ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第45話 猛き風、奮う炎、勇みし竜の御子

 

 フウガは刀を構えて、アマテラスへと対峙する。両の手で固く刀を握ったその立ち振る舞いには、まるで隙が見られない。その姿こそが、フウガが歴戦の戦士である事を何よりも如実に示していた。

 いや、姿だけでは収まらない。その背には、紐で括りつけられた薙刀が背負われ、刀の鞘の提げられた腰の反対側には、鉄製で大振りの鎚が提げられている。見ただけで確認出来た3種の得物は、フウガがそれらを使いこなしているという証拠。様々な武芸を身に付けた戦士程、恐ろしい敵は居ない。あらゆる闘いにおいて、相手や武器に合わせた戦闘スタイルの確立は、敵対者にとって不利を強いる。それが何を意味するかは、戦闘経験者なら説明しなくても分かるだろう。

 

 そして、幼い頃からスサノオと共に、マークスに鍛えられたアマテラスはそれを理解していた。今は刀を構えているフウガだが、一度(ひとたび)薙刀へと持ち替えられたら、リーチの差によってアマテラスは一気に不利となる。射程の短い刀である夜刀神では、フウガに刃が届く前にアマテラスが一閃されてしまうだろう。

 

「おい、フウガ」

 

 と、アマテラスが攻め倦ねていると、横合いからリンカが口を挟んだ。見ると、その手にはリンカ愛用の金棒が握り締められている。

 

「何用だ、リンカ?」

 

 フウガは突然の声掛けだったものの、構えは崩さず、視線だけをリンカに向けて問い返す。その間も、一切の隙をアマテラスは見出せないでいた。

 そして、リンカは持った金棒をフウガへと向けて言葉を続ける。

 

「アンタは前白夜王の親友であり、戦友だった。なら、その実力もそれ相応のものだろう。そんな奴を、つい最近まで実戦経験の無かったヒヨッコが相手取るには些か手厳しすぎやしないか?」

 

「……、何が言いたいのだ?」

 

「リンカさん……?」

 

 フウガの疑問は、アマテラスのものと同じだ。リンカが何を言いたいのか、何を言おうとしているのか、アマテラスには分からない。しかし、アマテラスとフウガでは、その疑問の捉え方が違っていた。

 アマテラスはリンカの言いたい事が分からなかった。だが、フウガは()()()()()()()()、リンカに言葉として疑問を投げ返した。この2人の疑問の違いは明確である。単純に分からないアマテラスと、分かっているが、そこからどうするのかを問い返すフウガ。明らかに、意味合いの異なる『疑問』だったのだ。

 

 リンカの言いたかった事、それはつまり、

 

「玄人が素人を潰すだけじゃ、意味が無いのさ。あたしは夜刀神の使い手として相応しいかどうか、アマテラスの心を見極めたいんだ。まあ、何が言いたかったかと言えば、あたしとアマテラス。2人でアンタを打ち負かしてやろうじゃないか」

 

 そうだ。彼女の言いたかった事、それはアマテラスとフウガの深すぎる実力差。それを埋めるためのハンデを寄越せという事だった。

 

「でも、リンカさん。これは私への試練で……」

 

 流石に想定外だったリンカの申し出に、アマテラスは困ったように断ろうとしたが、それはフウガによって遮られる。

 

「良いだろう。力を示せとは言ったが、何も個の力だけが力の全てではないのもまた事実。救世主ならば、それこそ他者の力も借り、個に囚われすぎてはならんからな」

 

「ふっ…。話が分かるじゃないか、風の部族族長よ」

 

 フウガの答えに、リンカは満足そうに笑みを浮かべると、戦闘の構えに入る。フウガも、相手が2人に増えたというのに、余裕の笑みを浮かべていた。

 

「暗夜風に言えば、ハンデ…だったか? ちょうど良いだろう。ただし、加勢はリンカのみとする。無駄に増やしたところで、それではアマテラスの力を測る事が出来ぬのでな」

 

「という事だ。残念だったな、そこの従者野郎」

 

 振り返り、後ろに声を掛けるリンカ。そこでは、暗器に手を掛け、今にもこちらに駆け出しそうなジョーカーの姿が。

 

「ちっ…! リンカとか言ったな。アマテラス様にもしもの事があれば、ただじゃおかないからな」

 

「フン。それはアマテラス次第だろうさ」

 

 納得しかねるといったジョーカーだったが、ここは大人しく引き下がる。従者である自分が、主の顔に泥を塗る訳にもいかないからだ。今なお息を整えているフェリシアを除いた他の者達は、静かに傍観に徹していた。これは、アマテラスにとっての闘いであり、試練である。故に、隊の長として、夜刀神の所有者としてアマテラスを見極めるというフウガとの決闘を、見守る事にしたのである。

 

「さて、そろそろ良いか? いつでも掛かってくるがいい」

 

 再び、闘気鋭く、戦意に満ち満ちて顔を引き締めるフウガに、アマテラスとリンカは固唾を飲んで各々の武器を握り直す。

 相手はかの白夜王スメラギと並び闘った歴戦の猛者。未熟以前の問題として、生半可な覚悟では、通用しないであろう事は明らかだ。それを、アマテラスはなんとなくではあるが、肌で感じ取っていた。ピリピリと空気の痺れるような錯覚。何度か感じた事のあるそれ。そう、マークスとの訓練の折に、時折発していたマークスの殺気、闘志といった、幾度の戦闘や死線を駆け抜けてきた者の放つオーラ。

 フウガにも、それに負けず劣らずのものをアマテラスは感じていたのだ。

 

「気を抜くなよアマテラス。一瞬たりとも、奴から意識を反らすな。油断すれば、それで終わる。あの男はそれほど強い戦士だ」

 

 こと闘いにおいて熱くなりやすいリンカが言うのだから、到底無視など出来ない忠告だ。その重大さを、アマテラスは理解する。

 

「分かりました…が、隙が無さすぎてどう攻めるべきか……」

 

「そうだな…、あたしがひとまず奴の注目を集める。お前は少しでも隙を見つければ、迷わず突っ込め。いいな、行くぞ!!」

 

 言うだけ言うと、リンカはアマテラスに了承も得ずにフウガへと向けて駆け出した。

 

「ああ、リンカさん! もう、熱くなりやすい人なんですから……」

 

 駆け出したリンカを止める事は叶わず、アマテラスは仕方ないと半ば諦め気味で様子見に回る。何故なら、リンカの戦略も理に適っているのもまた事実だったからだ。このリンカの案が吉と出るか凶と出るか、オロチがこの場に居たなら占いの結果は分かったかもしれない。しかし、彼女は今ここに居ないし、そもそもこれは戦闘だ。結果を知るのは、これから闘うアマテラスとリンカ、そしてフウガのみ。

 

 

 

 フウガはリンカの突進を見越していた。故に、驚きはほぼ無いに等しい。熱くなりやすいリンカをある程度知っていたという事もあるが、先程までのやりとりから、アマテラスが考えなしに突出してくるとも考えられない。更に、アマテラスはまだ隙を窺っているのが、フウガには見て取れていた。

 そして、この状況におけるアマテラス達の取れる行動も───。

 

「行くぞ! 炎の部族の力、見るがいい!!」

 

 リンカの勢いのある走り込みからの、金棒のよる横殴りを、フウガは刀を右手で持ち、腰に提げた鎚を左手で取って受け止める。金属と金属、金棒と鎚が火花を散らし、耳が痛くなる程の騒音を上げてぶつかり合う。

 

「ぐくくっ……!!」

 

「………、」

 

 何度かの打ち付け合いの後、金棒と鎚が鍔迫り合いの形になる。リンカとフウガによる力比べとなった訳だが、パワータイプであるはずのリンカだが、まるでフウガの鎚を押し返せない。()()()フウガを相手に、だ。見た目通りの怪力の持ち主である事は分かったが、両手のリンカですら互角に持っていくのがやっとで、力量差は歴然。

 

「むん!」

 

「なっ!?」

 

 場が動く。フウガがわざと力を抜いて、リンカは突然バランスを崩され、前のめりへとなってしまう。そこにすかさず、右手に持った刀の柄の(かしら)でリンカの背に一撃を打ち込む。

 

「ぐあっ!?」

 

 床へと叩きつけられたリンカ。気を失いはしないが、ダメージがそれなりに大きく、すぐには起き上がれそうもない。それを確認したフウガは、すぐに顔を上に上げ、

 

「せやあぁぁぁぁ!!!!」

 

「何!?」

 

 その瞬間、既にすぐ目前までアマテラスが夜刀神を掲げて迫っていた。

 歴戦の勇士であるフウガも、流石にそのスピードには驚きを禁じ得ない。フウガは咄嗟に刀を振るい、アマテラスの夜刀神を受け止めると、鎚を前に突き出してアマテラスを押し出そうとするが、

 

「ぐっ……も、貰いましたよ!」

 

 突き飛ばそうとしたはずのアマテラスは、後ろには吹き飛ばされず、どういう訳か鎚にピッタリと張り付いているかのように離れない。そのままアマテラスは夜刀神を、鎚を持つフウガの左手に裏返して叩き付けた。

 

「ぬぅ…!?」

 

 たまらずフウガは鎚を手放し、即座にアマテラスから距離を取る。十分に距離を取ったところで、左手の具合を確認して問題ないと分かると、アマテラスへと視線を戻す。

 アマテラスの腹には、未だフウガの鎚が張り付いていた。よく見れば、鎚が触れている腹の辺りに透明な何かが。そこは膜のようなものに覆われているようで、アマテラスが腹に張り付いた鎚を放す時にも、それは確認出来た。

 

「あれで衝撃を吸収したのか…?」

 

 そのフウガの推測は正しい。アマテラスは竜の力で生み出した水を腹へ膜状に張って、鎚による衝撃を和らげたのだ。それだけではなく、粘着性を持たせた事によって鎚を奪い、フウガにもダメージを与える事に成功した。アマテラスも咄嗟の判断だったが、上手くいったと安心し、リンカを助け起こす。

 

「チィ…またお前に助けられたか。…礼は言っておく。助かった」

 

「仲間なんですから、当然の事をしたまでですよ」

 

 金棒を握り直して、リンカが立ち上がったのを確認すると、アマテラスは再び魔力を手足へとたぎらせる。先程のフウガへの急速接近も、魔力を用いた爆速ダッシュだった。そうだ、アマテラスには実戦経験が足りていない。しかし、魔力を応用した戦闘スタイルの確立、その訓練を幼い頃から続けてきているのもアマテラスの内に蓄積された経験値である事に違いない。力や技術で及ばないのなら、他で工夫して闘えば良いのだ。

 

「鎚は奪えました。残るは刀と薙刀ですが……」

 

 フウガの右手には、未だ刀が残っている。しかし、

 

「いくらフウガと言えど、刀と薙刀をそれぞれ別々に片手で扱えるとは思えない。奴の武器の切り替えには注意が必要だな」

 

 リンカの視線の先では、フウガが薙刀を手に掛けているところだった。そして、リンカの予想通り、刀は腰へと直されている。

 

「魔力のブーストだけでは足りない…、竜の力も使わないと、フウガ様には届かない……!」

 

 アマテラスはリンカへと、先程フウガから奪った鎚を手渡すと、自身は夜刀神を持っていない左手、そして両足を竜化させる。竜化した左手と両足は魔力と竜の力が合わさって、力が増幅されていく。

 

「なんと……!? まさか、夜刀神に選ばれたのみならず、竜の力をその身に宿すのか……!!」

 

 半竜化したアマテラスの姿に、フウガは驚愕する。アマテラスの倍以上の人生を送ってきたフウガだが、そのフウガをして竜の力を持った人間を見たのはこれが初めてだった。

 

「くはは! なるほど、先程の鎚はそれで防いだのか。これはますます、お主の力を試さねばならぬというもの! どれ、少しばかり本気で行くぞ!!」

 

 驚愕から一変、豪快な笑い声を上げたフウガは、薙刀を手に突撃した。当然、アマテラスとリンカも身構え、フウガの薙刀による横凪ぎを2人で同時に受け止める。

 

「!!」

 

「何ぃ!?」

 

 2人で防いだにも関わらず、フウガの一撃を完全には止めきれない。2人は押し出される形で後方へと飛ぶと、地面を擦るように着地し、今度はこちらから仕掛ける。すぐにフウガへと向けて走り出すアマテラスとリンカだったが、アマテラスは魔力と竜化のブーストによって、先にフウガの元へとたどり着き、夜刀神を斜め下へと向けて勢いよく振り下ろした。

 

「甘い!」

 

 しかし、やはりと言うべきか、振り下ろした夜刀神は薙刀の一振りによって簡単に押し返され、同時にアマテラスも軽々と弾かれてしまう。

 だが、それにより生じたフウガの隙を、すかさず追い付いたリンカが逃さない。隙だらけのフウガの胴へと目掛けて金棒を打ち込むが、驚く事に素手で受け止められる。それを見たリンカは苦い顔をするも一瞬で、すぐ左手に持った鎚を振りかぶる。が、

 

「破ァッ!!」

 

 フウガが金棒を離した刹那、目にも留まらぬ速さでリンカの腹へと掌底が打ち込まれる。

 

「ぐぶっ!」

 

 それにより、ほんの少し浮いたリンカの体。そこへと更に蹴りがリンカを襲う。腕でどうにか蹴りをガードするが、先程のアマテラス同様、リンカも吹き飛ばされてしまう。

 

「リンカさん!!」

 

 しかし、いち早く体勢を整えて回り込んでいたアマテラスが、リンカの体を受け止めた。

 

「くそ、強すぎる…流石は族長ってところか」

 

「はい…。こちらの手が、悉く粉砕されてしまいます」

 

 どのように攻撃しても、ほとんどを力によってねじ伏せられてしまうのだ。まともに向かっていくだけでは、フウガ相手に通用しない。

 

「この試練、思っていた以上に困難らしい。とはいえ、あたしとお前で、こっちは2人。どうにか勝機は見出せるはずだ」

 

 その通り。確かに、フウガに攻撃をほとんど対応されてしまっているが、全く通らないという訳ではない。その証拠が、リンカが手にしている鎚なのだから。

 

 何か、キッカケとなる何かがあれば、フウガ攻略の糸口が掴めるのかもしれないのだが……。

 




 
「キヌの『コンコン! お狐通信』~!」

※ここからは台本形式でお送りします。

キヌ「はあ~、さんとらサイコーだよぉ~」

カムイ「あはは。キヌ、遊んでない時はずっとイヤホン付けてるもんね」

キヌ「アタシ、『汝、白の同胞よ』が一番好き! 和風な曲が奏でる臨場感っていうの? すっごくカッコいい!!」

カムイ「僕は『血の宿運』かな。避けられない悲しい闘い…それが曲に表れてるみたいで、切ないんだけど格好いいよね!」

キヌ「あ、分かる分かるー! 決闘の曲って、どれもカッコいいから、アタシ大好き!」

カムイ「だよね!」

リョウマ「それも一理あるが、俺は普段の城での生活や、支援会話で流れるような日常を感じさせる楽曲も良いと思う。戦争中ではあるが、そういった何気ない日常も、大切なものだからな」

カムイ「あ、リョウマさん!」

キヌ「あ、『白夜の伊勢エビ』のリョウマだ!」

リョウマ「……『侍』だ。その呼び名は辞めてくれると助かるんだが」

カムイ「…でも、色んな界隈で広がっちゃってるから、消すのは難しいと思うな……」

リョウマ「む…そうなのか? 俺の特徴と言えば、雷神刀が一番のはずなのだが」

キヌ「ないない。あっても、その面当てと同列だよ」

カムイ「ところで、リョウマさんが今日のゲストなんだね」

リョウマ「ああ。アマテラスに言われてな。本当は5月1日の間に更新したかったらしいが、ギリギリで間に合わなかったらしい」

キヌ「あ、誕生日か~! リョウマ誕生日おめでとー!!」

カムイ「おめでとう、リョウマさん!」

リョウマ「ああ、ありがとう。それより、俺は早速ゲストとしての務めを果たしたいのだが…」

キヌ「ん? このあと何か用事でもあるの?」

リョウマ「そうだ。ヒノカが食事会を催してくれてな。その後、アクアが歌を贈ってくれるらしい。だから、早めに会場に行っておきたくてな。遅刻など、俺のために集まってくれているというのに、申し訳ないだろう?」

カムイ「うん、それもそうだね。じゃあ、早速お題に行こっか」

キヌ「だね!」

リョウマ「では、『作者が今考えている事に関して』…だな。これは何を示しているんだ?」

キヌ「えっとね。最近、というよりけっこう前からなんだけど、ifのキャラで『人狼げーむ』をやったら面白いかな……って思ってるんだって」

カムイ「まあ、気が向けば程度の案件らしいけどね」

リョウマ「作者は人狼ゲームに関する動画が好きだからな。面白そうだと常々言っている。自分でもやってみたい、もしくは書いてみたいとも思っているそうだ」

キヌ「でも、お気に入りの動画はレベルが高すぎて、何回見ても理解がついて行けてないのが現実なんだよねー」

カムイ「これに関しては、もしやるとなっても高度なゲームは期待出来ないかもだから、なかなか踏み出せないでいるんだって」

リョウマ「ふむ…時に恐れず前に進む事も必要だが、蛮勇と勇気は別だからな。見極めは重要だろう」

キヌ「それで本編が疎かになるのもダメだしね。まあ、またあんけーとでも取るかもしれないから、その時はよろしく~!」

リョウマ「さて、頃合いだろう。俺はもう行こうと思う。また、機会があれば呼んでくれ」

カムイ「そうするね!」

キヌ「うん! ありがとねー! リョウマニキー!!」

リョウマ「あ、ああ……ニキ…?」

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