ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

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第32話 見えざる者ども

 

 私達は合流地点として、そして待ち伏せ場所として指定した森の入り口にまで来ていた。

 

「お待ちしておりました」

 

「スズカゼさん!」

 

 そこには既にスズカゼが居り、森を窺いながらこちらへと視線を向ける。

 ただ、森の入り口に居たのはスズカゼだけで、サイゾウの姿が見当たらない。

 

「スズカゼさん、サイゾウさんは…?」

 

「兄は、継続して敵の動きを監視しています。待ち伏せるなら、敵の動きに変化があった時に連絡を寄越す必要もありましたので」

 

「そうですか…少し心配ですね」

 

 敵の監視とは、思っているよりも危険な仕事だ。何故なら、常に気を張らなければならないから、体力と精神が共に削られ、しかも敵に自分の事がバレた時ほど危険な事はない。

 監視、つまりそれは潜入でもあり、要員としては必然的に1人が好ましくなるが、その分命の危険も増す事になる。

 いくら忍びがその手のプロとはいえ、心配なのに変わりはないのだ。

 

「案ずるな、アマテラス様。奴は我ら忍び衆でも相当の手練れ。だからこそ、リョウマ様の臣下としても仕えていられる実力を持っている。それは私が保証しよう」

 

 カゲロウの言葉には嘘偽りは感じられない。同じリョウマ兄さんの臣下として、サイゾウの事を信頼している証なのだろう。その言葉には、自信に満ち溢れていた。

 

「そう、ですね。隊を率いる私が仲間を信じなくてどうするというのでしょう。ありがとうございます、カゲロウさん。私は隊長としての自覚が足りなかったようです」

 

「いや、あなたは立派に務めを果たされている。私が報告してからすぐに出撃の用意を整えられたのだ。あとは、あなたの心の成長が求められているだけ。少なくとも、私はあなたの事を認めている」

 

 カゲロウの言葉に、私は緩みそうになる頬をグッと引き締める。褒められて嬉しいが、今はデレデレしている時ではないのだ。それこそ、隊を率いる者として。

 

「では皆さん、打ち合わせ通りに行きますよ!」

 

 私の号令で、それぞれが待機場所へと散らばっていく中、

 

「…?」

 

 スズカゼが私の方へと近寄ってきた。スズカゼにも待機場所で備えて欲しいところだが、彼が意味のない行動をするとは思えない。

 そんな事を考えている私に、彼は他の誰にも聞こえないくらい小さな声で、耳打ちしてきた。

 

「アマテラス様、少しお伝えしたい事が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗い森、それは彼らにとって、暗夜を覆う暗闇に比べればどうという事もない。少しの明かりがあれば、十全に周囲を窺うのも容易い。

 

 野生の動物達の生きる音に混じり、暗夜の騎馬隊は森の中を駆けていた。

 時折、蹄鉄が折れた枝を踏むバキッという音が、森に響き自分達の疾駆を知らしめているようだったが、彼らは今、隠密に動く余裕は無かった。

 

「走れ! もっと速く!」

 

 先頭を行く若い男の声が、遠慮もなく森へと響き渡る。馬に無理をさせているのは承知の上で、苦心しながら馬を駆るのには理由があった。

 

「ぐあぁ!!?」

 

 今もまた1人、敵の見えない攻撃によって馬から撃ち落とされ絶命した。

 

「くそ、くそっ、くそっ!」

 

 隊長である彼は焦っていた。徐々に、仲間が確実に1人ずつ殺されていくからだ。

 山に入る少し前から、突然敵からの攻撃が始まった。最初は敵の位置を捕捉しようともしたが、何故かそれが出来なかった。どこからともなく襲い来るその攻撃が、弓によるものなのか、魔法によるものなのかさえ分からない程に、痕跡という痕跡がまるで無かったのだ。

 それでも、痕跡が無くとも攻撃は確実に仲間を襲っている。隊長である彼に出来る判断は、全滅する前に敵の攻撃を振り切るという事だけだった。

 

 そして、森に入った辺りから、敵の攻撃は弱くなり始めていた。

 だが、それは森という遮蔽物に溢れたフィールドだったからこその話。森を抜け、再び身を隠すものが何もない所に出れば、たちまち狙い撃ちにされてしまう。

 だからその前に、この森で出来るだけ敵から距離を取る必要があった。

 

 闇に慣れているから、そんな強みは最早、逃げの一手にしか活かされてはいなかった。

 

「! 出口か!?」

 

 そして、森での逃走劇がようやく終わろうとした彼の目に、今度は信じられないものが映った。

 

 

 ちょうど出口を遮る形で、それは居た。

 

 暗闇でも分かる、その神々しいまでの白銀の輝き。どことなく馬に似た体躯のそれは、しかし馬とは似ても似つかない容貌をしていた。

 頭から突き出た長い角、なめらかなその体には、馬のような体毛やたてがみは無く、その背には飛竜の翼が。

 それは、見たこともない生物の姿をしていたのである。

 

「な、んだ…あれ、は」

 

 唖然とする彼とは裏腹に、彼の相棒である馬がその存在に恐怖し、失速し始める。

 

「お、おい!」

 

 慌てて手綱を持ち直すが、馬は恐がって前に行きたがらない。

 それは彼だけではなく、部下達も、突然現れた謎の生物に恐怖を隠せなかった。

 

「な、なんだよアレ!?」

 

「まさか、アレが俺達を襲ってたんじゃ…!?」

 

「び、白夜はあんな怪物を飼ってやがるのか!?」

 

 部下達に混乱が走り、ついには進行が完全に止まってしまった。

 

「おい、落ち着けお前達!」

 

 隊長である彼は叱咤するが、部下達の耳には届かない。

 目の前の出口ではなく、他の場所から外に出ようと散り散りになって駆け出していく。

 

 優秀な兵とはいえ、彼らは人間だ。いくら実力を持っていても、度重なる見えない攻撃、減っていく仲間、トドメに謎の怪物と、連続で恐怖を煽られれば取り乱さない訳がない。

 

 それを律する事が出来てこそ、その人物は英雄たりえるというものである。

 それこそ王族の者や、一般兵卒から将軍クラスに登り詰める程に。

 

「待て! 勝手に行くな!! 止まれ!!」

 

 彼の叫びも虚しく、部下達は止まらない。

 

 

 

『今です!!』

 

 

 

 そして、どこからか突如響いた女の声。次の瞬間、部下達の悲鳴が上がった。

 

「暗夜の者め、逃がさない!!!!」

 

「ぎゃあぁぁ!!??」

 

「ば、化け物おぉぉ!! ぐぶ!?」

 

 部下達の行く先々で、白夜の兵と思わしき者達が一斉に茂みから飛び出し、次々と部下達が討ち取られていく。

 

「な、何が…!? まさか、待ち伏せか!?」

 

『あなたにも、倒れていただきます!』

 

 先程の女の声が、目の前にいた怪物から発せられた。そして、彼は得心した。

 

 アレは、理性と知性、意思のある存在であると。

 

 確実に、敵の、白夜の兵器である、と。

 

「くそ! 俺だけでも任務を全うしなければならないんだ! こんな所で止まれるか!」

 

 剣を手に掛け、彼は叫ぶ。暗夜の騎士として、1人の騎士として。

 誇りに懸けて、彼は叫んだ。

 

「俺は、親友に……『アマテラス』に会わなければならないから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 男の叫びに、私は一瞬耳を疑った。

 

 親友。彼は確かにそう言った。だけど、私には彼の事に心当たりがまるでない。

 

 なのに、彼は私を親友と呼ぶ。

 

『何、を……』

 

 疑問に思う暇を、暗夜の騎士は与えてはくれなかった。

 

「行くぞ!!」

 

 怯えた馬から飛び降り、彼はその勢いのまま、私へと剣を振り下ろしてきたのだ。

 

『くっ!』

 

 私はとっさに剣を角で受け止め、思い切り頭を振って騎士を剣ごと振り払う。

 

 男は勢いよく振り払われたにも関わらず、地面に落ちたと同時に受け身を取ってすぐさま起き上がる。

 

「ウオォォォ!!」

 

 恐れること無く、再び私に向かって剣を構えながら突進してくる彼を、私は水の飛沫を撃ち出して迎撃するが、

 

『!!』

 

 彼はスライディングでそれを避けたかと思うと、そのまま私の足をすり抜け、私の腹目掛けて剣を突き立てようとする。

 

「もらった!」

 

『させません!!』

 

 それを、私は腹を中心に水の膜を張る事で、突き刺されるのを防ぐ。

 私が竜化状態で生じた水には、武器の威力を無効化する事が出来るのは実証済み。それを知らない敵からすれば、何が起きたのか戸惑う事は必至だった。

 

「何!?」

 

 剣は水のベールを貫通せず、弾力のあるゼリーを棒でつついているようで、まるで効果は無い。

 私はそのまま彼を押し潰そうと腹に力を入れるが、

 

「ちぃっ!」

 

 彼は私の意図が分かったらしく、剣を地面に突き立て、その間に隙間から脱出してしまう。

 私は彼が抜け出たのを見て、そのまま剣をへし折った。

 バキンと金属音を立てて、鉄の剣は根元から完全に折れていた。

 

「まだまだ!」

 

 彼は腰に手を回すと、隠していたらしい小さな槍を取り出し、それを一気に振り下ろした。

 

 ガチャン、という音を鳴らせて小さかった槍は3倍近く伸び、彼は器用に槍を振り回して戦闘態勢へと移る。

 

『仕込み槍…ですか。まだ武器を隠し持っていたんですね』

 

「戦士として、武器が剣一つでは心もとないんでな。特に、俺のような新米には必要なんだ」

 

 確かに、リョウマ兄さんやタクミの持つ神器でも無い限り、壊れてしまう可能性は捨てきれない。もしもの事を考えて、あらかじめ備えておく事は当然なのだろう。

 

『あなたの仲間は私達が倒しました。もう、あなたに勝ち目はありません。投降して下さい』

 

 彼には聞きたい事がある。私が親友とは、どういう意味なのか。私達は、もしかして知り合いだったのか。

 

「俺は騎士だ。たとえ勝ち目が無くとも、最後まで敵に屈したりしない!」

 

 彼の目には、未だ信念の火が灯っている。それは以前無限渓谷で対峙した、忍びの者と同じ目だった。

 何かを守るため、自分の命を懸けた者の目。

 

『…あなたは、誇り高き騎士、なのですね』

 

 何故か、彼にマークス兄さんの姿が重なって見えてしまう。

 騎士として、マークス兄さんもとても立派な方だったからだろうか。私は彼に、マークス兄さんの姿を思い浮かべたのだ。

 

「敵に誉められたところで、嬉しくもなんともないぞ」

 

 彼は一切の隙も見せず、槍を手に、徐々に距離を詰めてきている。

 私も、いつ彼がどんな動きをしても良いように、一切の油断なく意識を集中する。

 

『………、!!?』

 

 だからだろうか、研ぎ澄まされた私の目に映ったもの、それは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、敵はあらかた片付いたな」

 

 ヒノカは薙刀に付いた血を振り払うと、辺りに目を向けた。

 

「はあ…本当は不意打ちなんて、侍としてあまりしたくないんだけどな」

 

「まあ、割り切ろうよー。命の懸かった闘いでは、そんな悠長な事は言ってられないからねー」

 

 

「兄さん、ご苦労様です」

 

「ふん…結局、誰が奴らを追撃していたのかは分からなかったがな」

 

「ふむ…ならば、まだそいつらが近くに潜んでいるやもしれぬな。警戒しておくか…」

 

 

 それぞれが戦闘を終え、話をしている中で、ジョーカーとフェリシアはジッとアマテラス達の闘いを見守っていた。

 

「アマテラスはまだ闘っているのか…! 何故、助太刀しない!」

 

 ジョーカーはヒノカの言葉に振り返らず、ヒノカの言葉に答えた。

 

「アマテラス様からの命令です。隊長格との闘いは手を出すな、と」

 

「はい。アマテラス様は、自分も隊長として、その責務を果たしたい…そう言っておられました」

 

「ジョーカー、フェリシア…だが、それでもし、アマテラスの命に危険が迫ったらどうする!?」

 

 ヒノカは戦士として、兵を束ねる者として、アマテラスの想いは分かるつもりだ。

 ただ、彼女はそれ以前にアマテラスの姉だ。長らく会えなかった妹がようやく自分の元へと帰ってきてくれた…そんな姉としての想いが、家族としての想いが、戦士としてのヒノカの想いを上回っていたのだ。

 

 ヒノカの問いに対し、アマテラスの臣下である2人は、少しの間を置き答える。

 

「もちろん、危険と判断した際は命令を無視してでもお助けいたします」

 

「はい~。私たちにとって、アマテラス様の命ほど大切なものはありませんから!」

 

 相変わらずの主人絶対主義を掲げる2人だったが、その想いの深さは最近知り合ったばかりのヒノカにも伝わっているようだった。

 アマテラスを大切に想う者同士という事もあるからだろう。ヒノカは2人の気持ちも、よく分かっていたのだ。

 

「そうか。だが、私とてアマテラスの命は他のきょうだい達と同じくらい大切なんだ。だから、もしもの時は私も助けに入るからな」

 

「ええ、是非ともそうして頂けると助かります」

 

 アマテラスを大切に想う者の輪は、各々の想いも越えていく、という事を示しているかのような図であった。

 

「…あれ? なんだか様子がおかしいような…」

 

 と、フェリシアが首を傾げてアマテラスを見ていると、

 

「な!? アマテラス様、何を…!?」

 

「おい、何をしているんだ!?」

 

 その叫びに、全員が一斉にアマテラスの方へと視線を向けた。

 そして、同じように驚愕する事となる。

 

 それは、アマテラスが勝ったからとか、負けたからとかの話ではなく、アマテラスの取った行動に対する驚きだった。

 

 

 簡単に言えば、アマテラスは水流を作り出していた。ただし、それは暗夜の騎士に対するものではなく、彼の背後へと流れるようにだった。

 

 騎士の方も、自分への攻撃ではない事に驚きを隠せないのか、目を白黒させて槍を握っていたが、それに構わずアマテラスは水流を勢いよく森へと向けて流し込んでいく。

 

 そして、アマテラスの行動の意味を、アクアとスズカゼのみが理解した。

 

 

「そう…そういう事ね、アマテラス。

 

 

 

 

 

また現れたのね、姿の見えない兵が」

 

 




「キヌの『コンコン! お狐通信』~!!」

※ここからは台本形式でお送りします。

キヌ「うっぷ。お腹いっぱいでお腹が重たいよ~…」

キヌ「赤ちゃん出来たらこんな感じなのかな? えっへっへ、それじゃあ妊婦さんごっこでもしちゃおっかな!」

シャラ「…あら、お狐様におめでたなんて、縁起が良いわね。ありがたや、ありがたや…」

キヌ「あー! アタシまだげすと呼んでないよ、シャラ!」

シャラ「…ふん。別にそんなの要らないわよ。だいたい、あなただってゲストの紹介を全然しようとしてなかったじゃない…」

キヌ「え~っと~…別に忘れてた訳じゃないよ? 先に遊んでからにしよっかなーって思ってたんだよ!」

シャラ「…何よ、その後から取って付けたような言い訳…。まあ、別にいいけど…」

キヌ「ぶ~! 言い訳じゃないもん! ホントだもん!」

シャラ「あなた、私の父さんよりも子どもね…。……どうしてアマテラスは私じゃなくてキヌにコーナーを任せたのかしら。アマテラスに頼られるなんて、羨ましい…」

キヌ「え? なんてなんて? なんて言ったの? 教えてよー?」

シャラ「…なんでもないわ。それより、さっさと終わらせたいわね、こんな茶番…。アマテラスの頼みじゃなければ、こんな面倒な所になんて来ないもの…」

キヌ「あ~! そういえば、シャラってこういう遊びとか、全然一緒にしてくれないもんね? なーんだ、頼まれたから来てくれただけか~……」

シャラ「………………別に頼まれたからってだけじゃ」

キヌ「え? なんて? もう一回言ってよー!」

シャラ「……なんでもない。ほら、早く今日のお題に行きなさいよ。呪うわよ…」

キヌ「えー? 仕方ないなーシャラはー」(←狐は耳がとても良いので、本当はさっきのシャラのボソボソは2回とも聞こえています。)

シャラ「…もういいわ。私が勝手に話を進めるから。ちょうど母さんがカンペを持っていることだしね…」

キヌ「んー? あ、ホントだ! シャラのお母さんヤッホー!!」

シャラ「か、母さん…恥ずかしいから、いちいちキヌに手を振り返さないでちょうだい…それと、それじゃ読みづらいわ…」

キヌ「ごめんごめん! それじゃ、読んじゃうね~」

シャラ「…長いわね。…『今回、待ち伏せで奇襲を受けた暗夜兵達は、一体誰を見て化け物だと叫んだのでしょうか?』…謎解きでもあるまいし、簡単すぎるわよ、この問題」

キヌ「え? アマテラスの事じゃないの?」

シャラ「…マトイが言っていたのは本当のようね。あなた、少しおつむを鍛えた方が良いわ」

キヌ「えー!? またお勉強!? アタシいやだよ!!」

シャラ「…私は別にキヌの勉強を見るつもりはないけど」

キヌ「ふう~、助かった~」

シャラ「結果次第じゃ、マトイに報告するかもね…」

キヌ「うげげ…ちょっと待って。真剣に考えてみるから」

シャラ「…ミタマじゃないけど、はあ…帰りたい…」

キヌ「うーん…怒った時のジョーカー?」

シャラ「…違うわ。残念だけど、マトイに報告するわね」

キヌ「いや! 絶対にお勉強ヤ!! シャラのケチンボ! くっきーまみれ! 紅茶の魔女! 宵闇のシャ…「ぶち」」


シャラがブチ切れてキヌがマトイの元に連行されたので、収録は中止します。


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