ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜 作:キングフロスト
私の目に映ったもの、それは数人の兵士の姿だった。彼らは暗夜の騎士の遠く背後で、私達の闘いを窺っているようだったが、私はまだ敵兵が居た事への驚きよりも、その兵達の構成への違和感の方が勝っていた。
暗夜の装備に身を包む、騎兵が4騎、それだけなら、まるで問題はなかった。
しかし、私に強烈な違和感を抱かせた兵が1人。それは、暗夜ではありえないはずの兵種。
白き翼を羽ばたかせ、和風な装備に身を包むその姿は、まぎれもなく白夜の天馬武者のものだった。
(何故、敵に天馬武者が…!?)
私は動揺を表に出さないよう、出てきそうになる驚愕の言葉を無理やり飲み込む。
「………」
目前の騎士は、まるで背後の事など気にするような素振りを見せない。この様子では背後の兵達に気付いていないようだ。
更に、スズカゼから受けた報告では、彼らは何者かによる攻撃を受けていたという。しかも、その何者かの姿を暗夜の騎馬隊、そしてスズカゼ達も捕捉出来なかったらしい。
(みんなは…)
目の前の騎士にバレないように、間合いを計るフリをしながらこっそりと背後の様子を窺うが、
「…私、役に立った…わーい」
「まあ、待ち伏せで失敗など、そうそうありませんでしょうからね」
「タクミ様ー! どうですか俺!? ばっちし倒しましたよ!」
「ああ、そうだね。僕も倒したんだけどね」
「…暗夜兵め、私を化け物と呼んでくれるとは、よっぽど地獄に行きたかったようね」
「うん、そうだね。オボロはその顔…ちょっと緩めようか」
(ダメだ! 全然気付いてない!)
まだ敵兵は複数残っているのに、気付くどころか、ともすれば和んでいる。
まさかとは思うが、彼らの姿が見えているのは、私だけ…?
でも、だとしても、それなら何故?
どうして私だけにその姿が見えている?
そして、彼らはもしや先日白夜王国を襲った、姿の見えない兵士なのでは…?
しかし、違和感が拭えない。彼らは暗夜の差し向けたものだったはずだ。それなのに、何故同じ暗夜の兵を狙ったのか。そして、どうして白夜の装備を纏った兵士がその中に紛れているのか。
疑問は多く残るが、彼らをこのまま捨て置くのはいただけない。
スズカゼの報告と、暗夜騎士の様子からして、彼らはこの騎士にとっても敵であり、先日の件からも私達の敵であるのだ。
放っておいたら何をするか分かったものじゃない。
『………仕方ありません』
私はちょうど元の位置に戻ってきた頃合いで間合いを計るフリを止めると、槍を構える騎士に向かって一気に距離を詰める。
「っ!」
騎士は私が動き出した事で、自身は私の攻撃を待ち受ける方を選んだらしかった。
それならそれで好都合。私の目的は、騎士を倒す事から姿の見えない彼らへとシフトしていた。敵の狙いは分からないが、おそらく漁夫の利だろう。どちらかが倒れた隙に、もう片方を始末すると私は見ている。
私は騎士に攻撃するために水流を作り出すフリをして、それに騎士も応じ自分への攻撃だと身構える。水流と共に併走して、騎士が直前に迫った水流の波を横凪にしようとした瞬間、私は彼の頭上を高々と飛び越えた。
「何!?」
水流も、横凪される前に騎士を避けるように左右に割れ、私の着地と同時に再び波となって前方へと押し流されていく。
『さあ、姿を見せなさい!』
押し寄せる波が、騎士の背後で傍観していた兵士達へとうねりをあげて襲いかかる。
突然の攻撃に、天馬武者以外の騎兵達はロクに回避行動も取れずに水流をもろに全身に浴びた。
それにより、騎士は振り返った先で奇怪なものを目にする事となる。
「これは、何だ!?」
彼の目から映ったもの、それは透明な何かに纏わりつくように浮かんだ水滴の数々。
その水滴が描くは、馬のようなシルエットに、その上に騎乗する人間らしきものの姿だった。
『ひとまず、私達の闘いはこれまでです。あなた達を襲ったのは私達白夜軍じゃなくて、あの姿の見えない兵士…今のあなたと私達にとって、あれは共通の敵。邪魔者は先に排除してしまいましょう』
私の言葉に、暗夜の騎士はハッとする。姿の見えない兵士など、普通は信じられるものではない。だが、現に目の前に摩訶不思議な存在がこう何度も現れては、もはや信じる信じないの話ではないのだ。
「…訳が分からないが、あれが俺達を襲ってきたっていうなら、納得は出来る。どんなに敵の位置を探ろうとしても捉えられない訳だ」
槍を器用に振ってみせると、彼は反転するや、私の隣へと並び立つ。
「アレがお前達の仲間なら、今その姿を現させるような真似はしないだろう。それに、勝負の邪魔をされるのはもちろん、決着がついてすぐに不意打ちを喰らうのも癪だからな。仕方ないから共闘するとしよう」
やはり正面きっての闘いを信条とする騎士らしい心の持ち主だ。ならばこそ、先程の『親友』という言葉も、嘘ではないのだろう。ただ、私は全く覚えが無いが。
「! 来るぞ!」
敵の動きと同時に、彼が叫びを上げる。敵は私の水によって、姿が浮き彫りとなったが、元々透けている上に水も透けているので、私以外の者にとってはなんとなくそこにいる、という具合にしか位置を掴めないようだ。
しかも、まだ私しか姿が見えていない天馬武者が1騎いる。あれは私が闘うしかない。
「またこいつらか!」
みんなも異変に気付いたようで、ヒノカ姉さんが率先してこちらへと天馬で駆けてくる。その異様な敵の姿を初めて見た者達は一様に怪訝な顔で得物を手にしていた。
「これが話に聞いていた怪物か。ふむ、確かに姿が見えぬ。私達忍びよりも忍びに向いているのではないか?」
「へっ! 姿が見えねーとか侍には関係ねー! 侍なら、心の目で闘うってもんよ!」
「珍しくヒナタにしては良いこと言うわね! あたしもそれには同意見!」
「いやいや、それは君らだけの根性論だからねー?」
「これはこれは…これまた面妖な輩が居たものですね。存在感の薄さを上手く利用しているようで敵ながら感心しますよ」
「…何これ…面白い…けど、面倒そう…」
「こいつらが…ミコト様を…っ! 許さない…!!」
「おい、オボロ。また魔王顔になっているぞ」
頼もしいのかどうか、一部不安になるが、実力者ばかりなので大丈夫だと信じたい。
「ちょっと待てよ! こいつらは、暗夜の差し金だったはずだ! なのに、どうして同じ暗夜の兵を襲うっていうんだ!?」
タクミは動揺しながらも、風神弓に光の矢を生み出すが、その驚きはヒノカ姉さんにとっても同様のものだった。
「仲間割れか…それとも、暗夜とは別の勢力なのか…、情報が少なすぎて分からないな」
「フ、フェリシアさんとジョーカーさんなら、あの透明な人たちのことも知っているんじゃっ…」
サクラの言葉に、暗夜出身の2人は皆から一身に期待の視線を受けるが、
「はわわ!? あれって暗夜王国の兵士なんですか!?」
「申し訳ありません。私も、あのような奇々怪々は目にするのも耳にするのも初めてでして…」
あたふたとするフェリシアと、あまり申し訳なさそうに謝罪するジョーカー。2人も姿の見えない兵士の事は知らなかった、そしてそれはこの騎士も…。
いよいよもって、姿の見えない兵士の存在は謎が深まっていくばかり。
「そんな事よりも、敵を倒すのが先よ。話は全て終わってからにした方が良いわ」
アクアが薙刀を構え、サクラを守るように前に立つ。
『気をつけて下さい! 皆さんに見えていない敵がもう1騎います! あいつは私が引き受けますので、皆さんもご武運を!!』
私はただ1人、水流から逃れ空へと逃れた天馬武者を追う。上手く羽ばたけるか不安だったが、少しなら私も空を飛べるようだった。
「待て、私も行くぞアマテラス!!」
私の後ろに続いて、ヒノカ姉さんが天馬と共に木々の間を縫って空へと舞い出る。
『ヒノカ姉さん! みんなは?』
「心配するな。あいつらは皆、白夜でも有数の実力者揃い。それに、お前のおかげで敵の姿はある程度捕捉出来ているんだ。たかが4騎程度なら問題ないはずだ」
『で、ですが』
「お前はこちらに集中しろ。お前が仲間に認められたいというなら、仲間を信じないでどうする」
ヒノカ姉さんの言葉に、私は押し黙る。ヒノカ姉さんの言う事は、反論の余地が無いくらい正論だったからだ。
確かに、みんなの事は心配だ。だけど、彼らは私の心配なんて必要無いくらい強いのは、王族の臣下という事から十分に分かっている。
私の心配が杞憂であるなんて、分かっているのだ。
「仲間を、姉の言葉を信じろ、アマテラス!」
『……!』
いつまでもウジウジと考え込んではいられない。今、姿の見えない天馬武者を捉えられるのは私しかいないのだから。私がやるしかないのだから。
私は私に出来る事をするだけ、ヒノカ姉さんと共に!
『分かりました、私はみんなを信じます! 行きますよヒノカ姉さん!!』
見据えるは、月光を背に、その身に受ける月光すら透過させて夜空を舞う異形の天馬武者。
2体1であるにも関わらず、表情の変化を見せずに、不敵に見下す彼女を前に、私は力強く翼を羽ばたかせ、突進した。
まずは敵の姿を浮き彫りにしなければ…。
一方で、暗夜の騎士は敵を前にして動揺していた。ただし、それは敵に対してではなく、先程聞こえた事が原因だった。
「…あの生物を、アマテラスと…呼んでいた?」
白夜の兵達は、彼と共闘するというアマテラスの言葉を聞き取っていたため、一部を除き何か言いたげではあったが、他の者に続き素直に透明な敵へと突っ込んで行った。
だから、彼はポツンと、1人槍を構えて空へと飛び立っていった生物を見つめていた。
「おい」
と、呆然と空を見上げる騎士に、執事が不躾に声を掛ける。
「アマテラス様がお前と共闘するとおっしゃったんだ。仕方ないから今だけは見逃してやる。ただし、この共闘が終わればお前とはまた敵に戻る事を忘れるなよ」
「! お、おい!」
ジョーカーの言葉に過敏な反応を見せる騎士。その様子は、先程まで果敢に闘う姿を見せていたとは思えない程に狼狽えていた。
「? なんだ」
「さっきのアレが…その…アマテラスっていうのは、本当なのか?」
「……チッ。言わない方が良かったか」
しまったと言わんばかりに、ジョーカーはため息を吐く。それも、あからさまに。
「そういえば…お前、昔見た事があるような…というか、その服装…暗夜の者だろ!」
「…それがどうした」
騎士は水を得た魚のごとく、自信満々になっていく。それとは対照的に、ジョーカーはどんどん不機嫌そうになっていく。
「アマテラスは白夜に行った…そして、お付きが2人、共に下ったとも聞いている…」
「………」
「つまり、お前がそうなんだろ!? という事は、俺はアマテラスと闘ってたって事なのか!」
「……チッ」
テンションの違いが極端に違う2人。ただ、忘れないで欲しい。こんなやりとりをしているが今は、戦闘中である。
「そこー! いつまでもおしゃべりしてないで、加勢してくださーい!」
今度はメイドが2人に向かって声を掛ける。彼女の叫びに、ハッと振り向くと、フェリシアが1人で見えない兵士の剣戟を手にした暗器で捌いていた。
フェリシアが1人で闘っていた理由、それは実にシンプルなものだった。要は組み分けである。
タクミ、ヒナタ、オボロ組と、サイゾウ、カゲロウ、スズカゼ組。そしてカザハナ、ツバキ、セツナ組の三つは、それぞれ見えない兵士と闘っていたのである。アクアはサクラの護衛に入り、アサマはにこやかに皆の闘いを眺めていたが、祓串を構えているので、サボっている訳ではなさそうだった。
そこで何故フェリシアが1人だったのかというと、実のところ彼女は1人ではなかった。実際は、暗夜出身の2人、つまりフェリシアとジョーカーが暗夜の騎士とチームを組む、そういう認識を全員がしていたのだ。
他の組が優勢で闘う中、おしゃべりしていたジョーカーと騎士によって、フェリシアは1人で闘う羽目になった訳である。
「……本当に加勢する必要あるか?」
「も~! 何言ってるんですか! 早くしてくださいよ!」
そう言う彼女は、たくましくソシアルナイトと渡り合っているのだが、流石に放っておくのも悪いのか、ジョーカーと騎士は話を中断し、得物を握り直す。
「…話はこれが終わってからだ。俺はもう、お前達と闘う気はない。理由が出来たからな」
「ふん。どうでもいいが、その前にくたばらない事だな。まあ、負けるはずもないんだが」
ニヤリと、挑発的な笑みを浮かべて、執事は騎士と共にメイドの元へ走り出す。
既に彼らの頭の中には、敵の事しか無かった。
「キヌの『コンコン! お狐通信』~!!」
※ここからは台本形式でお送りします。
キヌ「最近マトイのお勉強ばっかりで、ロクに遊べなかったから嬉しいなぁ! 張り切っちゃうよー!!」
キヌ「じゃあ今日のげすとさん、いらっしゃ~い!」
シーン……。
キヌ「あ、あれ? おかしいな~、げすとさん? 今日は来てないの?」
シーン……。
キヌ「えー!? せっかく張り切ってたのに、そんなのってないよー!!」
???「うーん、うるさいですわね。わたくしの安眠を妨害するのはどなた…?」
キヌ「って、あー!? ミタマだ! 良かったー! げすとさん来てたんだね」
ミタマ「なんですの…? というか、ここは一体どこなのでしょう? わたくし、自室に引きこもって眠っていたはずでしたのに…」
キヌ「ここはね、アタシの遊び場なんだー。それで今日のげすとさんはミタマなんだよ!」
ミタマ「…ええ……、それはなんとも面倒そうですわね。申し訳ありませんが、わたくしは眠くて眠くて仕方がないのです」
キヌ「えー!? そんな事言わないでよ!」
ミタマ「知らぬ間に 寝室代わり 帰りたい。さっさと帰らせて下さいまし」ガシッ
ミタマ「……な、なんですの、わたくしの肩を掴むこの手は……。お、お母様…!?」
キヌ「あ、ミタマのお母さんこんにちは!」
ミタマ「は、放して下さいませんこと? え、このコーナーを終えるまでは帰さない、ですって!? そ、そんな殺生な……」
キヌ「観念しなよーアタシと遊ぼうよー」
ミタマ「……。あきらめて 誘いに乗るが 最善か…。キヌに付き合って早々に切り上げるのが良いですわね」
キヌ「わーい! 遊んで遊んで!」
ミタマ「ここは遊ぶ場ではないと思いますが、まあ良いですわ。それで、わたくしは何をすれば良いのでしょうか?」
キヌ「お題に沿ってお話すればいいんだよ! ほら、ミタマのお母さんが持ってる紙に書いてあるよ」
ミタマ「あら、本当ですわね。えっと…『姿の見えない兵士の姿を、何故アマテラスには見る事が出来たのか』、ですか」
キヌ「そういえば、不思議だよね。アタシ達は見えないもんね」
ミタマ「…あなた、本当にこのコーナーを任されているのですか? その辺の説明に関しては、ある程度は事前に教わっているのですけれど」
キヌ「だって難しい話だったんだもん。アタシ寝てたよ、多分。でもミタマだっていっつもお勉強会の時に寝てるじゃん!」
ミタマ「…わたくしは寝ていても頭に入ってきますので」
キヌ「すごーい…じゃなくて、ズルーイ!」
ミタマ「嘘ですわ。寝たら後でお父様とお母様からお説教されてしまいますので、授業だけはしっかりと受けていますの。これでも、成績優秀なのですわよ? わたくし」
キヌ「いいなぁ…アタシは赤点ばっかりだよ~」
ミタマ「話がどんどん逸れて行きますわね。本題に戻るとしましょう。何故、『アマテラスには謎の兵の姿が見える』のか。簡単に説明すると…」
ミタマ「普段はアマテラスにもその姿は見えません。しかし、ある条件下において、アマテラスはその姿を視認出来るようになるのです」
キヌ「ある条件?」
ミタマ「その条件とは…生まれ持つ その身に宿せし 神の力。つまりアマテラスは竜の姿の時にだけ、姿の見えない兵士をその目に映す事が出来るのです」
キヌ「へぇ~」
ミタマ「ここから先の詳しい事は、彼女の出生にも関わるので、ネタバレの恐れを考慮してこの場では伏せましょう。ただ、原作を遊んだ方ならば、なんとなく察しがつくかと思います」
キヌ「あ、言ってたね。ねたばれはダメだよーって」
ミタマ「ふう…こんなところですわね。それでは、やる事もやったので、わたくしはこれで失礼します」
キヌ「まだ遊び足りないよう! …そうだ、今からかけっこしよう!」
ミタマ「嫌ですわ。…って、急に獣石を取り出して何を…ま、待ってくださる!? いや、やめて、放して下さいな!」
キヌ『ミタマのお母さん、ありがとう! そのままアタシの背中に乗せてね』
ミタマ「あ…モフモフして寝心地が良さそう…ではなくて! ま、まさか……!」
キヌ『よーし! それじゃいっくよー!!』
ミタマ「油断した 帰れるはずが キヌ騎乗。ひぃぃぃぃ!!??」
キヌがミタマを乗せてかけっこを始めたため、収録は終了します。