ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第3章 白夜編 光の先の理想
第41話 黄泉の階段


 

 モズメの暮らしていた村から数日、アマテラス一行は、とある遺跡の前へとたどり着いていた。

 

「ここは…?」

 

「ここは『黄泉の階段』と呼ばれる遺跡の入り口だ」

 

 アマテラスの質問に答えるのはヒノカ。しかし、いつもの凛とした気配はなりを潜め、微かに強張っているように見える。

 

「ね、姉様っ…」

 

 サクラも、入る前からアマテラスのマントをギュッと掴んで離さない。ぴったりとくっ付くその姿は、まるで親鳥の後をくっついて歩く雛鳥のようで、どこか愛らしさを感じさせる。

 

「あっはっは! 固い顔じゃのう。武勇を誇るヒノカ様も、流石にここには勝てんようじゃな!」

 

「ええ。それはもう。ヒノカ様は怖いものはあまり得意ではありませんからね。普段からそうしていれば、今よりもっと男っ気も寄ってくるでしょうに」

 

「う、うるさいぞお前達! べ、別に怖くなどない! ほ、本当だぞ!? 幽霊など恐れるに足らんくらいだ!」

 

「…わー、ヒノカ様、かっこいい…」

 

「あ、あのう…別に怖くても大丈夫ですよ、ヒノカ様? 女の子ですし、怖がっても無理はないですから…」

 

「くうぅ…! その心遣いが今は痛いぞ、オボロ…」

 

 ヒノカを中心に、ちょっとした漫才空間が発生し、空気を和ませる。しかし、決して意図しての事ではないと、ヒノカの名誉のためにも言っておこう。

 

「く……サクラがあたしより、アマテラス様に縋るなんて……!!」

 

「はいはーい、女の子がそんな怖い顔しちゃダメだよー」

 

 カザハナがアマテラスへと嫉妬の視線を向けるのを注意するツバキ。アマテラスは何も悪くないのに、哀れである。

 

「ふむ。黄泉の階段か…私の創作意欲を刺激してくれるような何かでも出てくれれば良いのだが…」

 

「ふん…下らん。霊など、存在する訳がない。存在したとしても、怖がる理由が俺には分からんがな」

 

「兄さん、それは兄さんのような特殊な人だけですよ…。しかし、私は霊は実在していると思いますが…」

 

「そういや、スズカゼ前に言ってたな。女の幽霊に惚れられて、しばらくつきまとわれたって! お前も不憫だよなぁ!」

 

「…ヒナタは人の事を言えないだろう。前にヒナタとお墓に肝試しに行った時、僕はヒナタをお墓の陰からずっと見つめている幽霊を見たからね…。それからしばらく、ヒナタの近くに居る度に、その幽霊を見てどれだけ怖かった事か…」

 

「? タクミ様は大袈裟なんですよ! 第一、俺はそんなの見てないし。今まで生きてる女の人しか見た事ないぜ!」

 

「はあ…」

 

 色々と気になる発言をしているのが見られたが、アマテラスは深入りしないでおこうと誓った。特に、カゲロウの創作活動に関してはスルーの方向で。あまり深く突っ込まない方が良い、そんな女の直感が働いたのだ。

 そして、ヒナタとは肝試しには絶対に行かないでおこうとも誓うのだった。

 

「あ、あたい知ってるで…! ここって、死んだ人の魂が集まってくる場所なんやろ? もしかしたら、あたいもおっ母に会えるかもしれへん…」

 

「あたしも、死んだ両親に会えるでしょうか…」

 

「はうぅ…は、反応に困ってしまいますぅ…!!」

 

 黄昏始めるモズメとエマを前に、フェリシアはどう答えるべきかと、あたふたしていた。

 

「幽霊、か…。昔、スサノオやアマテラスと夜の城塞を探検した事があったな…」

 

「そのせいで、一時期お2人が夜なかなか眠らなくなって、俺やギュンターのジジイが大変だったんだからな」

 

「それは…なんというか、すまん…」

 

 懐かしい事を思い出しているサイラスとジョーカー。当時、夜遅くまで起きていたのは、その探検が初めてだったので、その興奮を忘れられなくて眠れなかった事を、アマテラスはなんとなく覚えている。

 

「…幽霊も、素敵な断末魔を上げてくれるのでしょうか?」

 

「す、すでにお亡くなりになっているので、どうでしょうか…」

 

「あら、サクラ? 私はそうでもないと思うわよ。怨霊とかは特に、死に際の恨みや痛みを覚えていそうだし、成仏出来ずに延々と断末魔を上げているかもしれないわよ?」

 

「ア、アクア姉様が怖いお話をしてきますっ…!」

 

 更にギュッとマントを掴む手に力が込められる。その様子を見て、アクアはクスクスと笑いを堪えており、あれは確実に愉快犯の顔をしていた。

 

「アクアさん、あまりサクラさんを怖がらせないでくださいね…。私のマントがしわくちゃになってしまいます…」

 

「あら、ごめんなさい。サクラったら、昔から苦手な癖に怖い話をせがんでくるものだから、つい癖で…」

 

「あう…」

 

 今度は顔を真っ赤にして、マントに隠してしまう。庇護欲をそそるようなサクラのその姿に、アクアは満足そうに微笑んでいた。最近アマテラスはアクアについて分かってきた事がある。アクアは少しSっ気があるらしい。それも、ほんの少しだけではあるが…。

 

「おふざけはこの辺にして…そろそろ真面目な話をしましょうか」

 

 アクアは笑顔を引っ込めると、いつもの冷静沈着な面もちでアマテラスに向き合う。サクラも、怖い話はもうしないと分かったのか、顔をマントから離す。しかし、マントは握られたままだった。

 

「この先は、半日ほど掛かる長い階段、そして坂道が続くわ。登り始める前に覚悟だけはしておいて」

 

「疲れたら私の後ろに乗せてやるからな。遠慮せず私に言うんだぞ、アマテラス、アクア、サクラ?」

 

「しれっと僕が除外されてるんだけど…」

 

「タクミ、お前は男だろう。その程度で根を上げるなど、白夜王子の名折れじゃないか?」

 

「くっ…悔しいけど、その通りすぎて言い返せない…」

 

 天馬の上では、ヒノカ姉さんが腕を組んでタクミを諭していた。どことなく得意気に見えるのは、姉としての威厳のためだろうか。タクミも、正論を返されて、反論出来ずに少し不満そうだったが、文句までは言わなかった。

 

「イズモ公国に入るには、この黄泉の階段を抜けるのが一番早い。そしてこの先を抜けた所には、『風の部族』の住む村がある。まあ、村と言っても、城があるから村と呼ぶべきかは分からんがな」

 

「風の部族は中立であったはずです。協力こそ得られないかもしれませんが、休息をとらせては頂けるのではないでしょうか?」

 

 忍び兄弟による解説を聞く中で、アマテラスは気になる単語があった。

 

「『風の部族』…ですか? リンカさんは確か…『炎の部族』で、フェリシアさんやフローラさんは『氷の部族』でしたよね?」

 

 そう。ここにいるフェリシア、まだ合流していないリンカはそれぞれ、『氷の部族』と『炎の部族』の出身だったはずだ。『~の部族』という風に、色々な部族が他にもあるのか、アマテラスはそこが気になったのである。

 

「白夜王国の事は分かりませんが、暗夜王国ならば、先程アマテラス様が仰られたように、フェリシアやフローラの出である『氷の部族』、暗夜王家に古くから仕える『闇の部族』、今はもう滅んだとされる『大地の部族』…他にも、存在自体が架空とされる『水の部族』などがありますね」

 

「へえ~、知りませんでした。暗夜王国にも、氷の部族以外の部族があったんですね」

 

 アマテラスにとって完全に初耳だったそれは、サイラスやフェリシアにとってはそうでもなかったようで、ジョーカーの話にうんうん、と頷いていた。

 

「ほう…面白いのう。暗夜にも、様々な部族があるという事か」

 

「逆に、白夜は他にどんな部族がありますか?」

 

「そうですわね…」

 

 アマテラスの質問に、ユウギリが思い出すように、ポツリポツリと答えていく。

 

「白夜では、先程話に上がった『炎の部族』、『風の部族』、他に言いますと……『雷の部族』や『光の部族』…。他にもいくつかあったとは思いますが…先程のジョーカーさんが仰った『水の部族』は、白夜でも架空の部族としては存在を問われていますわね」

 

「そうですか。奇妙な話ですね。白夜と暗夜、その両方で『水の部族』が知られていて、どちらでも架空の存在として語られているなんて」

 

 対立し合う国同士でその存在が語られ、疑問視されている『水の部族』という存在…。もし実在しているとして、一体どちらの国に存在しているというのだろうか。

 

「…………、」

 

 そんな風に疑問に思っていたアマテラスの視線の先で、ふとアクアが目に入った。その顔は、先程までとは打って変わって憂いを帯びており、どこか儚く、今にも消え入りそうに見えた。それこそ、アクアの存在も幻と捉えられそうな程に。

 

「アクアさん? どうかしましたか?」

 

「…いいえ。何でもないわ、大丈夫」

 

 しかし、アクアはすぐにいつもの穏やかな調子に戻り、アマテラスもそれ以上は深く踏み込めなかった。

 

「とにかく、この遺跡を抜けて行けば落ち着ける場所に出られるわ。さあ、行きましょう」

 

 と、アクアはズンズン先へと進み始める。洞窟のような入り口は、すぐにアクアの全身を飲み込んでいく。その後に、アマテラス達も続く。風を吸い込んでいるかのような入り口は、まるで大きな怪物が本当に口を開けて待っているようだった。

 

 

 

 

 黄泉の階段とは、死した魂があの世へと渡るために造られたとされている。下の入り口から上へと向かう魂は、生前の徳を認められて極楽へ。上の入り口から下へと向かう魂は、生前の悪行から冥土へ。そんな風に言われている。

 あらゆる魂があの世へと渡るために集まってくるため、ここには聖なる空気と不浄の空気が入り混じっているとされ、霊感の強い者は死者の思念、怨念が常に隣に感じられるのだそうだ。

 そのため、ここを通る者は少なく、また死者の魂が漂っている事はあまり縁起が良くない事もあり、余計に人を寄せ付けなくしている。

 

 しかし、ここに来れば今はもう会えない人とも会えると信じ、未練のある生者が憐れみを求め、救いを求め、慰めを求めて訪れる事があるという。妄念に取り憑かれ、その末に同じく命を落とす者も居り、そういった者が出ぬように風の部族が監視をしているらしい。

 

「はあ…はあ…」

 

 長く険しい坂道を登り続けるアマテラス一行。流石にひたすらの坂登りのため、皆の顔に疲労の色が伺える。

 

「皆、止まっている暇は無い! 止まれば亡者に足元を掬われるぞ!」

 

 天馬から降りて、皆と共に歩いて登っているヒノカが叫ぶ。ヒノカ曰わく、

 

『白夜の第一王女として、歩いて登っている他の者に示しがつかん!』

 

 との事で、騎乗組であるサイラス、エマもそれに同調して、歩いて登っていた。ちなみに、ユウギリは普通に金鵄に乗っている。

 

『年ですので』

 

 という事らしい。しかし、その戦闘狂ぶりから、別に大丈夫なのではと思えない事もない。

 

 ともあれ、そんなヒノカは何故かピンピンしており、1人先頭に立ち、上を指差して皆を先導していた。それほどまでに、この遺跡を早く抜けたいのだろうか。

 

「元気すぎるよ、ヒノカ姉さん…」

 

 うんざりした様子で、膝に両手を付くタクミ。この中でピンピンしているのは、カザハナ、サイゾウ、スズカゼ、カゲロウ、ヒナタ、アサマ、モズメ、そしてヒノカと、体力バカなメンバーだった。他の面々は額に汗をかいており、オロチなどは登り始める前の陽気さはどこに行ったのか、ひいひい言いながら歩いている。

 

「わらわは仮にも呪い師じゃぞ…!? それなのに、何故かような肉体労働を強いられるのじゃ…!?」

 

 しかし、文句を言う余裕はまだあるようだ。

 

「弛んでいる! 軍に身を置く者として、これくらいの坂でへばってどうする!」

 

「ぐぬぬ……おい! そこの毒舌修験者! 何故おぬしは平気な顔をしておるのじゃ!!」

 

 自分と似たような兵種であるアサマが、ものともせずに歩き続けているため、オロチのイラつきの矛先が向かったのだが、

 

「私は修行の一環として、様々な霊山を制覇してきましたからねぇ。あなたのようなもやしとは違うのですよ」

 

「キイィィ!! 納得いかん!」

 

「無駄口を叩いている暇があったら、さっさと進め! ……ん? セツナはどこに行った?」

 

 と、ヒノカは視界からセツナが消えている事に気付き、後方を何度も確認するが、どこにも居ない。

 

「あの、ヒノカ姉さん…」

 

「まさかはぐれたか…!? ん? どうしたアマテラス」

 

「えっと…そこに…」

 

 言うか言うまいか、悩んだ末に発したその言葉と、その指先が示す先には、

 

「……らくちん」

 

 ヒノカの天馬の上にぐでーっと乗っかったセツナが居た。それを見て、ヒノカは呆れたようにため息を吐き、セツナの頭を叩いたのだった。

 

 

 

 

 

 死者の魂。目には見えるはずのない、しかし確かにそこにあるモノ。どこから来て、どこへ往くのか…。それを知る術はない。自身もまた、魂だけの存在となった時、それを知る事が出来るのだろうか…。

 だとしたら、私はまた、お母様に会えるのだろうか。

 黄泉の階段を登っている中で、私はふとそんな事を思った。ここが死者の魂が集まる場所なのだとすれば、お母様の魂も、ここに訪れているのだろうか。それとも、既に通り終えた後なのだろうか。

 

 

 

───『 』。

 

 

 

「! 今、誰か私を呼びましたか?」

 

 そんな事を考えていると唐突に、誰かに名前を呼ばれたような気がして、周りに聞いてみるが、

 

「いいえ。誰も、アマテラスを呼んでいないわ」

 

 アクアが不思議そうに私を見つめてくる。他のみんなも、キョトンとした顔で、私に視線を向けていた。

 

「そう、ですか…」

 

 私の聞き間違いだったのだろうか…。しかし、確かに名前を呼ばれたような気がしたのに。そう、懐かしさを覚える声で、『私』の名前を呼ばれたような、そんな気がしたのだ。

 

「気のせいですね、きっと」

 

 そうだ。気のせいだったのだろう。だって、『私』の名前を知っている人が、ここに居るはずがないのだから。今は、先を急がねば…。

 

 

 

 でも、本当に懐かしい声だったような気がする。遠い昔、大好きだった───

 

 




 
「キヌの『コンコン! お狐通信』~!」

※ここからは台本形式でお送りします。

キヌ「ユラリ ユルレリ~♪」

カムイ「泡沫 想い 廻る秤♪」

キヌ「いやー、中毒症状出るよね~」

カムイ「だよね。僕、いつもシグレに歌っていて欲しいくらいだよ」

キヌ「アクアも良いけど、シグレのもまた違った味わいがあってクセになるな~」

カムイ「それじゃ、今日のゲストさんを呼ぶよ!」

キヌ「どうぞー!」

ゾフィー「どうもー! 新米騎士見習いのゾフィーです! よろしくね」

カムイ「あれ? 今日はアヴェルは一緒じゃないんだね」

ゾフィー「うん。別にアヴェルは今回必要じゃないしね。それに、連れてきたら連れてきたで暴れて、ムチャクチャになっちゃいそうだし」

キヌ「それもそだねー」

ゾフィー「ふう…あたし、こういうのあまり慣れてないから、緊張しちゃうかも…」

カムイ「あはは! リラックスだよ、リラックス!」

キヌ「それなら、思いっきり遊んじゃえばいいんだよ! 動いて発散すれば、スッキリ出来るよ!」

ゾフィー「うーん、それは今はちょっと…。終わってからならいいんだけど…」

カムイ「そんなに気負わなくてもいいよ? みんなけっこう、気楽にやってるもん」

ゾフィー「そ、そう? じゃあ、あたしも気にしないようにしようかな…」

キヌ「それはそうとアタシ、アヴェルと遊ぶの好きなんだよね」

ゾフィー「そういえば、たまにキヌがアヴェルとじゃれあってるわよね。その時のアヴェルったら、あたしといるより楽しそうなんだよね。あたし、一応あの子の主人なんだけどなぁ…」

カムイ「僕もアヴェルとは遊ぶけど、アヴェルだってゾフィーの事は大好きだと思うよ? ゾフィーの姿が見える時と無い時じゃ、アヴェルの元気少し無いもん」

ゾフィー「そ、そうなの…? でも、“少し”、なのね…」

キヌ「気にしない気にしない! そのうちもっと仲良くなれるよ、きっと!」

ゾフィー「…うん。そうだよね! あたしが卑屈になってちゃダメなのよね! よし! 頑張るぞー!」

カムイ「その意気だよ! それじゃ、今日のお題に入ろうか」

ゾフィー「ええ。あ、母さんが持ってるやつを読めばいいのね? えっと…『既存の部族以外について』だね」

キヌ「げーむで出てくるのは、『炎』『風』『氷』の三つだね。今回は、おりじなるの部族の名前が出てたよ」

カムイ「『闇の部族』に関しては、もう知ってるよね。他の部族に関しては、これからどこかで出てくるかもね」

ゾフィー「それこそ、『炎の部族』と敵対していた部族とかもね。リンカさんもそろそろ合流だし、そこら辺はリンカさんから聞けるんじゃない?」

カムイ「伝承を集めて回ってるカタリナさん達も、色んな部族の村を巡ってそうだし、合流するのが楽しみだなぁ!」

キヌ「まあ、どっちの陣営と合流するかは内緒だけどね」

ゾフィー「うわー…思わせぶりだわ…」

カムイ「それじゃ、今日はそろそろ終わりにするね」

キヌ「次で子世代げすとさんは最後だね」

ゾフィー「そうね。ヒサメが最後かな? それでは、次回もよろしくねー!」

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