて、己の目で確かめるしかないと思います」
そしてサクラの言葉に賛同するはツバキとオボロ。あとは、あまり話の内容自体にさして興味のないヒナタとモズメ、ツクヨミくらいか。
「待たぬか、お主らの論点は少しズレておる」
と、そもそも根本から話し合うべき内容が違うと主張するのはオロチだ。
「街があるかどうかなど、行ってみなければ分からぬ話。今わらわ達が話し合うべきは、フウマ公国が安全かどうかじゃろう?」
そう、ヒノカもさっき言っていた。最近のフウマ公国には良い噂を聞かない、と。
彼女はその点について思うところがあるらしい。
「フウマ公国がきな臭いのは、ずいぶんと前から王城でも言われておる。既にリョウマ様も、何人か草を放っておるそうじゃが、未だに報告が無いと聞く。これはどう見ても怪しいとしか思えん」
「つまり、スパイ──密偵が、フウマ公国で殺されている、と?」
その可能性を問うアマテラスであったが、オロチが頷いて返した事で、いよいよフウマ公国に対する疑念が強まってくる。
ならば、同盟など有って無いようなものではないか。
「今回の遠征における懸念の一つですわ。私やリョウマ様の臣下がこの部隊のお供に付けられたのも、それを考慮しての事ですから」
ユウギリが語るのは自身を含めた、サイゾウ、カゲロウの3名。
元ミコト女王直属の臣下であり、武勇に優れた将でもあるユウギリ。
次期白夜王となるリョウマ直属の臣下で、忍としても極めて優秀なサイゾウ、カゲロウの2人。
つまり、フウマ公国を通過する上で危険があると踏んで、リョウマは特に戦闘面で信頼の置けるこの3人を、今回の遠征に同行させたという事になる。
「スズカゼが居るといっても、忍が1人だけでは心許なかったのだろう。何せ相手は忍の集団だ。なら、少しでもこちらにも同業者は多い方がいいしな」
「なるほど、これでようやく納得出来ましたね。何故、兄さんやカゲロウさんが、リョウマ様の下を離れ、それも2人同時に遠征軍に加わったのかが」
今まで胸の内でつっかえていたのだろう疑問が解消され、スズカゼの顔は幾分かの爽快感を感じさせる。
「だが、だからといってそれで話が簡単になったという訳じゃない。問題は敵の数だ」
「ああ。我らが精鋭揃いとはいえ、物量の差を覆すのは難しい。そこで、もし戦闘になった場合、アマテラス様を筆頭に王族方には竜脈を利用してもらいたい」
どうやら、サイゾウやカゲロウの頭の中では、竜脈を用いた作戦があるらしく、カゲロウが改まってアマテラスの方へと頭を下げる。
「敵の攻撃は我らが防ぐ故に、竜脈を用いて敵を妨害して欲しいのです」
それは懇願にも近い頼みだった。本来なら守るべき王族に、逆に危険な役回りを頼むのだから、忠誠心に篤いカゲロウなら尚の事だろう。
それが分かっているからこそ、アマテラスはその意を汲んだ上で、カゲロウの顔を正面から見据えて返答した。
「もちろんです。事は私達の身の安全にも関わる話。協力しあってこその仲間なんですから!」
「無論だ。アマテラスだけではなく、私達だって闘う為にここに居る。頼まれなくてもそうしたさ」
アマテラスの後押しをするように、ヒノカも力強い言葉で宣言する。それに倣うように、アクア、タクミ、そしてサクラもコクリと肯定の意を示した。
「皆様方……、かたじけない」
感激、とまではいかないが、それでも、カゲロウはアマテラス達の意思に、申し訳なくも誇らしいとばかりに、穏やかな笑みを浮かべていた。
「よし、とりあえず方針は定まったみたいだな。もしフウマ公国が襲って来たとしても、俺達前衛が踏ん張ってやるさ!」
「なんでアンタが私達代表みたいに言ってるのよ!?」
場を盛り上げようとしたのだろうサイラスだったが、盛大にオボロにツッコミを入れられる。
が、それに皆も笑っていたので、結果オーライと言えるか。
「フウマ公国……何事も無ければ良いのだけど。…………、……?」
笑顔の輪から外れ、1人憂う歌姫。
そんなアクアだったが、ふと何かの気配を感じ、周囲に視線を凝らしてみるも、何も見えない。
忍の3人も特に反応を示さないので、気のせいだと決めてアクアはまた、笑うアマテラス達を眺めているのだった。
「………………ゥゥ」
「フッ。ノコノコとやってきたか」
アマテラス達一行がフウマ公国の領内へと入った頃。
そのフウマの公王へと、白夜の遠征軍が来たという報せが部下から入っていた。
フウマ公王、『コタロウ』は、ニヤリと厭らしく醜悪な笑みを浮かべ、玉座へとふんぞり返る。
「おい。せっかくの客人だ。手厚く歓迎をしろと他の者共にも伝えておけ。なに、遠慮は要らん。派手にもてなせ、とな」
「ハッ!」
「それと、
コタロウは
暗夜の軍師──マクベス。
「だが、金は掛かったが良い買い物をした。
忍の王を名乗る男は哂う。その手に、己の野望が成就せん事を見据えて。
「さあ! 殺してやろう、白夜の生温い王族共!! 新たな国王となるこの俺が!! 貴様らに引導を渡してやるぞ!!」
「キヌの『コンコン! お狐通信』~!」
※ここからは台本形式でお送りします。
キヌ「どうも、この度は大変長らくお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした!」
カムイ「ですが、エタるつもりは一切ありませんので、ご容赦下さい!」
キヌ「とまあ、作者の代わりに謝ってみたんだけど、別にアタシ達って何も悪くないよね? 悪いのって全部作者だよね?」
カムイ「それは言っちゃダメだよ……。作者さんが僕らを使って罪悪感を半減させようとしているのがバレちゃうからさ」
キヌ「あ、そういう狙いがあったんだ。でも、更新されない間についに新作も出ちゃったよね~」
カムイ「ECHOESだっけ? でもまだ買ってないらしいよ?」
キヌ「買いたい、だけど何故か買う気になれない~……だっけ?」
カムイ「そのうち買おうとは思ってるらしいんだけど、そもそも買いに行くのが面倒なんだって。気が向いたら、多分いつの間にか買ってるんじゃないかな?」
キヌ「すいっちの新作も気になるよね~。でも、すいっち自体持ってないから、こっちは完全に買うか未定なんだって」
カムイ「最近仕事の疲れで背骨が痛いってよくボヤいてるし、出不精なんじゃないかな」
キヌ「携帯のげーむなら、買いに行かなくても簡単に遊べるから、新しいげーむを買わないってのもあるけどね~」
カムイ「ここら辺で作者さんの話は止めといて、今回は久しぶりの更新という事で、いくつか謎めいたキーワードを用意してみたよ」
キヌ「えっと、たしか……ノートルディアの公王と、コタロウが言ってた
カムイ「ちなみに、どちらもゲームでは登場しない、この物語だけのオリジナル要素だよ」
キヌ「そんだけ設定盛ってるなら、作者さんもこれで逃げられないよね~!」
カムイ「自分で首を絞めていくスタイルだね。疲れそう」
キヌ「なので! 次回もよろしくお願いします!!」
カムイ「更新がまたいつになるかは未定という、作者さんのだらしなさも大目に見てあげてくれれば……」