ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜 作:キングフロスト
すぐさま部屋の外へと飛び出したアマテラス。まだ少し頭痛と吐き気が残っているが、そんな事は気にしていられない。廊下を出てすぐに、こちらへと走り迫る暗夜兵の一団の姿を視界に捉えたアマテラスは、
「『竜穿』!!」
左手を肥大化し、大きな竜の顎へと姿を変化させて、そこから複数の水塊弾を発射した。水塊弾は勢い良く暗夜兵達の顔面目掛けて飛来し、何人かにはかわされるが、着弾したものの頭部に覆うようにへばり付き、呼吸の自由を奪い去る。
「死ねぇ!!」
打ち漏らした残りが剣を掲げて押し寄せる。しかし、当然ながら仲間達も続々とアマテラスに続いて前へと勇み進んでいた。敵の攻撃をそれぞれが受け止め、アマテラスにその凶刃が届く事は無い。
「アマテラス! 指示を出せ!! お前がこの隊の長だ!!」
敵と打ち合いながら叫ぶヒノカの言葉に、アマテラスは大きく頷いて、全力で仲間達に叫ぶ。
「近接戦闘を得意とする方はこのまま暗夜兵と戦闘を! 忍びの方々はイザナ公王が捕らわれている地下牢を探し出し、彼を救出して下さい! タクミさん、セツナさんは後衛にて弓による援護射撃を! オロチさん、ツクヨミさんも同じく呪術による遠距離攻撃! サクラさん、アサマさん、ジョーカーさん、フェリシアさんは回復による前衛の補助を! エマさん、モズメさんはユウギリさんと一緒に闘うように!」
リーダーである彼女の言葉を皮切りに、各々が役割を認識して立ち回りを演じ始める。敵と交戦していたスズカゼ達忍びは、速やかに目の前の戦線を離脱。そして3人それぞれが別々に城内へと散って行く。
彼らの抜けた穴を補うように、残った前衛は獅子奮迅の勢いで敵の攻勢を押し留める。
「ふん……さて、やるよ」
「ばいばーい……」
タクミは得意気な笑みを浮かべて、風神弓から輝く矢を生み出し、確実に暗夜兵の急所を撃ち抜いていく。セツナも、その気の抜けた台詞とは裏腹に、鋭い眼光で敵の頭部を確実に射抜き仕留めていた。弓の腕だけなら、タクミにだって負けず劣らずだ。
「さあ、素敵な断末魔を聞かせて下さいまし…!!!」
「負けてられません! エマ、参ります!!」
誰よりも楽しそうに武器を振るい、バッタバッタと暗夜兵を得物である薙刀で斬り捨てていくユウギリ。そんな彼女に倣い、弟子であるエマも嬉々として敵へと突進する中で、モズメは半ば泣きそうになりながら2人に続くのだった。
実際は、見習い兵であるエマと戦闘経験が不足しているモズメを、この中で誰よりも豊富な経験を持つユウギリに付けて安全を確保する……という考えでアマテラスは指示を飛ばしたのだが、それが裏目に出たのかもしれない。
「ユウギリさん!? あまり無茶はしないで下さいね!? エマさんもですよ!!」
その叫びも虚しく、ユウギリは自身による愉しそうな笑い声によって、アマテラスの言葉は彼女の耳には届いていなかった。当然のごとくエマも同様である。
アマテラスはすぐに頭の中で状況を整理する。ユウギリ達はもはや彼女の突進によって呼び止める事も指示を変更する事も不可能。ならば、サポートを付けるしかない。あのぐんぐん突っ込んで行く猪突猛進ぶりを見るに、癒し手を同行させるにしても男性であるジョーカー、アサマでなければ難しい。更に言えば、来て日の浅いジョーカーよりも、まだ連携の取れるアサマの方が適任か。
そう判断を下すと、アマテラスは今度はアサマに指示を飛ばした。
「アサマさん! ユウギリさん達の援護に回って下さい! なるべく傷は負ってもすぐに治療するように!!」
「仕方ありませんね。主君たるヒノカ様の妹君であらせられるアマテラス様に命令されては、逆らう訳にはいきません。面倒ではありますが、私が行くとしましょうか」
いつものように一言も二言も多い彼ではあったが、素直にユウギリ達の方へと走って行く。既にユウギリによる嵐のような行進が通った跡には、暗夜兵の亡骸しか横たわっていないので、アサマが彼女らの元に辿り着くまでに危険が及ぶ事は無いだろう。
アサマが走り去るのを見届けて、アマテラスは力の限りを尽くして新たに檄を飛ばす。自身も敵を見据えながら、怒号の飛び交う戦場へと足を向けて。
「彼らの卑怯な悪道を、私達で打ち砕きます! 臆する事はありません、白夜の王女アマテラスがこの闘いを正しき事であると保証します! だから、思う存分刃を振るいなさい……正義は此処にあるのだから!!」
彼女の号令に、武者達は更に勇み奮う。癒し手達もまた、杖を、暗器を握る手に力がより込められる。
そしてアマテラス自身も己を奮い立たせて、夜刀神と竜化させた腕を引っさげて敵へと突進していった。
アマテラスはまだ気付いていない。この瞬間、彼女の持つ不思議な魅力が、一種のカリスマへと成長し、軍を率いる才能へと開花したという事を。
しかし、それは確かな形を持って表れていた。仲間達の鼓舞、軍を率いる者として士気を高めるというのは才能でもある。それも、大将自らが前線で指揮を執るというのは、戦場で闘う者としてはこれ以上無い程に効率良く、そして安心感が生まれるというもの。
逆に言えば、大将が激戦区で首をぶら下げているとも言えるが、故にこそ、そうはさせまいと仲間達は奮戦する。知らずのうちに、アマテラスは戦士として、指揮者として、両立の取れたスタイルを見出したのだ。
そして、アマテラスの檄は事実彼らの心にもしっかりと刻み込まれていた。
「へっ! 美人の、それもタクミ様の姉君からのお達しときたんだ! こいつは遠慮なんてしてられねぇぜ!!」
「せいやっ! …今のアマテラス様の言葉、胸にグッときたわ。正義は此処に…私達にある! 非道を往く憎き暗夜の者め、楽に死ねると思わない事ね!!」
笑顔で敵を押し退けるヒナタとは対照的に、悪鬼のような形相で敵を斬り伏せるオボロ。あの少しひねくれ者なところのあるタクミが臣下にしているだけあって、2人は流石としか言いようの無い実力を示して見せる。しかも、アマテラスの檄によって普段の三割増し程の力を発揮しているのだ。破竹の快進撃に、暗夜兵達は戸惑い、恐怖を隠せない。
それを苦いものでも噛み潰したかのような顔で見ながら、サイラスは自身の祖国の兵へと剣を打ち合わせる。
正義は此処に……確かにそうかもしれない。中立国を踏み台にするやり方は悪だろう。それを良しとしないアマテラス達こそは正義と言える。そして、そのアマテラスの下で剣を振るうサイラスも。
だが、それでも暗夜王国は彼の生まれた国であり、その下で闘う暗夜兵達は彼と祖国を同じくする者なのだ。そんな彼らとの闘いに、何も思わない訳が無い。それが悪を挫く闘いであろうとも。
「けど、迷ってなんていられないよな。もう俺の命はアマテラスのものなんだ。たとえ同胞だろうとも、容赦はしない。それが俺の選んだ道だ」
たとえ、裏切り者と罵られようと、アマテラスに拾われた命を彼女の為に使う。それがサイラスの騎士道であり、幼き頃よりの誓いなのだ。それで暗夜兵と闘う事になっても、もはや騎士の誓いを崩す事は無い。
相手が、もう一人の親友でない限りは……。
暗夜兵と鍔競り合う中、アマテラスが敵へと突っ込んで行く姿に、ツバキは頭を抱えたくなるのを我慢して、今は早くこの敵を押し退ける事に専念する。
主君の姉君で、しかもこの部隊の隊長であるアマテラス。そんな彼女が、自ら敵陣真っ只中へと走って行くのだ。直属の臣下ではなくとも部下として、王城の一兵士として、王女の特攻に見えなくもない突撃を見過ごして良い訳が無い。
「せいっ! ヒュー、アマテラス様ってば勇敢じゃん。ちょっとは見直したかも?」
「無駄口叩いてる暇が有るなら、さっさと敵を片付けて援護に回るよー。サクラ様の姉君であるアマテラス様は俺達にとっても大切なお方なんだからねー。死なせるなんてもってのほかだよー。フッ!」
呑気に敵と刃を打ち合うカザハナと、それを窘めるツバキ。会話をする余裕があるというだけで、彼らと向き合っている暗夜兵はナメられているのだと頭に血が上り、溢れ出る殺意を剥き出しに向かい来る。
それを鬱陶しそうに受け流すツバキと、逆に待ってましたと言わんばかりに、自信溢れた顔付きで待ち受けるカザハナ。
元より、強者と闘う事を好むカザハナは、それにより自身の武芸を更に高める事が出来ると考えている節があった。サクラに関わるような事でない限り、カザハナが切羽詰まるといった事は無いのだ。
それを見越した上で、ツバキはカザハナに釘を刺す。
「あのねー、アマテラス様が亡くなられたら、きっとサクラ様も大層悲しまれるよー。君が強くなるのを求めるのはサクラ様の為だろうけど、それにこだわりすぎて他が疎かになってちゃ本末転倒だよねー」
「うぐっ…。わ、分かってるよ。目先の事より、もっと先を見据えろって事でしょ」
口を尖らせるように拗ねるカザハナ。戦闘を長引かせるような闘い方を捨て、精神を研ぎ澄ますように、静かに、それでいて豪快に、剣を弾き上げたばかりの暗夜兵目掛けて刀を斜め一閃に振り上げる。
「ぐぎゃああぁぁ!!?」
鮮血を撒き散らして、深い刀傷が暗夜兵の胴体に刻み込まれる。脇腹から肩へ掛けての傷跡からは、噴き上げるように血が噴出された。
返り血を浴びたカザハナは嫌そうな顔で、刀に付いた血を振り払う。服に付いた血は後で洗い流すしかないだろう。
「よーし、バンバン倒すわよ!!」
「そうそう、その意気だよー。これは俺も負けてられないなー」
カザハナの本気スイッチが入ったのを確認したツバキも、自らの本領発揮を為さんと、指笛を鳴らす。王宮に入る前に外で待機させていた天馬を呼ぶためだ。
彼の合図を待っていたとばかりに、天馬が純白の翼を羽ばたかせ空を駆けて来る。
「そろそろ俺も本気出さないとねー!」
白夜でも随一と言われる天馬武者、末妹姫が家臣の一人、ツバキ。天才と呼ばれるその彼が、暗夜兵を倒さんと、天馬と共に空を切る。それは天馬を落とすべく射る弓を持たない、地を往く暗夜兵達にとって、一方的な殲滅でしか無い。彼らにとって幸いと言えるのは、ここが王宮内という屋内であった事か。
それでも、王宮というだけあって天馬でも悠々と飛べる広さと高さはあるのだが。どちらにせよ、彼らにしてみれば絶望的に変わりないだろう。
そして自信に満ちた笑みを浮かべて、彼はさも何でもないかのように告げた。
「さーて、それじゃ行こうかー」
「そうらっ!!」
何も、奮戦を見せるのは白夜兵のみではない。白夜と協力関係にある炎の部族の戦士、リンカも獅子奮迅の勢いで、敵のことごとくを手にした金棒で殴り伏せていた。
「フン! あたしを止められる者は居ないのか! お前達との闘いはぬるすぎるぞ!!」
剣をへし折り、槍を叩き折り、暗夜兵を殴り倒す彼女の武勇を恐れて、リンカの正面の暗夜兵達は腰が引けてしまっている。
それを目にしたリンカは額に青筋を浮かべて機嫌悪そうに、度胸無しと叱るかのように敵へと目掛けて突っ込んでいく。
「ひいっ!?」
「怪物女がぁぁ!?」
半ば悲鳴に近い叫びを上げて、彼らはリンカから逃れようと背を向けて、後ろへ我先にと駆けて行く。こうなれば臆病風に吹かれた彼らでは、もはや勝てる可能性など一片も残されていない。
「……へぇ」
そう、
逃げていく暗夜兵達とは逆に、リンカに向けて重い足取りで歩み寄る一団の姿があった。重厚な鎧に身を包み、大きな盾と槍を装備した、暗夜が誇る重装騎士、またの名をアーマーナイト。守りに特化した彼らは、近接戦闘では無類の強さを発揮する。もちろん、それはその分厚い兵装により為し得た風評だが、重い鎧を纏って戦場に出られるという実力を侮ってはいけない。
それ相応の実力を持つからこそ、彼らはアーマーナイトたるのだ。それが戦士としての経験上、嫌でも分かるリンカは、即座に集中状態へと切り替える。
彼らは今しがた逃げ出した暗夜兵達とは違う。確固とした実力を有して、敵であるリンカを倒さんが為に進攻を開始したのだ。そうと分かっていて、油断するなど愚の骨頂であろう。
「良いじゃないか。ようやく骨のある奴らが出て来たか。闘い甲斐があるというものだ」
ガチャンガチャンと、鎧の軋む音を響かせて迫る彼らに、リンカの口元がニヤリと綻ぶ。戦士として強者との闘いは、何より代え難い糧となる。根っからの戦士であるリンカにとって、アーマーナイトとの闘いはこの上ない褒美でもあった。
「だ、ダメです~!!」
今にもアーマーナイトへと飛びかかりそうになっていたリンカを呼び止めるのは、少し場違い感の否めない間延びした声。その声の持ち主は、言うまでもなくフェリシアだった。既に踏み込んでいたリンカは、唐突な制止を受けて少しこけそうになるのを堪えると、勢い良く振り返って怒鳴る。
「なんだ!! 何が駄目なんだ!!」
「だ、だってアーマーナイトを相手に、生半可な武器では傷一つ付けられません! それなのに一人で突っ込むなんて無謀ですぅ!」
「やってみなければ分からんだろう。用はそれだけなら邪魔はするなよ!」
フェリシアの警告を無視すると、すかさずアーマーナイトの軍団へと突進を開始するリンカ。結局止められなかったと、あわあわ慌てふためくフェリシアだったが、
「だから一人では危ないですよ~! もう、こうなったらお手伝いしますからね!!」
杖を腰のリボンに引っ掛けると、フェリシアは暗器を片手に、そしてもう片方の手に冷気を生み出してリンカの後を追う。
炎と氷、それぞれの部族の族長の娘であり、新たな世代を担う彼女達が、意図せずとも共闘する事が、まさか歴史的な出来事であろうとは思いもしないだろう。国を異とする二つの部族が共闘するなど、本来有り得ないのだから。
闘いは始まったばかりだが、きっとアマテラスが目指す先にゾーラは居る。再び対面したその時こそ、非道なる策略を含めて彼を倒す。暗夜の、ガロンの策謀を挫く第一歩になると信じて、アマテラスは突き進む。その手に、神刀・夜刀神を携えて。
「キヌの『コンコン! お狐通信』~!」
※ここからは台本形式でお送りします。
キヌ「いや~、久しぶりの更新だね~!」
カムイ「仕事上がりで書くのは精神的にキツいらしいからね」
キヌ「それでも、墨の撃ち合い合戦とかはしたりしてたけどね~。アタシも妖狐じゃなくてイカに変身して遊んでたよ!」
カムイ「遊ぶのと考えるのとじゃ、やっぱり違うし仕方無いけど……出来ればもっと更新ペースは上げて欲しいかな」
キヌ「ところで、みんなはポケ○ンGOやってるー? アタシは山を駆け回って、たくさん捕まえたよ!!」
カムイ「僕はやってないから分かんないな。そもそもそれって、アンナさんが持ってきた板みたいなので出来る遊びでしょ?」
キヌ「すまほ…だっけ? アンナが少ししか持ってきてくれないから、アタシ達の中でも持ってる人は少ないんだよね。でも、これでベロアとも遠くに居てもお話出来るよ~!!」
※ケモッ娘達は愛されているので色々と優遇されています。
カムイ「どこかの異界で流通してる便利な道具って言ってたっけ」
キヌ「うん。それで話は戻るんだけど、ポケモンと言えばで思い出したんだけど、『ゼクロム』と『レシラム』っているじゃん?」
カムイ「えっと、ポケットモンスター・ブラック、ホワイトのパッケージを飾る伝説ポケモンだよね」
キヌ「そうそう! 黒い体を持つゼクロムがホワイトで、白い体のレシラムがブラックでゲット出来たんだったよ!」
カムイ「舞台となるイッシュ地方の神話に登場するポケモンだね。二匹は同じく神話に出て来る双子の英雄に従ったんだっけ」
キヌ「うんうん。レシラムはお兄ちゃんに、ゼクロムは弟にね」
カムイ「更に言えば、兄は真実を、弟は理想を求めたんだ」
キヌ「…もう気付いた? 実は第三章のタイトルはそれをモデルにしてるんだよね」
カムイ「残念なのは、レシラムが白くて、ゼクロムが黒いって事だね。言い換えれば、ゼクロムが真実、レシラムが理想を求めるなら良かったんだけど…。そうすれば、暗夜に付いたスサノオ叔父さんと白夜に付いたお母さんでちょうど色も合ってたのに」
キヌ「ちなみに、物語のタイトル自体は今言った事とは関係ないよ。たまたま、『あ、ゼクロムとレシラムの設定使えるかも』って後になって気付いたらしいからね」
カムイ「そもそも、白夜と暗夜、白と黒に分かれる事を想定したタイトルだったからね。まあ、たまたまってすごいって事かな?」
キヌ「というわけで! 今回はこの物語のちょっとした小話でしたー!」
カムイ「それでは次回もよろしくね!」
キヌ「それじゃ今回はこの辺で~。せーの…」
キヌ&カムイ「バリバリダー/モエルーワ!!(次回もよろしくね!)」