ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第54話 幻惑の魔道師ゾーラ

 

 仲間達の協力により、アマテラスはついに王の間へと辿り着く。中には、やはりといったように、護衛を数名付けたゾーラが魔道書を手に、侵入してきたアマテラス達を陰気に笑いながら出迎えていた。

 

「ほーっほっほ!! やっぱり来てしまいましたか! まあ、雑魚共で捕らえられるとも思いませんでしたが。こうなれば私が直々にあなたを捕らえるしかありませんねー!!」

 

 卑怯者が持つ特有の威勢良さで、高らかにアマテラスへと宣言するゾーラ。しかし、アマテラスが彼から感じたのは威勢というより、むしろ虚勢であるかのような、言い知れぬ焦りだった。

 

「ゾーラさん、あなたがあのような卑劣な手を使った時点で、私達に正面からぶつかって勝てないと言ったようなものです。あなたは私を捕らえると言いますが、そんなあなたに私を止められるとは思わない事ですよ」

 

 数の暴力すら物ともしないアマテラス隊。彼女の言葉は真実だ。事実、暗夜軍は少数を相手に、大軍にも関わらず苦戦を強いられている。

 騙し討ちを選んだ。それも飛びきり卑怯な手段で。それはつまり、正々堂々闘っても勝てない事を告白しているようなもの。

 核心を突かれ、ゾーラの顔から笑みが消え失せる。もはや彼に残されたのは計画を失敗する事への焦燥、失敗して処刑されるかもしれないという恐怖のみ。余裕なんてある訳もなく、彼は乱暴に魔道書を掲げて叫ぶ。

 

「……黙れ、黙れ黙れ黙れぇ!!! 私にはもう後がないんですよぉ!! あなたを捕らえて帰らないと、私は処刑されるに決まってる!! だけど!! この計画さえ上手く行けば私は地位を約束されるんですよー!!」

 

 目は大きく見開かれて血走り、唾が飛ぶ勢いで語るゾーラ。その姿はまさしく死に物狂いと表現するべきだろう。彼にはアマテラスを捕らえるという道しか、安泰を約束された道が残されていなかったのだから。

 

「さあ! 護衛の皆さーん!! ここでアマテラス様を捕らえられれば、あなた達も出世が約束されますよー!! さあさあ! 身を粉にして働きなさーい!!!!」

 

 護衛を煽り、その気にさせられた彼らも、目に闘志を宿してゾーラを隠すようにアマテラス達へと立ち塞がる。

 護衛はアーマーナイトとダークマージが2人ずつの計4人。ゾーラを加えれば5人。3対5で、ただでさえ分が悪いのに、壁役と遠距離攻撃役が揃っているという最悪のパターン。隙を作ろうにも、そう簡単にさせてはくれないだろう。生半可では彼らを崩せないのは必至だ。

 

「ふむ。ならば私の出番だな」

 

 そんな中で、ツクヨミが呪符を手に、アマテラスの前へと歩み出る。彼の突然の行動に困惑していると、

 

「違う……私“達”の出番…」

 

 セツナもツクヨミと同様に、アマテラスの前に出ると、その手にした弓を構え、戦闘態勢へと移行したのだ。

 

「な、何を」

 

 当然、疑問を口にするアマテラスだが、そんな彼女の疑問を一笑に伏すと、少年呪い師は気力に満ち溢れて答えを返す。

 

「決まっておろう。私…達があの護衛共を受け持ってやると言っておるのだ。お主はあの陰気な男と何やら因縁があるのだろう? ならば、それをきっちりと片付けてくるが良かろう。我ら風の部族は、悪しき因果は断ってしまうのを良しとしておるからな。なに、お主の邪魔はさせん」

 

「私も…ツクヨミと同じ。それに、一度言ってみたかった……。アマテラス様、別に、あれを倒してしまっても構わないでしょう……って」

 

「セツナさん、それはちょっと違うと思いますが……でも、2人の気持ちは分かりました。無理は絶対にしないでくださいね。ゾーラさんは私が倒します。だから……取り巻きはお任せしましたよ?」

 

 アマテラスが2人を選んだ理由は、速い呪いを持つツクヨミがゾーラの魔法をすかさず相殺し、弓の技術がタクミに匹敵するセツナの射撃で、牽制と攻撃を兼ねられると踏んだからだ。

 タクミではない理由を挙げるなら、『風神弓』が要因か。神器である『風神弓』は確かに凄まじい力を持っている。しかし、それ故にサポートに向いていないとも言える。その名に冠するように、風の力を持つ『風神弓』は矢が射出される時、矢が風を纏って飛来するのだ。

 風で勢いが更に増すのは一見良いと思えるが、それは周囲に味方が居ない時。ほんの僅かな風の誤差も、戦況では大きな影響と成り得かねない。だからこそ、同じ弓兵でも周囲に影響を及ぼさないセツナをアマテラスは選んだのだが。

 

 どちらにしても、アマテラスは仲間を連れて来た事は正解だっただろう。思惑通りとはいかなかったが、ツクヨミとセツナの申し出のおかげで、取り巻きを気にせずゾーラに集中出来るのだから。その分、援護を考慮した戦術は取り下げなければならないが。

 

「さて…風の部族の力、味わってみるが良い」

 

 ツクヨミは懐からありったけの呪符を取り出すと、それらを一斉に放り投げる。長方形のそれらはペラペラと宙を一瞬漂うと、急にピシッと敬礼するかのように、真っ直ぐに張り詰める。すると、札の中から何かが盛り上がるような形で、外へと出現した。

 それは燃え盛る馬で、外界へと現界した何頭もの馬がゾーラ達目掛けて突進を開始する。

 

「なんの~!! 打ち消しちゃってくださーい!!」

 

 突進する炎馬に、ゾーラと護衛のダークマージ2人が相殺させるためのファイアーを撃ち放つ。だが、それでも全てを消しきれる事は出来ず、打ち漏らした炎馬をそれぞれが紙一重でかわした。

 そして、それこそがツクヨミの狙いでもある。彼は敵に当たらずに通過した炎馬を即座にUターンさせると、そのままゾーラが中心となるように円を描いて走らせた。今の攻撃でゾーラ達は詰めていた距離がかなりバラけてしまい、炎馬の円の中にはゾーラのみが閉じ込められる形となっていた。

 

「それじゃあ、私も…」

 

 今度は、分断されたダークマージに向けてセツナが矢を射る。撃っては即座に撃つというスタンスで、ダークマージ達がアーマーナイトから離れていくように誘導すると、2人はそれぞれ、ツクヨミがアーマーナイトに、セツナがダークマージに全身を向けて戦闘態勢へと入った。

 

「馬神・午が三頭か……、ちと苦しい数ではあるが、あと3羽は鳥神・酉が使えるな。デカブツ2人相手であれば問題無かろう」

 

「あの敵……鎧じゃないからすぐ死んでくれそう。……楽ね」

 

 2人共に、1対2であるにも関わらず、余裕のある口振りで武器を構える姿はなんとも頼もしいものか。アマテラスは小さく笑みを零すと、すぐに顔を引き締めゾーラの方へと目を向ける。未だに炎馬が円を形作っているが、ツクヨミは振り返る事もせずにアマテラスへと声を掛けた。

 

「案ずるな。お主が入る瞬間に一瞬だけ馬神を止める。だから迷わずに走るのだ!」

 

「はい!」

 

 ツクヨミの言葉に、アマテラスは彼の言う通り迷わず円に目掛けて走り出す。2人も、アマテラスに護衛達の攻撃が及ばないように牽制し足止めの手を欠かさない。

 そして、アマテラスが円へと触れようかとした瞬間、炎馬はピタリと制止し、その僅かな間に中へと侵入したアマテラスはゾーラの前へと立った。

 

「ようやくここまで辿り着きましたよ、ゾーラさん!!」

 

 再びゾーラとの対峙を果たすアマテラス。止まっていた炎馬達は既に円を描く事を再開させており、こちらからも、外側からも互いに様子を窺い知る事すら困難となっていた。

 まさか1対1でのタイマンに持ち込まれるとは予想だにもしていなかったゾーラは、ギリギリと歯軋りをし、もはや余裕など失せ果てている。

 

「あの役立たず共めぇ……!」

 

「私もあなたも、これで味方からの助けはありません。さあ、正々堂々と実力勝負で決着をつけましょう! ゾーラさん!!」

 

 くるりと一回転しながら身を翻し、アマテラスは夜刀神を構えて戦闘態勢へと移行する。まだ呪いは教わり始めたばかりで、実戦段階ではない。故に、如何にゾーラの魔法をかい潜り、懐まで入り込むかがアマテラスには求められる。

 

 しかし、アマテラスにはそれを成し得る力がある。魔力のブーストによる脚力の強化、更に竜化での身体強化で、人間の常軌を逸した速度で動く事がアマテラスには許されるのだ。元々、スサノオよりも身軽であり速さも上回っていたアマテラスは、魔力と竜化という力によって、更に速度を向上させられる。

 生半可な動体視力ではアマテラスの姿はおろか、動きさえも捉えられないだろう。

 当然ながら、ゾーラは優れた動体視力はおろか、身体能力ですら女性であるアマテラスにも劣っている。日頃、努力し精進を続けてきたかの差は歴然であったのだ。

 

 アマテラスは早速脚を竜化させると、爆発的な走り出しでゾーラへの距離を詰める。

 

「ひ!?」

 

 突然の猛速突撃に、ゾーラは恐怖に顔を引きつらせて、慌てながらも魔道書に魔力を通す。狙いを定めずに、とにかくファイアーを乱発してアマテラスをどうにか止めようするが、その(ことごと)くをかわされる。直撃したかと思った一撃も、水塊を纏った彼女の腕によって弾かれてしまい、余計にゾーラの焦りは募っていくばかり。

 だが、彼とて簡単にやられる訳にはいかない。アマテラスを捕らえる以外は彼にとって死でしかないのだ。

 ゾーラは必死の魔法乱発の際に、自身が得意とする魔法の分野が何であったのかを思い出し、それを実行に移した。何も魔法とは魔道書が必要という訳ではない。元々仕込みさえしていれば、魔道書を介さずして魔法は発動出来る。魔道書は魔法発動を簡易化するためのものであり、故に兵器として運用されているのだ。

 

 ファイアーの嵐を潜り抜けたアマテラスは渾身の力を込めて、刃を裏向けた夜刀神をゾーラの胴へと目掛けて振り抜く。

 

「!!」

 

 振り抜かれた夜刀神は、ゾーラの体を真っ二つに分断した。まるで霞でも切り裂いたかのように、手応えは全く無く刀はゾーラを通り抜けたのだ。

 一瞬、アマテラスは何が起きたか分からずに気が動転する。しかし、すぐにある事を思い出した。ゾーラは幻惑を得意とする魔道師である、そういう認識だったではないか、と。

 

「どこに…」

 

 今切り裂いたのが幻影であったなら、ゾーラはどこへ行ったのか。その答えは簡単だ。何故なら、この炎馬のサークルの中からは出られないのだから、アマテラスの付近で姿を潜ませた以外考えられない。

 実のところ、アマテラスは気付いていなかったが、途中でゾーラは幻惑とすり替わっていた。だからファイアーの嵐も幻であると気付かずに、アマテラスは回避を優先させた事でゾーラとその行動全てが幻であるとは分からなかったのである。

 

 幻惑魔法とはそれ即ち、五感に訴えかける魔法だ。視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚……。それらを対象者へと誤認させて惑わすが故に、受けた本人は気付く事が(きわ)めて困難である。今アマテラスが受けたのはファイアーの熱感とゾーラの姿、視覚と触覚で幻惑を受けたという訳だ。

 

 受けたと分かるのは、それが虚像であると実際に触れてみなくては難しい。幻惑を受けたアマテラスは、受けていると分かってはいても、ゾーラの姿を捉えられないでいた。当然、彼もその隙を逃すはずもなく、

 

「背中がガラ空きですよ~!!!」

 

 霧が晴れたかのように、ゾーラの姿がスーッとアマテラスの背後より出現し、その背へと目掛けてファイアーを撃ち放つ。

 

「くっ!」

 

 声と共に炎弾が発射された事に気がつくと、アマテラスは後ろに軽く視線を向けて距離を確認し、咄嗟に横へと転がり回避する。しかし、それでも避けきれないと判断したアマテラスは、ギリギリ直撃を受けるであろう脚部を竜化させてダメージ軽減を図った。

 

「……っ!」

 

 アマテラスはすぐに受け身を取って立ち上がり、態勢を整えるが、ファイアーを受けた左足にやはり違和感があった。

 軽減を狙い、確かにそれは成功した。が、それは飽くまでも()()であって、ダメージが全く無い訳ではないのだ。

 それでも、脚を焼かれて丸焦げになるよりは遙かにマシと言えるだろう。

 

「外しましたか……でも、幻惑の魔法さえあれば、私でも闘える事は分かりましたよ~!! ひょーっほほほ!!!」

 

 決定打こそ与えられなかったものの、ゾーラは自身の魔法がアマテラスに通用すると分かると、先程までの余裕の無さは影を潜め、むしろつけあがる勢いで高らかに笑っていた。

 しかし事実、アマテラスはゾーラを一瞬の間に見失ってしまったのだから、その高笑いする傲り高ぶった姿もあながち馬鹿には出来ない。

 

「幻惑の魔法、ですか……」

 

 軽い火傷に痛む左足の竜化は解かずに、アマテラスはゾーラへの警戒を怠らない。脚の竜化を解けばたちまち、動きが鈍ってしまう事は予想が付く。ならば、竜の脚のままで動いた方が機動力もまだ確保されたままであろう。

 しかし、常時部分的な竜化をせねばならず、純粋なる竜ではない半人半竜のような存在であるアマテラスにとって、肉体的にも精神的にも負荷はとても無視出来るものではない。決着を急がねば、アマテラスの勝機は時間が経つにつれてどんどん小さくなるばかりだった。

 

 それを知ってか知らずか、ゾーラは薄気味悪い笑みを浮かべて、再び幻惑魔法を行使する。今度は姿が消えるどころか、幾人ものゾーラが現れ、元々居たゾーラも幻に紛れてしまい、どれが本物か見分けも付かない状況になってしまう。

 幻惑魔法とは言わば不意打ちと時間稼ぎに特化した魔法と言える。そういう意味では、アマテラスにとっては相性の悪い相手と言えるだろう。特に、負傷する事によりそれは更に顕著に戦況へと表れる。

 

「一体どれが本物…!?」

 

 手当たり次第に夜刀神を振るい、幾人ものゾーラへと刀を叩き込むも、その全てが触れた瞬間に霧散していく。消しても消しても、次から次へと新たな幻影が現れて、次第にアマテラスから体力を削り取っていった。

 怪我は体力の消耗を激化させるものだ。それを狙って、ゾーラは卑怯にもわざと攻撃の素振りを見せども、実際には攻撃はしてこない。万が一攻撃して居場所がバレる事を警戒するが故に。

 狡猾に、アマテラスがジワジワと消耗して、そこを確実に仕留める為に、ゾーラは念入りな作戦を実行したのである。

 

 無論の事、アマテラスとてその答えには既に到っていた。ただ、どうしても起死回生の手を見出せないでいたのだ。

 いや、有るには有るが、それは更に消耗が激しい手段だった。それをしてしまえば、勝ちの目が出る可能性も上がるが、失敗、または立ち回りが上手く行かなければ敗北も濃厚なものとなる。

 ギリギリまで、他に手段が無いか模索し、それでも無ければ実行に移そうと考えていたアマテラスだったが、もはや他の手を考えている余裕などない。今すぐにでもこの状況を打開せねば、負けは確実。

 

「……行きます!」

 

 意を決し、アマテラスは左腕を竜化させる。竜化した腕の先端は大きな竜の顎となり、その口腔内へと大量の水塊を溜め込んでいく。

 それとは別で、変わらず夜刀神で幻影を叩き斬るが、水塊弾の準備の完了と共に、竜の顎から大きな水塊弾を目の前のゾーラ目掛けて盛大に発射した。

 しかし、やはり本物ではなく幻影であり、その幻影は水塊弾を受けると霧散し、水塊は地面へと虚しくへばりつく。それでも、アマテラスは再び水塊弾の準備をしながら、幻影を斬り捨てていく。

 

 水塊弾の準備と発射、そして夜刀神での剣舞…。それらは確実に、アマテラスから体力を奪い、凄まじい集中力も彼女の神経を徐々にすり減らしていく。

 だが、アマテラスは何度も何度も、水塊弾を発射しては、次の水塊弾を幻影へと撃ち出していた。端から見れば、まるで意味の無い策に違いない。余計に消耗が激しくなる分、愚かとさえ思えるだろう。

 事実、敵であるゾーラも、アマテラスのその行動を鼻で笑い、馬鹿にしていた。

 

 しかし、

 

「そろそろ倒れてもらいましょうかね~!!!」

 

 本当に意味が無いと言えるだろうか?

 

 ゾーラは幻影と共にアマテラスの四方を取り囲み、ファイアーを発射する。もちろん、幻影に紛れて本物の火炎弾もアマテラスへと向けて撃ち放ったのだ。

 今まで実際に攻撃を仕掛けなかったが、だからこそ、この攻撃は虚を伴う事が出来る。騙し討ちに騙し討ちを掛けたファイアーの包囲発射は、現実か幻かを一瞬でも惑わせる。その一瞬が命取りになるのだ。

 

「!!」

 

 4つの内3つは幻ではあるが、当にアマテラスの全身を焼かんとファイアーが直撃する寸前で、アマテラスは床に突き刺した夜刀神を足場にして、空中へとファイアーの猛攻から逃れた。

 

「ななな、なんですと~!!!???」

 

 アマテラスの咄嗟の機転に、ゾーラは驚きを隠せない。それにより、幻影以外のゾーラはそのままで、つまりは本物のゾーラのみが驚愕しているために、どれが本物であるかが浮き彫りとなっていた。

 

「! 見つけました!!」

 

 くるりと横に一回転するように跳んだおかげで、アマテラスは本物と幻影の見分けが付くと即座に、まだ跳ぶまでは撃たずにいた水塊弾を本物目掛けて射出する。水塊弾はギュンと加速しながらゾーラ目掛けて飛来していくが、恐れに駆られたゾーラは死に物狂いで、形振り構わず横に飛んで避けてしまう。まさしく本能的とも言える行動だった訳だが、そのお陰で助かったのだから、振る舞いなどに気にしてはいられまい。

 

「く、くそぉ……いい加減負けてくれませんかね~!!?」

 

 取り繕う事さえせず、唾を飛ばして叫ぶゾーラ。そんな彼に、アマテラスは冷静沈着な面持ちを崩さずに、竜の顎を向けて次の水塊弾を発射する。一切の躊躇無き水の砲弾が再びゾーラへと襲い掛かろうとし、当然ゾーラは取り乱して逃げ惑う。得意の幻惑魔法でまた幻影に紛れようとする彼だったが、ここでようやく異変に気が付いた。

 

 何故か脚が異様に重いのだ。いや、どういう訳か床にへばりついたような錯覚を覚えた。彼は戸惑い、足元に目を向けると、

 

「なぁ!?」

 

 べったりとした液体が、自身の足と床を接着させるように張り付いていたのだ。それこそ、糊でも塗られたかのように粘り気を持って纏わりついてくるように。

 

「ようやく掛かりましたね…」

 

 竜化させていた腕の竜化を解除し、ゆらりゆるりとアマテラスは歩を進める。自身もまた、ゾーラが足を捕らわれた水の上を歩いているというのに、何故か彼女はその前進を阻まれる事はない。

 それもそのはず、それらはアマテラスが作り出したものなのだから。先程までゾーラが嘲笑っていた水塊弾は全て、このための布石だった。攻撃が本来の目的ではなく、こうして罠を張り巡らせる事こそがアマテラスの狙いだったのだ。水塊弾は幻影を狙って当たればラッキー、その程度の心積もりで撃っていたに過ぎない。

 

 足を捕られてもはや逃れる術の無いゾーラの目の前までアマテラスは行くと、怯える彼が雑多に魔道書を構えたところを強引に夜刀神で弾き飛ばす。

 魔道書はゾーラの手を離れ、べちゃりと水の上へと落ちると紙はみるみる水を吸い上げていき、乾かさなければ完全に使い物にならない状態へとなってしまう。

 

「あ、あわ、あわわわ……!?」

 

 どうしようもなく、ゾーラは脱力しその場に腰を落としてへたり込んだ。アマテラスの竜化と、その水の力の本質を見抜けなかった事が、彼の敗因である。

 そして、アマテラスは座り込んだゾーラの喉元へと夜刀神の切っ先をギリギリの距離で向けると、皮肉にも、自らが捨てたもう一つの故郷の言葉で決着を告げたのだった。

 

「これでチェックメイトですよ。ゾーラさん」

 




 
「キヌの『コンコン! お狐通信』~!」

※ここからは台本形式でお送りします。

キヌ「いや~、半月ぶりの更新だね~」

カムイ「簡単に理由というか作者さんの言い訳を挙げると、魔法少女の戦争と変態紳士の討伐、怪盗になって世直し、あと単純に仕事で忙しかった事だね」

キヌ「仕事の合間の休憩時間くらいしか書いてなかったからね。ほとんどは仕事から帰って怪盗になってた事が要因だけど」

カムイ「次の日も仕事なのに、バカみたいに遊んでたよね…」

キヌ「でも、正義の怪盗団って響きはカッコイい! そういうのってなんて言うんだっけ? 義賊?」

エポ「呼んだ?」

カムイ「わっ! 急ににょきっと出てきた!?」

エポ「義賊と聞いて。そうね、イイわ。あたしが義賊についてイロイロレクチャーをシてあげる。そもそも、義賊って基本的には盗みをヤってもメリットが少ないの。根本が人助けだし、盗んだ金品や食べ物なんかは、貧しい人々に分け与えるしね」

キヌ「へえ~」

エポ「言ってみれば、好き好んで義賊であるのは自己満足のようなもの。弱い者から奪い肥えるブタどもをこらしめたい…弱きを助け強きを挫く事で感謝されたい…とか?」

カムイ「なんか意外だね。命懸けで悪人の根城に盗みに入るのに、それが自己満足の為だなんて」

エポ「そもそもよ。『盗み』という行為自体が本来は『悪』そのものなの。それでも、俗世の『正義』じゃどうしようもないから、あたし達は『悪』と知っていて盗みに入る。『悪』という行為じゃなきゃ、『正義』を成せないなら、誰かがヤるしかないのよ。でも、それを望んでヤる人なんて、そうそう居ないじゃない?」

キヌ「うん。確かにそうかも」

エポ「正義の為に『悪』を自ら行うの。得とか損とか、そんなのは関係無しに。ほらね? 自己満足そのものでしょう? けど、それでイイの。望まれようと、望まれずとも、あたし達義賊は自らが信じた正義の為に『悪』を成すんだから」

カムイ「そっか…。かっこいいね、エポニーヌ!」

キヌ「エポニーヌが(※)エポらずにこんなに良い話だけするなんて珍事だよ!」

※エポる……いわゆる腐腐腐な話題に浸りトリップしてしまう現象。

エポ「すっごく不服な説明があるわね…。なによ、エポるって!? 言っておくけどあたしは崇高で神聖な禁断の妄想をしているだけよ! 決して邪な気持ちなんて…抱いて…ぐふ…無いわ!」

キヌ「勢いが見事に減退してるよ~!」

エポ「そもそもよ。心の怪盗団? なんて素敵な響きなの!? あの男の子やあの男の子の心を盗んで上手いことチョメチョメしてくっつけたりとか…むふ……ムフフフフ( ´艸`)腐腐」

カムイ「いや、そういう趣旨のものじゃないと思うよ…」

エポ「…そうよ。盗まずとも、認知を書き換えてしまえばそれだけで万事解決…!? いいえ、むしろあたしが望む展開へと誘導さえも出来る…!!? ああ、あたしも心の怪盗団に入りたい…!!!!」

カムイ「聞いちゃいないね…」

キヌ「結局エポニーヌはこうなる運命なんだね~。まあ、そろそろお開きにしよっか」

カムイ「今更だけど、今回総計100話到達記念なのに、こんな締めなんて…はあ」

キヌ「あ、でも100話記念は何か考えてるから、期待しないで待っててね~!」

カムイ「次回もよろしくね!」

エポ「うふふ。ふふふふふ。むふ、ふひひ。フヘヘヘヘヘ。ジークベルトとシノノメ…互いに次期国王の息子であり、敵対する国どうしでありながら、2人は敵国の王子として許されざる禁断の気持ちを抱いてしまう…。あ、でも透魔ルートでしか出逢えない2人なのに、エンディング後は敵国という関係が無くなっちゃうじゃない…!? せっかくイイ設定なのに、なんてもったいない…! いや、別に平和になる事はイイ事だけど。だけど捨てがたいこのジレンマ……あ、あたしはどうしたらイイの!? アッーーーーー!!?」

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