ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第40話 羽ばたき、次なる道へ

 

 アマテラス一行に新たな仲間、オロチとユウギリ、モズメが仲間に加わる一方で、1人そわそわとしている者がいた。それは他でもない、今回の一番の功労者、エマだ。

 サクラに治療されている間中、モズメとアマテラスのやりとりをずっと余すことなく見つめていたエマは、少しホッとしている傍らで、同時に羨みを覚えていた。

 行く宛の無いモズメに、新しい居場所が出来て安堵する自分。一兵卒でしかない、たかが見習いの立場では、憧れの先輩に同行するなどおこがましいというのに、モズメは遠慮する必要も無く一緒に行けるのかと羨む自分。

 人への配慮と嫉妬が同時にエマの内で湧き起こり、モズメを祝うべきなのに、素直に喜べなかったのだ。自分だって、アマテラス様やユウギリ様達と一緒に行きたいのに…そんな感情が、蓋をして抑えようとしても、隙間から溢れ出るようにエマの心をくすぶらせていたのである。

 

「………はぁ」

 

 小さなため息をこぼすと、エマに愛馬がすりすりと頭をこすりつけてくる。主人の鬱屈とした気持ちを察したのだろう。ペガサスや天馬、ファルコンは主人の感情や心の機微に敏感なのだ。だからこそ、互いに信頼し合った天馬と騎手は、無双のコンビネーションを誇る。空という、不安定な状況を共にするのだから、その絆は並みのソシアルナイトよりも遥かに深いのだ。

 

「ありがと、空助…。そろそろ帰ろっか」

 

 いくら活躍したとはいえ、エマは勝手に単騎で出撃し軍の規律を乱した。厳戒処分とまではいかないだろうが、それなりの処罰は下されるだろう。

 どんよりと重い気持ちで立ち上がると、エマは手綱に手を伸ばす。ただでさえ規律違反しているというのに、帰還が遅すぎるのはマズい。余計なペナルティーを付けられる前に、テンジン砦に戻らなければならない。

 

「気が重いなぁ…」

 

「どうしてですか?」

 

「だって、規律違反して勝手にここに来た訳ですし、絶対に怒られます…」

 

「そんなの、まだ分からないじゃないですか」

 

「でも…………、あれ?」

 

 無意識に会話をしていたため、エマはようやく自分が誰かと話している事に気が付く。気を落として俯いていた顔を上げると、そこにはキョトンとした顔でエマを見つめる、真紅の宝石のような瞳が。

 

「ア、アマテラス様!?」

 

「はい。アマテラスですよ」

 

 驚くエマとは対照的に、にっこり笑顔で答えるアマテラス。そのアマテラスのどっしりとした落ち着きように、エマはしどろもどろに、どうしたものかと戸惑うが、

 

「エマさん」

 

 優しく諭すような声音で、エマの肩に手を置くアマテラス。それはエマの強張った心をほぐすのに十分な柔らかさを持っていた。

 

「あなたは何も間違った事はしていません。いいえ、むしろあなたは褒められて然るべきなんです」

 

「アマテラス様…」

 

「あなたのおかげで、救われた命があった。あなたが動かなければ、失われていたかもしれない命があった。それは、とてもすごい事なんです。あなたはすごい事をしてみせたのですから、誰が何と言おうとも、私はあなたを褒めてあげます。よく、頑張りましたね…」

 

「アマ、テラス、様………、う、うぅ……」

 

 慈愛に満ちたその声、その笑顔。こんなにも優しく、自分を認め、許し、褒めてもらえたのはいつ以来だろうか。幼い頃、母から与えられた暖かさ。それを、エマは目の前のアマテラスから感じ取っていた。思い出されるは、幼い記憶。まだ、両親が生きていた頃。

 

 

 

 

 エマの両親は、彼女がまだ幼い頃に戦死している。2人は王城に仕える兵士で、特別優れた能力や、高い地位を持ってはいなかったけれど、人一倍白夜王国を愛していた。王国の兵士として、誇りを持っていた。

 そんな両親を見て育ったエマは、寂しさもあったが、何よりも両親の事を誇りに思っていたのだ。たまの休日には1日中構ってくれる両親の愛、その両親が大切に思っている白夜王国。それらを見て、受けて育ったエマは、やがて両親と同じように王城兵士になりたいと思うようになっていった。

 

 ある日の事だった。白夜王国領内の村がノスフェラトゥに襲われているという情報を得た両親は、部隊も連れずにたった2人きりで救助に向かったのだ。急げばまだ助けられるかもしれない、間に合うかもしれない。そんな思いがあったのだろう。焦って村へと向かってしまったのだ。

 

 そしてその日、エマの両親は二度と帰っては来なかった。

 

 後日、エマが両親の同僚だった人に聞いた話では、まだ数人生き残っていた村人を逃がすために、たった2人で数十のノスフェラトゥの群れを相手に、囮となって闘ったのだそうだ。

 そして、命懸けの囮を引き受けた事により、生存者は無事に逃げ切れたと。

 

 エマはその報せを聞いた時、最初は訳が分からなかった。まだ幼い事もあって、理解が追い付かなかったのだ。しかし、両親がもう帰ってこないという事だけは、なんとなく伝わっていた。

 もう両親には会えないと知り、エマは泣きに泣いた。声が、涙が枯れ果てるまで泣き叫んだ彼女は、1人、両親の戦死したという村へと向かった。慣れない地図を頼りに、両親の同僚が言っていた言葉を必死に思い出し、その村までたどり着いた。

 ボロボロ。最初に思ったのはそんな感想だった。村は荒れ果て、そこかしこで乾いて黒く変色した血が付着して、戦場にも似た空気の漂う滅びた村の中で、エマは見つけた。

 一段と広い血だまりの中、そこに大量の白い羽がところどころを黒く染めて沈んでいたのだ。そう、そこが両親が愛馬と共に散った場所だった。

 

『あ、あ…お父、さん……お母さん』

 

 思わず膝と手を付いたエマの手に、未だ渇き切らぬ血のべとっとした感触が伝わってくる。それが、夢や幻ではない、現実なのだと、エマに実感させるにはあまりに残酷なものだった。

 

『う、うぅぅ……うあぁぁぁぁぁ!!!!』

 

 既に枯れたはずの涙が、叫びと共に再び溢れ出す。慟哭は獣のごとく、恥もかなぐり捨てて、嫌という程泣き叫んだ。両親はもう居ない。もう帰ってこない。エマは1人ぼっちになってしまったのだ。それに気付いた彼女は、ひたすら泣き続けるしか出来なかった。そうしなければ、心が壊れてしまいそうだったから。

 

 

 

『グルルルル……!!』

 

 

 

 そんなエマの耳に、それこそ獣のうなり声が届いた。ふと顔を上げてみれば、エマから少し遠くで1体のノスフェラトゥが立っていたのだ。

 ノスフェラトゥはエマの両親の後続部隊がほとんど駆逐したが、まだ生き残りがいたのである。

 

『ひっ…!?』

 

 エマは逃げようとするも、血で地面がぬかるみ、足を取られてしまい転んでしまう。立ち上がろうにも、恐怖で足が竦んでしまい、動けない。

 

『ガガガギガアァ!!!』

 

 ノスフェラトゥは獲物を見つけたとばかりに雄叫びを上げると、一直線にエマへと向かって突進を開始した。逃げられないエマは、死への恐怖に思わず目を瞑る。

 

『あらあら、まだ残っていたのですわね。残敵掃討を買って出た甲斐があるというもの』

 

 そんな時だった。エマの真上から、凛とした女性の声が響いたのは。エマは恐怖よりも驚きが勝り、恐る恐る目を開けてみれば、エマのちょうど真上に、大きな鳥が飛んでいた。

 

『泣き声らしいものが聞こえるから来てみれば、可愛らしいお嬢さんと、か弱い女児を狙う浅ましいノスフェラトゥが居るだなんて…お仕置き、しなければなりませんわ』

 

 どこか恍惚とした感情を匂わせるその声の持ち主は、大きな鳥からノスフェラトゥ目掛けて飛び降りると同時、その手に握られた薙刀でノスフェラトゥの腕を斬り飛ばした。

 

『グオォォ!!』

 

 痛みでも感じているのか、ノスフェラトゥは大きな呻き声を発して後ずさりをする。しかし、

 

『逃しませんわ!』

 

 女性は容赦なく、ノスフェラトゥのもう片方の腕も一刀両断し、続けざまに脚の腱を切り裂き、その胴体へも回転するかのように斬り込みを入れていく。

 

『グガゴ…!』

 

 腕を穿たれ、脚を削がれ、胴を裂かれ、頭のマスクは斬り飛ばされ、ノスフェラトゥは満身創痍で女性を睨み付けるが、女性はものともせずに、

 

『残念です。あなたは期待外れのようですわね』

 

 一切の躊躇も無く、ノスフェラトゥの首を薙刀の一振りで切断した。

 ゴロゴロと転がっていく中で、まだ完全に死んでいなかったのか、首だけになってもなおうなり声を出すノスフェラトゥに、

 

『ああ…素敵な断末魔…。そこだけは、褒めてさしあげましょう…』

 

 その女性は満面の笑みを浮かべて、その光景を見つめていた。

 

『……』

 

 エマはその一部始終を見て、目を奪われていた。怖かったのは怖かった。下手をすればエマは死んでいたから。でも、あの女性が登場して、そんな感情はもはや消え、それどころかその女性の闘う姿に目を奪われていたのだ。舞うように、一切の躊躇も容赦もなく薙刀を敵に振り下ろすその姿。野蛮でありながら、どこか美しさをも感じさせるそれは、エマの心を掴んで離さなかったのである。

 

『お嬢さん、怪我は無くて?』

 

 薙刀に付いた血を払うと、女性はエマに手を差し伸ばす。だが、エマは呆気に取られすぎて、手を取る事すら忘れてしまった。

 そんなエマに苦笑し、女性はエマの脇に手を入れて抱き起こす。昔、母から同じようにして抱き上げられたのを思い出させるように。

 

『びっくりしてしまったんですわね』

 

 そう言って、困ったように笑う女性に、エマは呆けるしか出来なかった。

 

 

 

 エマの王城兵士になりたいという想いは、両親から得た。あの日のような、強い戦士になりたいという憧れは、ユウギリから得た。

 だからこそ、エマは単独でも村へと駆け付けた。あの日の両親のように、誰か1人でも救えたら。ユウギリのように強くなれたかを知りたかったが故に。

 

「あたしは、役に立てましたか……?」

 

「はい。あなたは立派に、モズメさんを守ったのですよ…」

 

 ぽつりと、無意識に発したエマの言葉に、アマテラスは肯定し、その頭をそっと撫でる。エマも、それを目を閉じて受け入れた。アマテラスの手を通して、暖かい何かがエマの心へと流れ込んでいるかのような、そんな錯覚がしていた。

 

「えへへ……やっぱり、親子なんですね…」

 

「へ?」

 

「ミコト様も、あたしみたいな新人が訓練していたら、たまにこうして頭を撫でながら褒めてくださっていたんです」

 

「お母様が…」

 

 知らず知らずの内に、アマテラスはミコトと同じ事をしていたという事に驚く。この身に、母ミコトの血が流れているのだと感じられたようで、嬉しい気持ちが込み上げてきたのだった。

 

「ありがとうございます、アマテラス様。あたし、もう大丈夫です! 帰って怒られたとしても、アマテラス様が褒めてくださいましたから!」

 

 にしし、と朗らかな笑顔をアマテラスへと向けるエマ。その笑顔をアマテラスは、暗夜へと残してきた妹に重なって見えた。

 

「よーし! それじゃあ帰るよー! 空助!」

 

 と、元気よく天馬へと駆け上るエマ。もう暗さなど微塵も感じさせないその明るい笑顔は、彼女そのものと言えるだろう。

 

「お待ちなさいな」

 

 そんな今にも飛び立とうとしているエマに、声が掛けられる。それはアマテラスのものではなく、彼女の後方からのもの。アマテラスの背後の少し離れた場所にユウギリが立っていた。

 

「エマ、と言いましたわね?」

 

「は、はい!」

 

 突然憧れの人から声を掛けられ、エマは明るい笑顔を一変、カチコチに緊張した、引き締まった顔になる。

 

「先程の闘い、少しですが拝見しましたわ。あなたには見所があります。もしよろしければ、私があなたを直々に指導して差し上げますわよ?」

 

「!! ほ、本当ですか!?」

 

 その申し出に、エマは馬上で大はしゃぎしながら、ガッツポーズをする。見ている方まで笑顔になってしまう光景が、そこにあった。

 

「という事なのですが…よろしいでしょうか、アマテラス様?」

 

「私は構いませんよ。旅の仲間が増えるのは、楽しくなりますし、私も嬉しいですから。ただ…」

 

 そして言いよどむアマテラス。少し心配な事があったからだ。というのも、

 

「テンジン砦で、エマさんの上司の方を説得してみない事には、難しいのではないですか?」

 

「ああ、そんな事ですか」

 

 と、アマテラスの心配など、どこ吹く風と何でもないように言ってのけるユウギリ。その余裕のある様子に疑問に思っていると、

 

「簡単な事ですよ。アマテラス様、もしくは今この部隊に居られる王族様方が命じれば良いのです。『エマを同行させるので、隊を離れる事を許可せよ』、と」

 

 なるほど確かに、理に適っていると言える。命じてしまえば、それまでなのだから。

 

「そ、そうですか…。少し強引な気もしますが、まあ良いです。それでは、歓迎しますよ、エマさん」

 

「は、はい! こちらこそ、よろしくお願いします!! やったーーー!!!」

 

「喜ぶのは良いですが、その代わり、私も厳しく指導しますので、覚悟なさいな」

 

「はい!! ご指導ご鞭撻、よろしくお願いします! ユウギリ様!」

 

 こうして、エマも遠征の仲間に加わる事となったのであった。

 

 

 

 

 

 エマが喜ぶ姿を見たあと、アマテラスはオロチに呼び出されていた。場所はエマが闘った大型ノスフェラトゥの倒れている地点だ。

 

「おお、来たかアマテラス様」

 

 オロチが手招きしながら、ノスフェラトゥの死体を観察している。他にも、ジョーカー、フェリシア、サイラスといった暗夜出身の者や、ヒノカ、タクミ、スズカゼも居るようだ。

 

「気になる個体を仕留めたと聞いたのでな。少しばかり調べておったところじゃ」

 

「それで、何か分かりましたか?」

 

 アマテラスの問い掛けに対し、オロチは面白そうに返す。

 

「うむ。こやつは人間の死体を使って作られたノスフェラトゥではないようじゃのう」

 

「…まあ、見た目からして、人間の形はしていても、

動物っぽいところがあるからね。今までのノスフェラトゥではこんな奴、見た事ないよ」

 

「ああ。私も、このようなノスフェラトゥを見るのは初めてだ。これでも、ノスフェラトゥの討伐は数をこなしているんだがな…」

 

 タクミ、ヒノカもこのようなノスフェラトゥは初めて見たらしく、興味深そうにその姿に目を向けていた。

 

「そこで、暗夜出身である俺達に聞こうとしたって話だ」

 

「私、こんなノスフェラトゥさんは初めてですよ~」

 

「はい。私も、このようなノスフェラトゥは初めて拝見しました」

 

「この通り、フェリシアとジョーカーも知らないらしい。かく言う俺だって、こんなノスフェラトゥは初めて見た訳だしな」

 

 暗夜出身であるはずの3人ですら見た事がないというその見た目に、アマテラスは改めて全体像を見る。

 犬や狼のような尻尾に、頭にちょこんと付いた獣耳。普通のノスフェラトゥとは違って、全身を毛で覆われており、大きさも倍近くある。

 異形たるノスフェラトゥの中でも、まさしく異形の姿を持ったノスフェラトゥ。それが、この目の前のノスフェラトゥだった。

 

「私達が交戦していたノスフェラトゥは、おそらくこのノスフェラトゥによって統率されていたと推測されます」

 

 この中で唯一、統率の執れていたノスフェラトゥの軍勢と闘ったスズカゼ。彼の話では、エマがこのノスフェラトゥと交戦に入ったと思われる時から、ノスフェラトゥ達の統率が乱れたという。

 

「新型でも開発しおったか? それにしては、何を素材にしておるかがさっぱり分からぬのう…」

 

「どことなく、狩りで見かける狼に似ているような気もするな」

 

 狩りをよくするタクミの意見に、その場の全員が「あ~」と納得する。見た目は人間寄りだが、ところどころのパーツは狼の特徴と非常に近いからだ。“狼人間”と言えば、当にピッタリな程に。

 

「それ…『ガルー』じゃないかしら…?」

 

 と、アマテラスの後ろから、肩越しにぬっと顔を覗かせるアクア。

 

「ひゃん!? ア、アクアさん!?」

 

「あら? 可愛い反応ねアマテラス」

 

「そんな事より、アクアは何か知ってるのか!?」

 

 タクミの急かすような物言いに、アクアは落ち着いた様子で返す。

 

「ええ。私も聞いた事しかないから、断言は出来ないけれど、暗夜にあるカイエン峰には、古くからガルーと呼ばれる獣人が住んでいるそうよ」

 

「あー! 私も聞いた事があります~!」

 

 アクアの言葉に、フェリシアが勢いよく手を上げて同意する。

 

「小さい頃、父さんがよく言ってました~。『悪い子にしてると、ガルーが食べに来るぞ~!』って~」

 

「ガルー…それは俺も聞いた事があるな。狼人間の種族で、人里には滅多に現れないそうで、幻の存在と言われているそうだ」

 

「ガルー…狼人間…カイエン峰…?」

 

 次々と新たな情報が飛び出してくるため、アマテラスは少々混乱してしまう。しかし、オロチは心得たと言わんばかりに、

 

「ほう…なるほどのう。獣人ならば、人間の死体を用いるよりも優れた素材となろうに。先程の話の通りならば、絶対数は限りなく少ないじゃろうな」

 

「更に言えば、スズカゼの言った“統率されていた”という点。ここから推察されるのは、このノスフェラトゥは特殊な調整を施されているものと考えられます。そして、そこから更に推測されますのは……」

 

「…この村への襲撃は、野生のノスフェラトゥによる襲撃ではなかった…?」

 

 ジョーカーの推測から更に読み取れる事。それを口にした瞬間、アマテラスは背筋が凍る思いをした。事故などではない、“意図的な”襲撃だった。そう、人為的に引き起こされたものだったのだ。

 

「なんだと…!? ならば、私やツバキが見た村も…!」

 

「恐らくは、同じなのでしょうね…」

 

 その事実に、アマテラスだけでなく、その場の全員の血の気がサーッと引いていく。そんな、悪魔のような所行を、誰かがやったのだ。

 

「これは…暗夜の人間として、同胞として、許せるものではないな…! 多分だが、ノスフェラトゥの研究をしている邪術士の仕業だろう」

 

「となると、マクベス辺りが絡んでいるでしょうね」

 

 同じ暗夜の者として、その事にショックを受けると同時に、憤りを感じているサイラス。騎士として、その行為を見逃す事が出来ないのだろう。

 ジョーカーは当たりが付いているようで、暗夜王ガロン直属の軍師の名を口にしていた。

 

「くそ、卑劣な事をしてくれる…!!」

 

「ともあれじゃ、村を襲わせたという事は、実験を兼ねておったのじゃろう。絶対数の少ない個体となれば、実戦での情報もそれほど充実してはおらんじゃろうし、研究とて捗ってはおるまいて」

 

「…私は、こんな事を平気で黙認するガロン王を許せません。もちろん、それを実行しているマクベスも…。このノスフェラトゥの元となった方だって、普通に生きていらしたはずです。それを、こんな風に利用するなんて、酷すぎる…」

 

 人前に姿を見せないとあらば、このノスフェラトゥにされたガルーを、わざわざ捕獲しに行ったのだろう。そして運良く捕まえたガルーを使って、人より頑丈である肉体を持つが故に、様々な人体実験を施された末に殺されて、死後もこうしてノスフェラトゥに作り替えられて…。

 こんな悲しい事を、これ以上続けさせる訳にはいかない。改めて、アマテラスは決意を固くする。暗夜を、ガロンを止めなければ、と…。

 

「悔やまれる事じゃが、これ以上クヨクヨしてもおれぬ。このような悲劇を止めるためにも、先を急がねばならんぞえ?」

 

 オロチは立ち上がり、アマテラスの頭にぽんぽんと軽く手を置く。

 

「はい。そうですね。先を急ぎましょう」

 

「うむ。それでこそ、ミコト様の娘じゃ! そんなアマテラス様にわらわから一つ、道標を差し上げようかのう」

 

 そう言って、オロチは何やらゴソゴソと取り出して、アマテラスの手に乗せた。

 

「これは、何ですか?」

 

「先程、アマテラス様達がこの村に来る前に占ったものじゃ。ちょっとした遊びのつもりだったのじゃが、予想外にもしっかりと結果が出おってな」

 

 手の上の、小さな動物の骨に目を落とすアマテラス。その骨の一部で、ちょうど真ん中から少しズレたあたりに、×印のようなひび割れがあるのを確認出来る。

 

「これが何か…?」

 

「まあ、分からんじゃろうな。これはの、場所を指し示しておるのじゃ。端から端、つまり白夜王国と目的地であるノートルディア公国じゃな。その間には、イズモ公国、フウマ公国がある。そして、この骨が示すのは、イズモ公国じゃ」

 

「つまり、イズモ公国に何かがある、と?」

 

「そうなるのかのう」

 

 と、少しだけ自信が無くなったように答えるオロチ。遊びと言った手前、言葉の通りそこまで深くは知れなかったのである。

 

「どちらにせよ、イズモ公国は道中立ち寄る事になるじゃろう。じゃから、心に留めておけば良かろう」

 

「はい…」

 

 こうして、新たな仲間と共に、新たな情報、道中での寄り道を得、アマテラス達は悲劇の村を後にするのだった。

 

 




 
「キヌの『コンコン! お狐通信』~!」

※ここからは台本形式でお送りします。

キヌ「いやっほーう! ベロアの方も新しい章に入ったし、アタシ達の方も次から入っていくよー!!」

カムイ「こっちもあっちも、新しい目的とかが出来たからね。ちょうどいいかもしれないね」

キヌ「よーし! それじゃ、今日も張り切って! げすとさんどうぞ~!」

カムイ「今日が誕生日なこの人だよ!」

カザハナ「どうも! カザハナだよ!」

キヌ「カザハナ、お誕生日おめでとー!」

カザハナ「ありがとね。いや~、こう手放しでお祝いされると、嬉しいような、照れるような…。まあ、嬉しいけどね!」

カムイ「サクラさんとこの後お誕生日会もするんでしょ? なら、早く終わらせないとね!」

キヌ「そうだよー! 楽しい事が待ってるんなら、早く行かないとね!」

カザハナ「あはは…。優しい子たちだね。大丈夫、サクラは待ってくれるよ。それに、あなたたちも一緒に誕生日会を楽しもうね?」

カムイ「うん!」

キヌ「わーい! アタシ、色んな焼き鳥食べちゃうぞー!」

カザハナ「焼き鳥限定なの…? 他にもたくさん用意してくれてるらしいから、遠慮しなくていいよ」

キヌ「ウハウハだね!」

カムイ「それじゃあそろそろ、お題に入ろうか」

カザハナ「そうだね。えっと…『テンジン砦には戻るの?』だね」

キヌ「ああ、それね。戻んないよ。エマも直行する感じ」

カムイ「うん。テンジン砦にはスズカゼさんの伝書鳩を使って連絡するから、テンジン砦には戻らずにそのまま次の所に行く感じかな」

カザハナ「いちいち戻ってたらキリがないしね。アマテラス様の星界もある事だし、休む場所とか日用品もある程度はなんとかなるし」

キヌ「見習いを1人連れて行くくらい、王族なら簡単にちょちょいのちょいだもん。手紙で言っとけば十分じゃないの?」

カムイ「うん。正直に言えば、作者さんがテンジン砦に戻ってその部分を書くのが面倒くさいからなんだって」

カザハナ「あいつ…まあ、気持ちは分かるけどさ」

キヌ「よーし! 言う事言ったし、お誕生日会に突撃だー!」

カムイ「おー!」

カザハナ「あぁ、ちょっと! …もう、元気なんだから。まあ、子どもは元気すぎるくらいが良いって言うからね。待ってよー! あたしの誕生日会なんだからねー!!」




「ひゃっはー! 焼き鳥祭りだー!!」

「きゃー!? 何事ですかっ!?」

「ごめんね、サクラおばさん…」

「元気ありすぎても困るかも…」


カザハナ、お誕生日おめでとう!

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