ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜 作:キングフロスト
スサノオが水を貰いに行ってから数分後、ただの水分補給にしては長めに席を外していたが、その理由が彼の隣と、更にその背後から共にレオンの元へとやってきた。
「早かったね。カミラ姉さん、それとエリーゼ」
読んでいた魔道書を閉じ、立ち上がってレオンが言う。
「ええ。久しぶりに可愛い弟と妹に会えるんだもの。目が冴えちゃって眠れなかったから、早めに離宮を出たのよ」
「ちょっと! そのついでみたいな呼び方止めてよー!」
妖艶な雰囲気を醸し出しているのは、暗夜第一王女カミラ。そして、スサノオの隣でピョンピョンと跳ねてロール状のツインテールを揺らしているのが、暗夜第三王女のエリーゼだ。
「何だい。本当の事を言っただけだろう? 大体、お前は毎日のようにここに来てるじゃないか。エリーゼを捜すならまずここが一番に上がってくるって言われているくらい、お前は入り浸りなんだよ」
「え、そうなの!? 本当、カミラおねえちゃん?」
エリーゼの率直な問いに、カミラは困ったような笑みを浮かべて一言。
「そういう事になってるわね」
「ぶー! いいもんいいもん! それだけあたしがスサノオおにいちゃんとアマテラスおねえちゃんの事が大好きって事だもん!」
開き直ったように宣言するエリーゼに、スサノオは嬉しさと恥ずかしさが同居した曖昧な表情になる。そして、そんなエリーゼの物言いに、カミラも張り合うように名乗りを上げた。
「あら? そんなの、私だって同じよ。エリーゼやレオン、マークスお兄様にだって負けないくらいスサノオとアマテラスの事を想っているもの。それこそ、毎日のように、ね?」
「いや、そこで俺を見られても困るんだが……」
スサノオ達のやりとりは見慣れたもので、レオンはいつもの事だと、さっさと視線をアマテラス達へと戻して座り直す。
「いつまでも立ち話してないで、適当に座れば? スサノオ兄さんとは違ってアマテラス姉さんは剣技が得意じゃないからね。手加減しないってマークス兄さんは言ったけど、十中八九手加減するだろうから長引くよ?」
レオンの言葉に、スサノオ達も訓練の様子を見るが、マークスは隙無くアマテラスの攻撃をいなしているが、アマテラスは攻め
「ああ…、必死になって戦うあの子の姿……。とてもいとおしいわ……」
座る事も忘れて、アマテラスに夢中になっているカミラ。
その様子に、苦笑いを浮かべる3人だった。
馬上で剣を構えるマークス兄さんには、こちらから何度攻撃しようとも隙一つ作る事が出来ない。流石は暗夜王国第一王子、暗夜最強の騎士と称されるだけの事はある。
「どうした。まだ一度も私に一撃すら入れられていないぞ!」
「くっ……」
息を切らせながら、額の汗を腕で拭う。マークス兄さんの言う通り、まともに攻撃が通らない。どうにか隙を作ろうにも、全て軽く弾かれてしまい、隙という隙が全く生じないのだ。
「アマテラス、お前は優しい子だ。だが、時にその優しさが仇となる。戦いにおいて、その優しさは邪魔にしかならないぞ。今だってそうだ。私相手に本気で攻撃が出来ない」
「……っ」
マークス兄さんが言う事は正しい。確かに、私は訓練用の武器とはいえ、きょうだいに剣を向ける事に戸惑いがずっとつきまとっている。
いや、たとえそれがきょうだい相手でなくとも変わらないのだろう。私は、私の手で誰かを傷付けるのが怖いのだ。
「お前もスサノオを見習え。あいつはお前と同じく優しい奴だが、こと戦闘においては一切の躊躇はない。お前も、剣を振るう事に戸惑うな! でなければ、お前は永遠にこの城塞から出る事は叶わない!」
「……!!」
私だけが、ここに、取り残される……。
今まで、暗夜王国の北の果てにあるこの城塞から、一歩たりとも外に出た事がなかった。私達兄妹は、幼い頃からこの閉ざされた世界で生きる事を余儀なくされていたのだ。
でも、そんな私達にもまだ救いはあった。毎日のように訪ねてくれるエリーゼや、時折しか来れないがマークス兄さんやカミラ姉さん、レオンも私達に会いに来てくれた。特にエリーゼは私によく懐いてくれていて、カミラ姉さんはいつも可愛がってくれて、私にとっては大好きな姉妹だ。
それだけじゃない、マークス兄さんは来る度に稽古を付けてくれるし、レオンはたまにだが魔法の手解きをしてくれる。私達にとって、きょうだい達とのふれあいが、唯一の外とのつながりだったのだ。
それでも、やはり私は、私達は外に出たかった。たった一度だけ、幼い頃に勝手に外に出て大変な事になったけれど、外の世界を自由に歩きたいという願望は少しも無くならなかった。
そして、ようやく外に出られるチャンスがやってきたのだ。スサノオ兄さんは既にマークス兄さんから認められ、後は私だけ。私だけが、まだそのチャンスを手に出来ていない。
私だけが。ここから出られるチャンスを、手に入れていない。
ずっと、ここに閉じ込められたままなんて、嫌だ。
嫌だ!!
「……ッ!」
「やっとその気になったな。よし、では、私からは手は出さん。傷を癒やす手段も用意してやろう。そして、全力で私を殺すつもりで掛かって来い!!」
マークス兄さんが手を翳すと、私の目の前の地面が淡い水色の光を放ち始める。
「これは……?」
「竜脈と呼ばれる力だ。我々王家の血筋のみが扱う事が出来る」
「竜脈……」
「しかし、便利ではあるが使用出来る場所は限られている。竜脈から溢れ出る力が濃い場所で無い限り、大地を変動させられる事は出来ない」
不思議な力だが、何はともあれこれで心おきなく向かって行ける。手にした訓練用の剣に強く握り締め、私はマークス兄さんへと突進した。
「でやあああぁぁぁぁーーーー!!!!」
「やっと吹っ切れたようだね」
レオンは変わらず魔道書に目を落としながら、チラリとアマテラス達を見て言った。
「ああ。だが、まだまだ剣筋は荒い。やっぱりあいつには魔法の方が性に合うのかもな」
スサノオの言う通り、アマテラスには魔道の才能がある。レオンが手解きを買って出る程に、アマテラスの魔道士としての素質は高いものだった。
「スサノオ兄さんとは違って、アマテラス姉さんはそっちの才能はあるからね」
「うるさい。言われなくたって分かってるよ」
スサノオはそう言って、レオンの頭を軽く小突いた。
「うわー! アマテラスおねえちゃん、かっこいい!!」
「ああ…、あの子の凛々しい顔……。とても可愛らしいわ。今すぐ抱きしめてキスしてあげたくなっちゃう」
カミラのこれは、もはや病気なのではないだろうかという位の、溺愛っぷりだった。
「違う意味で心配になるよ、全くね」
「あ、あはは……」
苦笑いを浮かべて、本人には触れないスサノオとレオンなのだった。