ファイアーエムブレムif 白光と黒闇の双竜   作:キングフロスト

36 / 113
第31話 暗闇の襲撃

 

 あれから私は続々と夕食に集まってきた遠征メンバー達と共に、あれこれとくだらない話をしながらご飯を食べた。

 皆一様に疲れた顔をしており、あのセツナでさえいつも以上にぼけーっとしていた程であった。

 慣れない力仕事だった事もあり、疲労も予想以上に大きかったのだろう。

 

「…僕は王子なのに…どうしてあんな過酷な労働を…」

 

 味噌汁を手に、虚ろな瞳でぼんやりとするタクミは正直気の毒に思えた。

 ちなみに、ツバキ、カザハナは例外で、普段からサクラの慈善活動に付き合っていたらしく、これといって疲労の色は見られなかった。むしろピンピンしているくらいで、

 

「んー! 人助けした後のご飯は美味しい! もう1杯!」

 

「はいはい、女の子がはしたないよー」

 

「ふふふ…」

 

 サクラ組は楽しそうに食事をしていた。見ているこちらまで楽しい気分になってくるくらいだった。

 

 

 食事を終える頃には、外はもうすっかり暗くなっており、治療を一段落終えた者達が食堂へと向かっていく。私はそんな彼らとすれ違いながら、砦を上へと登っていき、砦の高層のとある一室へ向かう。

 そこは小さめの部屋で、ベランダのようなものが部屋の外側にぐるりと備え付けられており、外に出る事が出来る仕様になっている。例えるなら、柵で囲まれた灯台のてっぺんに近いかもしれない。

 

「……っ」

 

 外に出て、なんとなく夜空を見上げると、空いっぱいに満天の星空が広がっていた。

 私は夜空に輝く星々に圧倒され、知らずのうちに息を呑んでいた。

 

「…綺麗」

 

 白夜王国に来てから、何度となく星空を目にしているが、何故か今見ているこの星空は、今までのどんな星空よりも私を空虚な気持ちにさせる。

 

「綺麗…だけど」

 

 今は状況が何もかも変わってしまった。どんなに綺麗な星空だろうと、スサノオ兄さんと共に外に出てみせると誓って見た星空と、お母様と寄り添って見た星空には適わない。そして、それらはもう過ぎ去ってしまった。もうこの手に再び取り戻す事は叶わない。

 お母様は亡くなり、スサノオ兄さんはたとえ戦争が終わっても、昔のような関係に戻れるとは到底思えない。

 その事を、この星空は私に強調しているかのように思えて仕方なかったのだ。

 

「…スサノオ兄さん、今どうしていますか? どうして私の手を取ってくれなかったんですか…?」

 

 何を言ったところで、スサノオの心は変わらなかっただろう。それが分かっていても、こうして独り言を言ってしまうあたり、私は女々しいのだろう。…女であるのだが。

 

 星空を見上げていると、少し辛さがこみ上げてきたので、気晴らしに夜の山々、森林へと目を移す。

 星々や月の光に照らされ、昼間とは違った幻想的なその姿に、私は辛い気持ちが癒されていくのを感じた。

 

「…夜の景色も良いものですね。…………、ん?」

 

 じっと見ていると、景色の遠くの方に違和感を覚える。ちらちらと揺らめく、黄色い光のようなものが森の一部分に見えるのだ。

 

「あれは……火?」

 

 私が疑問に思ってそれを凝視していると、

 

 

「報告! 暗夜の騎馬隊と思わしき一団を捉えました」

 

 

 突如、本当に降って湧いたようにカゲロウが私から少し離れた所に現れた。

 

「きゃ!? …って、カゲロウさん? え、今、暗夜の騎馬隊って……、!!」

 

 私はカゲロウの言葉の意味をすぐに理解した。戦う時が来たのだ、と。

 

「分かりました。それでは、私はみんなにこの事を伝え次第、すぐに出立します!」

 

「御意。では、私は砦の入り口で待つとしましょう。サイゾウやスズカゼからの連絡も受けねばなりませんので。では…」

 

 と、カゲロウは現れた時と同じく、瞬く間にその場から姿を消してしまった。

 どうやっているのか気になるが、今はそれどころではない。私は急ぎ室内へと戻り、駆け足で階段を降りていく。

 今の時間、恐らく他のみんなは各々用意された部屋で休んでいるはず。とにかく、手近な所から当たっていくとしよう。

 

 

 

「ジョーカーさん!!」

 

 バタン!! と、勢いよく扉を開け、ジョーカーの部屋に入る。

 

「うおぉっ!? ……っと、これはアマテラス様。一体如何なされたのですか?」

 

 何か読み物をしていたらしく、いつもは掛けていない眼鏡をしているジョーカー。普段ならその事について突っついているところだが、今は急ぎの用があるため、後ろ髪を引かれる思いで用件だけを伝える。

 

「出撃です! 私は他の人にも伝えて回りますから、ジョーカーさんも他の方に伝えて下さい!」

 

「! ついに来ましたか。かしこまりました、では早速仕事に取り掛からせて頂きます」

 

 本を閉じ、眼鏡を脇にあった卓に置くとジョーカーは立ち上がる。

 

「あ、あと女性陣は私が回りますので、ジョーカーさんは男性陣をお願いしますね」

 

 私の言葉に、テンジン砦に到着した時の一悶着を思い出したのか、ジョーカーは良い笑顔で、口の端をひくつかせていた。

 

 

 

 

 

 

 しばらくして、続々と砦入り口に遠征メンバーが集合していく。

 みんな少し休んで、少しは元気が戻ってきているようだ。顔に活気が甦ってきているのが分かる。

 

「揃いましたね」

 

「ああ。しっかりとセツナを見張っていたからな。今度は最初から万全だ」

 

 ヒノカ姉さんに首根っこを掴まれて、セツナはだらんと脱力しながら立っていた。

 

「私…別にどこにも行かないのに…」

 

 若干機嫌がよろしくないようだが、特別怒っているという訳でもなさそうなので問題ないだろう。

 

「おっしゃー! さっさと敵を倒しに行こうぜ!!」

 

「落ち着きなさい。馬鹿みたいに突っ走っていくだけじゃ、下手したら死ぬわよ。まったく、タクミ様の臣下ともあろう者が少しは落ち着きってものを覚えなさい!」

 

「おご!?」

 

 腕をブンブンと振り回して得意気に笑うヒナタの頭に、オボロが手にした薙刀の柄でチョップのようにツッコミを入れた。あれは痛そうだ…。

 

「…確かに、オボロの言う通りね。考えなしにただ突進するだけじゃ、いくら精鋭揃いといっても、私達の身も危ないわ。ここはしっかりと策を立てるべきよ」

 

「えっとえっと、アクア姉様には何か案があるんですか?」

 

「いいえ、特にこれといって浮かんでいないわ」

 

 浮かんでないのかい! という声が聞こえてきそうなほどに、見事にほぼ全員がずっこけそうになった。

 

「ハハハ。アクア様は見かけによらず、こういったご冗談をたまに言いますからね。いやいや、面白い方ですよ全く。皆さんも、綺麗にずっこけようとなさって、芸人を志望されたらよろしいのではないですか?」

 

「うぐぐ…アサマの毒舌はこの際無視するとして…」

 

「おや? 酷いですねぇヒノカ様。自分の臣下を無碍に扱うなんて」

 

「もういいから少し黙ってくれ…出撃前から疲れる…」

 

 と、ヒノカ姉さんは頭を抑えて首を振るが、それをアサマは実に楽しそうに眺めていた。

 

「…ふう、これじゃ埒が開かない。もういい、俺が進行を務める。よろしいでしょうか、アマテラス様?」

 

 黙って見ていたジョーカーだったが、流石に呆れ始めていたらしく、話を先に進める役を買って出てくれた。

 

「そ、そうですね…。お願いします、ジョーカーさん」

 

「さて、本題に入るが…敵騎馬隊が現状どの辺りまで迫っているのか、からだな。おい、カゲロウ、その辺はどうなんだ」

 

 ジョーカーが声を掛けると、少し離れていたカゲロウがコウモリを腕にぶら下げながら近付いてくる。

 

「サイゾウからの連絡では、あの山に入ったところらしい。つまり、連絡の時間差を考えれば、敵はあの山の中間地点に入った所まで迫っているはずだ」

 

「そうか。では、それを踏まえた上で話を進める。こちらが敵に向かうとして、どの地点で接敵するかが問題となるんだが…」

 

「あ! 分かりましたよ~!」

 

 ジョーカーの話の途中で、フェリシアがぴょんぴょんと飛び跳ねながら割り込んだ。

 

「私達よりも敵の方が進行スピードが速いから、こちらが戦闘態勢に入る前に先制攻撃を受ける危険性があるんですね! しかも、敵は騎馬隊です。移動しながら戦う彼らは、徒歩を基本とする私達とは相性が悪いです」

 

 えっへん、と自信満々に胸を張るフェリシア。なんだか可愛らしいその仕草に、みんなはフェリシアがしっかりとした事を言ったにも関わらず、微笑ましくフェリシアの事を見ていた。

 

「加えて、白夜王国と比べ暗夜王国の人間は闇に慣れている。いくら月明かりで多少明るいとはいえ、夜の戦闘では向こうに分があると見ていい」

 

「なら、私達が取るべき行動は…?」

 

 ヒノカ姉さんが腕を組んで考え始めるが、それによって解放されたセツナが、意外にも答えに近いものを提示した。

 

「罠…敵も私みたいに、穴に落としていい…?」

 

「そうか…待ち伏せればいいんだ! 夜はこっちが不利でも、地の利はこっちにある!」

 

「そうです、タクミ王子の言う通り、こちらは待ち伏せればいいのです。セツナが言った罠は時間を掛けて設置するものだから、今回は当てはまらない」

 

 よし、とタクミがグッと手に力を込め、一瞬だけだが私をチラリと見たような気がした。

 とにかく、作戦が決まったという事で早速カゲロウがコウモリの足に文を結びつけ、夜空へと放つ。

 待ち伏せ地点はここから少し行った先、山とテンジン砦に挟まれて存在する森である。

 スズカゼとサイゾウも、そこで合流する事になっている。

 

「では皆さん、行きましょう!!」

 

 そして私達は、私は戦場へと赴く。白夜に付くと決めたあの日、スサノオ兄さんと闘ったあの日以来の、暗夜王国との戦いの場へと…。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、スズカゼとサイゾウは一足早く合流しており、暗夜の騎馬隊の様子を併走しながら確認していた。山岳において、やはり騎馬では進みづらい部分もあるのだろう。暗夜軍の進行速度は普通の騎乗時よりも幾分落ちていた。それに引き換え、忍はその身軽さと特殊な訓練を積んできたが故に、足場の悪い場所でも平然と移動出来る強みがある。スズカゼ達が距離を保てたのはこの為だ。

 そして、カゲロウの放ったコウモリはまだ彼らの元には届いていないようだった。だからこそ、彼らはこうして様子見を続けているのである。

 

「………、」

 

「どうしました、兄さん?」

 

 スズカゼが黙って騎馬隊を見ているサイゾウに声を掛ける。ちなみに、スズカゼとサイゾウは双子の兄弟であり、兄がサイゾウ、弟がスズカゼだ。双子でありながら、その性格は見事に違っているが。

 スズカゼの疑問に、サイゾウは騎馬隊から目を離す事なく答える。

 

「奴ら…どこか様子がおかしい」

 

 眉間にシワを寄せて言うサイゾウに、スズカゼもまた注意深く敵を観察してみる。すると、確かに微かではあるが何か違和感のようなものを感じた。

 

「確かに…、どこか必死すぎるようにも見えますが…」

 

「ああ。今の奴らは特攻を仕掛けているようなもの。故に、それ自体はおかしな話でもない。だが、奴らのそれは、勇んだものであるとはどうも思えん」

 

「言われてみれば、そうですね…」

 

 では、彼らは何に必死になっているというのか。その答えを、2人はすぐに知る事となる。

 

「ぐあぁぁ!?」

 

 十数人居た内の1人が、突如悲鳴を上げながら落馬したのだ。

 

「くそ! また1人やられた!! 一体どこから狙ってきてるんだ!?」

 

「た、隊長! どうします!?」

 

 スズカゼ達の耳に、暗夜兵達の声が入ってくる。何やら、随分と焦っているようだった。そして、隊長と呼ばれたやたら寝癖の激しい若い男が声を張り上げる。

 

「今攻撃してきているのはほぼ間違いなく白夜軍だ! この攻撃は、敵が俺達の進行を恐れているという証拠! それに何より、今更撤退なんて許されない! 全員、敵の攻撃を何としても受ける事なく任務を遂行するぞ!!」

 

「「「おおおーーー!!!」」」

 

 男の叫びに、部下である騎士達が猛りの咆哮を上げる。

 それを見ていたサイゾウは、違和感の正体が何であるのかをようやく理解した。

 

「奴ら、勇んでいるだけじゃないな。何者かから攻撃を受けているらしい」

 

「ですが、一体誰が? 私達は兵を動かしていないはずです。その証拠にこうして偵察に出ていたのですから」

 

「そこが分からん。勝手に突出した兵が居たのか、それとも違う勢力が奴らを攻撃しているのか…どちらともつかん」

 

 サイゾウには、急に敵が落ちたようにしか見えなかった。それはスズカゼも同じ。敵は、見えない何かに襲われたとしか思えなかったのだ。

 そして、スズカゼには思い当たる事が1つだけ、つい最近に経験していた。

 それは───

 

「……もしや、姿の見えない兵…? ですが、あれは暗夜の兵だったはずでは…?」

 

 謎は深まるばかりで、彼らは闇に包まれた山道を走り続ける。

 

 

 騎馬隊の背後に、姿の見えない兵士が居る事には気付かずに……。

 

 




「キヌの『コンコン! お狐通信』~!!」

※ここからは台本形式でお送りします。

キヌ「やっほー! マトイのお勉強からやっと解放されたよー! んー、お腹すいちゃったー!」

キヌ「という事で、今回のげすとはこの人だよ!!」

グレイ「何が『という事で』だよ」

キヌ「だってね、マトイが言ってたんだー。頭を使った後は甘いものを食べるといいんだって! ね? グレイは甘いものいっぱい持ってるから、げすとに適任だよ!」

グレイ「…俺は甘いものの補給がメインで呼ばれたのかよ。まあ、いいけどな。おっと、名乗り遅れたな。今回のゲスト、グレイだ。よろしくな」

キヌ「ねーねーグレイ、早くお菓子ちょうだい! あ、アタシようかん食べたい! 出して出してー!」

グレイ「あのな、俺は自分で作るタイプの人間な訳よ。あんな面倒くさいもん、常備してる訳ねーだろ」

キヌ「えー? お菓子の専門家なのにー!?」

グレイ「それから言っとくけど、俺が作るのは基本的に洋菓子が多い。そりゃ、和菓子も作るが、洋菓子の方が日持ちするものも多いしな。持ち歩く分には洋菓子、暗夜で言うとクッキーとかキャンディの方が便利なんだよ」

キヌ「それって美味しいの?」

グレイ「ふっ…菓子に関しては俺は嘘はつかないぜ。ほら、お前にも1袋分けてやるよ」

キヌ「わーい! ぱく、もぐもぐ…ホントだ! これすっごく美味しいよ!」

グレイ「それがクッキーだ。クッキーってのは簡単に作れるが、そのぶん奥が深くてな…生地に他の食材を混ぜ込んだり、上に具を乗せて焼いたり、クッキーで何かを挟んで食べたり…とまあ、色々な種類があるんだ」

キヌ「おおお…何かすごい! もっと色んな種類のくっきー食べてみたいよ!」

グレイ「そこまで興味を持ってくれるとは、作った俺としても嬉しいな…。よし、じゃあ今度、他の奴らも呼んで色んなクッキーの試食会でもやってみるか」

キヌ「わーい! みんなで食べるの楽しそうだね! よーし、じゃあアタシはシャラとかベロアとかにも声かけよーっと!」

グレイ「クッキーなら、紅茶が合うか…。ディーアにも声掛けとくかな。いや、こうなりゃ俺らの世代全員呼んじまうのも有りか。よし、それでいくか」

キヌ「今から楽しみだなぁ! あーあ、早く試食会の日にならないかなぁ…」

グレイ「まずは全員に声を掛けるところからだろ。簡単な手伝い要員も確保しないとな。……ん、母さん、また俺をつけてたのか……? いや、違うな、何か持って……?」

キヌ「あ、かんぺだよ! この前はマトイのお母さんが持ってたよ! その前はアタシの母さんだったんだー」

グレイ「へえ…で、なになに……『お菓子の事で時間を取りすぎ。巻いて巻いて』…って、それ俺が読み上げるやつじゃねーじゃねーか!」

キヌ「あ、紙を捲ったよ。えっとー、『キヌはベロアのように拾い食いはしないの?』って、アタシの話?」

グレイ「あー、そういえば、あいつ俺が落としたキャンディ普通に食ってたな。流石に落ちたもん食うなって言ったけど、全く聞く耳持たずだったぜ…あんなでっかい耳してんのにな」

キヌ「うーん、アタシは流石に落ちたものは食べないかなー。ベロアは狼だし、狐のアタシよりお腹が丈夫なんだと思うよ」

グレイ「そういや、お前もたまに鳥とか狩ってくるけど、ちゃんと焼いて食ってるもんな。…ん? ベロアはどうやって食ってるんだ? なんか、生でいってそうで怖いんだが」

キヌ「ベロアは狩りが面倒くさいから、生で食べるとか調理するかどうかも無いんじゃないの?」

グレイ「でもあいつ、本当に生で肉とか食ってないだろうな…。あー、なんか心配になってきた。ちょっと様子見に行ってくるわ、ってか聞いてくるわ」

キヌ「アタシも行くよ! そのままベロアと遊んじゃおっと!」

キヌとグレイがベロアの所に行ったため、収録は終了させて頂きます。




ベロア「…なんですか? 今は、ガルーアワーズの収録中なのですが」

キヌ「遊びにきたよー!」

グレイ「よっ。お前に聞きたいんだけどさ、お前って生肉食うのか?」

ベロア「………



食べませんが、何か?」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。