ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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幕間 なにやってるの?

 

 イズモ公国へと向かうアマテラス一行。そしてこれから見せるのは、そんな彼女らのとある一幕を描いたものである。

 

 

 

 

 

「…よいしょ……よいしょ……、ふぅ…」

 

 とある少女の疲れたような吐息が、密やかに零れ落ちる。場所はアマテラスの星界の片隅。

 少女…サクラは1人、そこで女性陣の衣服を洗濯している最中だった。この部隊の女性全員分という事もあり、結構な総量ではあるが、これをサクラが1人でやっているのには理由がある。

 

 といってもその理由も至極単純なもので、サクラが洗濯当番だから、である。無論、王族にそんな事をさせるなんて…と、臣下達からは反対する声も上がったのだが、

 

「私は、みなさんより戦力として頼りないです。だからせめて、これくらいの事でもみなさんの負担が減れば……」

 

 非力な自分だからこそ、こうした生活面で仲間達をフォローしたい。それがサクラの心情だった。ただ、流石に洗濯係をサクラ1人に押し付けるなんて、仲間達が頷く筈もなく、

 

「サクラさんの気持ちは嬉しいです。でも、お洗濯も相当な力仕事……。それを可愛い妹に全て任せきりにするのは、お姉さんとして私は出来ません。せめて当番で代わりばんこにしましょう?」

 

 アマテラスの一声で、洗濯係は当番制となったのである。無論、他の者は誰一人として反対はしなかった。

 

 それと、サクラが洗濯当番ならば、当番に関わらずカザハナやツバキといった臣下達が一緒に手伝いそうなものだが……いや、当然ながら手伝うと申し出たが、サクラはそれを断ったのだ。ちょうどその時、軍議が始まろうとしていた事もあり、サクラは自分の代わりにしっかりと参加してきて欲しいと頼んで、洗濯の手伝いを断ったのだった。

 

「…………、」

 

 ちゃぷちゃぷと小さく水音を立てて、桶の中で洗料を混ぜた水に浸した衣服を擦るサクラ。着物などの色落ちするものは、専門家のオボロが監修する事になっているため、サクラは現在下着や手拭いといったものを洗っていた。だからといって、決して楽という事もなく、むしろその後にオボロの指導の下で着物も手掛けなければならないので、今は気休め程度の洗濯なのだ。

 ちなみに、オボロの実家は元々呉服屋を営んでいた事から、彼女は衣服に関する知識が白夜一と言っても過言ではないくらいに豊富である。

 

「……んしょっ……ふぅっ…ふぅっ…」

 

 力仕事と言うだけあり、かなりの力を求められる洗濯。これはこれで良い鍛練になる…と、一部の者達からは肯定的だ。しかし、サクラやオロチのように、力に自信の無い者からすれば、重労働でしかない。

 事実、サクラは息を切らせて、玉のような汗を額に浮かべていた。

 

「もう少し、でしょうか…」

 

 それでも、順調に仕事をこなしていくサクラ。疲れながらも、残りは少なくなってきていた。

 

「サクラ様~!!」

 

 と、そんな時に掛かる声。

 

「フェリシアさん…?」

 

 彼女の臣下ではなく、姉であるアマテラスの臣下のフェリシアが、飲み物をお盆に乗せてやってきたのだ。しかし、彼女も軍議に参加していたはずだが……?

 

「フェリシアさん、軍議はいかがされたのですか?」

 

「はい~。アマテラス様がサクラ様に飲み物でもと、私がお使いに出たんです」

 

 にこやかな表情で、お盆を持つフェリシア。彼女が姉から遣わされた事を聞き、サクラは嬉しい気持ちが湧き上がってくる。

 軍議の最中であろうに、自分の事にも気にかけてくれるその優しさに、サクラは心から喜んだのだ。

 

 ただし、忘れる無かれ───。

 

「お飲み物は私の手で冷やしてますから、冷たいですよ……って、きゃー!!?」

 

 それを運んでいるのが、ドジで定評のあるフェリシアであるという事に。

 ちょっとした出っ張りにつまずいたフェリシアは、前のめりに転んだ。それはもう、盛大に。その際、フェリシアの持っていたお茶が、弧を描くように洗濯桶にダイブしたのは言うまでもなく、もし競技であれば満点が与えられていたであろう程に、キレイに桶の中に中身と共に収まっていた。

 

「………、」

 

 ドジであるとアマテラスから聞いてはいたが、思っていた以上に、鮮やかなこけっぷりに、サクラは言葉を無くして、桶とフェリシアを交互に見つめていた。

 慌てて立ち上がるフェリシアは、

 

「す、すみませ~ん!! すぐに新しいお茶と、桶の水を入れ替えてきますから!!」

 

「……くすっ」

 

 慌てたように、あたふたと取り乱すフェリシア。そんな彼女を見て、サクラはくすりと笑みをこぼす。

 

「フェリシアさん、あなたは面白い方ですね。あんなキレイなこけ方、初めて見ました」

 

「はわわ!? そ、それって褒めて下さってるのか分かりませーん!?」

 

「姉様がフェリシアさんを臣下として近くにおいているのが、何となく分かる気がします…」

 

 本来なら、使用人としてフェリシアのドジは致命的だ。ほとんどの場合、役に立たないメイドはクビになるだろう。

 アマテラスが優しいにしても、周りが黙っていないだろうが、どうしてかフェリシアはアマテラスの側にずっと居る。それは何故か。おそらく、彼女の人柄がそうさせているのではないか?

 何というか、ドジを連発する彼女ではあるが、不思議と憎めないところがある。失敗続きではあるが、健気に頑張るその姿は、見ていて微笑ましい。

 彼女は見ているだけで癒される存在なのだ。むしろ、フェリシアはドジあってこそのフェリシア、という構図が形成されている。サクラはそれを、今までのフェリシア、そして先程の転倒から、何となくではあるが感じ取っていた。

 

「えー!? それってどういう意味ですか!? もしかして、私はメイドのクセに闘う事しか能のないダメイドって事ですかぁ!?」

 

「そ、そこまでは言ってませんっ」

 

 勘違いしたフェリシアからの反撃を受けて、同じくあたふたと慌てるサクラ。本人は気付いていないが、彼女もまた仲間達からは癒し系として認識されている。要は、お互い違う方面で似た者同士なサクラとフェリシアなのである。

 

 まあ、フェリシアはサクラをそういう風に認識してはいないが。

 

「とにかくですっ。フェリシアさんは、あなたという存在だけでアマテラス姉様を支えているんです。それはすごい事だと私は思います。そこに居る…ただそれだけで、姉様の力になれるなんて、羨ましいですから……」

 

 自分で口にしながら、しゅんとうなだれるサクラ。元はと言えば、サクラが洗濯当番を買って出た根底には、仲間の負担を減らす事、そしてアマテラスの力に少しでもなりたいという事があったから。

 だから、フェリシアのアマテラスとの関係は、サクラからすれば少々羨ましいものだったのだ。

 

「サクラ様……。私だって、サクラ様が羨ましいですよ? アマテラス様は私や姉さん……あ、私と同じくアマテラス様とスサノオ様に仕えていた姉です。それからジョーカーさんにギュンターさん……私達臣下を、お二方は家族のように接し、扱ってくださいました。でも、それは『ホンモノ』ではありません。『家族のような』域を越えられませんから。でも、サクラ様は違います。あなたはアマテラス様の『ホンモノ』の家族です。私では手の届かない、アマテラス様の『家族』……本当に、羨ましいです」

 

 フェリシアからしてみれば、サクラはアマテラスの血の繋がった妹。自身も姉のフローラを持つ事から、姉妹の関係が深いものであると自覚している。だから、それをアマテラスとの間に築けない事も分かっていた。あくまで、()()として()()を大切にするしか出来ないのだ。

 

「……」

 

「……、うふっ」

 

「ふふふっ…!」

 

 互いが、その胸中を吐露した事で、2人はおかしくなって笑い合う。実のところ、お互いに相手の事を羨ましいと感じていたのだ。

 

「私達…似た者同士ですね」 

 

「はい! でも、サクラ様と似た者同士なんて、光栄ですけど、恐れ多くてカザハナさんの前に出られません~……!!」

 

「大丈夫ですよっ。フェリシアさんなら、カザハナさんともきっとお友達になれます! だって、私達は似た者同士なんですから」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「はいっ。私が保証します。それでは、どうやってカザハナさんと仲良くなるか、作戦を立てるためにも、お洗濯を終わらせてしまいましょう!」

 

「では、私はもう一度お飲み物を持ってきます!」

 

 互いが目的のために、今目の前にある仕事へと再び向き合っていく。こうして軍の癒し系の間で、奇妙な絆が生まれたのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は過ぎ、軍議もサクラの洗濯も終わった頃、オボロが星界内を何かを探すように練り歩いていた。キョロキョロと辺りを忙しなく見回して、しかし、なかなか目当てのものが見つからない。

 

「んー……居ないわね。今日こそは、と思ってたんだけど……」

 

 彼女が探しているのは『もの』はものでも『者』だった。軍議が終わり、サクラの着物洗濯の監修を終えたオボロだが、監修終了後すぐにその目的の人物を求めて、1人星界の城を歩き回っていたのである。

 

「それにしても、どうしてサクラ様の着物洗濯の監修してた時、フェリシアも居たのかしら? 仲良さそうにしてたみたいだから、問題は無いけど…」

 

 それよりも、オボロは軍議の時にアマテラスがフェリシアをお使いに出した事も疑問だった。内容は知っていたが、何故ジョーカーではなくフェリシアにしたのか。しかし、よく考えてみれば当然ではある。サクラが洗濯していたのは、()()()()下着類。ならば、同じ召使いであっても男性のジョーカーより、女性のフェリシアが行った方が適任と言える。

 そこにメイドとしてのドジ加減は考慮されていないのだが…。まあ、結果的に良かったのだと、サクラとフェリシアの様子を見れば分かるというものか。

 

「……そろそろ夕食時だし、食堂に行けば捕まえられるものね。まだ我慢しましょうか………、ん?」

 

 夕食後まで、と諦めかけたその時、とうとうオボロは探し求めていた人物の姿を視界に捉える。その人物は、どうやら星界内に存在する森の中に居たらしく、手には弓が握られていた。狩りをしていたようだ。

 

 蛇足だが、このアマテラスの星界内の城はその広さ故に、多様なものがある。例えば、今の森。ここには野生動物が居り、森の中にある動物が通れる程度の星界の門を通して、外から入ってきているらしい。外界程は外敵も居ないため、一種の野生動物パラダイスと化した森では、一部の者が狩りを嗜んだりしている他、癒やしを求めて森に入る者も居る。

 他には泉なども存在する。人が大勢泳いでも問題ない程には広い泉。そこでは、水底から鉱石が少量だが取れたりもする。

 ちなみに、それらは全てアマテラスが竜脈を用いて作り出したものであった。近々、他の施設や自然物も作り出そうと考えているそうだ。

 

 と、それはともあれ、オボロは獲物目掛けてズンズンと足を進めていく。獲物である当の本人は、何も知らずに仕留めた兎を地面に下ろして、毛皮を剥ぐ準備をしていた。

 

「ふふふ…見つけたわよ、モズメ」

 

「オ、オボロさん…? 突然何なん…?」

 

 嬉々として、モズメに声を掛けるオボロ。モズメはといえば、オボロのあまりに良い笑顔に、若干の戸惑いと共に、少し引いていた。

 そんな事にはお構い無しに、オボロはモズメが逃げないように肩を掴んで話を続ける。

 

「私、着物を見立てるのが大好きなのよ。ご存知かしら?」

 

「うん、知っとるけど…。軍の何人かも、オボロさんに見立ててもろうたって聞くし…」

 

「じゃあ決まりね。モズメ、私に着物を見立てさせてよ。あなた、いつも控えめな色味のものしか着ないから、印象を変えてみたいのよね」

 

 突然の申し出に、モズメは驚いてみせる。

 

「ええっ!? で、でも…この服、気に入っとるし…」

 

「いいじゃない、ちょっと着替えるだけよ。絶対に可愛くしてあげるから」

 

「い、嫌やわ…あたい田舎もんやし…」

 

 モズメの控えめな断りに、オボロは食い下がる気配を一切見せず。むしろ火が点いたようにモズメに語り始める。

 

「そんなの関係ないわ。女の子なんだから着飾る事はむしろ覚えておくべきよ。きちんと私が教えながらやってあげるから、安心して」

 

「でも着飾るなんて、きっと滑稽やわ…。可愛い衣装やお化粧なんて似合わへんわ…」

 

「そんな事無いって! モズメ、素材はいいんだから」

 

 グイグイと迫るオボロ。その勢いに、モズメは気圧されながらも反論する。

 

「そんな口八丁には乗らんもん!」

 

「………」

 

 少し言い過ぎてしまったかと、ハッとするモズメだったが、オボロは少しして再び口を開いた。

 

「モズメ…私の腕を信じてよ…仲間でしょう?」

 

「な、仲間って…オボロさん。あたいはそんな顔には騙されへんよ。あんたがただやりたいだけやのに、何かええ話にすり替えようとしてへん?」

 

「そ、そんな事…そんな事………ちょっとはあるけど」

 

「やっぱり!」

 

 図星を突かれたオボロは、勢いが急激に弱まっていく。逆に、モズメは心配して損したとばかりに、

 

「もうええから、あたいの事はもう放っておいてーな!」

 

 言うだけ言って、肩を掴むオボロの手を外すと、モズメは足元の兎を取ってサッサと行ってしまった。

 

「うーん…さすがはモズメ…。この辺の守りは硬いわねぇ…。でも私、諦めないんだから!」

 

 そして、かえってその闘志をメラメラと燃やすオボロ。モズメは甘く見ていたのだ。オボロが服に関しては並々ならぬ執念と情熱を注いでいるという事を知らぬばかりに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食後、アマテラスはオロチを泉に呼んでいた。静かに風がそよぎ、泉の水面を優しく撫でている。

 

「さて、わらわを呼び出した用件とは何じゃ、アマテラス様?」

 

 泉に体を向けるアマテラスに、背後から声を掛ける形となるオロチ。アマテラスは、揺れる水面を見つめながら、そのまま口を開く。

 

「今回の一件で分かりました。私は……弱い」

 

 それはフウガとの戦闘の事を指していた。リンカと2人がかりで何とか食らいつき、竜の力を解放してやっとの事で追いすがった。それもギリギリでの勝利と、褒められたものではない。この先、暗夜王国との闘いは苛烈を極める事は必然だ。このままでは、遠くない未来、死の危険が訪れるだろう。自分だけではなく、仲間の命をも脅かそうと……。

 それだけではない。暗夜王家は実力者揃いであり、既にカミラはヒノカの敗北を以て、それを証明している。いや、幼い頃から剣の師として、魔法の師として師事してきたマークス、レオンもまた同様に、いずれは越えねばならない壁として、今もアマテラスの内で高く聳え立っている。そして、共に育ち、磨き合ったスサノオも───。

 

「ほう……自らの弱さを認め、受け入れる事はそう容易い事ではない。自覚し、噛み締め、天を仰ぎ高みに目を向ける。偉大なる先人達のほとんどが、それを心に刻んでおったそうじゃ」

 

「そう、ですか……。なら、私も見習わないと、ですね」

 

 くるりと反転し、オロチへと向き直るアマテラス。それと同時に、ブワッと突風が突如吹き、アマテラスやオロチの髪を大きく揺らす。

 決意を込めた顔付きで、自身を見つめるアマテラスに、オロチも自然と顔が引き締まる。もはやふざけた事を言えるような雰囲気ではなかったから。

 

「オロチさん。お母様の臣下としてのあなたに頼みがあります」

 

「…何かのう?」

 

「私に………闘う為の呪いを教えて下さい」

 

「………」

 

 その頼みに、オロチは黙りアマテラスを見つめる。命令ではなく、頼んできた事の意味。ミコトの臣下として頼むという事の意味。

 それはアマテラスがオロチに判断を委ねたという事。母の部下として、主君の娘に呪いの知識、技術を託すべきかどうか、オロチに託したのだ。

 人を呪わば穴二つ。そういう言葉がある程に、呪いは使い方を誤れば自身に災いが降りかかる危険なもの。それを教える側として、アマテラスはオロチに『頼んだ』のだ。相応しくないのなら、教えなくても構わない、と。そんな気持ちを込めて…。

 

「ふふ…」

 

 そして、沈黙を破るオロチ。それはコケにした笑いではなく、思い出したような穏やかな笑い声。

 

「やはり、親子じゃのう。そういうところが、ミコト様とよう似とる。無理強いは決してせず、こちらには考慮する余地しか与えぬ…。仮にも国を背負う方が、命令する事を嫌うのじゃて、おかしな女王様じゃったわ」

 

 柔らか笑みに、偽りはなく、侮蔑もない。心の底から、ミコトに敬意を払う態度でしかなかった。

 

「しかし、そこがわらわは大好きじゃった。だからこそ、わらわはあの方の臣下である事を何より誇りに思っておった。それはわらわだけではなく、ユウギリやカゲロウも同じであろうて」

 

「カゲロウさんも……?」

 

「ん? 聞いておらなんだかえ? カゲロウは元々ミコト様の臣下じゃ。ミコト様の頼みで、リョウマ様の臣下になったがのう」

 

 思わぬ名前が出て来た事に、アマテラスは少し驚いた。それにより、引き締めていた緊張感が少しだけ緩んでしまう。それを見て、オロチは大きく笑った。

 

「あっははは! そこもミコト様そっくりじゃのう! ミコト様も、事あるごとに気が抜けておったわ! うむ、良かろう。わらわが呪いを教えてしんぜようぞ」

 

「!! 本当ですか!?」

 

「ただし、教えるからには厳しくゆくぞ? 呪いは一歩間違えば破滅の恐れもある。なに、飴と鞭は上手く使い分けてやるから、安心せい。それと、指導の際にわらわの事は師匠と呼ぶように」

 

「はい、師匠!!」

 

「うむうむ! 善いぞ! そのノリで修行を行うので、あまり気負いしすぎんようにな」

 

「はい、師匠!!」

 

 ここに、一組の師弟が誕生した瞬間だった。後に、同じく呪い師であるツクヨミも巻き込む事になろうとは、2人はまだ知らない……。

 




 
追記:他のメンバーは何をしていたのか。

・タクミ、ヒナタ、ツバキ、カザハナは剣術の訓練。タクミはヒナタとカザハナに付き合わされる形で。ツバキはタクミを気遣って、負担を半減するため。


・カゲロウ、ユウギリは生け花を。前衛的なカゲロウの腕前に、ユウギリは引きつった笑みを浮かべる。


・サイゾウ、スズカゼ、ジョーカー、サイラスは組み手による戦闘訓練。異文化の戦闘技術を持つ相手と闘い、刺激しあう。


・エマは自分の天馬の毛繕い。たまには相棒を労る事も大切と、ユウギリから教えられたが故。


・リンカ、ツクヨミは互いの部族について気になった事を語り合う。その際、ツクヨミが野菜嫌いなお子様であると判明。


・セツナ、アサマはヒノカにより臣下としての心構えについて説教を。しかし、いつもながらのようにセツナは右から左へと聞き流し、アサマは毒舌でヒノカに反撃。ヒノカは自分が余計に疲れる羽目に。







 誰もが寝静まった頃、アクアは独りで泉の縁に腰掛けて、足を水の中に浸けていた。流石に体を全身まで浸す程はしないものの、足から泉の冷たさが上へと伝わっていく。

「……ユラリ ユルレリ♪」

 水面に映る自分を、足を軽くばたつかせて掻き消すアクア。静かな泉に、アクアの囁く程のか細い歌声が広がり消えていく。
 観客は居ない。強いて言うなら、自分自身が聴衆か。
 この歌は、特別な力を秘めているが、意図して使わなければ、特に効力は発揮されない。

「……次はイズモ公国。永続的中立国の立場を取るあの国なら、戦闘は起こらないはず。少しは皆も羽休めが出来れば良いのだけど……」

 戦闘が続く仲間達、そしてアマテラスの身を案じて、密やかながらアクアは歌う。行く先に、平穏が待っている事を願って。

「その手が 拓く 明日は♪」

 声は静かに、月光に煌めく水面は、アクアを肯定しているかのようで、神秘性に満ち溢れていた。
 その祈りが届くかどうかは別として……。

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