ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第46話 業炎修羅

 

 実力差の歴然としたフウガを相手に、アマテラスとリンカは手詰まりになりかけていた。

 

「どうします…単純に2人で突撃するだけでは、フウガ様に簡単にいなされてしまいますよ」

 

「……そうだな」

 

 アマテラスの考えに、リンカは少しの沈黙の後に答える。何か考え事でもしていたかのような、リンカのその素振りをアマテラスは疑問に感じた。

 

「もしかして……、リンカさん。何か策があるんですか?」

 

「…何故そう思う?」

 

「勘…ですかね? なんとなく、リンカさんの顔を見て、そう感じました」

 

 視界からフウガの姿は逃さずに、意識を少しだけ互いに向け合うアマテラスとリンカ。付き合いはまだ短い2人ではあったが、それなりにその人となりをお互い理解していた。その理由は語るまでもなく、

 

「ふん。あたしとお前は一度闘った仲…か。分かってるなら話は早い」

 

 そう言うと、リンカは口早に、アマテラスへとその策というものを話し始める。

 

「あたし…正確には、炎の部族には古くより受け継がれし秘伝の術がある」

 

「秘伝の術…?」

 

「あたしら炎の部族は、一般人と比べて体温が高く、温度の変化にも強い。そして同時に、力を操る事にも長けている。それらの応用で、炎の部族の者は熱量や筋力を操作し、一時的に身体能力を強制的に底上げする事が出来る……という術さ。肉体は運動する事で熱が発生するが、人間の体ってのは高すぎる熱には耐えきれない。だが、あたしらは例外的に耐えきれるからな」

 

 それが本当なら、一時的にでもあのフウガに迫る力を手にする事が可能となる。それはアマテラスにとって、勝機とも成り得るのだ。しかし、

 

「ただし、当然ながら限界はある。保って5分。それを過ぎれば、あたしの体は高すぎる熱の過負荷によって、しばらく身動きが取れなくなる。それこそ、指先一つすら動かせない程にな」

 

 つまりは、リスク有りきの賭けにも近い策という事。もちろん、その5分の間にフウガを倒し切れなければ、アマテラスとリンカの敗北は確定事項となる。残されたアマテラス1人で、かの白夜王と同等の力を持つフウガに勝てる筈もないからだ。

 

「……」

 

 そして、そのフウガはと言えば、薙刀を手に不敵な笑みを浮かべて、アマテラス達を静かに見つめていた。その目が語っているのだ。いくらでも待ってやるから、全力を以てぶつかって来い、と。

 こちらが策を講じる事を承知の上で、受けて立つと態度で示しているのだ。

 

「あたしにはもう、フウガに勝つにはこれしか思い付かない。だからアマテラス。やるからには覚悟を決めろ。この5分間で全てを出し切れ! あたしも今持てる全力で、お前と共に闘ってやる!!」

 

「リンカさん……」

 

 リンカの力強い言葉を受けて、少し考えた後にアマテラスは心を決めた。どちらにせよ、このまま闘っていても勝ち目が無いのなら、賭けに出るしかない。それによって勝つ確率が少しでも見えるのなら、喜んで賭けに打って出ようではないか。

 

「やりましょう。私も出せる力の全てをぶつけます。2人でフウガ様という高き壁を越えるんです!!」

 

「フッ…。善い返事だ!」

 

 2人は同時に、それぞれ全力の戦闘態勢へと移行の構えを取る。

 アマテラスは顔に手を翳し、竜の頭へと仮面を被るかのように変化させる。頭を含めた半竜化は、腕や脚のみの竜化だけよりも効率が遥かに上がるからだ。その分、体に掛かる負担は増すので、同じく長時間はこの状態では居られない。人型を留めての半竜化は、心身共に激しく消耗するのだ。

 しかし、かといって、完全な竜化では体が大きくなり細かな動きが取れず、敵の攻撃を受ける面積も増加する。よって、完全な竜化はノスフェラトゥのような大きな相手と闘う時など以外では扱いが難しいのである。

 

 そしてその隣では、顔の前で腕をクロスさせるように組んで、全身の筋肉に意識を集中するリンカ。徐々に彼女の体から、熱気が上がり始め、肌も少しだが赤みを帯びていく。

 

「我が魂の奔流、この身に示そう! 『業炎修羅』!!」

 

 組んでいた腕を外側へと振り切り、大きな叫びと共に術の名を口にするリンカ。体からは目に見える程の熱気が放たれ、肌には燃え盛る炎のような紋様が浮かび上がっている。もし今の彼女に触れようものなら、火傷してしまいそうなくらいの熱さだ。

 

 2人の変化した姿を前にして、フウガは、

 

「良かろう! それが全力であるならば、とくと見せてみよ!!」

 

 闘争を愉しまんとする武人の笑みを以て、堂々と待ち受けていた。

 

「見せてやるよ! 炎の部族の真髄を!!」

 

 グッと脚に力を込めるかのように屈み込んだリンカ。刹那、限界まで引き絞った弓から撃ち出された矢の如く、猛スピードでフウガへと小さく飛躍しながら突進する。

 リンカの電光石火の動きに、フウガの顔から笑みが消える。真剣そのものの顔付きで、真正面からリンカを迎え撃とうと言うのだ。フウガにしてみれば、リンカの秘策がどれほどのものか、武人として確かめてみたくなっただけであったが、

 

「ぬう…!?」

 

 直線で飛来したリンカの一撃は、思いの外、重く強いものだった。弾丸のように突進したが故に、リンカは武器を振りかぶらず、拳をフウガへと向けた訳だが、それを受け止めたフウガの手の平に、鈍く痺れが走る。今なら、力比べでリンカが勝るであろう事を悟ったフウガは、直線的すぎるその拳撃を、力を後ろへと逃がすように受け流す。

 

「ふん!」

 

 受け流し、リンカの背が自身の目の前に来た所で肘打ちを落とそうとするフウガだったが、

 

「させません!」

 

 リンカを追って、竜の力で爆発的なスタートダッシュを切ったアマテラス。ギリギリで届かなかった彼女は、水の飛沫を手から撃ち出す事で、フウガとリンカの間に水のクッションを作り出した。

 それにより、肘打ちは威力を殺され、すかさずリンカが受け流された体勢から逆にフウガの背へと肘打ちを打ち込んだ。

 

「ぐはぁ!?」

 

 増強されたリンカの一撃で、フウガは意図せず怯んでしまい、更に追い打ちとばかりに、追い付いたアマテラスが前のめりに傾いたフウガの胸部へと蹴りを叩き込んだ。

 

「まだまだぁ!」

 

 隙を逃さんと、リンカは金棒を左手に追撃を仕掛けるが、

 

「フン!」

 

 よろめきながらも、リンカの腕が振り切られる前にフウガの掌底が再度リンカの腹へと打ち込まれる。それにより、少しばかり吹き飛ばされるリンカだったが、今度は先程と違って掌底を打ったフウガ本人にも、予想外のダメージがあった。

 

「アツッ……!?」

 

 拳には熱湯にでも触れたかのような痛みが走り、思わず顔をしかめるフウガ。そこに再びアマテラスが攻撃を仕掛ける。夜刀神を裏向けて、峰打ちの形で振り下ろすアマテラスに、フウガは痛む手を堪えて両手で持った薙刀で受け止める。

 

「くっ…!」

 

 リンカと同じく、先程よりも力の増したアマテラス。手の痛みもあってか、夜刀神をなかなか押しのける事が出来ないフウガは、痛みを無視して腕力を引き出した。

 

「カアッ!!!!」

 

「きゃ!!?」

 

 万全では無いにも関わらず、アマテラスを強引に押し飛ばしたフウガ。その手からポタポタと、赤く血が滲み、薙刀を伝って滴り落ちている。

 

「フフフ……、良いぞ! 力と力のぶつかり合い、全力同士が闘い合う……それでこそ、闘いというものよ! ああ、思い出す…スメラギと共に競い合った日々を……! 久方ぶりに愉しいぞ、アマテラス、そしてリンカよ!!」

 

 もはや、試練を与える者としてではなく、一人の武人として、挑戦者との闘いを愉しんでいるフウガ。長らく、ここまで愉しいと感じた事が無かった彼は、この闘いに歓喜していた。武人としては、苦戦してこその闘いだ。ただ一方的に蹂躙するのではなく、力の拮抗する相手との競合程愉しいものはない。

 亡き親友、スメラギ以来の善戦ぶりを見せるアマテラスとリンカに、フウガは笑みを堪えきれずにいたのだ。風の部族の長として、戦士として、何より一人の男として、強者との闘いに愉しさを感じていた。

 

「せいぜい楽しめ! 行くぞ、アマテラス!!」

 

「合わせて行きますよ、リンカさん!!」

 

 笑うフウガを前に、アマテラスとリンカも怯まない。何故なら、あれが余裕からくる笑みではなく、闘いを愉しむ笑みであると、闘いを通して感じ取っていたから。

 自分達が闘うに足る相手であると認められているからこそ、臆してなんかいられない。

 

 アマテラス達は、2人同時にフウガへと走り出す。左右から挟むように回り込むと、アマテラスが上段に夜刀神を横払いに振り、リンカが下段へ向けて金棒を凪ぐように振るう。

 フウガはそれらの別々の方向、タイミングで襲い来る攻撃に対し、軽く跳びつつ、先に来たアマテラスの攻撃を薙刀で打ち上げ、リンカの金棒を踵落としで打ち落とす。

 

「まだです!」

 

 右手は打ち上げられたままに、アマテラスは左手から水弾を撃ち出す。着地したばかりのフウガは避ける事が出来ず、水弾は諸に胴へと直撃した。少し強めの衝撃を受け、フウガの体が軽く後ろに仰け反ったところへ、リンカがもう片方の手で持った鎚を突き出す形でフウガの背へと打ち込んだ。

 

「グフッ!?」

 

「せやあぁぁぁ!!!」

 

 リンカの突き出しにより、フウガはアマテラスの方へと押し出される。そしてその正面から、アマテラスが夜刀神の峰打ちを連撃で叩き込んでいく。

 

「グウゥゥ、ハァ!!!」

 

 しかし、連撃を受けて尚、フウガは強引にアマテラスを蹴り飛ばし、後ろから迫るリンカへと見ずに裏拳を繰り出した。

 

「ッ!」

 

 顔面へと迫る拳を寸前でかわしたリンカだったが、裏拳を繰り出した勢いでそのままフウガは回し蹴りを放つ。避けきれないと判断を下したリンカは鎚を前に差し出し、蹴りをガードする。だが、ガードは成功するも、それによって鎚が蹴り飛ばされ、離れた位置に落下してしまった。

 

「チィッ!!」

 

 蹴りの反動で、リンカは少し後方へと引くが、すぐに金棒を握り締めて高く跳び上がる。フウガの頭上高くまでジャンプしたリンカは、両手に金棒を持ち、全力で真下へと振り下ろした。

 

「隙が多いぞ!」

 

 しかし、大振りの攻撃程避けやすい。フウガは後方へと跳んで下がると、リンカの金棒が屋上の床に穴を開けるのではないかと思えるくらい、けたたましい破壊音を上げて地面を割った。

 

「くそっ……、!!」

 

 その直後、リンカの体から煙のような湯気が出始める。そろそろ活動限界が近付いている証である。肌に浮かび上がっていた炎のような紋様も、徐々にだが薄くなり始めていた。

 

「もう半分の時間も無いか…。さっさと決めないと拙いな……!!」

 

 勢いよく金棒を引き抜くリンカ。見据える先では、既にアマテラスがフウガに向かい、再三に渡る突撃を開始していた。

 

「……ッ!!」

 

 刀と薙刀を打ち合う最中、アマテラスは視界の端にリンカの姿を捉えていた。もちろん、その身に起きている変化にも。

 活動限界が5分と聞いていた事もあり、それがその予兆であると判断したアマテラスだったが、気付かない間にもうそれほどの時間が経っていた事に驚きつつも、攻撃の手は決して緩めない。

 手負いであるというのに、フウガはまるで武器を振るう腕に鈍りを見せない。一分の気の緩みも許されない攻防。しかし、それだけでは勝てはしない。

 フウガの強さに迫ったと言えど、()()()()()()()()()()()()のだ。まだまだ未熟故に、アマテラスとリンカは力を合わせなければ、全力を解放したとてフウガには未だ及ばない。

 

 そして、それを分かっているからこそ、リンカもまたアマテラスの加勢へと急ぎ駆けた。

 

「うおぉぉぉぉ!!!!!」

 

 残り少ないリミットに、リンカは死力を尽くして武器を振るう。もはや休む暇など全く無いのだ。

 アマテラスと並び、隙無く攻撃を加え続けるリンカ。フウガは防戦一方となり、ついに、

 

「!!」

 

 夜刀神を押し返した直後、横合いからの金棒の一撃により薙刀をへし折られてしまう。

 

「トドメ…!!」

 

 好機とばかりに、リンカは振り切った右手とは逆の、何も持たない左手でフウガの顎目掛けてアッパーを放とうとする。

 

「! リンカさん!!」

 

 弾かれたばかりですぐに動けないアマテラスの叫び。それは、

 

「甘い!!」

 

 逆に、リンカがフウガの拳をその身に喰らってしまったからだった。

 薙刀の柄が折れたとほぼ同時、折れたそれらを投げ捨てたフウガは、自由になった左手でリンカの拳を掴み取り、右手で正拳突きを放った。リンカは決着を焦ったがために、対応されるとは思いもしなかったのだ。

 

「がはっ…!?」

 

 そして、投げ飛ばすようにリンカを拳のままで押し出すフウガ。その瞬間、飛ばされたリンカの体から煙が吹き上がる。見えていた紋様もゆっくりと消え去って行き、とうとう時間切れとなったのだ。

 

「くっ…!」

 

 当然、残されたアマテラスは一人きりで闘わなくてはならない。ただ、それは勝ち目の無い闘いではあるが、分かっていても諦める訳にはいかない。諦めれば、これまでの事が無駄となってしまう。それでは、秘伝の術まで出してくれたリンカに申し訳が立たないのだから。

 

 アマテラスは再び夜刀神を構える。既にフウガは腰に差した最後の得物、刀を手にしていた。

 アマテラスは体力、精神共に、リンカと同じく限界が近付いてきている事を感じており、おそらく次の一撃が最後の攻撃となる。それ以降の攻撃は、フウガに届く事もなく、簡単に捌かれてしまうだろう。

 

 自然と、全てを懸けた一撃を放つ為の構えへとなるアマテラス。それが分かってか、フウガも同じく一撃必殺を繰り出さんと、居合いの構えを取る。

 

 そして、

 

「……!!!」

 

「!!」

 

 どちらからともなく、相手に向かって駆け出した。全身全霊を乗せた一撃と共に、獲物へと目掛けて一直線に。

 抜き出された刀と、夜刀神が今、ぶつかる───。

 

 

 

 

 キィン!!

 

 

 

 耳鳴りのような金属音を響かせ、無言のままに互いに刀を掲げて立ち尽くす2人。

 

「…………、」

 

 風の吹く音のみが耳に届く中、その勝敗がはっきりと現れていた。

 夜刀神を手にするアマテラス。そして、折れた刀を手にしたフウガ。

 

「……ふ」

 

 己へと向けられた夜刀神と、折れた刀を交互に見つめるフウガ。やがてその視線は、隣へと向かっていく。そこには、

 

「見事……。アマテラス、そしてリンカよ。この闘い…お主らの勝利だ」

 

 リンカの持っていた金棒が転がっていた。

 

 

 

 

 つまるところ、夜刀神と刀がぶつかる瞬間に響いた金属音は、二振りの刀から発せられたものでは無かった。ぶつかる寸前、肉体活性が完全に終わる前に、最後の援護としてリンカの投擲した金棒が、フウガの刀を叩き折ったのだ。

 走るフウガの刀が抜かれる位置と、アマテラスの夜刀神が振り切られる位置を、咄嗟ではあったが予測しての投擲は、見事に功を奏したのだ。

 

「ふっ……あたし達の…勝ち……だ…」

 

 そして、アマテラスが夜刀神をフウガに突き付けるのを見届けたリンカは、勝ち誇った笑みを浮かべて、死んだように眠りに落ちたのだった。

 




 
「キヌの『コンコン! お狐通信』~!!」

※ここからは台本形式でお送りします。

キヌ「うーん…」

カムイ「どうしたの? 珍しく悩んだ顔してるけど…」

キヌ「この前さ、『このコーナー、要らなくね?』みたいなこめんとが届いたんだよね」

カムイ「あ~……、そういえば、そうだったね」

キヌ「改めて言っておくけど、このこーなーはオマケみたいなものだから、別に無理して読まなくてもいいからね?」

カムイ「うん…内容のほとんどが、原作知ってないと分からないものとかだしね」

キヌ「だから、本編を読み終えたら、要らないって人は、このこーなーを飛ばして次のお話に行ってくれてもいいからねー!」

カムイ「あくまでオマケだからね。読む人は読んで、読まない人はスルーしてくれても問題ないよ!」

キヌ「元はと言えば、作者さんが『本編終わってハイ次の話……じゃあ、何か寂しい。よし! あとがきの所にコーナー作ろう!』ってノリで書き始めたものだからね」

カムイ「さて、その話題は置いといて、それじゃあ本題に入るよ」

キヌ「今回は短めでいくよ! ズバリ、あんけーとの事だよ!」

カムイ「何人かの人がもうお答えしてくれてるけど、期限は白夜編、暗夜編が両方50話を突破した記念アンケートまでだからね」

キヌ「まあ、本格的なあんけーとはその時なんだけどね~」

カムイ「記念アンケートまではしばらく掛かるから、賛成派の人で『自分の考えたオリジナル兵種を出して欲しい』って人は、それまでの間は案を練ってみてね」

キヌ「届いた案は出来るだけ全部出せるように頑張るからね!」

キヌ&カムイ「それでは次回も、よろしくお願いしまーす!!」

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