ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第47話 柔き風

 

「……」

 

 闘いの一部始終を見ていたアクア達は、その結末を静かに見届けていた。ある者は驚きに固まり、ある者は2人の勝利を喜び、ある者は達観したように目を細めていた。

 アマテラスを幼い頃から知るジョーカーやフェリシアに至っては、ついこの間まで彼女が暗夜王国の北の城塞から一歩も出た事のない、世間知らずの王女様だった事を知っていただけに、主が知らぬ間にここまで成長していた事に感動の涙を流していた程である。

 

「ふえぇ……アマテラス様があんなにお強くなられていたなんて……。私、自分の事のように嬉しいです……!!」

 

「アマテラス様、ご立派になられて……うう……」

 

「え、まさか泣いてるのか、ジョーカー?」

 

「う、うるさい! 目にゴミが入っただけだ!!」

 

 怒鳴って誤魔化すジョーカーに、少し引き気味のサイラス。こんなやり取りが出来るのも、先程とは一変して、穏やかな空気が流れている何よりの証拠だろう。

 

「おぉ~…まさか、ホントにアマテラス様が勝っちまうとはなぁ」

 

「それに関しては僕も同感だね。リンカと2人だったとはいえ、フウガ殿は父上と肩を並べた仲だと聞いてる。そのフウガ殿に勝てたんだ。アマテラス…姉さんは、試練を見事乗り越えたと言って良いんじゃないかな」

 

「ふむ。タクミ様がアマテラス様をお誉めになるとは、少々意外だな」

 

「だよなぁ! もしかして、アマテラス様の事を見直してたりとかですか!?」

 

「ふ、フン! 少しだけだ! 完全に認めた訳じゃない!」

 

 茶化すヒナタに、慌てたようにそっぽを向くタクミ。そしてそれを微笑ましく見つめるカゲロウ。普段のタクミとヒナタのやり取りに、カゲロウの姿が加わるだけで、なんとも珍しい光景となっていた。

 

「…暢気にしているが、問題はまだ解決していないだろうに」

 

「ええ…。アマテラス様は、フウガ様へ力を認めさせるという試練は乗り越えました。しかし、風の部族全体への誤解は未だに解けてはいません」

 

「そうね。フウガ様を倒してお終い…という訳にもいかないわ。それでは、(わだかま)りが残ったまま……。今後の事も考えるのなら、風の部族への私達の誤解を解消するべきだもの」

 

 浮かれる他の者とは違い、先を見据えたアクア、サイゾウ、スズカゼの3人。確かに、フウガは力を示せば部族の者へ攻撃した事を許すという旨の言葉を発していた。しかし、それで終わる程、簡単な話ではないだろう。今後とも風の部族との繋がりを保つのならば、部族全体に不信感を残したままでは、絆など成り立たない。信頼を取り戻さなければ、彼らとの仲は修復されないのだ。

 

「さて、ここからどう取りなすのか……。少々難題よ、アマテラス…」

 

 

 

 

 

 

 

「ふう……ふう……」

 

「あとちょっとだよ、サクラ!」

 

「は、はいっ……!」

 

 ようやくアマテラス達の居る場所に辿り着くサクラ達残りのメンバー。一部の者は息を切らせ、汗だくになりながらも、目的地をやっとその目にする。

 

「またまたー。まただよー、カザハナ。君は曲がりなりにもサクラ様の臣下なんだから、主君であるサクラ様にはきちんと様付けしないとー」

 

「ぐぬぬ…! わ、分かってるよ!」

 

「わ、私は、別に気にしませんよ……ふう…」

 

 全く疲れを感じさせないツバキとカザハナに、サクラは疲れながらも笑顔を浮かべている。そして、そんな彼女らの和やかな雰囲気を横目に、ヒノカが羨ましそうな視線と共に溜め息を吐いていた。

 

「…サクラが羨ましい。善き臣下に恵まれ、姉として嬉しくは思うが、出来る事なら私の臣下達にも、カザハナやツバキを見習って欲しいものだ」

 

「おやおや。そもそもヒノカ様が私を臣下にと召し抱えたのではないですか。文句なら、自分自身に仰ってくださいね。私は文句を言われる筋合いなど、一切ありませんので」

 

 悪びれるどころか、責任など全く無いと言ってのけるアサマ。その反論に、ヒノカは頭を抱える。

 

「そんな事は百も承知だ。ただ、少しは私に対する敬意というものをだな…」

 

「ヒノカ様、疲れた……」

 

「お、お前!! 私におぶさっていただけなのに、何を疲れるんだ!?」

 

 ヒノカの背では、目を閉じておんぶされているセツナが。自分で歩いていた訳では無いにも関わらず、疲れたと(のたま)って見せたセツナに、ヒノカは青筋を立てて叱る。

 そして、そんなセツナの言い分はと言えば、

 

「おんぶされてるだけなのも、結構疲れます……」

 

「おっと、これはとんだ無駄足、お節介だった訳ですね、ヒノカ様」

 

「ぬ、ぬぬ………。ぬぅああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 とうとう、限度に達したヒノカは、噴火するかの如く雄叫びを上げた。ちなみに、この時の雄叫びは部族の村中に響いたという。曰わく、『猛獣が猛り狂っているのかと思いました』とはアマテラスの談。後日、それがヒノカの耳へと入ったために、アマテラスはしっかりと可愛がられました。それはもう、恐ろしいくらい目が笑っていない笑顔のヒノカに。

 

「…元気じゃのう。やはり武士というのは脳筋ばかりじゃな。わらわのような呪い師には、あそこまではしゃぐ気力も湧かぬて」

 

「あらあら。あなた方、呪い師の方達だって変わり者が多いではありませんか。オロチさん、あなただって妙な笑い上戸ですし」

 

「せ、戦闘狂のユウギリに言われとう無いわ!」

 

「あはは、どっちもどっちで、武士も呪い師もクセの有る人が多いと思います!」

 

「……あたい、こんな濃い面子の中で生きていけるんやろか…」

 

 軽く言い争うオロチとユウギリ。そんな2人を宥める?エマの隣では、モズメが遠い目をして、全員を見渡していた。

 

 

 そして、アマテラスは全員が揃った事を見計らい、フウガへと声を掛ける。

 

「フウガ様、折り入って頼みがあります」

 

「何だ? お前は勝者だ。ある程度なら聞いてやろう」

 

「では、風の部族の方々を集められるだけ集めて頂けませんか?」

 

「…確かに出来るが、どうするつもりだ?」

 

 アマテラスの考えが分からなかったフウガの問いに対し、真面目な表情を崩さずに、アマテラスは答える。

 

「謝罪を…したいと思います」

 

 

 

 

 

 

 それから間もなく、村で一番大きな広場へと到着したアマテラス達。既に広場の周囲には、部族の村人達が大勢集まっていた。好奇の視線を向ける子どもや、懐疑的な眼差しで見つめる大人、敵意の籠もった目で睨む部族兵……と、それこそ風の部族全員が集まったのではないかという程に、たくさんの人間がその場に密集していた。

 

 そんな、様々な視線を一身に集めるのは、村の外から来た部外者。白夜王国の第二王女、アマテラス。

 他の仲間達も、彼女の少し後ろに下がった位置で、静かにアマテラスを見守っている。気を失っていたリンカは、ヒナタが背に担いでいた。

 彼らには既に、アマテラスが何をしようとしているのかは伝わっていた。その動向を、静かに見ているのはアマテラス本人に頼まれたが故だ。自分に任せて欲しい、と。

 

「風の部族の皆さん」

 

 ざわめいていた広場は、アマテラスが言葉を発した事によって静けさに包まれる。声はオロチより渡された、声量を増幅させる呪符のおかげで、そこまで張らなくても広場全体へと充分過ぎる程伝わっていた。

 静かになったのを確認すると、アマテラスは再び口を開く。

 

「この度は、あなた方の仲間を傷付けてしまい、本当に申し訳ありませんでした」

 

 深々と頭を下げ、数十秒の後に頭を上げるアマテラス。

 

「起きてしまった事を無かった事には出来ません。ですが、皆さんに知っていて頂きたい事があるんです。私達があなた方の仲間を攻撃してしまったのは、故意ではありませんでした。暗夜王国の軍師、マクベスという男の謀略により、私達、そしてあなた方の仲間達は、互いの姿がノスフェラトゥに見えていたのです」

 

 その言葉に、広場を囲む部族の者達の間で、少しだが動揺が広がった。

 アマテラスが言った事は本当なのか。それとも嘘をついているのか。

 疑惑のざわめきが広がる中で、アマテラスは言葉を続けた。

 

「幻覚に踊らされていたとは言え、あなた方を攻撃してしまった事は変えようのない事実。ですから、謝罪させて頂きました。そして、せめてもの償いとして、私達が傷付けてしまった彼らの傷は、治療させて頂きました」

 

「なら、その仲間はどこだ! 仲間を返せ!!」

 

「そうだそうだ! 仲間を返してから言えー!!」

 

 乱暴な言葉遣いがアマテラスへと投げ掛けられる。もちろん、アマテラスとてその反応は想定していた。よって、彼らの言葉に従い、星界の門を開くように、リリスへと呼び掛ける。

 

「分かりました。あなた方の仲間をお返しします。リリスさん!!」

 

 アマテラスがリリスの名前を叫ぶように呼ぶ。すると、アマテラスの一歩手前に星界の門が現れる。輝き溢れるその光の先から、まず出て来たのはオボロだった。

 

「人が光の中から出て来たぞ…!?」

 

「よ、妖術か…!?」

 

 驚きに満ちていく部族の者達を気にせずに、オボロはアマテラスへと面と向かう。

 

「アマテラス様。部族兵の方々は全員、目を覚ましています。星界に居たからか、傷も順調に快復へと進んだおかげで、すっかり元気になってますよ」

 

「そうですか……良かった。それでは、彼らをこちらへと連れて来てください、リリスさん」

 

 安堵に気が緩み、一瞬だけ緊張感の抜けた顔になるが、すぐに引き締めてリリスに頼むアマテラス。すると、光の中から星界に匿っていた部族兵達が続々と姿を現した。

 

「おお…本当に村の中に出るとは……」

 

「あの小さい獣が言っていた事は本当だったのか…」

 

 彼らは、倒れた場所が黄泉の階段であり、目が覚めたのが星界の中だったが故に、光を潜った先が村であった事に驚愕していたらしかった。

 そして、仲間達が全員、元気で無事な姿を見せた事で、歓喜の声が方々で上がっていく。

 

「見ての通り、彼らは全員無事に、ここへお連れしました。これが私達に出来る、せめてもの償いです!」

 

 歓喜が湧き起こる中で、アマテラスは再び頭を下げた。更に、後ろで見守っていた仲間達も、アマテラス同様に頭を一斉に下げる。中には彼らも知る、白夜王国の王族であるヒノカ、タクミ、サクラ、そしてアクアの顔もあり、一国の王族が頭を下げているというこの状況に、風の部族達は驚きを禁じ得ないでいた。

 

 どよめく群集を前に、頭を下げたまま動かないアマテラス達。すると、その様子を見ていた、星界から出て来た部族兵の一人が、村の仲間達へと声を掛けた。

 

「おおよその事情は聞いている。皆の者! 彼らの言葉は真実である! 我らが敵と思い闘ったのはノスフェラトゥの姿をしていた。聞けば、それは暗夜の手の者による幻影だったそうだ。そして彼らもまた、敵の幻影に惑わされていた。我々は、互いにノスフェラトゥであると勘違いの末に闘ってしまったのだ! 故に、彼らだけに非がある訳ではない!」

 

 彼の言葉に、一緒に居た他の部族兵達も、頷いて見せる。情けは人の為ならず…とは言うが、奇しくもアマテラスの『部族兵を治療する』という判断は、当に正しき事だったのだ。それが巡り巡って、こうしてアマテラス達を助けようとしている。良い意味で因果応報、と言えるのかもしれない。

 

 そして、その者の言葉を聞き届け、今まで黙って見守っていたフウガが、広場の中心、つまりはアマテラスの前に出る。今度はフウガに、広場中の視線が集まった。

 

「聞いたか、皆の衆! この者らの罪は、我らも同罪である! ならばこそ、彼女らだけを罰するのはお門違いというものよ! そして何より、このフウガはこの者らの清廉さを身を以て知っておる! どうか、許してやってはくれぬだろうか!!」

 

 族長自らが、村の者達へ頭を下げて頼む姿に、場は静まり返る。彼らはそれを見て知ったのだ。アマテラス達が、族長に力を認めさせたのだという事を。フウガが力を試す性格であると、皆が承知している中で、そのフウガがアマテラス達を擁護しようとしている。それが何よりの証であった。

 

 しばらくの後、沈黙に支配されていた広場だったが、

 

「……お」

 

「……?」

 

 アマテラスの耳に、誰とも知れず漏れた言葉が入ってくる。それはやがて、

 

「「「おおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」

 

 大歓声へと変化した。蔑みや恨み、憎しみ、怨恨といった感情の一切混ざっていない歓声。つまり、アマテラス達の事を、風の部族は許し、そして受け入れたのだ。

 歓声に驚き頭を上げたアマテラス。周囲を見回して、唖然となり、呆然となって、愕然と、涙を浮かべた。真正面から、面と向かってぶつかれば、きっと信じてもらえると信じた結果が今、彼女の目の前に広がっていたから。

 

「う、うぅ……ありがとう、ございます……!!」

 

 涙と共に、再び頭を下げるアマテラス。こうして、風の部族との和解が、ここに成ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 和解が成立した後、アマテラス達はフウガにもてなされる事になった。もちろん、断る事も考えた。アマテラス達は遠征の旅の途中だ。急ぐ必要があるのに、呑気に宴会などしている場合ではない、と。

 しかし、せっかく互いに良い雰囲気になったのに、彼らの申し出を無碍にするのも心苦しいというもの。そこで、ヒノカやアクアの提案で、風の部族との友好を深める為、という名目を掲げる事で彼らのもてなしを受ける事になったのだ。

 

「皆さん、明日からはまた険しい旅が始まります。私達をもてなしてくれたフウガ様達への感謝を忘れず、明日に備えて今は英気を養って下さい! 今日だけは無礼講ですよ!!」

 

 アマテラスの音頭によって、宴会の会場である烈風城の大食堂が賑わい始める。そこかしこでドンチャン騒ぎが起こっていた。

 

 

「よっしゃー! 飲み比べやるぞ!!」

 

「いいね! やるからには負けないよ!!」

 

「ちょ、ちょっとねー。明日からまた遠征が始まるのに、二日酔いになんてなったら完璧じゃないよー」

 

 

 

 

「……カニ」

 

「む? カニがどうしたのだ、セツナ?」

 

「カゲロウ…。こんなに豪勢な料理なのに、カニが無い……食べたかった…」

 

「……そなた、料理人の前ではそれを決して言うてはならんぞ。もてなされる側であるというに、文句など口が裂けても言うべきでないからのう」

 

「分かった…………カニ…」

 

「お主、本当に分かっておるのか……!?」

 

「諦めが肝心とも言うのだ。諦めろ、オロチよ」

 

 

 

 

「スズカゼ……」

 

「な、何ですか兄さん…この山のような肉の量は…」

 

「肉は体を強くする優れた食料だが、忍びである俺達は、肉を口にする機会など少ないからな。またと無いこの機に、出来るだけ食っておくぞ。無論、お前もだ」

 

「これは……胃がもたれそうですね…。どなたか胃薬を持っていらっしゃると良いのですが……」

 

 

 

 

「タクミ様、サラダをお持ちしました」

 

「…アンタさ、さっきから何で野菜ばっかり僕に持ってくる訳?」

 

「それはもちろん、タクミ様は我が主君であるアマテラス様の弟君であらせられるので、ご健康に気を遣っての事でございますが」

 

「絶対に私怨が混ざってると思うんだけど。嫌なくらい緑系で苦いものばかりじゃないか」

 

「おや、これは失礼を。食事には色鮮やかさも大切で御座いましたね。では、こちらの赤い野菜を」

 

「これ唐辛子じゃないか! 絶対恨みあるだろ!!」

 

「ちょっとジョーカー! タクミ様に無礼を働くとは、良い度胸じゃないの!!」

 

「あ゛あ゛!? これのどこが無礼だコラ!? 魔王顔の女がいちいちケチ付けてんじゃねー!!」

 

「い、言ったわね…! この不良執事!! アンタこそ、怒った時なんて悪鬼のような顔でしょうが!!」

 

「喧嘩売ってんのか、テメェ!?」

 

「それはこっちの台詞よ!!」

 

「ちょ!? 2人共顔がすごい事になってるよ! ああ、僕らの席からだけ人が離れていく……!! どうしてこうなった!?」

 

 

 

 

「あっはっは」

 

「くっ…! おのれ、破戒僧め…!!」

 

「面白いですねぇ。確かリンカさん、明日の朝までは動けないんでしたか? なんともったいない事か。せっかくの料理を前に、自由に食べる事も出来ないなんて」

 

「ぬうぅぅうう!!! おい! もっと飯を口に運べ!!」

 

「あ、あたい…なんでこんな給仕係みたいな事させられとるんやろか……?」

 

 

 

 

「あたし、ユウギリ様に聞きたい事があったんです!」

 

「あら? 何でしょう…?」

 

「ユウギリ様は敵と闘っていて、どんな時に愉しいと感じますか?」

 

「それはもちろん、死の直前にあげる断末魔ですわね。他には、敵を切り裂いて血が宙を舞った時や、死に物狂いで向かって来る敵との闘いなど、普段では味わえない快感を得られますわ」

 

「そうなんですね! あたしは、敵と刃を交えている瞬間でしょうか? 相手との実力が拮抗すればするほど、長く楽しめるので最高ですよ!」

 

「なるほど……。これは鍛え甲斐がありそうな弟子を取ったものです。やっぱり、あなたには天性の才能がありますね、エマさん」

 

「ほ、ホントですか!? やったー!!」

 

「お、お前達はなんて物騒な話題で盛り上がるんだ…。暗夜の戦闘好きな奴でも、そんな輩は居なかったぞ…。白夜では、これが普通なのか……?」

 

 

 

 

「ふわぁ…独特な味ですが、どれもとっても美味しいですぅ!」

 

「はいっ。素朴な味の中に隠された、少し変わった旨味が口に広がるようです…!」

 

「私はなんだか、懐かしい気分になります。昔、まだ白夜王国に居た頃……スサノオ兄さんと一緒に、お父様とこの味を食べた事があるような気がします」

 

「そう……いつかまた、スサノオも一緒に食事が出来ると良いわね」

 

「アクアさん……。ええ…いつか、きっと……」

 

 

 

 

 

 

 皆が皆、騒がしく、または和やかに楽しむ中、1人食堂の外へと出て風に当たっている者が居た。その人物とは、

 

「……もう夜か。道理で少し冷え込む訳だ」

 

 少し肌寒そうに腕を組むヒノカだった。彼女が仲間達の輪に入らず、一人でここに来たのには理由がある。その理由というのが、フウガに呼び出されたからだ。()()()()()()()()

 

 砂漠を渡る時に纏った外套を軽く羽織るヒノカ。そのまましばらく待っていると、フウガがようやく現れる。

 

「すまぬ、少しばかり待たせてしまったな」

 

「いいえ。少し風に当たりたい気分でしたので、むしろ助かりました」

 

「……妹の成長を目にして、何か思うところでもあったのか?」

 

「………、」

 

 フウガの問い掛けに、ヒノカは黙って頷き、眼下へと目を向ける。民家に明かりがポツポツと灯っており、まるで星のように煌めいていた。

 

「私の知らない間に……暗夜で過ごしていた間に、あの子は強く育っていたのだと思うと…、成長は姉として嬉しい反面、寂しさも感じてしまうのです……」

 

「…そうか」

 

 姉として、妹の成長は嬉しいものだ。だが、それは自分の手の届かない所での事。それがどうしても、悲しい。寂しい。そして悔しい。家族として、アマテラスの側で共に過ごし、その成長を見守る事が出来なかった事が。どうしようもなく、哀しかった。

 

「ですが、これからはずっと、あの子と共に歩んでいく。もう、絶対に手放したりはしない」

 

「ふっ…それでこそ、白夜の第一王女よ…。お主のその気丈さ、亡きイコナ王妃によく似ている……」

 

 懐かしむように、柔らかな笑みを浮かべて空を見上げるフウガ。釣られて空を見上げたヒノカの視界に、いっぱいに広がる星空があった。

 

「イコナ母様…ですか?」

 

「うむ。女性としての強さを、お主はイコナから受け継いでいる。そして、彼女の燃えるように美しかった朱い髪の色も……。ヒノカ王女よ、少し聞きたい事があるのだ」

 

「ええ。何でしょうか?」

 

「お主は、母の事を覚えているか?」

 

 質問の意図は分からないが、ヒノカはその問いに正直に答えた。

 

「母様は、私がまだ幼き頃に亡くなられたので、思い出はそれほどたくさんではありません。ですが、私は母様の暖かい体温を、慈愛に満ちた声を、柔らかな眼差しをずっと忘れる事は無いでしょう」

 

「……そう、か。うむ……」

 

 ヒノカの答えを聞いたフウガは、少し黙り込んでしまう。遠くを見つめるように星空を見上げるフウガ。やがて、その口を開き、語り始める。

 

「ヒノカ王女よ……実は気になる事があったのだ。少し前に、旅の者から聞いた事なのだが───

 

 

 

 

 

 イコナ王妃によく似た女性を、ミューズ公国で見た……と」

 

 




 
「キヌの『コンコン! お狐通信』~!」

※ここからは台本形式でお送りします。

キヌ「ん~! 仲直り出来たねー!」

カムイ「一時はどうなるかと思ったけど、和解が成立して良かったよ!」

マトイ「流石はアマテラスさんね。当に完璧な結果だわ」

キヌ「マトイだ! 今日はマトイが遊びに来たの?」

マトイ「遊びじゃなくてゲストね」

カムイ「今日のゲストはマトイなんだね」

マトイ「ええ。それじゃ、早速お題を読み上げましょうか。『イズモ公国までの間の小休止について』よ」

キヌ「ああ、そういえば今回、色んな人達がお喋りしあってたよね」

カムイ「うん。でもあれは支援会話にあんまり関係ないよ。ちゃんとしたお話を、幕間として挟む予定だよ」

マトイ「ちなみに、宴会での会話は、意図的に誰が何を言っているかを説明する地の文を書いていないの」

キヌ「ちゃんと読んでれば、どれが誰の台詞かも分かるからね。分からない人は、ゲームやこの物語で、登場人物の口調や設定を見直しみてね」

カムイ「それにしても、仲間が多いと賑やかだよね!」

マトイ「その分、まとまりが無いと大変な事になるのよね……完璧に統率するのは骨が折れそうだわ」

キヌ「いいじゃーん! たくさん友達が居ると楽しいよ!!」

マトイ「キヌのそういうところ、少し羨ましいわね……まあ、少しだけど」

カムイ「あはは。キヌは前向きなところが魅力的なんだよ」

キヌ「え? アタシ、魅力的? でしょー!? 今日は尻尾の毛艶も良いしね!」

マトイ「こういう天然なところに、男の人はグッと来るのかしらね……?」

カムイ「まあ、人それぞれ好みがあるから、一概には言えないよ」

キヌ「??」

マトイ「分かってないって顔ね。キヌもお年頃の女の子だし、私がお勉強を教えてあげる」

ここから、マトイによる恋愛講座が始まったので、収録は中断します。

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