ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第38話 屍共を率いし亡者

 

 依然として戦闘中であるスズカゼ、カゲロウ、そしてエマであったが、戦況はお世辞にも良いとは言えず、徐々に押され始めていた。

 

「くそ…ッ! 何なんだ、こいつらは!?」

 

 焦りとイラつきを隠す事すらせずに、カゲロウは怒鳴り散らしながら、勢いよく手裏剣を投擲する。が、やはりその攻撃は、ノスフェラトゥの、既に幾つもの手裏剣が刺さった太腕によって阻まれてしまい、よりカゲロウをイラつかせる。

 

「防戦一方ですが、今は援軍が来るまでこの状態を出来る限り維持しなくては…」

 

 時折、接近を許してしまったノスフェラトゥを、軽やかに飛びかかり脳天を狙って確実に仕留めるスズカゼ。彼は比較的に冷静で、一つ一つ落ち着いて対処していた。

 といっても、カゲロウが焦りを見せているおかげで、スズカゼは冷静でいられたに過ぎないが。

 

「でも、カゲロウさんの言う通りです! このノスフェラトゥ達、何か変ですよ!」

 

 天馬による空中からの遊撃で、ノスフェラトゥの注目、そして攻撃をある程度集めていたエマが、カゲロウに同意の叫びを上げる。

 

「ええ…。彼らは、どうやら“普通のノスフェラトゥ”ではないようですね」

 

 仕留めたノスフェラトゥから飛び退くと、スズカゼは周囲に視線を送る。左右前方をグルリと取り囲むノスフェラトゥの軍勢は、通常のノスフェラトゥとはまるで違う動きを見せていた。

 というのも、本来ノスフェラトゥは最低限の認識機能と、敵を襲うという目的しか与えられずに造られた存在だ。しかも、死体を用いているためか、その機能も劣化しており、だからこそ敵では無いはずの自国の民すら襲うと言われている。

 更に言えば、知能は欠片程も無く、有って精々が自衛本能とその為の手段を用いる為の知恵のみ。故に、連携など取れるはずもなく、バラバラに襲いかかってくる訳なのだが、スズカゼ達が遭遇したこのノスフェラトゥ達は、“連携の取れた”動きを見せていたのだ。

 それこそが、スズカゼ達が苦戦を強いられる原因ともなっており、彼らも困惑を隠せないでいたのである。

 

「どういう了見か、こいつらは()()()()()()いる! このままでは数刻と保たず、押し負けるぞ!」

 

 カゲロウは唯一の生存者である少女と共にジリジリと後退しながら、敵の攻撃を警戒しつつクナイを構える。少女は嗚咽を漏らすばかりで、もはや生きる事にさえ悲観しているかのように、生気の失せた顔をして、カゲロウに引っ張られるがままになっていた。

 

「目を疑うような光景ではありますが、残念ながらこれは現実です。となれば、状況の維持に加え、打破も視野に入れて観察、行動するべき…ですが…」

 

 統率が執れている…いや、“執られている”という事は、指示を飛ばしている群れの『頭』となる個体、もしくは存在が居るはず。それさえ潰す事が出来れば、ある程度の勝機が見えてくる。ここで言う勝機とは、この戦闘に勝つ事ではない。『増援が来るまで持ちこたえる事』。それが、スズカゼ達にとっての『勝ち』であり、『価値』のある成果なのだ。

 スズカゼは、周囲のノスフェラトゥ達を大雑把にではあるが、観察していた。だが、それらしき個体は確認出来ずにいた。

 

「スズカゼさん!」

 

 と、エマが彼の頭上へと天馬で駆けてくる。

 

「あたしが敵の司令塔を探してきます!」

 

「いけません。敵の頭を仕留めたいのは確かですが、ただでさえ多勢に無勢。戦力を割く余裕はありません」

 

「分かってます! でも、どうにかしないと、じきに防勢は崩れます!」

 

 エマの言い分は正しい。このままでは、増援を待たずして全滅する。しかし、スズカゼの言い分もまた正しい。数少ない戦力を、余分に割くのは危険な賭けでしかないのだ。

 それでも、少女は止まれない。止まる訳にはいかない。

 

「敵の攻撃を、あたし“たち”が少し引きつけます! どうか持ちこたえて下さい!」

 

「お待ち下さい!!」

 

「待て、エマ!!」

 

 スズカゼとカゲロウの呼び止める声も聞かず、エマは天馬の手綱を引く。そのまま迷わずにノスフェラトゥの一団へと突っ込んで行き、ぶつかる直前というところで高度を上げる。ノスフェラトゥ達は直前のエマへと気を取られ、一部スズカゼ達から注意が外れて、低空飛行で飛び去っていくエマを追っていく。

 

「くっ…あの馬鹿者が…!」

 

 カゲロウは、遠ざかっていくエマの背を恨めしげに見送る他なかった。今彼女まで離れてしまえば、スズカゼ1人で少女を守らなければならなくなってしまう。それはあまりにも厳しすぎるので、カゲロウは残らざるを得ないのだ。

 

「こうなってしまっては仕方ありません。エマさんの事は心配ですが、私達は少女を守りきる事だけに専念しましょう。でなければ、彼女が危険な役を買って出てくれた意味がありません」

 

「チィッ…! ならば、この少女は何が何でも守り抜く!」

 

 減りはしたが、未だ敵は多い。カゲロウとスズカゼは、ノスフェラトゥを手裏剣で牽制し、迫り来る敵をいなしながら、増援の到着を待つしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 そして、エマはというと、

 

「…居ない、居ない、居ない……!」

 

 敵を引き付けながらも、敵の司令塔を探していた。しかし、それらしき存在は認められず、焦りと疲労だけが募っていく。それもそうだろう。敵を引き付けつつ攻撃もかわしながら、更に親玉の捜索もしなければならないのだから、全神経を常にフル稼働させる必要があるのだ。疲労の溜まる速度もそれに比例して早くなる。

 

「ごめんね、あたしの勝手に付き合わせちゃって…」

 

 天馬に謝罪の言葉を掛けながら、エマは手綱を持つ手を緩めない。今は緩める訳にはいかないからだ。悪いとは思いつつも、エマは手綱を握る手に力を込める。一刻も早く、この状況を脱するために。

 

「どこ…どこにいるの!?」

 

 村の全景は既に捉えた。しかし、それでもめぼしいものは見つけられない。ならば、一体どこに居るのか。さほど賢くない頭をフル回転させて、エマは敵の攻撃を引き付けながら考える。

 自分が指令を出すならば、一体どこからそれをするのか。例えば、戦場の最前線。勇猛な将ならば、己自身も直接前線で指示を飛ばすだろう。

 例えば、後方の支援部隊。それなら護衛も兼ねて、部隊を最後まで指揮出来る可能性は最も高い。

 例えば、そのどちらでもない、前線と後方の中間地点。こちらなら、最前線と後方支援のどちらにも、最も状況に応じて指示が出しやすい。

 

 しかし、敵は普通ではないとはいえ、所詮はノスフェラトゥ。後方支援なんてまずあるわけないし、中間地点から指示を飛ばす必要などある訳もない。となると、最前線が最も有力となる訳だが…。

 

「それらしい奴は居なかったのに…」

 

 手詰まり。それこそ、もう打つ手無しだ。もしかしたら、前提が間違っていたのかもしれない。元々、敵に司令塔などいなかったのではないか?

 あのノスフェラトゥ達はそういう風に造られた新型であったのかもしれない。エマは思考がマイナスに傾き始めるが、それでも前を向いて進む以外に道はない。

 

(そもそも、言葉の通じなさそうなノスフェラトゥにどうやって指示を飛ばして……、()()()?)

 

 途端、エマは自身の思考に疑問を抱いた。そもそも、ノスフェラトゥ達の間で、指示を出したり受けたりした様子は無かった。それ以前に、奴らは言葉なんて発してもいない。言葉以外の伝達手段が有るとするなら、それは……。

 

「そっか! 意思伝達の術だ!」

 

 聞いた事があるだけだが、暗夜の術の中に『テレパシー』と呼ばれる呪術があったはず。白夜にも似たような術があり、言葉ではなく直接思考で他者とやりとりが出来るといったものだ。そして、エマが知りうる限り、それは高い位置であればあるほど、その効力が上がっていく。

 エマはすぐさまこの付近で最も高い所に、目を四方八方へとせわしなく向ける。そして、

 

「! 見つけた!!」

 

 村で一番大きな民家、更にその背後に聳えるように立っている大きな木の上に、それは居た。

 

 その姿はノスフェラトゥよりも更に異形で、ノスフェラトゥと比べてより筋骨隆々で、全身とまではいかないが、ふさふさとした毛で覆われており、頭部はノスフェラトゥのようにマスクで覆われていない。そしてその顔は、人間というよりも獣に近く、どことなく狼に見えなくもない。何よりも違うのは、そのノスフェラトゥにはふさふさとした大きな尻尾が生えている事か。

 

「仕留めます!」

 

 やっと見つけた親玉格。エマはその異形っぷりに構う事なく、一気に上昇し、手にした薙刀を構えて突進する。

 敵もエマの突進に気付いたようで、エマがたどりつく寸前で木のてっぺんから飛び降りてしまう。それを追い、エマも急降下していく。しかし、下にはエマが引き付けていたノスフェラトゥの群れが居る。

 

空助(くうすけ)、あいつらをお願い!」

 

 天馬は他の生物に比べてとても賢い生物で、人間の言葉もある程度は理解出来る。加えて、意思疎通の取れた主人とならば、その意図も汲み取れるまでに察しも良い。

 エマが天馬から飛び降りると、天馬はノスフェラトゥの群れを挑発するように嘶きを上げて羽ばたく。親玉の集中がエマに向いたためか、他のノスフェラトゥ達の統率は崩れ、それぞれが自身の目の前を縦横無尽に駆ける天馬へとおびき寄せられていく。

 

「さあ、一騎打ちと参りましょう!」

 

 薙刀を両手で構えて、エマは大型のノスフェラトゥと対峙する。その手足には鋭い爪を。そして口には大きな牙を覗かせて、大型ノスフェラトゥは唸り声を轟かせた。

 

「グルルォォァアアア!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「敵の統率が乱れた?」

 

 一方で、攻勢が弱くなりなんとか2人で凌いでいたスズカゼ達だったが、突如ノスフェラトゥ達の動きがバラバラと乱れ始めた事に気付く。

 

「エマがやったようだな」

 

 この頃にはすっかり冷静さを取り戻したカゲロウが、愚かにも単騎で突出してきたノスフェラトゥの後方に瞬時回って、その背に飛び乗り首をクナイで掻き切る。数度の斬撃を首に受け、ノスフェラトゥは力無く崩れ落ち、カゲロウも巻き込まれる前にノスフェラトゥを土台に少女の傍に着地した。

 

「そのようですね。狼煙を上げてから時間も経っていますし、もう少しの辛抱です」

 

「エマが無事だといいのだが…」

 

 

 

 

「ふむ…その心配は要らんじゃろうて」

 

 

 

 

 突如掛かる声に、カゲロウは驚き、声の方へと振り向く。そこでは、数体のノスフェラトゥを燃やし尽くしながら佇む者が居た。

 

「お、お前は…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てやあぁぁぁ!!!」

 

 腰をしっかりと落とした、大振りの横凪をノスフェラトゥの首を狙って放つが、軽々と避けられ、逆にその鋭い爪を以てエマを引き裂かんと襲い掛かる。

 それを、横凪にした薙刀を用いて、地面に突き刺し、側転の要領で回避するエマ。宙で回転して体勢を整えつつ、敵から距離を取って地面へと着地する。

 

「ガルルルルガァ!!!」

 

 エマの着地とほぼ同時に、ノスフェラトゥも突進をしてくる。距離を取ったとはいえ、それほど離れられた訳でもなく、即座に距離を詰めてくる敵に、エマは薙刀を自身と平行に持ち、ノスフェラトゥの股下を滑り抜ける。が、

 

「!!?」

 

 潜り抜けたと思った瞬間、ノスフェラトゥの尻尾がエマ目掛けて振り下ろされる。

 

「あぐッ!」

 

 身をよじって避けようとするも、完全には避けきれず、太い鞭のような尾の一撃を左肩に受けてしまう。

 

「肩、が……!」

 

 右手で薙刀を持っているため、痛めた左肩は押さえずにすぐさま立ち上がる。だらんと腕は脱力し、力を込めようとしてもプルプルと震えるだけで、まるで使い物にはなりそうもない。

 

「グォォォオオアァァ!!」

 

 けたたましい雄叫びを上げて尾をしならせるその様は、さながら狼人間であるかのようだ。エマは歯を食いしばり、肩が痛むのを堪えて薙刀を片手で構える。形勢は相手の方が能力的に高く劣勢。おまけにこちらは負傷を負ったときた。なんと絶望的な状況か。

 

「…………、ふ」

 

 だというのに、

 

 

「ふふふ…!」

 

 

 堪えきれないとばかりに、彼女の口からは笑い声が自然と溢れ出す。

 

「ああ…これが戦場。これが闘い。これが命の奪い合い…! ()()()はこの世界を生きていたんですね!」

 

 劣勢であるというのに、エマはこの状況に喜びを覚えていた。それどころか、目の前のノスフェラトゥに感謝の気持ちすら抱き始めているのだ。この状況を作り上げてくれた、と……。

 

「感謝しますよ、異形のノスフェラトゥさん。あたしは、あなたとの闘いを経て、()()()と同じ世界を目にする事が出来ましたから!」

 

 頭の上で揺らすリボンは、もはや可愛らしいウサギのソレではなく、本来の攻撃的な性格を持った『兎』のソレそのもの。目を見開き、獰猛な笑みを浮かべて、エマは薙刀を握る手に更に力を込める。

 憧れのあの人に近づく為に。恩人に近づく為に。何よりも、己の為に。彼女は一匹の獣へと変じる。

 

「アガァァァゥウゥゥルアァァァ!!!!!」

 

 そんな彼女に応じてか、ノスフェラトゥも四つん這いになり、咆哮を返す。ここに居るのは、二匹の獣のみ。戦士であり、野生である、二匹の獣。どちらからともなく、二匹は駆け出した。狙うは獲物の命のみ。恥も外聞もかなぐり捨てて、エマは闘志を剥き出しに薙刀を振るった。

 

 

 

「ハアァァァァァァァァァアア!!!!!!!」

 

「ガアアアァァァァァァァァアア!!!!!!!」

 

 




「キヌの『コンコン! お狐通信』~!」

※ここからは台本形式でお送りします。

キヌ「いや~、エマがすっごいきゃら崩壊してたね~」

カムイ「まあ、公式のキャラではあるけど、けっこうオリジナリティが高いキャラだし、別に良いんじゃないかな?」

キヌ「まあ、キングフロストはあんまり気にしてないみたいだけどね。だってコレ二次創作だし」

カムイ「ああ…またメタ発言を…」

キヌ「いいじゃんいいじゃん! 自由にしなきゃ、せっかくの一回きりの人生なんだからツマンナイよ!」

カムイ「自由にしすぎちゃダメな時もあるって覚えようね…」

キヌ「さーて! 今日のげすとさんを呼んじゃおう!」

キサラギ「どうも、今日のゲストはこの僕キサラギだよ!」

カムイ「こんにちは、キサラギ!」

キヌ「やっはろー!」

キサラギ「やっはろー! 父上もお世話になったみたいで、今日は僕もよろしく頼むね」

キヌ「あー…、そういえばタクミも来たね~。誕生日に」

カムイ「僕はその頃はまだアシスタントじゃなかったなぁ」

キサラギ「あ、そうそう。今日はフォレオの誕生日会があるから、2人も終わったら早く行こうね」

キヌ「あ! そうだった! アタシもフォレオのお誕生日の贈り物にお布団作ったんだった!」

カムイ「…僕も手伝わされたのに、忘れてたの!?」

キサラギ「あはは…それはフォレオには黙っておくね」

カムイ「遅れちゃ悪いし、もう今日のお題に入っちゃおう」

キヌ「うん! 今日のお題はこちら!」ババン!

キサラギ「『エマの憧れてる人って?』、だね」

カムイ「うーん…知ってる人はもう気付いてるんじゃないかな?」

キサラギ「それは僕も同感かな。白夜で戦闘狂って言ったら、あの人しか居ないもんね」

キヌ「あ~、あの人ね! うん、あの人あの人!」

カムイ「それに、スズカゼさんとカゲロウさんの前に現れた人も、あの人と同僚だし、というか、あの話し方でこの人はバレバレだったかな?」

キヌ「うんうん! それってあの人の事だよね!」

キサラギ「まあ、エマさんの憧れの人は、エマさんの兵種とかも考えれば、分かったかもね」

カムイ「でも、もしかしたらヒノカ叔母さんと勘違いするかもだね」

キヌ「だよね~! あの人の兵種を考えたら、そっちと間違えるかもしれないよね~」

キサラギ「うん。お題はこんなところで十分かな? そろそろフォレオの誕生日会に行こうか?」

キヌ・カムイ「おー!!」

これで本日の収録は終了します。


フォレオ誕生日おめでとう!

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